安く株を仕込める「儲かる暴落」とそうでない暴落の違いは何か。投資家のはっしゃん氏は「過去75年の株価暴落を見ると、その原因は8つに大別される。
※本稿は、はっしゃん『株の爆益につなげる「暴落大全」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■過去の暴落から学ぶ8つのパターン
株価暴落に備えるには、過去の暴落原因を理解しておくことが重要です。主な原因は「天災」「景気後退」「戦争・テロ」「為替」「バブル」「政策金利」「政治・選挙」「テクニカル」の8パターンに分類されます。ここ75年間の主要な暴落をこの8つのパターンに落とし込むと、図表1のようになります。
今後、株価暴落が発生した場合には、これらのパターン(またはその組み合わせ)になると考えると予防策を立てやすくなるでしょう。
■暴落を招いた天災や戦争
「天災」では東日本大震災やコロナショックが該当します。災害は避けられないものの、政府による支援が期待でき、復興による特需も見込めます。暴落後の復興局面に株を買うことで大きな利益も期待できるでしょう。個人的には、天災で慌てて株を売る投資家ではなく、むしろリスクをとって買い支える側の投資家になりたいと思っています。
「景気後退」はドッジ不況やリーマンショックなどが例で、企業倒産や金融危機を伴うこともあります。従って、業績不振に陥った企業や倒産リスクのある企業を見極めて、それらの株式を保有しないことが重要です。
「戦争・テロ」はスターリン暴落、オイルショックや9.11が挙げられます。恐怖に惑わされず、状況を冷静に分析することが大切です。影響を受けにくい資源株や軍需株にも注目する価値があります。
「為替」はニクソンショックの主因となり、ブラックマンデーにも大きな影響を及ぼしました。株価暴落に影響を与えるのは、ほぼドル円相場です。為替の動向を左右する経済指標や政策金利などの理解も欠かせません。
■政治による暴落は買いチャンスであることが多い
「バブル」は平成バブルの崩壊やITバブル崩壊などが該当します。株式投資を続けていると、小さいものも含めて遭遇する機会は何回もあるでしょう。そのときに、バブルと割り切って参加するのか、冷静になって距離を置くかは、投資家それぞれの判断にゆだねられています。投資家にとっては想定外ではなく想定内のバブルであることが重要です。
「政策金利」による暴落ではバーナンキショック、円キャリートレード巻き戻しショックが例で、金融業や輸出企業への影響が大きいという特徴があります。
「政治・選挙」ではブレグジットや岸田ショックがあり、実体経済への影響は限定的であることが多く、株価も比較的早く回復することが多いようです。この暴落も買いチャンスと捉えることもできるでしょう。長期投資では割り切って無視することも一つの選択肢です。
「テクニカル」要因としては、日経平均の構成銘柄入れ替えなどによる暴落があります。個別株単位では、持ち株が指数に採用されているか、除外リスクがないかを確認したほうがよいでしょう。指数絡みで大きく売られた場合には買いチャンスになることもあります。こちらのタイプも長期投資では無視することも選択肢です。
■24年7月の「大暴落」は何だったのか
2024年7月31日、日銀が政策金利を0~0.1%から0.25%へと引き上げたことをきっかけに史上ワースト2位の株価暴落「円キャリートレード巻き戻しショック」が発生しました。先ほど紹介した8つのパターンだと「為替」と「政策金利」が原因としてあてはまります。
2020年のコロナショックから立ち直った米国経済は好景気が過熱。2022年に始まったロシア軍のウクライナ侵攻による資源高や穀物高の影響も重なって、インフレ過熱の様相を呈してきたことから、米国のFRBは段階的に利上げを実施していました。
一方、日本ではアベノミクス以降、日銀が異次元緩和と称されるマイナス金利やゼロ金利施策を続けていました。そして、日米の金利差が大きく開いた結果、ドル円相場がコロナショック時の1ドル100円程度からピーク時の2024年6月~7月には最大で1ドル160円超まで大幅な円安が進む事態となっていました。
円安には輸出企業の利益を押し上げる効果があり、日本株にはプラスの側面がありますが、輸入に頼っている資源価格や食料価格が上昇してしまうことからインフレが進行することになり、行きすぎた円安が「悪い円安」として問題化していました。
このように利上げする米国と低金利を続ける日本との差が最大まで拡大したあと、やがて逆回転を始めたことが株価暴落の引き金になりました。
■世界同時株安を招いた「トランプ関税ショック」
2025年4月2日、トランプ政権が相互関税を発表し世界経済に衝撃が走りました。この政策は、米国の貿易赤字是正と国内製造業復活を目的とした保守的なもので、すべての国に10%、日本には24%上乗せして34%の関税が課されることとなりました。そのほか自動車や半導体にも25%の関税が発表されました。さらに、中国とは報復合戦の様相となり、お互いに100%以上の関税を課してにらみ合い状態に陥りました。
この政策によって世界経済の減速リスクを織り込むことになり、株価は世界同時株安に沈みました。特に自動車や半導体など関税の影響を大きく受けることになる日本株は、円キャリートレード巻き戻しショックの水準まで株価が急落しています。アメリカは株価を下げたほか、ドルや米国債も急落するトリプル安に見舞われました。
その後はトランプ政権が関税の執行を90日間停止し、各国と交渉を開始したことで株価は回復していきました。
■急速に回復する暴落、しない暴落の違い
円キャリートレード巻き戻しショックとトランプ関税ショックには、株価が急落した後、急速に戻したという共通点があります。それは、2つの株価暴落が「為替」や「政策金利」「政治・選挙」のパターンで発生した「実現した悪材料」を伴わない「恐怖」が先行した暴落だった点です。
いずれも1日の下落率では、それぞれ歴代ワースト10に入る大暴落でしたが、下落率の大きさと比較して影響が少ないタイプの暴落という点でも共通しています。ほかに似たような暴落に「バーナンキショック」や「英EU離脱ショック」などがあります。
このような恐怖先行型の株価暴落は、下落要素である「恐怖」が織り込まれたり、軽減されると戻りやすいという特徴があります。そして、このようなタイプの暴落は絶好の買いチャンスとなる傾向があります。
その逆パターンとなるが「天災」タイプの暴落で、東日本大震災の暴落やコロナショックでは甚大な物理ダメージが初期に発生して長期間続きました。さらに「バブル崩壊」「景気後退」タイプの平成バブル崩壊やリーマンショックでは景気後退が長期間続いて回復するまで数年単位、長い場合では20年以上もの長い期間を必要としました。
このように株価暴落を「恐怖」と「実現した悪材料」に分けて考えると、投資のヒントになりますので、「恐怖」のみ下げているタイプの暴落では、「ピンチはチャンス」ということも考えておくと、暴落を爆益につなげることができるかもしれません。
なお、トランプ関税ショックは現在進行形であり「恐怖」が「実現した悪材料」に変わりつつあることにも注意してください。
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はっしゃん
投資家VTuber、ITエンジニア投資家
ITエンジニア兼業投資家として割安成長株に長期投資するスタイルで1億円を達成。現在は独立・起業して「初心者にも持続可能な株式市場の実現」という理念のもと、専門的な金融知識なしで利用できる株式入門サイト「株Biz」を監修・開発。理論株価や月次情報など独自の投資コンテンツを配信する。著書に『普通の会社員でも10万円から始められる! はっしゃん式 成長株集中投資で3億円』(総合法令出版)、『株で資産3.6億円を築いたサラリーマン投資家が教える 決算書「3分速読」からの“10倍株”の探し方』(KADOKAWA)、『月次情報で“伸びる前”に買う 割安成長株投資入門』(パンローリング株式会社)など。
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(投資家VTuber、ITエンジニア投資家 はっしゃん)
中でも政治・選挙によるものは実体経済への影響は限定的で、早く戻すことが多い」という――。
※本稿は、はっしゃん『株の爆益につなげる「暴落大全」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■過去の暴落から学ぶ8つのパターン
株価暴落に備えるには、過去の暴落原因を理解しておくことが重要です。主な原因は「天災」「景気後退」「戦争・テロ」「為替」「バブル」「政策金利」「政治・選挙」「テクニカル」の8パターンに分類されます。ここ75年間の主要な暴落をこの8つのパターンに落とし込むと、図表1のようになります。
今後、株価暴落が発生した場合には、これらのパターン(またはその組み合わせ)になると考えると予防策を立てやすくなるでしょう。
■暴落を招いた天災や戦争
「天災」では東日本大震災やコロナショックが該当します。災害は避けられないものの、政府による支援が期待でき、復興による特需も見込めます。暴落後の復興局面に株を買うことで大きな利益も期待できるでしょう。個人的には、天災で慌てて株を売る投資家ではなく、むしろリスクをとって買い支える側の投資家になりたいと思っています。
「景気後退」はドッジ不況やリーマンショックなどが例で、企業倒産や金融危機を伴うこともあります。従って、業績不振に陥った企業や倒産リスクのある企業を見極めて、それらの株式を保有しないことが重要です。
株価の動向をチェックしたり、決算書で最新の業績を確認するとよいでしょう。
「戦争・テロ」はスターリン暴落、オイルショックや9.11が挙げられます。恐怖に惑わされず、状況を冷静に分析することが大切です。影響を受けにくい資源株や軍需株にも注目する価値があります。
「為替」はニクソンショックの主因となり、ブラックマンデーにも大きな影響を及ぼしました。株価暴落に影響を与えるのは、ほぼドル円相場です。為替の動向を左右する経済指標や政策金利などの理解も欠かせません。
■政治による暴落は買いチャンスであることが多い
「バブル」は平成バブルの崩壊やITバブル崩壊などが該当します。株式投資を続けていると、小さいものも含めて遭遇する機会は何回もあるでしょう。そのときに、バブルと割り切って参加するのか、冷静になって距離を置くかは、投資家それぞれの判断にゆだねられています。投資家にとっては想定外ではなく想定内のバブルであることが重要です。
「政策金利」による暴落ではバーナンキショック、円キャリートレード巻き戻しショックが例で、金融業や輸出企業への影響が大きいという特徴があります。
暴落後には中央銀行などの対応で相場が安定する傾向があるため、買いチャンスと捉えることもできます。
「政治・選挙」ではブレグジットや岸田ショックがあり、実体経済への影響は限定的であることが多く、株価も比較的早く回復することが多いようです。この暴落も買いチャンスと捉えることもできるでしょう。長期投資では割り切って無視することも一つの選択肢です。
「テクニカル」要因としては、日経平均の構成銘柄入れ替えなどによる暴落があります。個別株単位では、持ち株が指数に採用されているか、除外リスクがないかを確認したほうがよいでしょう。指数絡みで大きく売られた場合には買いチャンスになることもあります。こちらのタイプも長期投資では無視することも選択肢です。
■24年7月の「大暴落」は何だったのか
2024年7月31日、日銀が政策金利を0~0.1%から0.25%へと引き上げたことをきっかけに史上ワースト2位の株価暴落「円キャリートレード巻き戻しショック」が発生しました。先ほど紹介した8つのパターンだと「為替」と「政策金利」が原因としてあてはまります。
2020年のコロナショックから立ち直った米国経済は好景気が過熱。2022年に始まったロシア軍のウクライナ侵攻による資源高や穀物高の影響も重なって、インフレ過熱の様相を呈してきたことから、米国のFRBは段階的に利上げを実施していました。
一方、日本ではアベノミクス以降、日銀が異次元緩和と称されるマイナス金利やゼロ金利施策を続けていました。そして、日米の金利差が大きく開いた結果、ドル円相場がコロナショック時の1ドル100円程度からピーク時の2024年6月~7月には最大で1ドル160円超まで大幅な円安が進む事態となっていました。
円安には輸出企業の利益を押し上げる効果があり、日本株にはプラスの側面がありますが、輸入に頼っている資源価格や食料価格が上昇してしまうことからインフレが進行することになり、行きすぎた円安が「悪い円安」として問題化していました。
このように利上げする米国と低金利を続ける日本との差が最大まで拡大したあと、やがて逆回転を始めたことが株価暴落の引き金になりました。
■世界同時株安を招いた「トランプ関税ショック」
2025年4月2日、トランプ政権が相互関税を発表し世界経済に衝撃が走りました。この政策は、米国の貿易赤字是正と国内製造業復活を目的とした保守的なもので、すべての国に10%、日本には24%上乗せして34%の関税が課されることとなりました。そのほか自動車や半導体にも25%の関税が発表されました。さらに、中国とは報復合戦の様相となり、お互いに100%以上の関税を課してにらみ合い状態に陥りました。
この政策によって世界経済の減速リスクを織り込むことになり、株価は世界同時株安に沈みました。特に自動車や半導体など関税の影響を大きく受けることになる日本株は、円キャリートレード巻き戻しショックの水準まで株価が急落しています。アメリカは株価を下げたほか、ドルや米国債も急落するトリプル安に見舞われました。
その後はトランプ政権が関税の執行を90日間停止し、各国と交渉を開始したことで株価は回復していきました。
トランプ関税ショックは前述の8パターンでは「政治・選挙」に該当します。特にトランプ政権が交渉を優位に進めるために、最初に関税を発動させたことが市場に大きなインパクトを与えました。
■急速に回復する暴落、しない暴落の違い
円キャリートレード巻き戻しショックとトランプ関税ショックには、株価が急落した後、急速に戻したという共通点があります。それは、2つの株価暴落が「為替」や「政策金利」「政治・選挙」のパターンで発生した「実現した悪材料」を伴わない「恐怖」が先行した暴落だった点です。
いずれも1日の下落率では、それぞれ歴代ワースト10に入る大暴落でしたが、下落率の大きさと比較して影響が少ないタイプの暴落という点でも共通しています。ほかに似たような暴落に「バーナンキショック」や「英EU離脱ショック」などがあります。
このような恐怖先行型の株価暴落は、下落要素である「恐怖」が織り込まれたり、軽減されると戻りやすいという特徴があります。そして、このようなタイプの暴落は絶好の買いチャンスとなる傾向があります。
その逆パターンとなるが「天災」タイプの暴落で、東日本大震災の暴落やコロナショックでは甚大な物理ダメージが初期に発生して長期間続きました。さらに「バブル崩壊」「景気後退」タイプの平成バブル崩壊やリーマンショックでは景気後退が長期間続いて回復するまで数年単位、長い場合では20年以上もの長い期間を必要としました。
このように株価暴落を「恐怖」と「実現した悪材料」に分けて考えると、投資のヒントになりますので、「恐怖」のみ下げているタイプの暴落では、「ピンチはチャンス」ということも考えておくと、暴落を爆益につなげることができるかもしれません。
なお、トランプ関税ショックは現在進行形であり「恐怖」が「実現した悪材料」に変わりつつあることにも注意してください。
日米交渉や米中交渉の結果によっては、暴落の第二幕も考えておく必要があるでしょう。
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はっしゃん
投資家VTuber、ITエンジニア投資家
ITエンジニア兼業投資家として割安成長株に長期投資するスタイルで1億円を達成。現在は独立・起業して「初心者にも持続可能な株式市場の実現」という理念のもと、専門的な金融知識なしで利用できる株式入門サイト「株Biz」を監修・開発。理論株価や月次情報など独自の投資コンテンツを配信する。著書に『普通の会社員でも10万円から始められる! はっしゃん式 成長株集中投資で3億円』(総合法令出版)、『株で資産3.6億円を築いたサラリーマン投資家が教える 決算書「3分速読」からの“10倍株”の探し方』(KADOKAWA)、『月次情報で“伸びる前”に買う 割安成長株投資入門』(パンローリング株式会社)など。
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(投資家VTuber、ITエンジニア投資家 はっしゃん)
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