筆者は2008年からNPO法人「World Open Heart」(以下WOH)において、殺人や性犯罪に手を染めた加害者の家族を支援する活動を行っている。これまで日本全国から寄せられた相談は、約3800件にのぼる。
重大事件が発生すると、加害者家族の自宅やその周辺には大勢の報道陣が集まる。家族を待ち構え、容疑者の人となりを聞いたり事件へのコメントを取ったりするためだ。自宅を特定された一家は安宿などに避難し、夜中に戻って来ては少しずつ荷物を運び出して、見知らぬ土地へと住まいを移すことになる。
しかし、こうした転居が円滑に進むケースばかりではない。引越しには費用もかかり、持ち家を売却するというのも簡単なことではないからだ。WOHでは、事件後の加害者家族の最低限の生活を守るため、団体が報道の窓口になり報道対応を行ってきた。
■子が犯した罪と家族の生活は分けて考えられるべき
2026年3月26日、東京・池袋の「ポケモンセンター」で21歳の女性店員が殺害された痛ましい事件でも、WOHは加害者家族の報道対応を行った。
まず、本題に入る前に、池袋の事件で犠牲になられた被害者の方に対し、深く哀悼の意を表しますとともに、ご遺族の皆様に心よりお悔やみを申し上げます。命が奪われたという現実はあまりに重く、どのような理由があれ、決して許されることではありません。
筆者が行っているのは、加害者の罪を免じたり、その責任を軽くしたりするための活動ではありません。罪はどこまでも本人のものであり、それと家族の平穏な生活は切り離されるべきだという法治国家の原則を守るための活動です。
その上で、この凄惨な事件の裏側で起きていたもう一つの現実に目を向けていただきたいのです。
■絞りだされた「申し訳ない」という謝罪
本件は、加害者とみられる26歳の男が死亡していることから、メディアの関心は「動機を知る唯一の手がかり」として家族に集中した。家族がまだ遺体と対面すらしていない段階で報道陣から質問攻めに遭うことになった。
「本当に申し訳ない。今の状況が信じられない」
これは加害者の母親が必死に絞り出した言葉である。
半ば強引な取材を「事件の真相究明のため」と説明する報道関係者も多いが、真に原因究明を目指すならば事件発生直後の混乱期ではなく、もっと時間をかけてもいいはずである。
現状の犯罪報道のピークは捜査段階であり、真偽が定かでないものも含めてさまざまな情報が混在している。事件発生から判決確定後まで長期的に加害者家族を支援してきた筆者の経験から言えば、事件の根本的な原因というべき事実が見えてくるのは早くとも精神鑑定などを経た公判段階だと認識している。
殺人事件の場合、逮捕から裁判が開かれるまでには1年以上かかることも珍しくない。しかし、裁判を待つ間に次々と別の事件が起き、報道陣の関心は新たな事件に移る。ようやく真相に辿り着いた頃には事件から離れているメディアも少なくない。
■世間に向けた謝罪は本当に必要か
「身内の逮捕によってお騒がせして申し訳ありません」といった「世間」への謝罪は日本独特の風潮であり、欧米諸国からは実に奇妙に映るという。身内から犯罪者を出した芸能人が謝罪会見を開きテレビカメラの前で深謝する姿は、日本ではすっかり見慣れた映像である。
筆者も加害者家族による世間に向けた謝罪に意味はなく、こうした風潮を変えていくべきだと繰り返し主張をしてきた。しかし一方で、群がる報道陣を無視すればよいのかといえばそうともいえないのが現状だ。加害者家族が無視をすると、取材は近隣住民や親戚にまで及び、結果的に家族がより肩身の狭い思いをすることになってしまうのである。
■「絶縁」を突き付けられた加害者家族
40代の息子が殺人事件を起こした母親のAさん(70代)は、責任を感じ介護中の夫をやっとの思いで車に乗せ避難した。事件発生から10日ほど経った頃、自宅に荷物を取りに帰ると、隣の家の住人がやってきて気まずそうにこう言った。
「急にいなくなっちゃったもんだから、マスコミは私たちのところに何度も訪ねて来たのよ。Aさんがやった犯罪じゃないのはわかっているんだけど、私たちも困っていて……」
Aさんはただひたすら頭を下げて詫びるしかなかった。
30代の息子が傷害致死容疑で逮捕されたBさん(60代)一家は、警察の指示もあってしばらく避難していたが、自宅を不在にしたことによりBさんの親族に取材攻勢が向けられることになった。対応を余儀なくされた親族からは「絶縁」を言い渡された。こういう時こそ頼りにしたい親族だが、彼らにだって生活があるのだ。助け合えるのは互いに安全な場所が確保されているからである。
重大事件の加害者家族は決まって報道陣から被害者や遺族に対してどう思うかと問われる。尊い命が亡くなった事実を突きつけられた加害者家族は、ただ申し訳ないという以外にない。
■「親の育て方が悪い」で片付けてよいのか
加害者家族への取材攻勢が長らく放置され議論もされなかった背景には、「親の育て方が悪いのだから責められて当然」という強固な思い込みがある。
確かに、子の年齢が低ければ、家庭環境が影響を与える側面はあるだろう。しかし、責任が親だけにあるのかといえばそうとは言い切れない。貧困や病気によって十分な養育が叶わなかったなど、致し方ない事情が存在することもある。犯罪の責任を問うならば、家庭よりもまず支援体制が欠如していた社会が問われるべきである。
過去には自責の念に堪え切れず、加害者家族が自ら命を絶つことで「責任」を取ろうとした悲劇が起きたこともある。家族にだけ責任を押し付け、社会の責任は免責されたまま――といったことが繰り返されている限り、社会に更生の環境も再発防止の仕組みも広まっていくことはない。
■犯罪報道も「在り方」を問い直す時期にある
ある重大事件の加害者家族の自宅を相談で訪れた際、隣家の住人の女性に呼び止められたことがあった。
「本当に酷いわね」
筆者は女性に責められることを覚悟したが、女性が口にしたのは意外な言葉だった。
「酷いのは家族じゃなくてマスコミ。煙草を吸いながら眺めてた人もいたわよ。もうテレビを見るのも嫌になった……」
重大事件が起こる度、加害者家族の自宅には報道陣が集まり、塀の中に入ってしまった加害者に代わって謝罪を求める動きが今も続いている。
世論は変わりつつある。犯罪報道もまた、単なる消費対象としての「犯人探し」や「家族バッシング」を脱し、一度立ち止まってその在り方を問い直すべき時期に来ているのではないだろうか。
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阿部 恭子(あべ・きょうこ)
NPO法人World Open Heart理事長
東北大学大学院法学研究科博士課程前期修了(法学修士)。2008年大学院在籍中に、社会的差別と自殺の調査・研究を目的とした任意団体World Open Heartを設立。宮城県仙台市を拠点として、全国で初めて犯罪加害者家族を対象とした各種相談業務や同行支援などの直接的支援と啓発活動を開始、全国の加害者家族からの相談に対応している。著書に『息子が人を殺しました』(幻冬舎新書)、『加害者家族を支援する』(岩波書店)、『家族が誰かを殺しても』(イースト・プレス)、『高学歴難民』(講談社現代新書)がある。
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(NPO法人World Open Heart理事長 阿部 恭子)

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