座りすぎによる健康リスクを抑えるにはどうしたらいいのか。医師の鎌田實さんは「デスクワークなどで座りすぎの状態が続くと、血流が滞り、病気や死亡リスクが高まる。
ぜひ取り入れてほしい簡単な運動法がある」という――。(第1回)
※本稿は、鎌田實『医師のぼくが50年かけてたどりついた 長生きかまた体操』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■“座りっぱなし”は死亡リスクを高める
現代人にとって「座る」ことは、呼吸のように当たり前の日常動作です。通勤電車、オフィスのデスク、会議室、自宅のソファ……。私たちは一日中、驚くほどの時間を椅子の上で過ごしています。しかし近年、この「座りっぱなし」こそが、健康と寿命を大きく脅かすリスク因子であることが、多くの研究で明らかになってきました。
例えばオーストラリアの研究チームによる大規模調査では、1日に11時間以上座っている人は、4時間未満の人に比べて死亡リスクが約40%も高まるという衝撃の結果が報告されているのです。
では、座ることで体はどう悪くなるのでしょうか? 長時間座り続けると、まず最初に起こるのが、血流の悪化です。特に下半身の筋肉が動かないことで、「第2の心臓」とも呼ばれるふくらはぎのポンプ機能が低下し、全身への血液循環が悪くなります。これにより、むくみ・冷え性・集中力低下・腰痛といった不調が起こるだけでなく、長期的には糖尿病・心血管疾患・認知症・うつ病などのリスクが高まるとされています。
デスクワークをするビジネスパーソンにとって、これはまさに“静かな健康リスク”。しかも、リモートワークの普及によって、通勤や社内移動といった自然と行っている活動量さえも減ってしまった今、私たちの体は確実に「座りすぎリスク」にさらされています。

■「貧乏ゆすり」がいい
この「座りすぎ問題」に対し、誰でも・すぐに・どこでも取り入れられる“処方箋”が、実は「貧乏ゆすり」です。
「行儀が悪い」と眉をしかめられがちな「貧乏ゆすり」ですが、健康的にはメリットがいっぱい。「ジグリング」という立派な体操名までつけられていることをご存じでしょうか。足を揺らすことには、ふくらはぎのポンプ機能をアップさせ、血流を改善する効果があります。その結果、全身の体温を上げ、足のむくみも解消されていきます。
さらに、股関節の骨に適度な刺激を与え、軟骨の再生を促す効果があるとされ、軟骨がすり減って股関節が変形する変形性股関節症の運動療法にも取り入れられているほど、その効果は認められているのです。それでは、「正しい貧乏ゆすり」の方法をお伝えしましょう!
■「正しい貧乏ゆすり」の方法
・椅子に浅く腰掛け、背筋を軽く伸ばす。

・ひざの角度を90度に保ったまま、かかとを約2cm浮かせる。

・左右の足を交互に、または両足同時に小刻みに上下に揺らす。
ポイントは、力まず・リズミカルに動かすこと。これだけでふくらはぎの筋肉が刺激され、血液を心臓に押し戻すポンプ機能が再び活性化します。しかもこの動作は、パソコン作業をしながらでも可能。
つまり、仕事中やテレビを観ながら、座ったままできる“ながら健康法”なのです。
また、定期的に立ち上がって、軽い運動をすることも、ぜひ心掛けてください。ぼくも原稿を書く時は、30分に1回はスクワットや1分間ジャンプなどしていますが、特におすすめなのが「足踏みツイスト」です。
■“座りすぎリスク”解消にぴったり
実はこの「足踏みツイスト」は、ぼくが考えた「かまた体操」のひとつ。ぼくはこれまで、スクワットなどの筋トレを提唱してきました。しかし、もっと手軽に、「筋肉・骨・血管・脳・腸」のすべてを元気にできないものか。そう考えて考案したのが、長生き「かまた体操」です。
たとえば、毎朝、ラジオ体操をしている人は多いですよね。もちろんラジオ体操はすばらしい体操ですが、私たちの体のコンディションは朝・昼・夜で違い、それぞれの時間帯で、体が一番必要としている動きも違うのです。
そこで鎌田は、朝・昼・夜に分けて行う、計6つの体操を考えました。1日3回、それぞれの時間帯に適した体操を2つずつ行うだけ。1つの体操が約30秒ですから、朝・昼・夜、それぞれ1分。
ぼくは、この「かまた体操」をぼくの50年にわたる医師人生の到達点だと考えています。
今回はその「かまた体操」の中から、筋肉と脳をしっかり刺激して活力を上げる「足踏みツイスト」を紹介します。とても簡単なうえに血流アップ効果が高く、「座りすぎリスク」解消にぴったり。さらに、「筋肉、脳、血管、脳、腸、骨」の5つの力をすべて高める健康効果をたっぷり込めました。
それでは、実際にやってみましょう!
■「1回30秒」で全身に血液がめぐる
1.足を肩幅に開き、つま先をやや外側に向けてまっすぐに立ち、大きく息を吸って準備します。
2.息を吐きながら、頭の中で「1、2、3、4」と数を数えつつ、リズムよく右足→左足→右足→左足の順に足を高く上げていきます。足を落とす際、かかとは強く床に打ちつけましょう。
※足をできるだけ高く上げれば、腸腰筋が鍛えられて転倒予防に! さらに、ドンと足を落とすと骨が刺激されて骨活になります。
3.続けて「5」で右足を上げるときに、同時に体をひねり、右ひざと左ひじを近づけます(ひじとひざは付けても付けなくてもオッケー)。
※ここが、脳活と腸活を一緒にできる大事なポイントです。
4.体を1の状態に戻し、今度は左足→右足→左足→右足の順に、息を吐きながら足を大きく上げていきます。
5.続けて左足を上げると同時に体をひねり、左ひざと右ひじを近づけます。
2~5をあと2回くり返します。
これで大体30秒です。足をしっかり上げて「足踏み」をすると、ふくらはぎや太ももの筋肉が刺激され、足の「ポンプ機能」が働き、全身に血液がめぐるようになっていきます。
■“ひねり”で脳も活性化する
「足踏みツイスト」をするときは、「もうここまで」というところから、もうひと息、グッと足を上げましょう。腸腰筋が鍛えられ、足がしっかり上がるようになれば、何歳になってもつまずきません。数を数えながらリズミカルに行うことで、心肺機能もアップ! 体が温まりやすく、疲れにくくなっていきます。
さらに、足踏みに「ひねり(ツイスト)」の動作を加えたのには、2つの目的があります。ひとつは、腸をほどよく刺激してぜん動運動を促すため、もうひとつは、「コグニサイズ」と呼ばれる脳のトレーニングのためです。
コグニサイズとはコグニション(認知)と、エクササイズ(運動)を合わせた造語です。数を数えながら「ひねり」を入れるとき、最初は手と足が一致せず「あれ?」となってしまうはず。これが脳にいいんです。
「ひねる」動作が入ることで腹部も刺激され、腸の動きが活発に。
昼食後の軽い運動として取り入れれば、腸が動いて消化を促し、コグニサイズで脳も活性化。午後の眠気防止にもつながります。
■動かさないと、確実に老化が進む
私たちの生活はどんどん便利に、効率的になっています。そしてその代償として、「体を動かさなくても暮らせる」状態が当たり前になりました。しかし、動かさない体は確実に老いていきます。
・座ったままできる「ジグリング」(貧乏ゆすり)

・30秒で健康効果いっぱいの「足踏みツイスト」(かまた体操)
この2つは、忙しいビジネスパーソンが健康寿命を延ばすための、シンプルで効果的な習慣です。どちらも特別な道具はいりません。準備も時間も不要です。思い立ったその場で、すぐ始められます。さあ今日から、新たな習慣を始めてみませんか?

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鎌田 實(かまた・みのる)

医師・作家

1948年、東京都生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、諏訪中央病院に赴任。「地域包括ケア」の先駆けをつくり、長野県を長寿で医療費の安い地域へと導く(現在、諏訪中央病院名誉院長)。
現在は全国各地から招かれて「健康づくり」を行う。2021年、ニューズウィーク日本版「世界に貢献する日本人30人」に選出。2022年、武見記念賞受賞。ベストセラー『がんばらない』(集英社文庫)ほか書多数。チェルノブイリ、イラク、ウクライナへの国際医療支援、全国被災地支援にも力を注ぐ。現在、日本チェルノブイリ連帯基金顧問、JIM-NET顧問、一般社団法人 地域包括ケア研究所所長、公益財団法人 風に立つライオン基金評議員ほか。

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(医師・作家 鎌田 實)
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