※本稿は、井戸美枝『ゼロ活 お金を使い切り、豊かに生きる!』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
■老後の住まいにはどんな選択肢があるか
定年後の住まいをどうすべきか。これは、私がいろいろな方からよく受ける相談のひとつです。最も大きな出費である住居関連費用をイメージする際、特に想定してほしいのが「もし自分に介護が必要になった場合」です。
この大きな出費を見越して、自身の価値観と照らし合わせて計画的に資金を準備するのは、老後を快適に過ごすために大切なポイントとなります。定年後も今の住居に住むか、住み替えるか? 住まいの選択肢にはどんなものがあるのでしょうか? 4つご紹介していきましょう。
1つ目の選択肢は、「今の自宅をバリアフリー化して住み続ける」というもの。自宅で暮らし続けるなら、メンテナンスの費用も考える必要があります。介護保険の認定を受けているなら、介護保険を活用したリフォーム(20万円まで)がおすすめです。
手すりや段差解消など、一般的には数十万~200万円程度で可能ですが、大規模なリフォームになると500万円以上かかるケースもあります。自治体の指定業者や自己負担割合も事前に確認しておきましょう。
■有料老人ホームは安心だが費用が高額になる
2つ目は、「コンパクトな住宅へ住み替える」。子どもが独立したあと、広すぎる自宅は防犯面でも不安があるので、徒歩圏内に生活施設がある小さめのマンションなどもいいですね。住み替えの際には、現在の自宅の売却費用のみで購入できる物件を選ぶと安心です。住居費のコストも減るかどうか、年金で支払えるかなど検討しましょう。
3つ目は、「サービスつき高齢者向け住宅(サ高住)」を検討するというもの。高齢者が安心して生活できるようにコンシェルジュによる見守りや緊急対応が整った住宅です。月額の家賃は15万~25万円程度が一般的です。支払い続けられるか検討します。
4つ目は、「有料老人ホーム」への入居です。有料老人ホームは、食事や医療ケア、介護サービスまで総合的に受けられる施設です。一時金は数百万~数千万円、月額利用料が10万~30万円程度と高額ですが、安心感があります。
趣味活動が充実している施設も多く、暮らしを楽しむ要素が豊富です。自宅を売却して有料老人ホームに入るので、事前の調査は欠かせません。ケアマネージャーの経験や人数、食事、退去の要件、経営が健全かどうか。終のすみかになるわけですから、慎重に。
■共同生活が苦手な私が選んだ「住まい」の選択
それぞれメリット・デメリットがある中で、自分は残りの人生でどんな生き方をしたいのか。まずは、そんなイメージを持つことから始めていきましょう。図表1の「住居費のチェックシート」でチェックしておきましょう。
あなたは自分の老後をどこでどんなふうに過ごしたいか、具体的にイメージしているでしょうか? 高齢になると多くの人が考えるのが、施設での暮らしと自宅での暮らし、どちらが自分に合っているのかという問題です。
施設のメリットはたしかに多くあります。食事やケアが整っており、認知症などになっても費用が年金から自動的に引き落とされるため、経済的にも安心感は高いです。しかし、私自身は、施設での暮らしは自分には合わないと感じているため、老後はリフォームした自宅で、可能な限り暮らし続けようと思っています。
高齢者施設を選択肢に入れなかった最大の理由は、「共同生活」にあります。
■有料老人ホームの環境がストレスになることも
実際、私の母も共同生活が苦手なタイプでした。そのため、有料老人ホームに入ったときも、肌に合わなかったようで、「なんで毎回同じ席で、同じメンバーで食事をしなきゃならないのかしら」「あの人の食事のマナーが気になって仕方がない」「なんでこんな年齢になって、施設内のちぎり絵や体操などに参加しなければならないのか」と、さまざまな愚痴をこぼしていました。
そんな母を見ていると、「いかに安全安心であったとしても、万人に施設生活が合うわけではない。場合によっては大きなストレスになって、自分の人生を楽しく生きられないのではないか」と強く感じるようになったのです。
将来の住まいの選択は自由ですが、いずれにしても元気なうちにある程度は決めておくことをおすすめします。
いつ自分が歩けなくなるか、怪我や病気で行動が制限されるかは予測できません。そのときから、住まいを選び始めたのではもう遅いのです。いざ、身体を壊してから「あのときから準備しておけばよかった」と後悔しないためにも、今できるうちに進めておきましょう。
■老後の住まいは賃貸と持ち家、どちらがいい?
将来の住まいを選択するなかで、「賃貸と持ち家、どちらがいいんでしょう?」と迷われる方が少なくありません。自分のライフスタイルや安心感を考えて持ち家を選んでいますが、どちらがいいかは人それぞれの事情によって異なります。
では、ここで賃貸と持ち家、それぞれのメリットやデメリットを考えてみましょう。まず、賃貸の良さは、「柔軟に住み替えられる」ことです。ライフスタイルや健康状態が変わったとき、もっと便利な場所や暮らしやすい物件に簡単に移れるのが最大のメリットです。さらに、固定資産税の支払いもありませんし、相続時の面倒もないという手軽さがあります。
ただし、賃貸物件は、年齢が上がるにつれて新たに借りるのが難しくなるという現実的な問題があります。多くのオーナーさんは高齢者に部屋を貸すことを避ける傾向がありますし、場合によっては契約年齢に制限を設けている物件も少なくありません。
特に高齢のひとり暮らしは、孤独死などのリスクを気にして入居を断られてしまうことがあります。
■持ち家は固定資産税やリフォーム代が負担になる
一方、持ち家のメリットは、「安心感」です。私が持ち家を選んだ最大の理由もここにあります。たとえ高齢になっても、賃貸のように契約更新や退去の心配はなく、「この家でずっと暮らせる」という安心が得られるのは大きな魅力でしょう。また、住宅ローンが終わっていれば、毎月の家賃という固定費から解放されます。
しかし、持ち家にも固定資産税やリフォーム代はかかりますし、マンションの場合は管理費や修繕積立金といった費用は必ず発生します。
さらに、2階建て以上の戸建て住宅は、シニアになるとなかなか住みづらいもの。足腰が弱くなって階段が上がりにくくなるので、2階は物置きになってしまい、モノがあふれかえってしまうことも多いようです。
仲のいい友人のお母様が亡くなった際も、いざ実家の中を見てみると収納されているモノの多さにとても驚いたそうです。当然ながら捨てるのにもお金がかかるし、処理が大変だったとか。
生前に自分の周りは身ぎれいにしておかないと子どもや親戚などに大きな負担をかけてしまいます。
■定年を機に家を購入するならローンは組まない
もしこれまで賃貸などで暮らしてきた方が、定年間際になって新たに家を購入する場合は、「ローンを使わずに買える範囲ならあり」だと私は考えています。定年後の住宅購入ではローンを組むのではなく、できるだけ現金払いで無理なく購入できる物件を選ぶことが理想です。
特に子どもが独立したあとは、一軒家ではなくコンパクトなマンションなどへの住み替えも十分検討に値すると思います。
最近は、自宅を所有するシニア層にとって、「リバースモーゲージ」という選択肢も注目されています。これは自宅を担保にお金を借りることができる制度で、老後の資金を補充する方法として検討の価値がありますが、コストがかかり続けることも知っておきましょう。
住まい選びに絶対の正解はありませんが、定年後に求める暮らしを具体的にイメージし、「老後まで安心して暮らせるか」を基準に考えるのがポイントです。
■引っ越しは60代までに
体力や気力の問題から考えて、引っ越しはできる限り60代までに済ませておく意識を持ちましょう。住み替えを考える場合は、住まいの広さ自体をコンパクトにすることを検討してみましょう。
基本的には、ひとり当たり約35平米ほどのスペースがあれば、日常生活は十分可能です。今後のことを考えても、むしろひとり当たり35平米ほどの生活を目安に持ち物を減らしていきましょう。
広すぎる家は、掃除やメンテナンスも大変ですし、デッドスペースにモノをためこんでしまう恐れもあります。それを考えると、適度にコンパクトな家に住み替えるのは非常に理にかなった選択だと思います。
住み替えを検討する場合は、場所選びにも注意しましょう。テレビや雑誌などでは定年後に自然豊かな田舎暮らしを楽しむ様子が紹介されますが、実際には高齢になってから慣れない土地で暮らすことはストレスになる場合もあります。徒歩圏内に病院やスーパーがあるか、車がなくても快適に生活ができるのかをしっかり考慮してください。
現在は広い家を維持できても、将来的に介護が必要になったとき、不便になります。家から公共施設までの立地も重要です。怪我をすると、移動に時間がかかります。特に、東京などの都会は便利な部分も多いですが、人も多く、階段が多くて住みづらい場所もあります。
退職後は、無理に都会に住まなくてもいいし、便利なエリアを選んで暮らすことが大事です。今後介護が必要になった場合に備えて、設備についても配慮してください。自宅を車椅子で移動する場合、引き戸でないと移動が難しいことや、手すりが必要な場所など。考えると、10年後には改装費が200万円くらい必要になるかもしれません。リフォーム費用も見積もっておくと良いでしょう。
身体が動く今のうちに、自宅のサイズや立地を見直してみるのもおすすめです。
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井戸 美枝(いど・みえ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者)
関西大学卒業。社会保険労務士。国民年金基金連合会理事。『大図解 届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください 増補改訂版』(日経BP)、『残念な介護 楽になる介護』(日経プレミアシリーズ)、『私がお金で困らないためには今から何をすればいいですか?』(日本実業出版社)など著書多数。
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(ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者) 井戸 美枝)