睡眠の質を向上するためにはどうしたらいいか。内科医の工藤孝文さんは「睡眠の質を改善するなら、就寝前にホットミルクを飲むよりも朝に牛乳を飲むべきである。
牛乳に加えて、バナナや納豆、大豆を朝食に含めることで睡眠の質はさらに向上する」という――。
※本稿は、工藤孝文(監修)『「休養」にいいこと、1冊にまとめました』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。
■朝、コップ一杯の牛乳を飲むと睡眠の質が上がる
「夜、寝る前にホットミルクを飲むと安眠できる」という話はよく耳にしますが、実は質の良い睡眠をとるためには、「朝に牛乳を飲むべき」ということはあまり知られていません。この情報は、睡眠の質を改善するための一つの効果的な方法として注目されています。
これには、牛乳に含まれる睡眠ホルモン「メラトニン」のもととなるトリプトファンの性質が関係しています。トリプトファンがメラトニンに変換されるには14~16時間程度かかるため、朝に牛乳を飲んでおくと、ちょうど寝るころにはその生成が完了し、安眠に導いてくれるのです。したがって、朝の牛乳摂取が夜の快適な睡眠へとつながります。
ほかにも、大豆製品や卵、バナナ、ナッツ類、肉や魚などにもトリプトファンが豊富に含まれています。特にバナナはトリプトファンが多く、消化吸収も早いため、朝食にバナナと牛乳を摂ることで、エネルギー源を補いながら、夜も快適な睡眠をとれるようになります。
■朝食に納豆や卵を含めるといい
これらの食材を朝食に取り入れることで、昼間のエネルギーを補充しつつ、夜の睡眠に備えることができます。つまり、バランスよくトリプトファンを摂取することで、質の良い睡眠をサポートすることができるのです。
さらに、朝食に納豆や卵を含めるのもおすすめです。
これらはタンパク質が豊富であり、簡単に準備できるため、忙しい朝にもぴったりです。タンパク質は体の修復やエネルギーの供給に欠かせない栄養素で、睡眠の質にも大きな影響を与えます。タンパク質不足は睡眠に悪影響を及ぼす可能性があるため、日々の食事からしっかり摂取することが質の良い睡眠を得るためのコツと言えるでしょう。
このように、朝食の内容を工夫することで、夜の睡眠の質を高めることができます。特にトリプトファンを豊富に含む食品を取り入れることによって、睡眠ホルモンの生成がスムーズに進み、より深い睡眠へと導いてくれるのです。
■長い睡眠時間を確保できないなら「合計時間」を気にする
人間にとっての理想の睡眠時間は7時間とされています。この時間は、年齢や季節、また個人差にもよるため一概には言えませんが、最低でも一日6時間の睡眠を確保したいところです。
睡眠は単に体を休ませるだけではなく、体の修復や回復にとって非常に重要な役割を担っています。質の良い睡眠をとることで、免疫力が高まり、身体機能が正常に保たれるのです。しかし、睡眠が不足すると、集中力や注意力が低下し、身体や心に悪影響を及ぼす可能性があります。
具体的には、肥満やそれに伴う生活習慣病、さらにはうつ病の原因にもなりかねません。仕事や生活の忙しさから、どうしても7時間の睡眠時間が確保できない場合でも、トータルで6~7時間の睡眠が確保できていれば問題ありません。

たとえば夜に5時間しか眠れなかったとしても、通勤時間や昼休みなどの時間をうまく活用して仮眠をとることができます。合計で6~7時間の睡眠がとれれば、体に必要な休息を与えることができるのです
■ただし、睡眠の質は重要
特に昼休みに20分程度の仮眠をとることは、脳の疲労回復に非常に効果的だとされています。この短時間の休息が、午後の仕事や活動に良い影響を与えることが多いので、積極的に取り入れると良いでしょう。
ただし、睡眠の質が重要であることを忘れてはいけません。睡眠時間が長いだけでは意味がなく、深い眠りを得ることが大切です。逆に、8時間以上の睡眠を続けると、うつ病の原因になったり、寿命を縮める可能性があるという研究結果もあります。そのため、休日の「寝溜め」などによる寝過ぎは避けるべきです。
長時間寝過ぎると、体のリズムが乱れ、かえって疲れを感じることもあるので、注意が必要です。最も大切なのは、毎日の睡眠を効率的にとることです。6~7時間を目安に、規則正しく質の高い睡眠を心がけましょう。
睡眠環境を整え、寝る前のリラックス方法を取り入れることで、深い眠りに導かれやすくなり、健康を保ちながら充実した日々を過ごすことができるのです。
■寝る前のスマホはやめるべき
今やスマートフォンは現代人に欠かせないアイテムと言えます。
インターネットや動画が手軽に楽しめるので、夜、ベッドに入ってからも手放せない人が多いかもしれません。
スマホを使うことで、気軽に情報を得たり、動画を観たりすることができる一方で、実はその使用が睡眠に悪影響を与えていることがわかっています。特にスマホが発するブルーライトには注意が必要です。
ブルーライトはとても明るくて強い光で、夜寝る前にその光を浴びていると、脳が昼間と勘違いしてしまいます。その結果、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌量が減少し、寝つきが悪くなることが明らかになっています。メラトニンは、体が眠る準備を整えるために必要なホルモンで、その分泌量が減ることで、深い眠りに入るのが難しくなるのです。
また、ブルーライトは波長が短く、散乱しやすい特徴があり、目に強い刺激を与えるため、眼精疲労や目の乾燥、さらには視力低下の原因にもなることが指摘されています。
■寝る前にスマホを使うなら「画面を暖色系の色味」に
さらに、寝る前にスマホを長時間見ている人と、そうでない人では、睡眠の質が全く異なるとも言われています。寝る前にスマホを使うことで、脳が活性化されすぎてしまい、眠りが浅くなったり、夢を見たり、短時間で目を覚ますなど、深い眠りを得るのが難しくなります。睡眠が浅くなると、翌朝の目覚めがすっきりせず、日中のパフォーマンスにも影響を与えてしまうのです。
質の良い睡眠をとるためには、寝室に入る前の数時間、特にベッドに入る2時間前にはスマホやパソコンなどの画面から離れることが理想的です。この時間帯にスマホやパソコンを使わないことで、脳が休息モードに入りやすくなり、深い睡眠を得やすくなります。

もしそれが難しい場合には、スマホの画面の明るさを落としたうえで、色味を暖色系に設定しましょう。暖色系にすることで、ブルーライトの影響を和らげ、脳への刺激を少なくすることができます。
■深夜2時の食事は肥満の原因に
寝る直前になって空腹を感じ、軽い夜食をとることもあるかもしれません。しかし、この習慣が続くと、夜食は肥満の大きな原因となることがわかっています。
人体には体内時計を管理する「時計遺伝子」があり、その遺伝子が作り出すタンパク質の一つに「BMAL1(ビーマルワン)」があります。BMAL1は、脂肪の合成を促す働きを持っていますが、その生成が最も多くなる時間帯は深夜の2時です。
この時間帯に食事をすると、脂肪を効率的に蓄積しやすくなり、その結果として肥満の原因になってしまうのです。したがって、夜10時以降に物を食べることは、脂肪合成が進む時間帯に食べていることになり、特に注意が必要です。さらに、この時間帯に食べ物が胃腸に残っていると、消化活動のために血流が胃腸に集中し、ほかの臓器への血流が不足します。
この状態では、体が本来休息すべき時間に十分な血液が送られず、睡眠の質が低下してしまいます。睡眠の質が悪化すると、体の回復が遅れ、翌朝の目覚めが悪くなることもあります。このように、深夜に食べることは、肥満を招くだけでなく、睡眠の質にも悪影響を与えるのです。

■午後2時前後の食事はダイエットに効果的
夕食はできるだけ就寝する3時間前までに済ませることが理想的です。これにより、BMAL1の活動が活発になる前に食事を終えることができ、脂肪合成を抑制することができます。
また、食後に胃腸が休む時間を確保することで、眠りの質が向上します。深夜に食べ物を摂る習慣を避けることで、健康的な体重維持と質の良い睡眠を得ることができます。
一方で、BMAL1の生成量が最も減少する時間帯は午後2時ごろとされています。ダイエット中の方やカロリーを気にしている方が高カロリーの食べ物を摂取するのであれば、この時間帯を利用するのが理想的です。
この時間帯には、脂肪合成の働きが抑えられており、カロリーを効率的に消費しやすい状態になります。ダイエットを意識している場合は、午後2時前後に食事を摂るようにしましょう。
■エアコンを活用して快適な睡眠を
今でも「エアコンのつけっぱなしは体に悪い」という誤解が残っていますが、実際には質の良い睡眠をとるためには、むしろエアコンを効率的に使用することが非常に重要です。
適切にエアコンを使うことで、睡眠環境を整え、深い眠りを得ることができます。特に、温度調整が重要な季節には、エアコンを上手に活用することが鍵となります。近年では、夏の高温多湿化が進んでおり、冬は厳しい寒さが続く傾向があります。

こうした気候の中で、エアコンを使わずに寝ることは体に大きな負担をかけることになります。特に、寝ている間は自分で体温を調整することが難しく、暑さや寒さに対応できず、自律神経が乱れることがあります。その結果、睡眠の質が低下し、十分な疲労回復ができなくなるのです。
寝室の温度管理を適切に行い、エアコンで快適な室温を保つことで、より良い睡眠を確保することができます。
■夏場は外気温と室温の差を10℃以内に保つ
夏の夜は特に熱中症のリスクが高いため、エアコンを使って「汗をかかない程度の室温に保つ」ことが重要です。寝室の広さにもよりますが、25~27℃が理想的とされています。
この温度帯を維持することで、過度な暑さを避け、睡眠中の体調を保つことができます。また、冬場は空気が乾燥しやすくなるため、加湿器を併用して湿度も調整することが大切です。冬の寝室では、20℃前後をキープすることが快適な睡眠につながります。
さらに、居間と寝室の温度差が大きいと、自律神経に負担がかかります。温度差が大きいと、体がその差に適応しようとするため、寝室に入ったときに急激に体温を調整しなければならず、体への負担が増します。そのため、すべての部屋の温度を一定に保つことが理想的です。
特に夏場は、外気温との差を10℃以内に保つことを目指しましょう。これにより、体が温度の変化に驚くことなく、リラックスした状態で眠りに入ることができ、質の良い睡眠を得ることができます。
■深部体温を上げておくと睡眠の質が上がる
「眠くなると手足の先が熱くなる」理由を知っているでしょうか。
私たちは眠る準備として、深部体温を徐々に下げることで代謝を抑え、リラックスした状態に移行します。この過程で、手足の皮膚にある血管が広がり、体内の余分な熱を放出するため、手足の先が熱く感じるのです。この現象は、体が深い眠りへと入る準備をしているサインでもあります。
深部体温が下がることで、脳の温度も下がり、より深い眠りに入りやすくなります。そのため、入浴を利用してあらかじめ深部体温を上げておくことが有効です。体温が高くなることで、寝室に入った際にスムーズに体温が下がり、入眠が容易になります。この方法により、睡眠の質を向上させることが可能です。
しかし、入浴の方法を誤ると、かえって体に負担をかけてしまい、疲れがとれない原因にもなることがあります。
■就寝1時間前に入浴する
理想的な入浴タイミングは、就寝の1時間前に済ませることです。
入浴に適した温度は40℃前後で、約10分程度の入浴が最適とされています。お湯が熱すぎると交感神経が活発になり、眠りにつきにくくなりますので、温度は注意が必要です。また、長時間入浴することは体温を上げすぎるため、10分以上の入浴は避けたほうが良いでしょう。体温が高すぎると、逆に睡眠を妨げる可能性があるため、適切な時間を守ることが大切です。
さらに、入浴後に急激な体温の変化があると、自律神経に大きな負担がかかります。特に、冷たいエアコンで一気に体温を下げることは避けるべきです。入浴後の急激な湯冷めは、体を不安定にし、逆に眠りを浅くしてしまうことがあります。
入浴後は、少し温かい状態を保つことが大切で、急激な温度変化を避けるようにしましょう。身体がリラックスした状態をキープすることで、より深い眠りを得ることができます。

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工藤 孝文(くどう・たかふみ)

内科医

工藤内科院長。福岡県みやま市の同医院で地域医療を行う。糖尿病内科、ダイエット外来、漢方医療を専門として、テレビや雑誌などでも活躍。著書に『痩せグセの法則』(枻出版社)ほか多数。

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(内科医 工藤 孝文)
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