■長い待機列だが「のんびりムード」
この1カ月、途切れることなく連日続くマスコミの大阪・関西万博関連ニュース。そのほとんどが運営のトラブルなどを取り上げるネガティブな論調だ。
一方、SNSなどの来場者の声はおおむね好評。しかし、そのなかには万博ファンや流行り物好きなアクティブ層など、いわゆる“万博ガチ勢”の声も多くあり、それらはポジティブで当たり前だろう。
では、実際はどうなのか。開幕日(4月13日)から1カ月半ぶりに万博会場を訪れた。熱狂的なコア層の来場が一段落し、一般層が多くなる落ち着いたタイミングかと思いきや、5月末の平日火曜日もなかなかの人出だった。
この日も開場1時間前の午前8時の東入場ゲートは、すでに長い待機列ができていた。ただ、夢洲駅からの移動はスムーズ。開幕日ほどの人の数ではなく、殺気立つ感じもない。のんびりとした雰囲気も漂っていた。
■万博の見どころのひとつ「2億円トイレ」
そして、8時50分ほどに開場となり、続々と来場者が入場。何人かに話を聞くと、ゲートの列に並んでから入場まで30~40分ほどかかっていたようだ。
会場内で押さえたいのが、まず2億円トイレだろう。
デザイン性を兼ねた若手建築家によるデザイナーズトイレは8カ所。そのうち2億円トイレと呼ばれる1億5000万~2億円近い費用をかけたトイレが3カ所あり、排水ポンプのトラブルで一部使用できなくなっていた「トイレ5」はそのひとつ。この日はすでにトラブルは解消されていた。
「トイレ5」は、カラフルな建屋のブロックを組み合わせたような外観で、内装も外装と同じカラー一色で統一されたクールなトイレ。男性用、女性用、ジェンダーフリー、バリアフリーとタイプごとにブロックのエリアが決まっていて、男性用もすべて個室になる。色とりどりのカラフルな場所から、1色に統一された個室に入ると、どこか落ち着ける不思議な感じがあるうえ、広過ぎも狭過ぎもしないスペースは使い勝手もいい。外観も個々の建屋がならぶエリア設計も、トイレっぽくないところがおもしろい。デザイン性と機能性を兼ね備えた万博の見どころのひとつになる。
ちなみに、ほか2カ所の2億円トイレは、屋根に登ることができて周囲の「静けさの森」と一体になるような木造の「トイレ6」と、傘のようなカラフルな屋根が日差しを取り入れる「トイレ3」。後者は寝転がれるスペースや、おむつ交換台、授乳室の個室がならび、パウダーコーナーや調乳スペースも設けられた休憩所になる。どの2億円トイレも日常からちょっと離れた空間であり、リラックスして気分転換することができる。
ほか、話題になっていたところでは、倒木の可能性の指摘を受け立入禁止になっているインスタレーション「文明の森」は、現在もまだ入れない。
ただ、すぐ目の前で見学でき、写真も撮れる。樹齢6500年のオークの亜化石130本以上で作られた森は、畏怖の念を抱くほど迫力がある。その木が持つ歴史と自然の力が感じられる。
最近話題になっている羽虫(ユスリカ)大量発生については、確かに海側の大屋根リングの屋上を歩くと飛んでいるのが目に入るが、昼の時間帯は大量というほどではなく、ほとんど気にならない程度だった。
■スシローとくら寿司は開幕当初と変わらぬ待ち時間
食事については一部を除いておおむね苦労することなく楽しめる。
その一部がスシローとくら寿司。くら寿司は10時20分に当日分の受付終了。スシローは11時の時点で230組待ち。待ち時間は案内していないが、夕方くらいになるとのことで、5~6時間待ちといったところか。ここだけ開幕当初と変わらぬ人が集中している。
■そのほかランチ事情は?
大阪グルメが楽しめる万博内最大規模の飲食スペース、サスティナブルフードコート「大阪のれんめぐり~食と祭EXPO」は、要予約の有料席の11~13時はエリアによって満席かほぼ満席。14時以降はどこも空いているようだ。
また、12時半時点で無料の立食テーブルは7割ほどが埋まっていたが、空きもある。この時間はフードコート外の屋根付き屋外テーブル(無料)はほぼ全席埋まっていた。
ほか、さまざまな食が楽しめる「外食パビリオン宴-UTAGE-」や、リングサイドマーケットプレイスや風の広場マーケットプレイスに入るレストランは、どこも昼時でも待ち時間なしで入場でき、ほかにもキッチンカーやカフェスペース、パビリオン内のレストランなどもある。一部人気パビリオンを除けば、どこもすぐに入れる。ランチ難民になることはなさそうだ。
■休憩場所には困らない
一方、休憩場所にも十分に余裕があった。大屋根リングの下は各所にベンチが設置されているほか、リングサイドマーケットプレイスの日除け傘付き屋外テーブルや、ウォータープラザの休憩スペースに立ち並ぶ竹ぶきの屋根のベンチなどは涼しげで、日を除けて一休みできる。
この日はどこの休憩スペースもすぐに座って休むことができた。問題は雨だろう。雨除けで数万人が一気に押し寄せさえしなければ、いつでも休みながら楽しめる。
週末の大混雑が話題になったオフィシャルストアは、東ゲートを入るとすぐにある。週末は入場までに2~3時間の行列ができる人気ぶりだが、この日は午前11時くらいまでは列はなく、その後も20~30分ほどの待ち時間だった。

東オフィシャルストアは、2店並んでいて入口と列が異なる別の店舗になる。左側は丸善ジュンク堂、右側が大丸松坂屋が運営するストアで、販売グッズの8割が共通で2割がオリジナル。文具系の小物などは左側のほうが数が多い印象だが、フィギュアやキーホルダーのガチャ(中身が分からないランダム購入)は右側しかなく、子どもたちに大人気だった。
■アメリカ館、フランス館、イタリア館は大混雑
パビリオンでは、人気のアメリカ館、フランス館は先着入場で10時にはすでにそれぞれ2時間半、40~50分の待ち時間。一部先着入場のイタリア館は3時間以上。一方、アメリカ館の隣のフィリピン館は20~30分ほど。ほか自由入場のパビリオンはほとんどすぐに入ることができ、列ができていても20分ほど。一部人気パビリオンに人が集中しているようだ。
たくさんの国が入るコモン館は、並ばずに入れて多様な国の民芸品や工芸品など文化を楽しめる。アフリカや中東の国々も多く、外務省による海外渡航勧告の危険レベル3(渡航中止勧告)やレベル4(退避勧告)といった国の出展もある。なかなか行く機会がないそういった国の文化を体験できるのもひとつの楽しみ方かもしれない。
コモン館Aのイエメン(レベル4)もそのひとつだが、工芸品の指輪やネックレス、ブレスレットなどアクセサリー類を販売しており、若い女性に人気だ。
元気いっぱいに「ノーマネー!」と値切り交渉をしていた強者の女子高生3人組は、定価の半額以下で購入していた。
■意外な穴場「EXPOホール」
この日は、客席と舞台が一体となった円形劇場のEXPOホール(シャインハット)に開場前から列ができていた。開催されていたのはMeta Osakaによる「メタバース・XR・AIアワード」と「VTuber音楽フェス」。XRアーティスト・せきぐちあいみ、グラビアアイドルでバーチャルヒューマン芸能事務所の代表を務めるくりえみのほか、業界の第一人者による日本の先端テクノロジーの社会実装に関するシンポジウムは、業界関係者だけでなく、一般来場者の興味も引いていたようだ。
VTuberは日本発のニッチコア世界的コンテンツだが、5組7人の人気VTuber(まりなす、白玖ウタノ、松永依織、somunia、MonsterZ MATE)が集結した音楽フェスには、国内外のファンがつめかけ盛り上がった。
EXPOホールは、意外な穴場かもしれない。万博から国内外へ広く発信すべき多彩な日本コンテンツのイベントや催事などがほぼ毎日開催されている。屋内なので、疲れたときや涼みたいときに立ち寄るのもいいだろう。
■5月に来場者数が急増した背景
熊本から来た20代会社員2人組は、事前予約の2パビリオンのほか、当日予約1パビリオン、先着入場で6パビリオンに入館して、丸1日楽しみ尽くして大満足の様子だった。また、事前予約なしでとりあえず来たという人も多かったが、誰もが口にするのが「楽しい。来てよかった」
実際に来てみれば、たとえ人気パビリオンの予約が取れなくても他にも見るものはいくらでもあり、見たいパビリオンの行列に長時間並んだとしても楽しめれば満足する。万博の楽しみ方は人それぞれであり、大多数の人が万博で過ごす時間を満喫している様子がうかがえた。

開幕から1カ月半がたった万博にいま、興味深い傾向が見られる。5月23日(金)、24日(土)の来場者数が開幕日(4月13日)を上回ったことが象徴的だが、5月10日以降、平日でも10万人を超える日が続き、4月と比較して明らかに伸びているのだ。
5月25日には関係者を含まない一般来場者数400万人を突破した。5月16日の300万人突破から9日間で100万人が来場しており、直近1週間の来場者数は4月の約1.5倍に上るという。
■好意的な来場者の口コミ
この背景には、万博協会によるゲート来場予約枠の拡大や夜間券の入場時間を1時間前倒して午後4時にするなど運営による受け入れ容量の拡大もあるが、大きな要因になっているのは来場者の口コミだ。
マスコミは相変わらず「並ばない万博のはずなのに並ぶ」「予約が取れない」「休む場所がない」といったネガティブ論調が続くが、一方でインスタグラムやTikTok、XなどSNSには実際に訪れた来場者の楽しそうな映像や画像などの好評の声が圧倒的に多い。それらの投稿には、ユーザーの高評価が多くついている。
インスタグラムやXなどSNSの投稿数を表示するYahoo!リアルタイム検索では、「#expo2025」「#大阪・関西万博」の投稿数は4月29日~5月1日がピークになり、その後GWから5月中ほぼ横ばいのポスト数を維持している。ちなみに「#expo2025」は直近1カ月(4月29日~5月28日)で約4万ポストがあったなか、感情の割合がポジティブ93%、ネガティブ7%となっている(Yahoo!リアルタイム検索「ポスト数グラフ」より)。
■GWを境に明らかに潮目が変わっている
万博を取り巻く世間の空気は、GWを境に明らかに潮目が変わっている。変わらないのはマスコミの論調だが、それを上回る、来場者の声がネットにはあふれている。
開幕当初はコア層の万博ガチ勢が押し寄せていたが、混雑が一段落してからの参加を考えていた一般層がGW前後から増え始め、その口コミの影響が表れているのが現在なのだろう。加えて、万博ガチ勢のリピーターが多いことも来場者数の増加に拍車をかけているかもしれない。
この日、会場内をまわって感じたのは、ちょっと歩くごとに見たことのないような景観に囲まれ、その時間だけでワクワクして楽しいということだ。散策するといろいろな建造物があり、森がある。森の中にも近未来的な不思議なスペースやオブジェがあり、途上国の学校のような建屋もある。地球そのものがそこには息づいている。
子どもたちはみな目を輝かせて興奮していた。世界中の文化やテクノロジーが集結する万博は、彼らにとって未知の世界であり、すべてが新鮮だろう。それは大人にとっても変わらない。
■リアルの体験から得る圧倒的な情報量
目的を持って訪れる人はもちろん、軽い気持ちで来てみた人こそ、衝撃は大きいかもしれない。ネットで何でも情報を得ることができるいまの時代に、リアルの体験から得る圧倒的な情報量と感情の揺れの価値に気づかせてくれる。そこは、子どもでも大人でも、新たな気づきや学びがある、貴重な場であることは間違いない。
この日、開幕日から1カ月半ぶりに会場を再訪して1日まわった結論は、「万博に行っておくべき」だ。並ぶところもあるが、並ばない楽しみ方もあるし、会場内を歩くだけで思っていた以上に楽しい。興味がない人ほど行ってみると楽しめるに違いない。
せっかくこの時代に生まれて、一生のうちに何度もあるわけではない万博が開催されているというのに、体験しないのはもったいない。それは学びにもなるし、話のネタにもなる。人生のいつかどこかで役に立つだろう。
■行くなら6月の火曜・水曜・木曜が狙い目
ではいつ行くのがいいか。集客の本番は7月からの夏休みシーズンだ。9月に入れば、残り1カ月となり駆け込み需要で一気に混みそうだ。そうすると、梅雨時にはなるが、6月しかない。
オススメは6月の平日。加えて、5月半ば以降の入場者数推移を見ると平日でも金曜と月曜は混む傾向があるので、狙い目は火曜・水曜・木曜だ。暑さも落ち着く午後4時からの夜間券で7時間滞在すれば、夜のショーも含めて十分楽しめるだろう(平日は関西圏の小中高校生の校外学習も多いが、ほとんどが9時に入場し14時に帰っていく)。
気になる1日の費用は、できるだけ出費を抑えて楽しんだとして、食事2000~3000円(1回)、カフェ1000~2000円(1回)、ドリンクやお菓子代500~1500円、グッズ代5000円といったところか。1万円ほどでそれなりに楽しめて、2万円あれば存分に食べて飲んで遊べるだろう。
加えて、入場料(1日券7500円、平日券6000円、夜間券3700円/大人)、交通費、宿泊費。東京からなら日帰りも可能。混む日だと東ゲートの入退場にそれぞれ1時間は見たほうがいいが(西ゲートはバスの予約が取れればほぼ待ち時間なし)、それでも6~7時間は場内を楽しめる。
無理せず、気楽に、ちょっとのぞいてみる感覚で一度行ってみたらどうだろう。きっとまた行きたくなるに違いない。

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武井 保之(たけい・やすゆき)

ライター

エンターテインメントビジネス・ライター、編集者。音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスで活動中。映画、テレビ、音楽、お笑いを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを分析や考察する。

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(ライター 武井 保之)
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