新NISAでは、どの投資信託を選べばいいのか。ファイナンシャルプランナーの横田健一さんは「最大のリターンが得られるものではなく、リスク分散を図りながら効率的にリターンを得るものを選ぶのがいい」という――。
※本稿は、横田健一『増やしながらしっかり使う 60歳からの賢い「お金の回し方」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■インフレ時代に定期預金よりも株式のワケ
長期的なインフレに対応できるのは株式であり、過去の実績を見てもそれは明らかです。図表1は資産別の名目リターンと実質リターンを示したものです。
名目リターンとは株価などの名目金額のリターン、そこから物価上昇率を引いたのが、実質リターンです。実質リターンがプラスであれば、物価上昇を上回るリターンが出ている、つまりインフレに強いということになります。
この図で全世界株式と示されているのは、世界47カ国の株式で構成される全世界株のインデックス(MSCI ACWI エムエスシーアイ オール・カントリー・ワールド・インデックス)です。CPIは日本の消費者物価指数、定期預金は国内の銀行の円建て定期預金(1年もの)を示しています。
1991年から2024年までの33年間で株価はかなり上昇しており、名目の累積リターンは、1991年の水準を100とすると、33年間で1682となっています。対して実質の累積リターンは1455となります。
このように物価が上昇すれば実質リターンは名目リターンより低くなりますが、それでも、世界株であれば物価上昇をはるかに上回る大きな実質リターンが得られています。また利息がまったくつかないタンス預金はもちろんのこと、定期預金でも物価上昇程度にしか増えていないことがわかります。
■長期、分散、積立が基本
「株式投資など難しくてできない」「リスクが高そう」などのイメージがありますが、自身で銘柄を選んだり、タイミングを計ったりする必要はありません。
投資信託とは、多くの投資家から集まった資金を株式などに投資し、得られた収益が分配金や値上がり益として投資家に還元される仕組みの投資商品です。購入時や運用中、売却時に図表2のような手数料がかかります(購入時手数料や信託財産留保額は不要な例もある)。
投資信託にもたくさんの種類や銘柄があり、とくに注目したいのが、インデックスファンド(インデックス投信)です。インデックスファンドは、特定の株価指数などと同様の値動きをする投資信託です。
たとえば日本株では日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)などの指数があり、それらに連動するインデックスファンドがあります。投資はなるべく多くの国・地域、多くの銘柄に分散投資するのがよく、世界株のインデックスファンドが有力な候補となります。
■私が「オルカン」を勧めるワケ
前述した世界株の代表的な指数「MSCI ACWI(エムエスシーアイオール・カントリー・ワールド・インデックス)」は、米国のMSCI社が算出している、世界47カ国(先進国23カ国、新興国24カ国)の株式を対象とした指数です。
国別では米国が約67%、日本は5%程度で、先進国の合計が約90%。インド、中国、ブラジルなどの新興国は約10%です。含まれる銘柄数は2647にのぼります(いずれも2024年12月末時点)。
このインデックスに連動する値動きをめざして運用されるインデックスファンドがあり、中でも日本で最も運用残高が大きいのが、「オルカン」の略称で呼ばれる「eMAXISSlim全世界株式(オール・カントリー)」(三菱UFJアセットマネジメントが運用)です。
世界株の指数には、ほかに世界47カ国から日本を除いたインデックスや、日本以外の先進国のみを対象としたインデックス(MSCIコクサイ)などがあります。オルカンも含めて、これらのインデックスに連動するインデックスファンドを、本書では「世界株ファンド」と呼びます。
インド株のみ、中国株のみなど、投資対象が絞られたファンドもありますが、世界全体の株式市場の中で数%程度の国に集中投資するより、世界中に幅広く分散投資する世界株ファンドの方が、リスク管理の観点からも大きな失敗を防ぎやすいといえます。自国の株式である日本株に絞って投資するのも適切とはいえません。
■手数料の基準
前述のとおり、世界中の株式に幅広く分散投資できる「世界株ファンド」は、新興国を含む・含まない、日本を含む・含まないなど、複数のタイプがあります。そのうちどれを選べばいいかと質問を受けることがありますが、「手数料が一定水準(年率0.2%程度)を下回っていればどれを選んでもいい」、が答えであり、いずれであっても資産形成や資産活用において大きな影響はないと考えています。
リターンに多少の差は生まれますが、コアとなるのが米国や先進国であることはどのタイプにも共通しており、結果の差もわずかと考えられるからです。
コストが低く抑えられたおすすめの世界株ファンドは図表3のとおりです。ネット証券大手のSBI証券や楽天証券ではこういったファンドを購入できますが、これまで取引のある証券会社でも同様のファンドの取り扱いがある場合は、そこで売っている世界株ファンドの中からいずれかを選べばいいでしょう。
また勤務先の確定拠出年金(企業型DC)に加入している方や、ご自身でiDeCoに加入している方は、選択可能な商品の中にある世界株ファンドから選びます。
なお、本書では便宜上「オルカン」と述べている箇所がありますが、「MSCI ACWI」のインデックス(指数)に連動するファンドを指しています。
■「世界株ファンド」は37年で約25倍に
「海外の株式に投資するなんて怖い」「世界株ファンド一本だけに投資するのはリスクが高い」などという声もありますが、大きな間違いです。
世界株ファンドは株式が入った「器」であり、オルカンを例にすればその中には直近で2647もの銘柄の株式が入っています。2647種類の株が入ったお弁当箱という感じです。1種類のおかずしか入っていないお弁当では、当たり外れが大きいですが、たくさんのおかずが入っていれば、美味しくないものが多少入っていても全体的には美味しいなど、リスクを下げてくれます。
オルカンは世界47カ国のそれぞれの国の取引所に上場されている株式のうち、時価総額の上位85%ぐらいの銘柄に投資しているのと同じであり、リスクが分散されているのです。
■S&P500との比較
「たくさんの国や銘柄に分散するより、米国の代表的な企業500社で構成されるS&P500に投資した方が儲かるのではないか」、という人もいますが、オルカンの67%程度は米国株式で、米国にもかなりの割合で投資されています。
米国だけに絞れば、期待できるリターンが大きくなるのと同時にリスクも大きくなりますが、米国以外の先進国や新興国が含まれていることによりリスクが分散されます。またオルカンは時価総額加重平均という手法で計算されており、米国が他国よりも成長すればオルカンの中での米国株の割合は自動的に高くなります。
わざわざ米国だけに絞って投資しなくてもいいのです。
オルカン、あるいはオルカンに準じた時価総額加重平均型のインデックスファンドに投資しておけば、全世界経済成長に平均的にある程度追随する形でリターンが生まれる可能性が高いといえます。最大のリターンが得られるという意味ではなく、リスク分散を図りながら効率的にリターンを得ることが期待できる、最大公約数的な最適解と考えています
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横田 健一(よこた・けんいち)
ファイナンシャルプランナー
1976年生まれ。東京大学理学部物理学科卒業、同大学院修士課程修了。マンチェスター・ビジネススクール経営学修士(MBA)。
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(ファイナンシャルプランナー 横田 健一)
(第3回)
※本稿は、横田健一『増やしながらしっかり使う 60歳からの賢い「お金の回し方」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■インフレ時代に定期預金よりも株式のワケ
長期的なインフレに対応できるのは株式であり、過去の実績を見てもそれは明らかです。図表1は資産別の名目リターンと実質リターンを示したものです。
名目リターンとは株価などの名目金額のリターン、そこから物価上昇率を引いたのが、実質リターンです。実質リターンがプラスであれば、物価上昇を上回るリターンが出ている、つまりインフレに強いということになります。
この図で全世界株式と示されているのは、世界47カ国の株式で構成される全世界株のインデックス(MSCI ACWI エムエスシーアイ オール・カントリー・ワールド・インデックス)です。CPIは日本の消費者物価指数、定期預金は国内の銀行の円建て定期預金(1年もの)を示しています。
1991年から2024年までの33年間で株価はかなり上昇しており、名目の累積リターンは、1991年の水準を100とすると、33年間で1682となっています。対して実質の累積リターンは1455となります。
このように物価が上昇すれば実質リターンは名目リターンより低くなりますが、それでも、世界株であれば物価上昇をはるかに上回る大きな実質リターンが得られています。また利息がまったくつかないタンス預金はもちろんのこと、定期預金でも物価上昇程度にしか増えていないことがわかります。
■長期、分散、積立が基本
「株式投資など難しくてできない」「リスクが高そう」などのイメージがありますが、自身で銘柄を選んだり、タイミングを計ったりする必要はありません。
投資信託を利用することで手軽に投資ができます。
投資信託とは、多くの投資家から集まった資金を株式などに投資し、得られた収益が分配金や値上がり益として投資家に還元される仕組みの投資商品です。購入時や運用中、売却時に図表2のような手数料がかかります(購入時手数料や信託財産留保額は不要な例もある)。
投資信託にもたくさんの種類や銘柄があり、とくに注目したいのが、インデックスファンド(インデックス投信)です。インデックスファンドは、特定の株価指数などと同様の値動きをする投資信託です。
たとえば日本株では日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)などの指数があり、それらに連動するインデックスファンドがあります。投資はなるべく多くの国・地域、多くの銘柄に分散投資するのがよく、世界株のインデックスファンドが有力な候補となります。
■私が「オルカン」を勧めるワケ
前述した世界株の代表的な指数「MSCI ACWI(エムエスシーアイオール・カントリー・ワールド・インデックス)」は、米国のMSCI社が算出している、世界47カ国(先進国23カ国、新興国24カ国)の株式を対象とした指数です。
国別では米国が約67%、日本は5%程度で、先進国の合計が約90%。インド、中国、ブラジルなどの新興国は約10%です。含まれる銘柄数は2647にのぼります(いずれも2024年12月末時点)。
このインデックスに連動する値動きをめざして運用されるインデックスファンドがあり、中でも日本で最も運用残高が大きいのが、「オルカン」の略称で呼ばれる「eMAXISSlim全世界株式(オール・カントリー)」(三菱UFJアセットマネジメントが運用)です。
世界株の指数には、ほかに世界47カ国から日本を除いたインデックスや、日本以外の先進国のみを対象としたインデックス(MSCIコクサイ)などがあります。オルカンも含めて、これらのインデックスに連動するインデックスファンドを、本書では「世界株ファンド」と呼びます。
インド株のみ、中国株のみなど、投資対象が絞られたファンドもありますが、世界全体の株式市場の中で数%程度の国に集中投資するより、世界中に幅広く分散投資する世界株ファンドの方が、リスク管理の観点からも大きな失敗を防ぎやすいといえます。自国の株式である日本株に絞って投資するのも適切とはいえません。
■手数料の基準
前述のとおり、世界中の株式に幅広く分散投資できる「世界株ファンド」は、新興国を含む・含まない、日本を含む・含まないなど、複数のタイプがあります。そのうちどれを選べばいいかと質問を受けることがありますが、「手数料が一定水準(年率0.2%程度)を下回っていればどれを選んでもいい」、が答えであり、いずれであっても資産形成や資産活用において大きな影響はないと考えています。
リターンに多少の差は生まれますが、コアとなるのが米国や先進国であることはどのタイプにも共通しており、結果の差もわずかと考えられるからです。
コストが低く抑えられたおすすめの世界株ファンドは図表3のとおりです。ネット証券大手のSBI証券や楽天証券ではこういったファンドを購入できますが、これまで取引のある証券会社でも同様のファンドの取り扱いがある場合は、そこで売っている世界株ファンドの中からいずれかを選べばいいでしょう。
また勤務先の確定拠出年金(企業型DC)に加入している方や、ご自身でiDeCoに加入している方は、選択可能な商品の中にある世界株ファンドから選びます。
なお、本書では便宜上「オルカン」と述べている箇所がありますが、「MSCI ACWI」のインデックス(指数)に連動するファンドを指しています。
■「世界株ファンド」は37年で約25倍に
「海外の株式に投資するなんて怖い」「世界株ファンド一本だけに投資するのはリスクが高い」などという声もありますが、大きな間違いです。
世界株ファンドは株式が入った「器」であり、オルカンを例にすればその中には直近で2647もの銘柄の株式が入っています。2647種類の株が入ったお弁当箱という感じです。1種類のおかずしか入っていないお弁当では、当たり外れが大きいですが、たくさんのおかずが入っていれば、美味しくないものが多少入っていても全体的には美味しいなど、リスクを下げてくれます。
オルカンは世界47カ国のそれぞれの国の取引所に上場されている株式のうち、時価総額の上位85%ぐらいの銘柄に投資しているのと同じであり、リスクが分散されているのです。
■S&P500との比較
「たくさんの国や銘柄に分散するより、米国の代表的な企業500社で構成されるS&P500に投資した方が儲かるのではないか」、という人もいますが、オルカンの67%程度は米国株式で、米国にもかなりの割合で投資されています。
米国だけに絞れば、期待できるリターンが大きくなるのと同時にリスクも大きくなりますが、米国以外の先進国や新興国が含まれていることによりリスクが分散されます。またオルカンは時価総額加重平均という手法で計算されており、米国が他国よりも成長すればオルカンの中での米国株の割合は自動的に高くなります。
わざわざ米国だけに絞って投資しなくてもいいのです。
オルカン、あるいはオルカンに準じた時価総額加重平均型のインデックスファンドに投資しておけば、全世界経済成長に平均的にある程度追随する形でリターンが生まれる可能性が高いといえます。最大のリターンが得られるという意味ではなく、リスク分散を図りながら効率的にリターンを得ることが期待できる、最大公約数的な最適解と考えています
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横田 健一(よこた・けんいち)
ファイナンシャルプランナー
1976年生まれ。東京大学理学部物理学科卒業、同大学院修士課程修了。マンチェスター・ビジネススクール経営学修士(MBA)。
野村證券でデリバティブ商品の開発やトレーディング、フィンテックの企画・調査などを経験後独立。情報サイト「資産形成ハンドブック」やYouTubeなどで情報発信しながら、個人の資産形成をサポート。CFP®、ウェルビーイング学会会員(ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会所属)。著書に『新しいNISA かんたん最強のお金づくり』(河出書房新社)がある。
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(ファイナンシャルプランナー 横田 健一)
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