人が言うこと、やることをいちいち否定しないと気が済まないタイプがいる。あなたにも思い当たる人がいるはずだ。
精神科医の和田秀樹さんは「私は“決めつけ人間”は相手にしないことにしている。そういう人に感情を揺さぶられて無駄な時間を過ごさないために『感情の法則』を知ることが大事」という――。(第1回/全3回)
※本稿は、和田秀樹『「困ったあの人」に感情的にならない本』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■「決めつけ」人間に気をつけろ
わたしが嫌いな考え方に、「決めつけ」があります。
たとえばわたしがブログで何か言ったり書いたりしたことを、「何もわかっていない」「頭が悪い」「偏見だ」といった調子で、ボロクソにけなす人が出てきます。
わたしは自分の意見が批判されること自体はなんとも思いませんが、根拠も論理性もなく、しかも無礼な物言いで決めつけられると、やっぱり人間ですから、頭にくることもあります。
ムシャクシャして、仕事が手につかないときもないとはいえません。
そこで、ある対策を講じました。
■メールは読まない、反論はしない
まず、メールなどなら①読まないことです。悪意に満ちたコメントを送ってくる相手は匿名がほとんどであり、件名を見ただけでイヤな感じがするから無視。
うっかり読んでしまった場合でも、反論なんかしません(と言いながらたまにしてしまうのが、感情の怖いところですが)。そんなヒマがあったら、毎日やることはいくらでもありますから、それをひとつずつ片づけていきます。
②黙殺、これは感情コントロールの基本です。
そのうちわたしの意見に賛成してくれる書き込みがあったり、わたしと同じような意見を伝えてくれるメールが届いたりします。こちらは冷静で、決めつけをしていません。そういうメールを読むと、すっかり機嫌がよくなるのです。じつに単純です。
でも、この単純さが感情のいいところです。
つまらないこと、本当にくだらないことでカッとなっても、そんなものは放っておいて、できることややらないといけないことを淡々と続けていると、ふっといいことに出合います。その瞬間、気持ちが明るくなるのです。
■感情は「放っておけば収まる」
感情の法則でいちばんシンプルなのは、③放っておけば収まるということです。気にすればするほど、イヤな感情から逃げられなくなります。
放っておくためには、意識を別のものに向けるのがいちばんです。それが、④変えられるものから変えていくということです。

たとえば言葉づかい、態度や物腰です。苦手な相手に対して、自分がいつもどんな態度や言葉づかいをしているか、ちょっと思い出しましょう。
■人間関係は感情関係
たとえば、「あの上司にはどうしてもよそよそしくなっているなあ」と、人間関係がどうもうまくいかないと思う相手がいたとしましょう。ならば、最初に笑顔のひとつも浮かべてみてはどうでしょう。
「お疲れ様です」とか「ご面倒をおかけします」といった、柔らかい言葉をひとまず口にしてみてもいいでしょう。
それだけで相手は、「おや?」と思います。「いつもと印象が違うなあ」と感じるかもしれません。これは感情に変化が生まれるということです。
人と人との関係は、つまるところ感情と感情の関係ですから。そこに変化が生まれれば、人と人との関係そのものにも変化が生まれても不思議はありません。
苦手な人間と仲良くしようというのではありません。自分の変えられるところをちょっと変えてみて、それで感情がどう変化してくるのか試してみるだけでいいのです。

■理屈が正しくてもいい結果になるとは限らない
立場が変わっても同じことが言えます。
「決めつけ」が事態を悪化させていた、A課長と部下B君の関係を見てみましょう。もし、あなたがA課長だったとして、言い訳を繰り返すB君に対して、どう対処しましょうか。
「あいつはいつもあることないことを言って言い訳する。そうはさせないぞ!」と、頭ごなしに決めつければ、どうしても言葉の調子がきつくなってしまうでしょう。
「聞かれたことにだけ答えてくれればいい」とか「事実経過だけ報告しなさい」といった言い方で、最初からむずかしい顔になってしまいます。
するとB君も、「なんだかツンツンしているな」と思うでしょう。「まるで俺が言い訳ばかりしているみたいじゃないか」などと、強い反感を持つかもしれません。
実際に言い訳グセがあったとしても、本人としては生来のものですから、それほど自覚していないものです。ですから、あなたの態度こそ嫌味に思えてくるのです。これでは結局、いつもと同じパターンにハマってモメるだけです。
■言い訳ばかりの部下はどうする?
あなたが問い詰めるほど、B君は言い訳を繰り返すでしょう。
あるいは何も言わずに黙り込んでしまうかもしれません。
どちらの場合でも、あなたはやっぱり腹が立ってきます。
「もう言い訳なんか聞き飽きた!」と怒るか、あるいは、「返事ぐらいしなさい!」と怒鳴ってしまうかもしれません。今はパワハラに厳しい時代ですから、声を荒らげた瞬間に攻守逆転。たちまち苦しい立場に追い込まれてしまうこともないとはいえません。
仕事に大事なことは、業務をしっかりと遂行すること。結果を出すことです。理屈としてはA課長が正しいとしても、それだけで、いい結果を生むとは限りません。
B君に「もう言い訳はさせないぞ」と考えたあなたの理屈は間違いではありません。しかし、頭ごなしに決めつけられ、B君が感情的になって受け入れることができなければ、あなたの「正しい」理屈はB君には通用しないのです。
B君はB君の感情の世界を生きています。あなたの理屈を受け入れる余裕はありません。

■あっさり受け入れられると拍子抜けする
こういう場合、自分の理屈より相手の感情を優先するとどうなるでしょうか?
B君と向き合ったときに、「彼が言い訳をするのには、彼なりの理由があるのだろう。気が済むまで言い訳をさせてみよう」と考えてみてはどうでしょう。たとえば他人のせいにしたら、「ふーん、それはひどいなあ……」と、納得してみせましょう。
「じゃあ、C君(この際、C君がスケープゴートになってしまいますが、それはいったん脇に置いて……)が悪いんだ。B君がちゃんとやっていたのに、C君が邪魔したんだな」

「D社の担当もひどいなあ(これもスケープゴート)。君の説明を全然、聞いてなかったんだ」
あなたの側から、もしそんなことを言ったらどうなるでしょう?
B君は拍子抜けし、「それほど極端でもないんだけど……」と思うことでしょう。そうしてつい、「わたしの説明も曖昧(あいまい)だったんですけど」と漏らしたりするかもしれません。
そうなったらしめたもの。あなたは「きちんとした説明が大事だね」と締め括(くく)ることができます。
■押してもダメなら引いてみよう
また、しかめっ面(つら)で腕組みをして、「いい加減なことを言うな」と威圧するような態度ではなく、言い訳をニコニコ笑って聞くという手もあります。
これをやられると、ちょっと気味悪くなります。
「おかしいな。
いつもなら『言い訳するな』って言うのに……。もしかして全部お見通しってこと?」
そんな不安が生まれ、つい自分から「でも、今さら何を言っても言い訳ですよね」と認めてしまうかもしれません。
これは、相手が感情的に敵対していないとわかれば、素直になれるからです。自分の意見が受け入れられてもらえると、人は気持ちが落ち着いてきます。つまらない意地を張ることもなくなるのです。そこを上手に突くのです。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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