仕事の後に家事をする時間を減らすことはできるのか。ドイツ人の生活に詳しいダヴィンチインターナショナル代表取締役の松居温子さんは「ドイツ人は『やらなくていいこと』を見極めている。
たとえば家庭の晩御飯はとてもシンプルだ」という――。
※本稿は、松居温子『9割捨てて成果と自由を手に入れる ドイツ人の時間の使い方』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■晩ごはんは「冷たいご飯」が典型
ドイツ人は仕事の場だけでなく、家事においても「やらなくていいこと」を見極めようとします。
たとえば家庭の晩ご飯は、とてもシンプルなものと決まっています。
伝統的に、冷たいご飯(Kaltes Essen)と言って、黒パンと野菜とハム、チーズを並べるだけの夕食がドイツの古くからの食卓の典型で、家族はみんなそれで満足します。最近は夜ご飯を温かい料理にする家庭も増えてきていますが、一般的には、手のこんだ料理を用意することに時間を使うよりも、家族と一緒に会話をしながら食事をすることや、食後の自由時間を楽しむことに時間を費やします。
料理だけでなく、片づけにもなるべく時間を使わないようにしています。食洗機がついている家がほとんどのため、洗い物はほとんどしません。調理器具どころか、ワンプレートしか使わないのにもかかわらず、その洗い物の時間も短縮します。
■大家族でも洗濯は週1回程度
日本では一汁三菜が理想とされていて、退勤後の疲れている状態でも、温かいご飯を用意する人が多いと思います。食器もたくさん使い、見栄えのするご飯をつくる人も少なくないでしょう。
もちろん、「食べることが大好き! 食事が人生の楽しみ!」という人や、料理が趣味の人は、食事の支度に時間をかけることが「やりたいこと」につながるかもしれません。

ですが、「妻(親)だから、きちんとしたご飯をつくらないと……」というような固定観念や、家族の期待に応えるために行動しているのであれば、それは家族で話し合うなどして、家族が楽しく過ごす時間を増やす試みをしてもよいですよね。
さらに、ドイツ人は洗濯も簡略化しています。週に1~2回ぐらいしか洗濯はしません。とても綺麗好きなのに不思議かもしれませんが、大家族でもだいたい、衣類を大量にまとめて、週1の洗濯で済ませたりするので、うちの留学プログラムの留学生たちはホームステイ先でいつも驚きます。
■物を増やそうとしないドイツ人
一方、日本人は毎日洗濯する家庭も少なくありません。もちろんその分家事の時間は増えます。
家事を完璧にこなすことを意識しすぎて、家族とゆっくり過ごす時間や、自分の「やりたいこと」に使う時間が減ってしまっては元も子もありません。
自分が何に時間を使いたいのかを考えたうえで、家事も工夫して減らしてみましょう。工夫して減らしてみた結果、案外それで全く問題ないということもあると思います。
また、ドイツ人の家のなかは、基本的にどの部屋も綺麗に整理整頓されています。
床に物を置くことを好まないので、常に整頓されていて、掃除も短時間で済むようになっています。
綺麗好きという国民性も影響していると思いますが、そもそも物をあまり増やそうとしません。
何かを買うことにはとても慎重で、吟味して選んだものを何十年も大事にします。
ドイツ各地で職人文化の再評価(Handwerk)が進んでいます。「ファストファッションよりも、質の良い1着を長く使う」「古い家をリノベして住む」といったことがもともと根強いドイツでは、ここにきて再評価されています。
■物を減らすことで「時間」が手に入る
ベルリンでは、昔の道具を使ってパンを焼くベーカリーや、タイプライターで詩を書くカフェなどが、カルチャーとして定着しています。
またフリードリヒスハイン地区に位置するCafé Tasso は、中古書店とカフェが融合した空間です。店内では定期的に文学イベントや朗読会が開催され、文化的な交流の場として親しまれています。ネット社会がどんどん加速するこの時代に、古いものを大切にして、対面での文化交流を大事にする動きがあります。
いま一度、自分の部屋を見回してみてください。いつ、どこで買ったのかわからない物で溢れていませんか? その引き出しのなかに何が入っているか覚えていますか?
人は年間で150時間も探し物をしていると言われています(『気がつくと机がぐちゃぐちゃになっているあなたへ』リズ・ダベンポート著)。
この時間で「やりたいこと」がどれだけできるでしょう。
物を減らしておくことで、探し物をする時間も、部屋を片づける時間も、うんと短くなります。
■ドイツの職場では見かけない「飲みにケーション」
以前の記事で、日本人は誰かのために「やらなきゃいけないこと」が増えるとお伝えしました。

会社の飲み会や接待、PTAや子どもの送り迎え、ご近所付き合いなど、人との関わりから生じる「やらなきゃいけないこと」に、膨大な時間を費やしている人が多くいます。
ドイツでは、そのようなことに時間を使いません。
他人からどう見られているかを気にしないドイツ人は、上司に忖度したり、機嫌を取るような行動はほとんどしません。
日本では部下が上司に誘われて行く「飲みにケーション」が、交流の手段になっていますが、ドイツの職場ではほとんど見かけないです。もちろんゼロではないですが、あっても年に1~2回程度です。逆に、その会にはたいていみなさん参加します。
上司と部下の仲が悪いわけではもちろんありませんが、何かのお誘いがあったとしても、行きたくないと思ったら、部下は平気で「行きません」と断ります。
■表面的な付き合いには時間を使いたくない
日本の会社では、部下が上司からの誘いを「断りにくい」文化が昔から続いています。それはコミュニケーションを図る目的はあったとしても、部下の時間を「取っている」行為なので、ドイツではなるべく避けられます。
時間の貴重な価値をよく知っているドイツの社会人はみんな、自分軸で判断しています。
そもそもドイツ人は、狭く深くの人間関係を好みます。表面的な付き合いに時間を使うよりも、本当に一緒に過ごしたいと思える人とたくさん関わりたいと思っています。

初対面のときには、「この人は本当に信用できるのか」「自分に合う人なのか」を慎重に見極めます。その代わり、一度仲良くなった友人のことは、家族ぐるみで深い付き合い方をします。金曜日や週末に家に集まって、5~6時間話し続けることも日常茶飯事です。
■「広く浅く」の人間関係を築く日本人
一方で日本人は、「友だち100人」と言われるように、広く浅くの人間関係を築いているように感じます。
このことを象徴するのが、会話の内容です。
ドイツでは、その場にいない人の話はほとんどしませんし、噂話もありません。目の前にいる人が何を考えているのか、何が好きなのかということに興味を持ちます。読んでいる本、最近観た映画、遊びに行きたい場所、最近の社会情勢、政治のこと、世界で起きている話題……お互いのことや考えをよく知るために語り合うのが主流です。
日本では、会話の半分以上がその場にいない人の話題であることが多いように感じます。上司の愚痴や、困った親戚の話、または他人の噂話など、第三者をテーマにした話題で盛り上がっています。自分以外の第三者の話題に使う時間は、自分にとって、会話をしている相手とのつながりを感じて、幸福だなと感じる時間なのでしょうか。さまざまな事象に基づいて、お互いの考えや感じていることを語り合うことでこそ、相手との距離を縮めたり、相手のことを深く知ったりすることができて、信頼関係が生まれる大事な時間なのではないかと思います。


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松居 温子(まつい・あつこ)

ダヴィンチインターナショナル 代表取締役

ドイツ歴40年。父親の転勤に伴い8歳から13歳(小3から中2)までの6年間をドイツの現地校GrundschuleとGymnasiumに通い生活。ドイツ語の習得はもちろんドイツの文化・生活にどっぷりとつかって少年期を過ごした経験を持つ。慶応義塾大学法学部法律学科を卒業後、日本銀行での社会人経験を通じ、また社会の一員として社会的役割の大きい会社での複数の職務の経験を通じ、日本人の若者は目指したい道(各種の職人、スペシャリスト)があってもその目的に向かって歩む道が非常に少ない又は将来に希望が持てないという相談を数多く受けたことをきっかけに、ドイツのマイスター制度にそのソリューションを見出し、高野哲雄と共同でダヴィンチインターナショナルを設立、現在に至る。ドイツに関する情報を日々発信しており、インスタグラム12万人、YouTube2万人など、SNS総フォロワーは30万人にのぼる。

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(ダヴィンチインターナショナル 代表取締役 松居 温子)
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