子どもが希望するお金は全て出したいと考えるのが親心だが収入には限りがある。先が読めない教育費を準備するにはどうしたらよいか。
6人の子どもを育てるFPの橋本絵美さんは「どんな人生にしたいのか、そのため金額的にどこまでなら成り立つのかラインを決めることが大切」だという――。
■価値観は人それぞれ 経済的に成り立つ方程式を見つける
4月から始まった新生活もすでに1カ月以上がたちました。わが家の子どもたちも、それぞれの学年で新生活に慣れてきたところです。なかなか物入りな3月、4月でした。可愛い子どものための教育費は惜しまない! という方もいらっしゃると思います。わが家では長男がこの春から高校生。無償化も進んではいますが、対象外の支出もけっこうあります。子どもを育てるのにいったいいくらかかるのか。どこまで、どのように準備していけばいいのか。今回は6人の子どもを育てるFPが学費準備の戦略についてお話しします。
親が子どもにどのような教育を受けさせたいと考えるか、また子ども自身がどのような進路に進みたいと考えるかは各ご家庭、というより、もはや人それぞれ。夫婦間でコンセンサスをとるのも難しいものです。
そして、実際の子どもの進路はなかなか親の想定通りにはいきません。想定外の進路によって教育費が跳ね上がることはよくあることです。
「習い事の発表会で毎回10万円かかる」「子どもが中学受験をしたいと言い出した」「部活のユニフォーム代、遠征費がバカにならない」「塾に通いたいと言い出した」「医学部に進学することになった」「自宅通いを想定していたのに、遠方で一人暮らしをすることになった」などなど、あげたらきりがありません。
教育にかかるお金はケチらない! と思っていても親の収入には限りがあります。ここで考えておかなければいけないのは、“金額的にどこまでなら成り立つのかというライン”を確認しておくことです。今は大丈夫でも、どこかのタイミングで破綻してしまいます。こうしてあげたい、こうしたい、という思いとは別に、金額的にどこまでなら将来にわたって成り立つのかを客観的に見ておくことが大切です。
それを見ることができるのが、ライフプランシミュレーションです。ライフプランシミュレーションとは、家族がかなえたい夢や希望を金額に落とし込んでグラフ化したものです。中学受験をしたいと言った場合にさせる気があるのならば、その費用を盛り込む。留学したいと言った場合に行かせる気があるのならば、その費用を盛り込む。学費以外にも車の買い替え、住宅購入、老後の生活費など、今後どのような人生にしたいのかを、夫婦や家族で出しあい、その支出を盛り込みます。
支出だけでなく、ママは子どもと過ごしたいから子どもが小学校卒業するまでは仕事をしない、という選択をするのであれば、収入面でそれを盛り込む、といった具合です。
希望の人生設計を全て金額ベースに落とし込んで、収支と資産残高をグラフ化します。これを見れば希望が全て成り立つのか、成り立たないのかを客観的に見ることができます。これを見た上で成り立つのならば今のままでいいですし、成り立たないのであれば調整が必要ということになります。
■かかるのか、かけるのか、どのタイミングでかけるのが得策か
ライフプランシミュレーションをしてみて調整が必要となった場合、どのタイミングでどの費用を調整したらいいでしょうか。
教育費は必ずかかるものもあれば、必ずかかるわけではなく、かけるかどうか選択できるものがあります。かかるものか、かけるものかどちらなのかを冷静に見極めましょう。そして、かけるもののうち、どのタイミングでかけるのが得策かを判断しなければいけません。
例えば、子どもが小さいころは教育費もまだそんなにかからないため、色々と習い事もさせたくなることと思います。3つ4つ習い事をしているという子も多いです。そうなると月2、3万円となりますが、今かけるよりも大学進学費用に貯めておけば、子どもが奨学金を借りずにすみ、その方がありがたいということもあります。どのタイミングでかけるのかは各ご家庭の価値観によりますが、今出せるから出すのではなく、ライフプラン全体を見たうえで判断することが大切です。

■中学受験のレールに乗ると、降りるのは難しい
小学生のうちから塾に行かせた場合、中学校受験用の塾だった場合には、途中で受験をしないという選択をすることはなかなか難しくなります。友達に誘われて何となく塾通いを始めただけであっても、周りの雰囲気もあり、受験をする流れになってしまうものです。最初から受験をするつもりで塾に通わせる場合であったとしても、受験にかかる費用をしっかり把握しておかないと、最初は安い塾代が、学年が上がるにつれてどんどん高額になっていくことに驚くでしょう。
受験が近づくと受験校別の特別講習や合宿等があったりします。受講させないと不安になり、経済的に無理をしてでも受講させてしまうものです。塾に通わせ始める前に卒業までにかかる費用をしっかり確認しておきましょう。塾に通うとなると経済的な負担だけではなく、塾で食べる弁当づくりや送り迎え、教材の整理や進捗確認など親のサポートも必要になります。
■中学受験を巧みに回避させた母の判断
可能ならば希望する教育費を全て出してあげたいと思うのが親心かもしれません。ですが、収入は無限ではありません。いくら教育費といえども、収入に見合った支出額にしなければ家計が破綻してしまいます。
私自身の経験のエピソードで恐縮ですが、子どもが中学受験をしたいと言い出したときにどう対応したか2つの例をご紹介させていただきます。
私は福岡の片田舎の出身です。
私が中学生の頃、私の住んでいた地域では珍しく、友達のお姉さんが中学受験をして私立の中学校に入りました。それを見て、「私も私立中学に行きたい! 塾に通いたい!」と母に頼みました。
すると母は、「本屋さんで問題集を買ってあげる、それができたら塾に通っていいよ」と言ってくれました。本屋に連れて行ってくれて、好きな問題集どれでもいいから自分で選びなさいと言われたので、喜んで中学受験用の過去問集のようなものを選んだのですが、解けるわけがありません。中学受験は諦めることにしました。
私は三姉妹の長女だったので、経済的に私立中学に通わせるのは難しいということだったのだと思います。その後、私も妹たちも公立中高に進んだのち、私立中学に通った友人と同じ大学に行くことができたので、経済的に考えて「中学から私立には行かせない」という母の判断は間違っていなかったと思います。
私自身は中学受験は断念したわけですが、わが家でもかつての私と同じように子どもが中学受験をしたいと言い出しました。そこで、わが家ではどうしたかというと、中学受験を自分で勉強するのは難しいけれど、塾の特待生になれたら通っていいよ。ということにしました。また、橋本家のライフプランは公立進学を想定していたので、私立中学校に通うとなると想定外の学費がかかることになります。成り立つかどうかを確認するために私立進学バージョンでライフプランを作成しなおし、不足分を補う手段として、私が仕事を増やすことで賄うことにしました。

経済的に成り立つか、成り立たないか、は今だけの収支で判断するのではなく、将来にわたって成り立つかどうかを確認しなければいけません。
■教育費の貯めどきを逃がさない
学費の総額として全て公立なら1000万円、私立なら3000万円かかるといったような話を聞いたことがあるかもしれません。ですが、イマイチ実感がわかないというのが正直なところではないでしょうか。中学受験をするとなると小4あたりから塾の費用が高額になってきます。中学受験、高校受験の際には受験料、滑り止めの学校への入学金が学費とは別にかかる場合があります。大学受験ともなると、これらに加えて、県外の学校を受験する際の交通費や宿泊費、無事合格したあとも学費の前期分と新生活費用など数十万~100万円以上の金額が一度に必要になります。学費の準備の考え方としては、高校までは収入の範囲で賄いつつ、まとまったお金が必要な大学進学資金を貯めておくことが鉄則です。
大学費用は進路によって金額が大きく変わってくることがわかります。大学費用を準備するうえでは、ここまでの進路分は親が出すということをあらかじめ決めておくとよいでしょう。
大学進学までに貯めておく金額の目安としては、学校に納付する金額分を貯めておくと安心感があります。国立を想定するならば約243万、私立文系を想定するならば約411万円となります。わが家の場合は国立一人暮らしを想定して一人500万円を目安にしています。
そのままにしていると、6人ですから3000万円の貯金が必要だということです。
生まれたばかりの子どもであれば、児童手当を全て貯めると約200万円貯めることができます。子どもが小さければ小さいほど、目標金額から逆算した月々の必要貯蓄額は少なく済みます。中学受験をする場合には貯蓄できる期間が更に短くなってしまうことも想定されます。学費がかからない小さいうちから、将来のために準備を始めることをおすすめします。
まとめ

学費がいくらかかるのかは、子どもが選ぶ進路によって大きく変わってきます。どうなるかわからないからこそ、どこまでかけるかという軸を持っておかなければいけません。私も子どもが希望する進路に進めるよう収入を増やす、支出を減らす、運用する等ありとあらゆる方法で道を切り開いていきたいと思うタイプですが、楽観視することはできません。学費だからと聖域化せず、ライフプランシミュレーションによって家計を見える化し、将来を見据えて家計設計をしていきましょう。

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橋本 絵美(はしもと・えみ)

はしもとFPコンサルティングオフィス 代表

6人の子どもを持つママFP&お片づけプランナー。福岡県出身。小さな頃から「大家族のママになりたい!」という夢を持ち、慶應義塾大学商学部卒業後、学生時代から交際していた夫と結婚。現在、中学2年生から3歳まで2男4女の子育て中。

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(はしもとFPコンサルティングオフィス 代表 橋本 絵美)
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