総合・推薦入試の対策にも、一般入試の対策にもなる最強の受験対策はどのようなものなのか。個別指導塾塾長の小林尚さんと推薦入試専門推進塾塾長の橋本尚記さんは、「推薦入試のためにまず取り組むべき最優先は定期テストの対策ではない。
『今すぐ』にスタートでき、推薦の学力試験の対策になるうえ、一般入試の対策にもなる最強の対策がある」という――。
※本稿は、小林尚・橋本尚記『提出書類・小論文・面接がこの1冊でぜんぶわかる ゼロから知りたい 総合型選抜・学校推薦型選抜』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■推薦入試の最優先対策
総合・推薦入試(本記事では、以降まとめて推薦入試と呼びます)を考える受験生にとって、英検の取得は、評定平均を上げるのと同じか、その次に大切なことです。
また、定期テストの範囲は高校の先生が決めるので直前まで勉強内容があいまいですが、英検は過去問や対策本まであります。文字通り「今すぐ」にスタートできるという意味では英検が最優先といえます。
2020年度の学習指導要領改訂では文部科学省からは「推薦入試でも学力をチェックするように」というお達しがありました。この背景もあり、各大学の総合型や公募型では学力の確認のために、英検を出願条件にするケースが増えています。
以上の通り英検は推薦入試を受ける場合にとても大切になるのですが、実は英検の勉強は出願条件以外でも使える「お得」な勉強なのです。
くわしい説明に入る前に、クイズを1つ出します。考えてみてくださいね。
Q.英検が「お得」といえる理由に当てはまるのは、次のうちどれでしょうか? 答えをすべて選んでください。
①推薦入試の学力試験対策になるから。


②一般入試で英語のテストのかわりに使える場合もあるから。

③大学入学後の勉強で困らなくなるから。

①と③は選べたかもしれませんが、実は②も正解です(つまり①から③すべて、が正解です)。
「……えっ、英語のテストのかわりってどういうこと?」と疑問に思われた方もいるかもしれませんね。
推薦入試の出願以外の観点で、英検学習のメリットを見てみましょう。
■学力試験の科目は「英語」
①推薦入試の学力試験対策になるから
1本目の記事でお伝えした通り、最近の推薦入試は学力も見られます。AO入試時代のように「とにかく実績が派手であれば学力を問わず合格できる」時代ではありません。総合型や公募型で学力試験がおこなわれるケースも増えています。
学力試験では一般入試と中身が異なり、記述や論述の形式で、知識よりは思考力を見られる問題が多いです。そして科目は英語がもっとも多いです。
各学部の研究分野につながる、英語以外の科目で実施されることもありますが、ほとんどすべての学部で必要なのが英語です。学力試験の科目に英語が選ばれるのは必然といえるでしょう。

さらに中身については論述形式、英語なら英作文の形式がよく見られます。
英作文は英検で出題されますから、英検の対策をすることは同時にこの学力試験の対策を進めることにもなるのです。
■一般入試の対策にも使える
②一般入試で英語のテストのかわりに使える場合もあるから
推薦入試のリスクヘッジとして一般入試の対策も必要です。当然、一般入試ではほとんどの学部で英語が必要ですから、英検対策を通して一般入試の対策もできるのは当然の話です。
ここでお伝えしたいのは、英検の級やスコアを提出することで、英語の学力試験が免除されるケースも多いことです。有名大学では、立教大学がこれにあたります。2021年度より全学部で英語の独自試験を廃止し、英検を含む指定の英語資格か共通テストの点数を使用しています。
また、日本大学や東洋大学でも、一部の学部では英検などの英語資格を提出することで、大学入試では英語を受けなくても、一定の点数をもらえます。
つまり受験校によっては、英検で高い級を取ることができていれば、あとはその他の2科目(国語と社会、あるいは数学と理科)の勉強だけで一般入試に臨めます。
こうすることで、総合型や公募型の対策を進めながら、一般入試によるリスクヘッジも効率的におこなうことができるのです。
■大学でも英語は必須の能力
③大学入学後の勉強で困らなくなるから
推薦入試の質問でよくいただくのが、「大学入学後の勉強についていけるでしょうか……」という疑問です。大学での勉強は高校までと違い、専門分野に入っていくので、かならずしも高校の勉強が前提になるわけではありません。
高校で勉強したけど大学では使わない科目、高校の勉強だけでは大学で足りない科目、どちらもあります。
しかし、英語は例外です。英語で論文を読んだり、英語でプレゼンをしたりすることもあり、特に高いレベルで研究を進めるのであれば、英語は必須の能力です。推薦入試対策を進める場合は、一般入試ほど英語の勉強に時間をかけるわけにはいきませんから、英検の勉強は大学に入ってからも使える、一石二鳥となりそうです。
このように、英検の勉強は推薦入試の出願条件をクリアするだけではなく、その他のさまざまな場面でメリットがあります。英検は一般入試のように一発勝負ではなく、何度でも挑戦できます。しっかり時間をかけて正しく対策をすれば、ほとんどの人が取得することができるでしょう。推薦入試を受ける人こそ、ぜひ英検にチャレンジしてください。
■推薦入試のリスク
ここでは、推薦入試のリスクについても解説していきましょう。推薦入試は一般入試とは違って、多くの大学を受験する、つまり併願することができない形式が多いため、いわゆる「すべり止め」を確保することが難しいという点が大きなリスクです。
そこで、①学校推薦型選抜(指定校型)→②総合型選抜・学校推薦型選抜(公募型)→③一般入試と、1本目の記事でご紹介したいくつもの受験方式を使うことによってリスクを下げていく「3層戦略」が有効になります。
さらに、推薦入試のリスクとして挙げられるのが、推薦入試で必要となる小論文や面接、志望理由書などは統一された採点基準がないことです。
また、小論文や面接で聞かれる問いの数も多くありません。その結果「安定して○○点は取れる」といった「計算」が成り立たないのです。
統一された採点基準がなければ、その採点官や面接官との相性によって評価が決まってしまうことは否定できないでしょう。さらに、問題数が少ないことによって、その問題の得意・不得意で合否が決まってしまう可能性があります。
もちろん努力や事前準備でカバーできる範囲も大きいのですが、当日の運に左右される可能性も否定できません。少なくとも、一般入試以上に運の要素があるといえるでしょう。
こういった試験内容の観点からも、リスクがある方式であることはおわかりいただけると思います。
■一般入試と推薦入試を並行して進める
一方で、上記のようなデメリットを解消できるのが一般入試です。複数大学を受験でき、採点に主観が入る余地もほとんどありません。運の影響を完全に否定することはできませんが、過去問の得点や模試の判定から、ある程度は合格可能性の予測を立てられます。ですから、リスクヘッジという観点では一般入試を使うことは自然なことなのです。
もちろん、推薦入試の対策もしながら一般入試の勉強も進めるのは大変であることは間違いありません。
だからこそ、先ほどお伝えした通り英検を利用して試験が免除される大学をねらうことが重要になってきます。英検を取得してしまえば、そのあとは文系なら国語と社会に、理系なら数学と理科に、多くの時間をさくことができます。
さらに、一般入試の勉強が推薦に役立つことも忘れてはいけません。もちろん数学や国語を勉強したからといって、すぐに活動実績や志望理由につながることはありません。しかし、それぞれの科目を学習する中で身についた知識は、意外と研究活動に役立つこともあります。特に国語や理科は、小論文の練習や研究活動に役立つ傾向がありますので覚えておきましょう。
一般入試を否定せず、効率的に一般入試と推薦入試を並行して進めていきましょう。

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小林 尚(こばやし・しょう)

個別指導塾CASTDICE 塾長

高校受験で開成高等学校に入学し、東京大学文科一類に現役合格。卒業後、経営コンサルティング会社の戦略部門を経て、株式会社キャストダイスを設立。YouTubeチャンネル『CASTDICETV』では、受験情報にとどまらず職業・進路情報を高頻度で発信。著書は『やりたいことがわからない高校生のための最高の職業と進路が見つかるガイドブック』(KADOKAWA)など多数。

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橋本 尚記(はしもと・なおき)

推薦入試専門推進塾 塾長

早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業後、塾講師・家庭教師の経験を経て、推進塾を設立。
経済的に恵まれない生徒に対し中学校に出向いて学校授業の補講を行う「放課後塾」にも講師として参画。 YouTubeチャンネル『推進塾【推薦入試・総合型選抜専門】』にて、総合型選抜・学校推薦型選抜を中心に、受験情報や勉強法などの情報を発信している。 

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(個別指導塾CASTDICE 塾長 小林 尚、推薦入試専門推進塾 塾長 橋本 尚記)
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