■ビットコインは世界トップクラスの金融資産になった
1位が金(ゴールド)、2位がアップル、3位がマイクロソフト、4位がエヌビディア、5位アルファベット(グーグル)、6位アマゾン、7位に銀(シルバー)、8位にサウジアラムコ、9位メタ(フェイスブック)と続き、10位にビットコイン。
これが何のランキングかお分かりでしょうか?
これは、CompaniesMarketCap社による主要な金融資産の時価総額ランキングです(2025年3月20日時点)。10位にランクされたビットコインは時価総額1.5兆ドルで、メタの株式とほぼ同等となっています。ちなみに暗号資産のイーサリアムは2400億ドルで50位につけています。
時価総額の算出根拠の違いなどはありますが、この金額を見る限りはビットコインとイーサリアムはれっきとした資産としての地位を築いていることがわかります。
■15年前は1BTC=0.6円だった
また、CoinMarketCap社のデータ(2025年3月20日)では、世界全体での暗号資産の市場規模は約409兆円です。日本の上場企業株式の時価総額が957兆円(2025年2月末時点)なので、その半分近くになります。
24時間の取引額も約20兆円に達し、日本の株式市場(日本取引所グループ)の1日の平均取引高5兆円(2023年度)をはるかに上回ります。
こうした大きな数字を並べられてもピンとこない方もいるでしょう。ただ、ビットコインが2009年1月に生成され、翌2010年に初めてピザ2枚の購入に使われたときは1BTC=0.6円ほどでした。それが15年ほどで一時1BTC=1700万円に至ったのですから、その間の成長率は実に2800万倍です。すさまじい速度で価値を高めてきたことがわかります。
しかし一方で、疑問も湧いてきます。
本当に今後数十年以上、価値が維持あるいは向上するのでしょうか?
一時のバブルで終わる危険はないのでしょうか?
■資産のデジタル化というメガトレンド
正直に言えば、未来のことは誰にもわかりません。ただビットコインなどの暗号資産に関しては、「資産のデジタル化」という観点では今後も価値を高めていくはずです。
私にも、明日、明後日の値動きは予想できませんが、5年ほどのタームではある程度の予測は立ちます。2030年頃には1BTC=5000万円~1億円ほどの価格になるだろうという見解を持つ専門家やアナリストも少なくありません。有識者のものとはいえ、あくまで予測は予測でしかありませんが、各々が説得力のあるロジックで推論を立てているため、期待はできます。
とても現実的には思えないかもしれません。しかし金に替わるデジタル資産として役割を確立し始めたことを考えれば、荒唐無稽な話ではないのです。
アメリカの財務省は、「ビットコインは分散型金融における価値の保存に使われるもので、デジタルゴールドのようだ」との見解を報告しています。FRBのパウエル議長も「ビットコインの競合は金」と述べているように、金に近しいものであるという視点はビットコインの価値の理解において重要です。
そもそも資産というのは経済的な価値があるものの総称です。その中で、とりわけ金の価値が高いのはなぜでしょうか。
■金と同じ役割を担う可能性
それから、アクセサリーや電子機器、はたまた投資と用途が多彩であること。そして誰もが売買しやすく換金性が高いこと。紀元前からの歴史があること。企業の業績や地政学的リスクに価格が左右されにくいこと、などが挙げられます。加えていうなら、金という実物がちゃんと現実にある、ということも信用に足る理由でしょう。
金も最初からいまほどの値が付いていたわけではありません。1995年から2024年の30年間だけを切り取っても、1グラム約1200円から約1万2000円へと、実に10倍もの値上がりをしています。この間に様々な経済不安や金融危機が起きるたび、安全資産としての金の価値が高まってきたのです。
その金と同じ役割を、デジタル資産であるビットコインが担おうとしている、まさに分水嶺がいまです。
ここで、装飾品や電子機器などに利用できる金と、ほとんど実際的な利用方法のないビットコインでは価値が違う、と考える人もいると思います。たしかに、ビットコインは決済手段としての機能はほぼ果たしていません。
同じように、ビットコインが安全資産だという認識が広がれば、国や機関投資家が大量にポートフォリオに組み込み、簡単には売却しなくなるでしょう。そうなれば金に比肩するほどの価値になり、ある程度は値動きも安定するはずです。だからいまアメリカが大号令をかけている意味は極めて大きいのです。
■所詮プログラム、されどプログラム
ビットコインは、人間がプログラムしたデータですから、金塊を手にするような安心感はないかもしれません。ですがブロックチェーンという仕組みの発明によって、そのデータが唯一無二で間違いのないものだと証明できるようになっているため、現金や現物に劣らないとする見方もあります。
考えてみれば、私たちも現金をそのまま金庫に入れていることはほぼなく、大部分は銀行などに預けています。株や外貨への投資もスマートフォンひとつでできるようになりました。
日常生活でも電子マネーの利用が当たり前になり、キャッシュレス化はどんどん進んでいます。日本円の現物を持ち歩かず、貯蓄も円だけでなくドル建ての投資信託などに変えている人が増えてきました。本書でも後述しますが、NFTという形でアートや権利をデジタルの形で所有することもできます。
電子化の壁も国境も軽々と越えていく世代にとっては、デジタル化されたものの存在感は日増しに強まっており、これから「デジタル資産」の時代になっていくことは自然なことなのです。
このように書くと、同じデジタルでも大手企業や金融機関が管理しているものとビットコインでは、信用度がまるで違うと思われるはずです。たしかにビットコインの場合は特定の管理者が存在しません。その代わりにブロックチェーンというシステムに信用があり、システムへの理解や信用度で評価が大きく変わります。
■暗号資産の「価値」はどこから来るのか
ビットコインをはじめ暗号資産の「価格」はこれまで乱高下しており、ボラティリティが高いのは事実です。しかし、価格の動きにだけ注目していると暗号資産の「本質」を見誤る可能性があります。暗号資産の「価格」と「価値」は別と考えたほうがよいのです。
暗号資産の「価値」とは、何より非常に多くの人が保有しているということです。口座数は日本だけでも1200万以上、世界では6.5億口座にまで拡大したと推定されています。
そもそもビットコインをはじめ暗号資産の実体はデジタルデータです。物質的な裏付けがなく、日本の民法では所有権の対象とはなりません(所有権の対象は「有体物」に限られるため)。それでもビットコインは現在、1BTC=1250万円ほどの高値で市場において取引されています(編註:5月7日時点で1BTC=1395万円)。
これは端的に言えば、「それ以上の価格で次に買う人が出てくるだろう」と考える人がいるからであり、もし「この先、誰も買う人はいないだろう」とあらゆる人が考えれば資産価値はゼロになるでしょう。
■法定通貨との共通点、異なる信用の源泉
この理屈は、円をはじめ現代の法定通貨にもあてはまります。かつては金本位制といって金との交換が約束されていましたが、いま1万円紙幣の原価は1枚20円弱です。それでも日常生活において日本人は、「1万円」の価値があるものとして使っています。それを保証しているのは、徴税権や金融システムなどの国家の権限です。
しかし、いわゆるハイパーインフレになって「今日1万円札1枚で買えたものが、明日は2枚必要になるかもしれない」と多くの人が考えるようになれば、1万円札の価値は瞬く間に暴落するでしょう。
その点、暗号資産の資産価値は、法定通貨のように国が保証しているからではなく、取引市場において多くの人が「それだけの資産価値がある」と考えていることが裏付けとなっています。国家の権限と市場の裏付けという違いはありますが、いずれも「信用」が支えているのです。
■「発行上限」が信用につながっている
特にビットコインについては、プログラムによって発行上限が2100万枚にあらかじめ制限されています。2100万枚のうちすでに1980万枚が発行されていますが、2100万枚の上限に到達するのは2140年頃です。上限に達すると新たなマイニング報酬はなくなり、BTCの新規発行はストップします。
このように発行上限が決まっていることも、ビットコインの信用につながっているといえるでしょう。
実際、アメリカのトランプ大統領が2025年3月に署名した暗号資産を国家備蓄する大統領令でも、ビットコインとその他の暗号資産を別扱いすることとしています。
同じ「備蓄」といってもビットコインは「Reserve」と位置づけられ、これまでアメリカ政府が違法取引などから没収した約20万枚のビットコインは売らずに持ち続けるだけでなく、追加的に取得する可能性もあります。一方、その他の暗号資産は「Stockpile」と位置づけられ、追加取得はせず、必要に応じて売却することもあります。
今後、ビットコインとそのほかの暗号資産については、こうした扱いの差が広がるように思われます。つまり、ビットコインは金融商品としての性格をさらに強め、その他の暗号資産はWeb3などで利用されるトークンとしての位置づけになっていくのではないかということです。
■暗号資産のETFが次々誕生した
現在、金の時価総額が他の金融資産を圧倒しているのは、ETF(Exchange Traded Fund)の普及などによって多くの個人投資家が参入していることも理由のひとつです。
ビットコインとイーサリアムの時価総額も、最近ようやくETFが登場したことで大きく伸びました。ETFとは金融商品取引所に上場している投資信託のことです。投資家は、裏付けとなる原資産を組み込んだ信託受益権を購入し、それを金融商品取引所で自由に売買できます。一口あたりの投資金額が低く、流動性も高いことから、主に個人投資家が購入しています。
アメリカでは2024年1月にビットコインの現物ETFが承認されました。また、同年4月、香港の取引所でビットコインやイーサリアムを含む、六銘柄の暗号資産ETFの取引がスタートしました。カナダ、ブラジル、オーストラリア、タイでも暗号資産ETFが上場しています。
さらにイギリスでは、5月から機関投資家向け市場にビットコインとイーサリアムの現物ETN(指標連動証券)が上場。ドイツ、フランス、スイス、ドバイなどでも暗号資産ETNが上場しています。暗号資産ETFとETNが認められた国々のGDPの合計は全世界GDPの約50%に及びます。
■デジタルゴールドの可能性に投資家は注目している
かつて、金のETFが初めて登場したのは2004年、アメリカのニューヨーク証券取引所においてでした。その後、日本の東京証券取引所にも2008年に上場。いまや多くの国で金のETFが取引されています。
このように金のETFが広がったことで個人投資家による金への投資が容易になり、金の価格上昇と時価総額の増大へつながっていったのです。ビットコインなどのETFが誕生してまだ1年ほどしか経っていませんが、今後、金と同じことが起こる可能性は十分あると思います。
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小田 玄紀(おだ・げんき)
ソーシャルベンチャーキャピタリスト
SBIホールディングス常務執行役員、日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)代表理事、株式会社ビットポイントジャパン代表取締役。1980年生まれ、東京大学法学部卒業。2016年3月、上場企業子会社として日本初の暗号資産交換業を営む株式会社ビットポイント(現 株式会社ビットポイントジャパン)を立ち上げ、同社代表取締役に就任。2018年、紺綬褒章を受章。19年、「世界経済フォーラム」よりYoung Global Leadersに選出。23年から、SBIホールディングスの常務執行役員、日本暗号資産等取引業協会代表理事を務める。
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(ソーシャルベンチャーキャピタリスト 小田 玄紀)