▼第1位 任天堂がついに最高の「転売ヤー撃退策」を編み出した…企業を悩ませる「メルカリ転売」の酷すぎる有り様
▼第2位 だから国民の「愛子天皇待望論」はここまで高まった…専門家が指摘する"愛子さま人気"だけではない理由
▼第3位 「結婚、出産、セックス、交際を拒否」日本より赤ちゃんが生まれない韓国で起きている若い女性の"静かな撤退"
▼第4位 こんなスリリングな万博会場は後にも先にもない…「大阪市民のうんち」を埋める夢洲が「地雷原」と呼ばれるワケ
▼第5位 コメ不足なのに「大量のおにぎり」をゴミにしている…コンビニ店員が証言「468万円分の食品廃棄」のキツイ現実
コメ不足が続く中、食品が大量に廃棄されている場所がある。コンビニだ。ジャーナリストの井出留美さんは「途方もない額の食品が毎年廃棄され続けている。1店舗当たり468万円、大手コンビニだけで約2692億円になる計算だ」という――。
※本稿は、井出留美『私たちは何を捨てているのか』(ちくま新書)の一部を抜粋、再編集したものです。
■コンビニ経営者の偽らざるホンネ
2022年の年末、あるコンビニのオーナーがSNSにこう投稿していた。
「廃棄金額年間で売価480万円の当店。これでも時間帯により棚スカスカです。以前よりかなり廃棄減らしてこれです。これが現実。キツい。もっと減らしたらもっと棚スカだ」
その翌日の投稿には「元旦、前年データと全然ちがう動きしてる。
食品ロスは減らしたい、でも売上は減らしたくないとギリギリのところでコンビニを経営するむずかしさが伝わってくる投稿だ。
筆者は2017年から大手コンビニの食品廃棄について取材をおこなっている。同じ系列のコンビニでも、年間1000万円以上を捨てている店舗もあれば、独自に「見切り(値引き)販売」をおこない、ほとんど捨てていない店舗もある。
だから、先のSNSに投稿された廃棄金額480万円というのは、筆者にとって実感に近い金額である。
■年間1店舗あたり468万円を廃棄
公正取引委員会は、2019年10月から2020年8月にかけて全国の大手コンビニエンスストア5万7524店を対象におこなった調査(対象店舗のうち1万2093店が回答)から、大手コンビニが食品を1店舗あたり年間468万円(中央値)廃棄していると報告しており、その金額にも近い。
国税庁によれば民間の給与所得者の平均年収は460万円である。つまり、コンビニ1店舗は1年間に、国民の平均年収を上まわる額の食品を捨てていることになる。
単純に対象店舗数の5万7524に廃棄金額の468万円を掛けると、大手コンビニの年間廃棄金額は約2692億円となる。これはウクライナ危機や記録的な円安で食料価格が高騰し、食料自給率を含め国の食料安全保障の見直しを求める声が上がる中、見過ごせない額だ。
■“仕組み”が加盟店を苦しめている
こうした食品の廃棄コストの80%以上は、大手コンビニ特有の「コンビニ会計」という仕組みにより、本部ではなく、加盟店の負担となっている(図表1)。
一方、利益の配分比は店舗の契約年数によっても異なるが、50%以上を本部が受け取るようになっている。
多くのコンビニ店は、本部とフランチャイズ契約を結んだ加盟店として運営され、本部から商品を仕入れて販売する。「コンビニ会計」では食品ロスがなかったことにされるため、会計上は粗利が多くなり、より多くのロイヤルティを本部に支払うことになる。
加盟店の負担はそれだけではない。先日、以前取材させてもらった、ある大手コンビニ加盟店のオーナーと会ったところ、「いまやコンビニは無料のトイレ・無料のごみ箱・無料駐車場になってしまっていますよ」と嘆いていた。
■だから週6日以上自らレジに立つしかない
店の外にごみ箱を置くと捨て放題になるので、ごみ箱を店内に移したオーナーもいる。だが、それでも家庭ごみや他の飲食店の食べ残しなどを入れられることは日常茶飯事だ。そんなごみ処理費用も加盟店の負担となる。
無料で開放しているトイレの清掃や洗剤、トイレットペーパーなどの費用も、客に提供する割り箸やおしぼり、スプーンやフォークなども、すべて加盟店負担だ。
前述の公正取引委員会の報告書からは、コンビニオーナーの6割強が「債務超過状態」か、資産額が「500万円未満」であり、人手不足のため週6日以上自らレジに立たなくてはならず、採算のよくない深夜営業や同一商圏へのコンビニ過剰出店などに苦しんでいる様子がうかがえる。
同じ企業の看板を掲げて働く以上、本部も加盟店もない。どちらか一方だけが不利益を被るという状況がつづくような経営システムは公平ではないし、持続可能とは言いがたい。
■「食品廃棄作業が苦痛で退職した」が4割
銀行員だった筆者の父は、転勤を繰り返して支店長に昇進した5カ月後に46歳の若さで他界した。もっと持続可能な働き方はできなかったのだろうかと数十年たったいまでも思う。筆者が食品ロスを減らす活動をつづけているのは、それが単なる無駄減らしではなく、働き方改革にもなると信じているからだ。
年間5000件以上の労働・生活相談に関わっているNPO法人POSSE(ポッセ)の代表・今野晴貴氏は、2022年に入ってから「食品廃棄作業が苦痛で退職した」という学生アルバイトからの相談を多く受けるようになった。同団体が2022年秋に調査をおこなったところ、食品を捨てることがストレスで退職した人が4割もいたという。中にはうつになった人もいる。
筆者は、大手コンビニで働くベトナム人女性に取材したことがある。彼女は大学院で学びながら、大手3社のうち2社でバイトを掛け持ちしていた。終始おだやかに取材に応じてくれた彼女だが、食べものを捨てることに関しては、「もったいないです! めっちゃもったいないです!」と語気を強めた。ベトナムでは食べものをこんなにそまつに扱ったことはないと悔しそうに語っていた。
アルバイト先で強いられるこうした食品廃棄は、コンビニでアルバイトとして働くことの多い在日外国人のストレスになるし、日本の印象を損ねるのではないだろうか。筆者はある大手コンビニ本部の幹部に、「コンビニで働く外国籍の人が増えているが、そういう人たちにまだ食べられる食品を大量に捨てさせるのは問題ではないのか」と質問したことがあるが、明確な回答は得られなかった。
■廃棄費用への本部補助3万円は正しいのか
2022年12月、ある大手コンビニ本部が全国の加盟店に対して、「年末セールに備え、売れ残った食品を捨てる費用を本部が上限3万円まで負担する」という通知を出した。2023年1月にも、「新春セールの品揃え見直しのために死筋商品を捨てる費用として、本部が上限3万円の費用を補助する」という通知を出している。売れ残っても廃棄費用は本部が出すから、安心してたくさん発注しなさいということなのだろう。
先ほどコンビニでは本部と加盟店が対等ではないことを指摘したので、たまには本部も加盟店思いのことをするのだと思われるかもしれない。しかし、月に約40万円の食品を廃棄している店舗にとって、期間限定の3万円の補塡はありがたいものだろうか。
そもそも食品廃棄を積極的に勧めること自体、各企業が推し進めている(はずの)SDGsのターゲットと根本的にずれていないだろうか。
食品を廃棄することは、単に食材を無駄にしているだけではない。生産者・加工業者・運送業者など、その食品に関わった多くの人たちの苦労、大切な資源やエネルギーを無駄にし、ごみ処理場で生ごみを焼却するのに多大な税金を使い、さらには気候変動の原因となる二酸化炭素を出すことになる。
食べてもらうためでなく、廃棄のために費用を出すというのは、食品を扱う大企業の経営姿勢としていかがなものだろう。
大手コンビニは2022年に、比較可能な2005年以降のデータで過去最高となる11兆1775億円の売上高を叩き出している。
(初公開日:2025年4月7日)
----------
井出 留美(いで・るみ)
食品ロス問題専門家
奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、日本ケロッグ広報室長等を経て、office3.11設立。
----------
(食品ロス問題専門家 井出 留美)