生産性の高い組織は何が違うか。複数の中堅・中小企業やスタートアップの経営をしてきた小松裕介さんは「業務に必要となる情報が適時適切に流れていくようにするには、正しく会社のコミュニケーションの整備をすることだ。
これにより会社全体の透明性が上がり、より良い企業文化が醸成されて生産性が上がる」という――。(第2回/全2回)
※本稿は、小松裕介『1+1が10になる組織のつくりかた チームのタスク管理による生産性向上』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。
■あるべき公式上のコミュニケーション設計の中身
多くの社長は、同じオフィスに人が集まって仕事をすれば、自然と業務に必要な情報が流れていくと勘違いしている。
社長は、その会社においては最高権力者なので、何もしなくても社員や協力会社などからどんどん情報が集まってくる。情報は強い人に向かって流れてaいくのである。
しかし、自分が情報取得に不自由しないからといって、当然、全ての社員がそういうわけではない。
本当に必要なのは、その会社で決して声が大きくない人であっても、業務に必要となる情報が適時適切に流れていくように、コミュニケーションの整備をすることなのだ。
正しく会社のコミュニケーションの整備をすることで、ブラックボックス化された仕事の情報が他の社員にも情報共有されるようになり、誰が何の仕事をしているのか、また、その仕事の期限が守られていて問題のない状況かを全ての人が把握できるようになる。
これによって会社全体の透明性が上がり、より良い企業文化の醸成を図ることができる。
逆に、企業再生が必要な会社では、本来必要な情報が隠蔽されるなどして、コミュニケーションが分断されている。
社内政治が激化すると、情報を持っていることが社内の政敵を出し抜くカードになり、政治的な優位性を築くことにもなるため、情報共有をしないことにインセンティブが働くのである。
日本社会では、未だに職場の飲み会や上司と部下間における阿吽の呼吸や忖度など非公式のコミュニケーションを重視するところがあるが、それはあくまで公式上のコミュニケーションを設計した上に追加すべきものである。

当たり前だが、まずは社内で公式に情報が正しく流れるようにしなければ、各部署の社員が自分の現状を正確に認識できず、本来それぞれが期待されている役割を果たすこともできなくなる。
■コミュニケーションで整備すべき3つの項目
特に、新型コロナウイルス感染症問題が発生して以降、オンライン会議が一般化し、急速にテレワークが普及した。
昔ならば社員が物理的にみな同じオフィスにいたから、例えば困っている若手社員がいれば、すぐに周囲の先輩社員が察知して声掛けをするといったフォローができた。
しかし、今はそもそも同じオフィスにいないため、今まで以上に意識的に会社組織で情報共有をするコミュニケーションの整備をしなければならないのである。
では、どのようにコミュニケーションの整備をしていけばいいのだろうか。
具体的には、組織に合わせて、経営会議、役職者会議や部署会議など定例会議の設定、ビジネスチャットツール、カレンダーツールやオンライン会議ツールなどコミュニケーション・ツールの整備、そして、議事録や報告書など報告フォーマットの整備を行う。
部署内または部署間において、それぞれのメンバーがあらかじめ決められた業務に必要な情報を適時適切に入手できるようにする。
どの会社にもビジネスモデルがある。ビジネスモデルとは儲ける仕組みのことだ。そのため、イレギュラーもあるかもしれないが、ビジネスモデルに基づいて予見されるコミュニケーションの整備をしておけばいいのである。
具体的には、お客様や協力会社などの相手先ごとのメール文案の雛型や、マーケティングやオペレーションなどの業務ごとの報告書の雛型は、ビジネスモデルが確立していれば具体的なやりとりも想像ができるため、あらかじめ準備ができる。
コミュニケーションのルールを作ったら、実際に社員みんなで運用することになる。

中小企業ではコミュニケーションの整備を考える過程で、本来あるべきコミュニケーションに鑑みると、現在は報告項目が抜けている、報告の間隔が空きすぎているなどの問題が多く発生する。
もし仮に業務を進める上で不都合が生じているならば、これらの問題点も改善していかねばならないだろう。
■価値を生む場として機能する会議の設定法
①定例会議の設定
コミュニケーションの整備の中でも特に重要度が高いのが定例会議の設定である。
多くのビジネスパーソンが考えている以上に、会社は定例会議に多額の人件費を費やしている。特に経営会議など幹部社員が勢ぞろいするような会議であればなおさらだ。
高給取りを集めて並べる会議なのに、何も価値を生み出さない会議は最悪である。他の業務を押しのけて幹部社員の貴重な時間を使うわけだから、それだけ価値のある会議にしなければならない。
また、社員同士が対面で話をして情報共有を行う会議は、言語でのコミュニケーションだけでなく、若手社員が実際は困っていそうとか自分に不都合な情報を隠していそうなど、表情や声色など非言語情報も取得することができ、入手できる情報量も多く重要である。
定例会議には、組織の一体感を高め、タスクの進捗状況などの情報共有を通じて、組織全体の生産性の向上を実現する効果がある。
一方で、生産性を低下させてしまうようなケースも多いところに定例会議の難しさがある。大企業でよく問題視されているように、会議の目的や頻度、参加者を明確にしないまま行えば、何も生み出さないばかりか、生産性を低下させる原因ともなりかねない。
私の経験では、中小企業では、大企業によくある定例会議の空洞化の問題はほとんど起きていない。
というよりも、中小企業では、そもそも定例会議がしっかりと設定されていないし、会議はトラブルが発生した時など本当に必要な時にだけ個別で打ち合わせをするくらいのものである。
定例会議を設定する際にまず必要なのは、会議の目的を明確に定義することである。会議は意思決定の場なのか、もしくは、情報共有の場であるのかを決める必要がある。
例えば、私が企業再生した会社では、部長以上の幹部社員が参加する2種類の経営会議を用意した。毎週開催の経営会議は、参加者全員でチームのタスク管理を行う情報共有と次のアクションについて指示を出す会議とし、2週間に一度開催する経営会議は、経営に関する重要な議題について議論と意思決定を行う会議とした。
このように、会議の目的を明確にすることで、会議が形式的なものではなく、実質的な価値を生み出す場として機能する。
■会社規模に関わらず全社会議は必ず開催すべき理由
次に、会議の頻度と参加者を適切に設定することが重要である。頻度については、会議の目的や内容の緊急性に応じて、週次、隔週、月次ごとなど柔軟に設定するべきだ。
私は、どのような会社規模であっても、全社会議は必ず開催すべきだと考えている。
各部署を横断して業務をしている幹部社員だとなかなか気が付かないのだが、部署内で業務が完結している社員からすれば、他の部署がどのようなことをしていて、どのような成果を出して、どんな問題を抱えているかは分からないものなのだ。
月に一度であっても、このような複数の部署をまたいで情報共有をすることは、会社全体のビジネスモデルや問題点を共通の認識にできるだけでなく、会社組織の一体感の醸成にも繋がる。
また、会議の効果を最大化するためには、事前準備が欠かせない。
会議の議題を事前に参加者に共有し、議論すべき事項や資料を明確にしておくことで、参加者が適切な準備を行うことができる環境を整えることが大切だ。
議題の共有時には、各議題の重要度や優先順位を示し、時間配分もあらかじめ設定しておくことが有効である。会議の進行がスムーズになり、時間の浪費も防げる。
また、会議中にはファシリテーターが議論を適切に管理し、結論が出ないまま議題が次々と進まないようにする役割を果たすことも必要だろう。
さらに、会議終了後のフォローアップも重要だ。後述するが、議事録もルール化しておかねばならない。
せっかく多くの参加者が時間を割いて会議をして決めたことであっても、その後に実行されなかったのでは意味がない。会議で決定した内容を議事録として文書化し、参加者全員に共有することで、実行に移すべき具体的な行動が明確になる。
定例会議は、単なる情報共有の場にとどまらず、経営戦略を実行するためのアイデアを創出する機会にもなる。会議を通じて、組織内のコミュニケーションを活性化し、メンバーが共通の目標に向かって連携できる体制を築くことができるようになる。
適切に設計された定例会議は、組織の意思決定の質を高め、効率的な運営を支える土台となるのだ。
■生産性を向上させる3つのコミュニケーション・ツール
②コミュニケーション・ツールの整備
コミュニケーションはシステムとの親和性が高い領域である。

1対1の対面のコミュニケーションは非言語情報の取得なども考慮すると人間に一日の長があるかもしれないが、1対Nのコミュニケーションについてはシステム利用が優れている。システムを活用すれば、場所や時間を問わずコミュニケーションを取ることができるようになるし、記録も簡単に残せる。
コミュニケーション・ツールは、具体的にはカレンダーツール、オンライン会議ツールやビジネスチャットツールなどが挙げられる。これらのツールを、社員間で同じツールを使うことによって、生産性が著しく向上する。
▼カレンダーツール
カレンダーツールは、全社員の予定を可視化し、予定に参加するメンバーに通知を送り、打ち合わせの場合は会議室の予約も同時に行うことができるなど、予定調整を簡単にすることができる。
昨今では、社外の人との予定調整にまで使えるようになっており、利用し始めると、今まで参加するメンバーそれぞれに予定が空いているかどうかを確認して予定調整していたことの非効率さに気付かされるだろう。
▼オンライン会議ツール
オンライン会議ツールは、テレワーク時代に欠かせない、オンライン会議を行うためのツールだ。オンライン会議の登場によって、社員は物理的に同じ場所に集合する必要がなくなっただけでなく、会議録画をすることで、情報共有だけならば時間を合わせる必要すらなくなった。
昨今のオンライン会議ツールは、多言語化対応した同時通訳機能やオンライン会議の終了と同時に議事録を生成することができる議事録作成機能が登場するなど機能向上が著しい領域でもある。
前述のとおり、現時点ではまだ人間同士が対面したほうが表情や機微など情報量を多く伝達できるが、これらについてもいずれはオンライン会議ツールでも伝達できるようになると言われている。
▼ビジネスチャットツール
個人間でのやりとりがメールからメッセージアプリに移行したように、ビジネスの世界でもメールからビジネスチャットツールに移行してきている。
ビジネスチャットツールは、本文にも相手先の名前を記載して挨拶から入るなど手紙の要素を色濃く残していたメールと比べて、タイトルなくやりとりができるようになるなどより省力化されている。
社外はまだしも社内においては、このような形式的なやりとりを省いたほうが会社組織としては合目的なのだ。
ビジネスチャットツールでは、社内外のグループを簡単に作ることができて、そのグループで、リアルタイムもしくは掲示板のように時間を置いたコミュニケーションを簡単に図ることができる。添付ファイルなどのデータファイルも簡単に共有できるため、急速に普及が進んでいる。
■システムの利便性を最大限に引き出す方法
このようなコミュニケーション・ツールの整備は、生産性を高める上で重要な役割を果たす。
中小企業では社内で共通のシステムを使うことにもハードルがあるように感じている。今の時代はシステムも乱立しており、誰しも自分が使い慣れたシステムを使いたいと考える。
そのため、同じシステムであれば生産性が著しく上がるはずなのに、システム導入の際に社員間で同じシステムが導入できないという問題も発生しているのだ。
経営陣にDXへの強い意志があっても、社員に対して丁寧なコミュニケーションを行わないと、社員が日常的に使っているシステムを変えることは難しいのである。
また、コミュニケーション・ツールの導入時には、会社の組織に応じた設定をすることも重要だ。システム導入にあたり、合理的な組織になっていないと、期待する効果が得られないという論点でもある。
例えばカレンダーツールの場合、部署やプロジェクトごとにカレンダーを作成し、それらを統合して全社的なスケジュールを一元管理できる仕組みを整えることができる。
さらに、アクセス権限を適切に設定することで、必要な情報が必要な人にだけ共有されるようにもできる。
同様に、ビジネスチャットツールでは、チャンネルの設計が重要だ。部署やプロジェクト単位でチャンネルを作成し、適切な命名規則を設定することで、メンバーが必要な情報を容易に検索・参照できるようになる。
運用においては、システムの利用ルールを明確化し、全社で統一された運用を徹底する必要がある。例えば、ビジネスチャットツールでは、重要な決定事項はチャンネルや別のドキュメントに残すなど、コミュニケーションの記録方法を明確にする。
また、カレンダーツールにおいては、会議のスケジュール設定時に事前に目的や議題を明記するルールを設けることで情報共有の精度を高めることができる。
このようにルールを策定し、全社員に周知することで、システムの利便性を最大限に引き出すことができるだろう。
■全ての社員の日報に目を通して、毎日必ず一つずつコメントバック
③報告フォーマットの整備
今までも述べてきたとおり、ビジネスモデルが確立されていて、組織の構築がされていれば、あらかじめ情報共有すべき情報が何かは分かっている。
コミュニケーションすべき事項が雛型化されておらず、それぞれが思い思いの報告をすると、どうしても定性的な情報が中心となってしまい、情報伝達が正しくできなくなってしまう。そこで、ビジネスモデルや経営戦略を考えて、先に何を情報共有すべきかを決めておくのである。
具体的には、日報、営業報告書や議事録などの報告フォーマットの整備が考えられる。
私がVAZの企業再生をした時も、同社はYouTuber事務所というエンターテインメント業界の会社だったが、日報の雛型を作成して、稼働している社員にはビジネスチャットツールに投稿をしてもらうようにした。
VAZでは、マネージャーはYouTuberのサポートをしており、映像制作スタッフは動画制作のために撮影をしていることが多かった。オフィスに常駐している社員が少なかったため、会社として誰が何をしているのかを把握する必要があり、日報という報告フォーマットを採用した。
エンターテインメント業界の慣習に鑑みると日報はあまり選択しない報告方法である。毎日の自分の行動を報告するのは面倒な作業だから、定着させるために、私も社長就任期間中にわたり全ての社員の日報に目を通して、毎日必ず一つずつコメントバックをするように心がけた。
■日報と営業報告書に書くべきこと
報告フォーマットを設計する際には、まず報告の目的を明確にすることが出発点となる。日報、営業報告書や議事録などはそれぞれ異なる報告目的が存在する。
日報は個人の業務進捗や課題を共有し翌日の行動計画を立てるための報告フォーマットであり、営業報告書は営業活動の成果を可視化し、顧客対応や市場戦略を調整するために使用される。
また、議事録は会議での議論内容や決定事項を記録し、組織内での情報共有とフォローアップを目的としている。
これらの目的を明確にすることで、報告に含めるべき情報を選定し、無駄な記載を省くことが可能になる。
次に、フォーマットの設計では、必要な情報を網羅する一方で、記載内容を簡潔で分かりやすいものにすることが求められる。
例えば、日報には業務内容、進捗状況、課題、翌日の計画といった基本要素を盛り込むが、それ以上に詳細な情報は別途記録する仕組みを設けることで、記入者の負担を軽減しつつ、管理者が必要な情報を容易に確認できるようになる。
営業報告書では、顧客情報や訪問内容、成約状況、次のアクションプランを明確に記載することが重要である。議事録については、会議の日時、出席者、議題、主要な議論点、結論、アクションプランなどを整理して記載し、後からでも必要な情報が迅速に参照できるように工夫する。
■報告フォーマットの効果を最大化する運用法
フォーマットの統一性も、情報共有の効率化において重要な役割を果たす。同じ種類の報告書が複数の書式で作成されると、情報の収集や整理が複雑化し、組織内での混乱を招いてしまう。そのため、報告フォーマットを統一し同じ形式で記録するのである。
コミュニケーション・ツールもそうだが、デジタル化によってコミュニケーションの履歴を追いかけることが容易になったため、検索機能を用いれば、どのようなことが起きていたのかを簡単に発見することができる。
なお、ここまでは中小企業だとなかなかできないかもしれないが、社内でよく使う用語を集めた用語集を作成して、用語の統一をすると社員間のコミュニケーション・エラーもなくなるだろう。
例えば、「進捗」や「課題」といった項目の意味を明確に定義することで、記入者と管理者の間の認識の齟齬を防ぐことができる。
最後に、報告フォーマットの効果を最大化するためには、やはり運用をしっかりとしなければならない。せっかく社内で決めた報告フォーマットが用意されていても、社員がそれを用いて報告しなければ意味がないのだ。

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小松 裕介(こまつ・ゆうすけ)

スーツ代表取締役社長CEO

2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト(現社名:伊豆シャボテンリゾート、東証スタンダード上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。2020年10月にYouTuber事務所VAZの代表取締役社長に就任。月次黒字化を実現し、2022年1月に上場企業の子会社化を実現。2022年12月にスーツ社を新設分割し同社を商号変更、新たにスーツ設立と同時に代表取締役社長CEOに就任。
現在、スーツ社では、チームのタスク管理ツール「スーツアップ」の開発・運営を行い、中小企業から大企業のチームまで、日本社会全体の労働生産性の向上を目指している。

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(スーツ代表取締役社長CEO 小松 裕介)
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