猫に囲まれ、ビールを片手に本を選べる。そんな夢みたいな場所が、三軒茶屋の住宅街に静かに存在しています。
「Cat’s Meow Books(キャッツミャウブックス)」は、2017年8月8日の「世界猫の日」に開店した、猫本専門の書店です。
店内には元保護猫の猫店員も在籍し、訪れるお客さんをのんびりとお出迎えしてくれます。
猫に囲まれた、8坪のブックワールド

(写真撮影:小原聡太)

住宅街の中に馴染む、可愛らしい猫の看板(写真撮影:小原聡太)

本棚の一部が「猫店員専用デスク」に 撮影時には店主に一声かけるのがルール(写真撮影:小原聡太)
最寄駅は東急世田谷線の西太子堂駅から徒歩2分。
東急世田谷線・田園都市線の三軒茶屋駅から歩いても10分ほど。

選書は常連さんからの情報も参考にするのだとか(写真撮影:小原聡太)
取り扱う書籍はすべてどこかに猫が出てくるもので、本文に1文字でも「猫」が出てきたら仕入れることもあるのだとか。店頭在庫は新刊・古本を含めて3,500冊以上の書籍、猫モチーフの雑貨や小物も並びます。
自宅兼店舗は、中古一戸建てをフルリノベーション

店主の安村正也さん(写真撮影:小原聡太)
店主の安村正也さん夫妻は2015年に中古の木造戸建てを購入し、自宅兼店舗にリノベーション。1階部分が書店、2階が居住スペースとなっています。

「どんどん本が増えていき、居住スペースギリギリまで商品を陳列しています」と店主は語ります(写真撮影:小原聡太)
「書店を構える場所を探して、いろんな街をめぐりました。でも結局、路面店で自宅兼店舗としての床面積の折り合いがつく物件が見つからなかったんです。
それに、自宅と店舗の家賃をダブルで支払うのは大変なお金がかかってしまいます。中古のコンパクトな一戸建てを買った方が、結果的にコストを抑えられるのではないか?と考えました」(安村さん)

格子の引き戸の奥が、猫店員のスペース(写真撮影:小原聡太)
店舗営業可能な物件取得とリノベーションにかかった費用は、土地と設備や施工の内訳も含めて数千万円。ぽかぽか気持ちが良い三面採光が、物件購入の決め手になったそうです。
「建て替え前提の物件だったのですが、セットバックが必要だったんです。

提供するビールももちろん猫モチーフのもの(写真撮影:小原聡太)
「ビールやコーヒーを出す店にしたかったので、飲食店営業の届け出も必要でした。そのために手洗い場など必要な設備があり、普通の書店よりも特殊なつくりになっています」(安村さん)

本棚の上で突如始まる猫店員のランウェイ(写真撮影:小原聡太)
本棚上部はぐるっとキャットウォークになっていて、下部はトイレや爪とぎスペースに。
「設計事務所の担当さんも猫を飼っている方だったんです。猫が快適に歩ける幅を計算したり、飛び出し防止の引き戸をつけたり、猫ファーストな設計をたくさん提案してくださいました」(安村さん)

天井の穴から、猫店員は1階と2階を自由に行き来できる(写真撮影:小原聡太)
「実は書店の天井には穴も開いていて、猫たちは1階と2階を自由に行き来できる仕組みになっています」(安村さん)
取材中もマイペースに昼寝を楽しんでいた猫店員たち。「猫の快適さを考えた結果、肝心の本を置くスペースが想定より少なくなってしまった」と安村さんは笑います。

本棚の下には水飲み場や爪とぎスペースが(写真撮影:小原聡太)
売上の10%を寄付。猫と本屋が助け合う、持続可能な保護活動
店主の安村さんは、「猫と本屋が助け合う」をコンセプトに掲げ、猫の保護活動と書店経営を両立させています。

この日はね向かったのか、うとうとする猫店員(写真撮影:小原聡太)
なんと、利益ではなく「売上」の10%を保護猫団体に寄付……ということは、ほとんど儲けにはならないのでは?と、安村さんに聞いてみると、こんな答えが。
「保護猫活動に貢献したい気持ちが強くありました。しかし、書店の利益の10%、となると微々たるものになってしまう。
それに、本をご購入されたお客様も、自分の支払ったお金のうちいくら保護猫団体に寄付できるのか?がわかりにくくなってしまいます。『売上の10%』であれば、そこがクリアになると考えました」(安村さん)

来店時は猫店員には触らずにそっと見守りましょう(写真撮影:小原聡太)
店内奥には、本棚にとけ込むように設けられた“猫店員”たちの居場所が。

よく本棚の設計についてお客様からも質問があるのだとか(写真撮影:小原聡太)
現在の猫店員はさつきさん、あおいさん、なつめさんの3匹。店内に彼らの存在があることで、保護猫活動の取り組みをより身近に感じられます。
「猫を助けたくても、一人暮らしで猫を飼えなかったり、支援の方法がなかなか難しかったりする方もいらっしゃいます。うちで本を購入することで、誰でも気軽に保護猫活動に参加できるようにしたかったんです」(安村さん)
住宅街に開かれた、猫好きのサードプレイス

撮影中も静かに協力してくれた猫店員(写真撮影:小原聡太)
お客様の層はさまざま。
「保護猫団体への寄付も兼ねて、本をまとめてご購入される方も多いですね。愛猫家はもちろん、近所に住む親子連れ、遠方から足を運んでくださる常連さんも多いです。
住宅街の少しわかりにくい場所に店を構えているので、近所の方が『猫の本屋、ここですよ』なんて、お客様も案内してくださることもあります」(安村さん)
さらには、愛猫を亡くした方がそっと悲しい胸の内や猫との思い出を語られることもあるのだそう。

猫との別れを綴った歌集(写真撮影:小原聡太)
「この店の猫店員も、これまでに3匹亡くなってしまって。猫を看取るつらさって、なかなか人に話す機会がないんです。
もちろん猫好き同士だからといってすべてを理解できるわけではないですけれど、誰かに話したい、ちょっと気が紛れる、という方も多いんでしょうね」(安村さん)
大きな書店とはまた違う親密さで、猫好きの心をしっかりと掴んでいます。
開店から約8年 出版業にも挑戦しながら保護猫活動に貢献していく
2017年の開店から約8年。

出版事業としての1冊目となった絵本「くろねこノロのたび」(写真撮影:小原聡太)
「去年から始めた出版業も頑張っていきたいですね。お世話になっている作家さんと絵本『くろねこノロのたび』をつくったのが第一弾です。世界中を旅した実在する猫「ノロ」をモデルにした作品なんですよ。
まだまだ本づくりは勉強中ですが、これからも、本屋として猫に貢献できたら」(安村さん)
猫好きの方は、一度訪れてみては。

のんびりした空気で癒やされること間違いなしの書店(写真撮影:小原聡太)
<Cat’s Meow Books(キャッツミャウブックス)>
〒154-0023 東京都世田谷区若林1丁目6−15
東急世田谷線「西太子堂駅」より徒歩2分
11時~19時営業 月・火曜日定休(祝日は営業)
Webショップ
Xアカウント: @CatsMeowBooks
<取材・編集 小沢あや(ピース株式会社) / 撮影 小原聡太>