■65歳以上を対象にプラチナNISA創設も
分配金を支払う投資信託のタイプに「予想分配金提示型」と呼ばれるものがあります。予想分配金提示型の中には、NISAでは投資ができないにもかかわらず、純資産総額が3兆円を超えるほどの人気を集めている商品があります。特にシニア層に人気です。
金融庁が「プラチナNISA」と銘打ち、65歳以上の高齢者向けのNISA制度を新設することを検討している旨、報道もありました。プラチナNISAは、現行のNISAとは別枠で創設され、投資対象商品に毎月分配型の投資信託が加わるようです。
読者の中には、「毎月分配型」と「予想分配金提示型」では何が違うのか、そもそもなぜ「毎月分配型」はNISAでは対象外なのか気になる方がいることでしょう。今回は、「毎月分配型」や「予想分配金提示型」の分配金の仕組みを確認し、NISAで予想分配金提示型の投資信託を買ってもいいのか一緒に考えていきます。
■投資信託の分配金には2種類ある
投資信託の分配金は「配当等収益」「有価証券売買等利益」「分配準備積立金」「収益調整金」の合計額から、運用会社が分配方針や基準価額の水準などを判断して金額を決めます。その後、ファンドに組み入れられている株や債券などの一部を売却・現金化し、分配金として支払われます。
投資信託の分配金には、普通分配金と元本払戻金(特別分配金)の2種類があります。
■毎月分配型は毎月必ず分配金がもらえるが…
毎月分配型の投資信託は、毎月必ず分配金を出すことを定めています。運用成果がしっかり出ているならば、図表1の上のケースに該当し、投資元本が減ることなく分配金がもらえます。しかし、運用成果がイマイチの場合は、利益で足りない部分は元本を取り崩し、元本払戻金として分配されています。
例えば分配金が100円だった場合、運用益から100円の普通分配金が出せるときは問題ありません。しかし、普通分配金が50円しか出せない場合は問題です。このとき、50円の元本払戻金を支払うことで100円の分配金は確保できますが、その分元本は減り、9950円になります。
ご相談に来られたお客様や講演の参加者から「マイページの毎月分配型の残高が、市場環境は好調なのにどんどん減っているのですが、なぜでしょうか」とよく聞かれます。その答えとしては、図表1の下のケースに該当しているからです。
いくらプロの投資家であっても、毎月損をせず、長期間一定の運用益をあげ続けていくことは難しいのです。毎月分配型の投資信託は、投資家(受益者)の元本を取り崩して分配金を出しているケースがほとんどであるということです。
■毎月分配型は年金生活者に向いている
毎月分配型の投資信託のメリットは、定期的に分配金が受け取れることです。「築いた資産を淡々と取り崩せばいい」と簡単に言う専門家は多いのですが、損をしていれば売却しにくいし、儲かっていてもなんだかもったいない気がして売却しにくいものです。実は投資タイミングよりも、売却タイミングのほうが難しいのが資産運用なのです。
「定期的に受け取れる」ということは、投資家自身が売却タイミングを考えずに受け取れることを示し、精神的に楽にお金を使える仕組みが搭載されているのです。よって、年金生活者にとっては、毎月受け取る分配金が公的年金の上乗せとなり生活費に充てやすいというわけです。
■毎月分配金型の4つのデメリット
一方で、デメリットもいろいろあります。1つ目は「複利効果を生かしにくい」ということ。複利効果は、運用で得た利益を再投資することで、利益が新たな利益を生む効果のことです。
分配金を受け取ってしまうので複利効果が生かせません。また、元本払戻金があれば元本がその分減ります。元本が減れば、相場が好調でも増える力(元手)が減っていますので、思った以上に増えません。
2つ目は「購入時手数料がかかる商品が多い」ことです。
3つ目は「保有中のコスト(信託報酬)が高い」ことです。信託報酬は年1.5~2%と高く設定されています。1000万円分購入し、仮に資産額が変わらなければ毎年15~20万円を負担するということです。
信託報酬は、運用の良し悪しにかかわらず、投資家が必ず負担します。上述の通り、運用状況によっては、元本を取り崩して分配している時期がありますが、その時期も高い信託報酬を負担しなくてはなりません。
4つ目は「課税口座の場合、普通分配金に毎回税金がかかる」ことです。課税口座(特定口座または一般口座)で購入した場合、普通分配金をもらうたびに20.315%の税金がかかります。
■資産形成層は毎月分配型に手を出すべきではない
元本を取り崩して分配金を支払うと、資産残高は減っていきますし、複利効果も生かせないので、資産が増える期待は低くなります。
このような背景から、NISAでは長期の資産形成にそぐわない商品として「毎月分配型」は除かれているのです。一方で年金生活者など、一部の人たちには「毎月お金がもらえる商品」のニーズがあるのは事実です。ただ、いくらニーズがあるといっても、高い信託報酬を負担しながら「元本を取り崩す」だけという状態は避けたいですよね。この「元本取り崩し」になることを減らしながら、定期的に分配金を支払う仕組みを搭載しているのが、予想分配金提示型の投資信託です。
■純資産総額が3兆円を超える人気の「予想分配金提示型」
予想分配金提示型で純資産総額が3兆円を超えるほどの人気を集めているのが、「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Dコース毎月決算型(為替ヘッジなし)予想分配金提示型」です。毎月分配型に分類されるため、現状NISAでは投資ができません。
「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信」にはAコースからEコースまでの5コースがあります。純資産総額とトータルリターンは以下の通りです。
いずれも2025年5月23日時点の情報です。
●Aコース(為替ヘッジあり)
純資産総額:1199億円 トータルリターン(5年):年8.74%
●Bコース(為替ヘッジなし)
純資産総額:1兆6098億円 トータルリターン(5年):年19.10%
●Cコース毎月決算型(為替ヘッジあり)予想分配金提示型
純資産総額:2438億円 トータルリターン(5年):年8.83%
●Dコース毎月決算型(為替ヘッジなし)予想分配金提示型
純資産総額:3兆1758億円 トータルリターン(5年):年18.99%
●Eコース隔月決算型(為替ヘッジなし)予想分配金提示型
純資産総額:463億円 トータルリターン(1年):年-2.41% ※設定日は2023年10月3日
出典=楽天証券
■コストは高いが運用成績は良好
信託報酬は年1.727%と高水準になっていますが、人気のあるDコースのトータルリターン(5年)を見ると、年18.99%と好成績の運用結果を残しています。
予想分配金提示型は、投資信託の値段(基準価額)の水準に応じて分配金の金額が決まっています。
■分配金をチェックしてみよう
目論見書によると、分配金は「原則毎月15日の前営業日の基準価額」によって支払われる分配金額が決まります。たとえば、基準価額が1万2000円だったとすると、1万口あたりの分配金は300円です。1万1000円未満になると、「基準価額の水準等を緩和して決定」となっています。
実際に分配金はどんな感じだったのか実績を確認してみましょう(図表3)。
■運用成績が良くないときはどうなるか
Dコースの基準価額は12085円と分配基準に達しています。分配の推移を見ると、2024年8月~10月は200円でしたが、11月と12月は300円となっています。運用成績によって、分配金に変動があることが分かります。
運用成績が芳しくなかった2023年の状況もチェックしてみましょう(図表4)。
分配の推移を見ると、2023年2月と3月は0円、4月と5月は100円、6月は200円となっています。
■NISAで予想分配金提示型の投資信託を買ってもいい?
Dコースは「毎月分配型」に該当するため、NISA「つみたて投資枠」「成長投資枠」ともに購入できません。なお、隔月分配型であれば、「成長投資枠」で購入が可能です。
投資信託協会が公表する「対象商品リスト」によれば、隔月分配型の予想分配金提示型は2025年5月23日時点で22本あります。
プラチナNISAが実現すれば、「毎月分配型」の予想分配金提示型も投資が可能になります。予想分配金提示型の投資信託は元本の取り崩しを抑えながら、分配金が受け取れる商品なので一定の利用価値はあります。特にシニア世代のニーズが大きいでしょう。
信託報酬が高くても、保有コスト控除後のリターンが大きくプラスの状態を維持・継続できる商品であれば買う価値はあると考えます。2025年は厳しいマーケット環境が続いていますが、今後の運用にも注目したいところです。
プラチナNISAでは、ラインアップされる商品について、手数料の制限が入ることが予想されます。「購入時手数料がかからない」「信託報酬が一定水準以下」などです。
プラチナNISAにラインアップされるために、信託報酬の引き下げが実施されれば、「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Dコース毎月決算型(為替ヘッジなし)予想分配金提示型」を筆頭に、「毎月分配型の予想分配金提示型」商品に一層注目が集まることでしょう。
いずれにしても、人気があるから投資するのではなく、内容をしっかり理解の上、ご自身の投資方針に合わせて投資行動を決めるのが大切です。
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頼藤 太希(よりふじ・たいき)
マネーコンサルタント
Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用 新NISA対応改訂版』(宝島社)など書籍100冊、著書累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(@yorifujitaiki)
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(マネーコンサルタント 頼藤 太希)