■部下の反応が悪い…一体なぜ?
部下から煙たがられてしまう上司には、共通点があります。不要な場面でマイクロマネジメント(※)になっていたり、会議の生産性が低い、昔ながらのやり方にこだわっている、などが典型例です。
※上司やマネージャーが部下の仕事に対して過度に介入し、細部にわたって指示を出したり、チェックしたりするマネジメントスタイルを指す
部下の成長を願い、日々真剣に向き合っているにもかかわらず、なぜか部下の反応が「薄い」「冷たい」と感じている人は、もしかしたら部下から「煙たがられてしまう上司」の特徴に当てはまっているからかもしれません。
上司のどういった言葉遣いや行動を部下は嫌がるのか、事例とともに解説します。
■部下の商談のたびに電話をかける40代男性
ケース①自分は「面倒見のいい上司」だと思っていたが……
中堅商社の営業部門で課長職に就いている木下さん(仮名、40代男性)は、「すぐ不機嫌になる部下」にどう対処したらいいのか悩んでいます。
木下さんの部下は、牧田さん・米澤さん・佐藤さん(いずれも仮名)の3人。
いずれも30代前半の中堅社員です。
「新任の課長に中堅3人を委ねたのだから、『現場感覚を活かしてサポートしてもらいたい』ということだろう」
このように考えた木下さんは、部下3人に寄り添う姿勢でマネジメントを行うことにしました。
時間が許す限り営業先へ同行し、商談後には必ず振り返りを行いました。
やむを得ず商談に同行できない時には、当日の商談について事前に電話でヒアリングをした上で、商談を一件終えるごとに連絡してもらうことに。
こうして毎日欠かさずコミュニケーションを取り、仕事の状況を共有していくことが、部下との信頼関係の構築につながるはずだ、と考えていたのです。
ところが、数週間も経たないうちに部下の態度が明らかにとげとげしくなりました。
いつものように事前のヒアリングをしようと電話をかけると、「何ですか?」「それ、急ぎでしょうか?」と不機嫌そうな答えが返ってきます。
■「課長は細かすぎる」と不満たらたら
様子がおかしいと察知した木下さんは、3人の中では比較的穏やかに話せる佐藤さんとの面談をセッティングしました。
「ざっくばらんに聞きたいんだけど、牧田と米澤はどうしていつもあんなに不機嫌なんだろう?」
佐藤さんは「申し上げにくいのですが」と前置きした上で、次のように話してくれました。
・木下課長は細かすぎる、と牧田さん・米澤さんは不満をもらしている
・商談のたびに事前/事後の電話がかかってくるのはストレスになる
・まるで新入社員のように扱われており、信頼されていないと感じている
3人の部下をサポートしたいという思いでマネジメントに取り組んできた木下さんにとって、これはあまりにも予想外の反応でした。
打開策を見出せなくなった木下さんは、直属の上長にあたる矢上部長(仮名)に相談することにしました。
矢上部長はそれまでの経緯を聞くなり、「そりゃあ、経験も実力もある彼らからすると、嫌気がさすだろう。君がやっていることは、まさしくマイクロマネジメントそのものじゃないか」と言ったのです。
■「部下のため」が裏目に出てしまった
「マイクロマネジメント……ですか? 日頃からコミュニケーションを取っておいたほうが、信頼関係の構築につながると思っているのですが」
「私が君に対して、毎日何の仕事をするのか、その結果がどうだったのか、『念のため』と言ってしつこく尋ねたらどう思う? 信頼されていないと感じるんじゃないか?」
たしかにその通りでした。
木下さんは「部下に寄り添う面倒見のいい上司」になろうと心がけた結果、3人の部下に日々ストレスを与えてしまっていたのです。
マイクロマネジメント自体が必ずしも悪いわけではなく、相手が新人だったり経験不足である場合には、上司のきめ細かな指導が必要になることもあります。
例えば、部下のスキルが不足していて、上司との間で業務に対する精通度の差が顕著に表れているようなケースです。
このような状況であれば、むしろ部下が成果を出せるよう「手取り足取り」指導する必要があるでしょう。
「部下のため」を思ってのマイクロマネジメントが功を奏するかどうかは、相手のスキルや経験値を慎重に判断する必要があります。
【チェックポイント】
部下の育成に力を入れるあまり、いつの間にか不適切なマイクロマネジメントに陥っていないでしょうか。任せるべきことは部下に任せ、ポイントを絞って報告を求めることが大切です。
部下の自律性を大切にする一方で、「任せる」が「放置」になってしまっているケースも少なくありません。部下の能力や経験、状況に応じて、上司がきめ細かく関与する必要がある局面は数多く存在します。“嫌われない上司”になることと、“部下に結果を出させる上司”であることは、必ずしも一致しないので、注意が必要です。
【部下の意欲を削ぐひとこと】
・念のため(と言いながら細かすぎる確認をする)
・責めているわけじゃない(と言いつつ部下に詰め寄る)
・それで?(と繰り返し尋ねて部下を問い詰める)
■「電話信仰」「対話信仰」を持つ50代女性
ケース②「正式な仕事の進め方」にこだわっていたつもりが……
部品メーカーで営業事務を統括している田辺さん(仮名、50代女性)には、仕事に対する明確なこだわりがあります。
「コミュニケーションは必ず電話か対面で」というこだわりです。
かつて田辺さんがお世話になった上司から受け継いだ方針でした。
上長が2年前に役職定年を迎えたため、今は田辺さんが後任者として営業事務部門を一手に引き受けています。
営業事務職は田辺さんを含めて3名。
2人の部下は中堅社員の矢部さんと、若手社員の幸田さん(いずれも仮名、矢部さんは30代女性、幸田さんは20代女性)です。
この2年間、電話や対面でのコミュニケーションを最優先してきたつもりでしたが、部下との間に温度差があるように感じていました。
矢部さんは10年以上にわたって田辺さんと仕事をしており、田辺さんの元上司のこともよく知っています。
田辺さんが周囲とのコミュニケーションを重視する理由も、きちんと理解しているようでした。
■若手社員「チャットでも会話はできる」
一方、20代の幸田さんはちょうど元上司が役職定年を迎えたタイミングで入社しています。
電話でのやり取りが中心の田辺さんとは大きく異なり、主にビジネスチャットで業務連絡を済ませているようです。
ある時、見かねた田辺さんは幸田さんとの面談をセッティングしました。
コミュニケーションの重要性をあらためて伝える必要があると考えたからです。
ところが、幸田さんの反応は意外なものでした。
「電話や対面にこだわる必要があるんでしょうか? チャットでも会話はできますし、記録も残るので、言った・言わないの問題が生じないかと思うのですが」
2年間、コミュニケーションの重要性を伝えてきたつもりが、何も伝わっていなかったことがわかり、田辺さんは愕然としました。
「直接話してみないとわからないことも多いでしょう? 電話でいつでも対応してもらえるという安心感を抱いてもらうことが、私たちの存在意義ですよ」
「ですから、それはチャットでもできることですよね? 部内のミーティングにしても、毎回全員が集まる必要はないと思います。グループチャットで問題ないと思うのですが」
■電話への切り替えでミス連発、自信喪失
田辺さんは訳がわかりませんでした。
「あのね、友だちとやり取りするのとは違うんだから、仕事ではきちんと声で伝えないとお互いに誤解が生じるものですよ」
結局、幸田さんは田辺さんのアドバイスに従い、メインの連絡手段をチャットから電話へと切り替えることにしました。
幸田さんのパフォーマンスが顕著に低下したのは間もなくのことです。
聞き間違いによる発注ミス、営業担当者が伝えたはずのことが伝わっていない、急ぎの連絡だったにもかかわらず通話中で電話に出ない――。
営業担当者から苦言が相次ぎ、幸田さんはすっかり自信を失っているようでした。
(はじめは慣れなくても、電話のほうが連絡手段として確実なのは間違いない。私はずっとそうやって仕事をしてきたのだから)
そう考えた田辺さんはその後も幸田さんにチャットの使用を認めず、部内のミーティングについても対面にこだわり続けました。
田辺さんにとって、グループチャットでは「会議」をしたことにはならなかったからです。
■「若い人たちは…」と愚痴を漏らす
幸田さんが退職を申し出たのは、それから半年後のことでした。
どうやら幸田さんは以前から電話が大の苦手で、相手の声が聞き取れなかったり、伝えるべきことを即座に整理できなかったりするタイプだったようです。
幸田さんの転職先はIT関連の企業で、業務連絡も会議もオンラインでのやり取りが中心だとか。
お酒の席で、田辺さんは矢部さんにこう漏らしたことがあります。
「若い人たちは何でもチャット。
矢部さんは田辺さんの考えにおおむね同調しながらも、少し違った考えも抱いているようでした。
「昔は便利なツールがなかっただけで、今は誰でもチャットを使っていますから、私は仕事で活用するのもありなんじゃないかと思いますけど」
■上司が変わらないければいけないこともある
田辺さんは、今後も仕事のやり取りでは電話か対面にこだわっていくつもりです。
矢部さんにも、これから採用する新入社員にも、「直接伝える」ことの大切さを理解してほしいと考えています。
【チェックポイント】
昔ながらのやり方にこだわるあまり、部下に非効率な仕事の進め方を強いていないでしょうか。上司自身が教わってきた仕事のやり方と、現代のビジネスシーンに合った仕事の進め方には開きがあるかもしれません。
長年慣れ親しんできたからという理由で自分の仕事の進め方を部下に押し付けず、上司自身の考え方をアップデートしていくことも大切です。
【部下の意欲を削ぐ一言】
・昔は○○だった(自分のやり方に固執している)
・今の若い人たちは……(若い世代を一括りにしている)
・電話したほうが/訪問したほうが早い(新しい仕事のやり方を受け入れない)
■「部下のために」が完全に裏目に
今回紹介した2つの事例の共通項にお気づきでしょうか。
「上司は部下のためを思って言っている・やっているにもかかわらず、裏目に出てしまっている」という点です。
部下との温度差に気づかない限り、上司と部下の溝は広がり続けていく可能性が高いと考えられます。
何気ない一言や言葉遣いが、部下の意欲を削いでいるケースは少なくありません。
部下の様子がおかしいと感じたり、反応が薄いと感じたりした際には、自分自身の言動を冷静に振り返ってみる必要があるでしょう。
多くの場合、部下はできることなら上司と良好な関係を築き、働きやすい環境で仕事に取り組みたいと考えています。
しかしながら、上司の熱意と部下の想いは一致しないことも多く、部下にとっては「過干渉」に感じられても、上司からすれば「丁寧な指導」をしているだけということも多いです。
部下から煙たがられてしまう上司から脱却するためにも、部下に投げかける言葉の言い回しや伝え方について、一度立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。
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清水 康一朗(しみず・こういちろう)
ラーニングエッジ代表
1974年生まれ、静岡県浜松市出身。98年慶應義塾大学理工学部卒業後、人材業界のベンチャー企業に入社。2000年、デロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。2003年にラーニングエッジ株式会社を設立。コンサルで学んだマーケティングや顧客管理のノウハウをベースに、業界最大のポータルサイト「セミナーズ」を立ち上げ、教育の流通に努めている。著書に『絆徳経営のすゝめ』(フローラル出版)、『勝手に売れていく人の秘密』(ダイヤモンド社)、『耳から学ぶ勉強法』(サンマーク出版)など。
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(ラーニングエッジ代表 清水 康一朗)