暑さ対策に欠かせない扇風機。高機能なタイプも増え、3万円を超える扇風機が続々登場しているが、数千円で購入できる扇風機もある。
The GreenFanは、特許技術である二重構造の羽根を採用し、速い風と遅い風を同時に発生させることで、広がりのある柔らかな風を実現している。また、DCモーターを採用しており、ごく弱い風から強い風まで幅広く調整できることや、無駄をそぎ落としたデザインも特徴だ。2010年に発売された当初は、数千円の扇風機が主流だったため、3万円を超えるこのモデルは大きな話題を呼んだ。
2025年の現在販売されている製品も、初代の扇風機とほとんど変わっていない。基本的な構造や機能を大きく変えていない理由は、継続的に支持を集めており、大きな改良を求められていないためである。「変えないこと」がブランド価値のひとつとなっており、あえて大幅なアップデートは行われていないと考えられる。インテリアとの親和性も高く、時代の変化に左右されないデザインであることも、その理由のひとつだろう。この「変えない強さ」が、結果としてロングセラーにつながっているようだ。
現在販売されているThe GreenFanは、公式サイトで3万9600円。初代は3万3800円だったので、価格はさらに上がっている。他の扇風機でも、ここまで高価なものはまだ少ない。
■昔ながらのベーシックなスタイルのニトリ
一方、ニトリの扇風機(FM02NG)は、昔ながらのベーシックなスタイルで、ACモーターを採用している。扇風機の価格差は、主にDCモーターかACモーターかの違いによるところが大きい。DCモーターは超微風から強風まで幅広い風量調整が可能で、消費電力が少なく、運転音も静かなため、近年人気が高まっている。
風量の調節は3段階しかなく、シンプルな操作性となっている。価格はニトリの公式サイトで3990円。性能差があるとはいえ、横に並べてみると本体価格において10倍もの差があるのは大きすぎると感じられる。
■消費電力と「トータルコスト」は別問題
電気代で比較すると、The GreenFanの消費電力は最大で20Wのため、1時間あたりの電気代は約0.64円。一方、ニトリの扇風機は最大で35Wで、1時間あたり約1.1円となる。これを8時間使用した場合、The GreenFanは約5.1円、ニトリの扇風機は約9円となる。
電気代だけを見れば、DCモーターを搭載したThe GreenFanのほうが経済的だが、本体価格に大きな差があるため、暑い期間に毎日10年使用した場合を計算しても、トータルコストにおいてはニトリの扇風機よりもはるかに高い。よく「DCモーターは電気代が安い」と言われるが、今回のように価格差があると、日々の電気代はニトリの扇風機のほうが高いものの、本体価格を含めるとThe GreenFanには及ばない計算となる。
■弱いソヨソヨとした微風も得意なバルミューダ
ただ、DCモーターの差だけでなく、The GreenFanはほかも手が込んでいる。羽根は二重構造で合計14枚となっており、内側の速い風と外側の遅い風がぶつかり合い、直進的ではなく、ふわっと広がる風となる点が大きな特徴だ。DCモーターを使用しているため、弱いソヨソヨとした微風も得意で、一番弱にすると、5mほど離れたところでかすかにやわらかい風が当たる程度だ。強すぎる風が苦手という方には、心地よさをアピールしている同製品はストレスなく使えることだろう。
一方のニトリの扇風機は、羽根が5枚。風量は「弱」「中」「強」の3段階で、一番弱にしても風が強い。同じように5m先で同じように風「弱」にしてみたところ、比較的狭い範囲で風が肌に当たる感覚がある。
風速計を使って風の強さを計測してみた。扇風機から約10cm離れた位置で測定したところ、The GreenFanの風量設定は最小から最大まで4段階あり、それぞれの風速は1.6、2.0、3.0、5.4(m/s)という結果になった。段階ごとの風速の差が大きく、風量の調整幅が広いことがわかる。
一方、ニトリの扇風機は3段階で、風速は4.2、4.7、5.9(m/s)。どの段階でも比較的強めの風が出ており、変化はそれほど大きくない。弱にしても、かなり強いことがわかる。スモークを使ってどちらも最弱運転で撮影してみたが、The GreenFanは風がふんわり広がっており、ニトリの扇風機はスピーディな風でまっすぐ風が出ていることがわかる。
■音については差がある
音についても、騒音計で計測してみたところ、The GreenFanは「弱」で45dBだったが、ニトリの扇風機は80dB。体感的にも、ニトリの扇風機のほうがモーター音や風切り音が大きく感じられる。
音が静かな環境を求められる時、例えば就寝時やデスクワークなど、静かで優しい風を求める場面にも向いている。最小風速でもそよ風のように穏やかで、長時間浴びても体に負担が少ない。一方、ニトリの扇風機は常にしっかりとした風が出るため、暑さが厳しい日中や、短時間でしっかり涼みたいときに適している。
体感の違いとしても、The GreenFanの風は拡散性があり、部屋全体にふんわりと広がる印象がある。対して、ニトリの扇風機の風は直線的で、ある程度の距離を保っていても力強さを感じるので、しっかり涼みたい人に向いている。
■操作性はシンプルなニトリに軍配
The GreenFanは、便利な機能を備えている。
ほかにも、気になったところがある。風量が4段階の切り替えしかないことだ。DCモーター採用の扇風機は、8段階以上に設定できるものが多い。自分好みの風量に細かく調整したい人にとっては、物足りなさを感じるだろう。
また、高さ調整もトールサイズとショートサイズの2種類しかなく、ポールを外さないとできない。手軽に高さ調整ができないのは少々不便だ。羽根とモーターが付いているポールは重く、接続時に指をはさみそうになることがあり、少々怖かった。
ニトリの扇風機はタイマー機能がある。操作はシンプルだが、The GreenFanと比較すると使いやすい。
The GreenFanはデザインを大事にするバルミューダ製品とあって、特に表示部がわかりにくい。そういった点では、圧倒的にニトリの扇風機のほうが手軽さは勝っている。ただ、羽根の裏側で、高い位置に操作部があるThe GreenFanは、腰をかがめず操作できる。ニトリの扇風機は一般的な扇風機と同様に台座にあるため、しゃがむ必要がある。リモコンも付属していないので、その点は注意が必要だ。
■別売りのバッテリーで場所を選ばず使える
The GreenFanは、別売りの「Battery & Dock」を使用することで、コードレス扇風機としても活用できる。最大約20時間の連続使用が可能で、充電は付属のドックに本体を置くだけ。アダプターの抜き差しも不要で手間がかからない。電源コードが不要になることで、キッチンや脱衣所、寝室など、電源の位置を気にせず自由に設置でき、移動もスムーズ。家中どこでも快適な風を届けられるのはうれしい。また、バッテリー機能があらかじめ内蔵されているわけではなく、必要に応じて後から追加できる仕様であるため、ムダがなくスマートな構成といえる。
ただし、こちらが公式サイトで1万3200円。Battery & Dockだけでニトリの扇風機を3台も買える計算となる。そう考えると、やはり庶民の感覚では高いと感じてしまう。
■納得のバルミューダ、価格以上の価値はあるニトリ
The GreenFanは価格こそ高めだが、静音性や風の質、デザイン、省エネ性に優れており、「快適さ」や「長く使う価値」を重視する人には魅力的な選択肢となる。一方、ニトリの扇風機は手ごろな価格と実用性を兼ね備えたコストパフォーマンスの高い製品で、短期間の使用やシンプルに涼を取りたい場面にはしっかり応えてくれる。
両者にはそれぞれ異なる魅力があり、使う場面や求める快適さによって向き・不向きが分かれる。The GreenFanは、やさしい風や静かな動作、省エネ性、そしてインテリアになじむデザインを求める人に向いている。対してニトリの扇風機は、価格を抑えつつも十分な風量があり、「とにかく涼しくなりたい」というニーズにぴったりだ。
実際に2台を並べて使ってみた印象としては、昨今の原材料費や製造コストが上がる中、3000円台でここまでしっかりとした製品を出しているニトリは素直に評価したい。もちろん、The GreenFanの高い機能性には及ばないが、約10分の1の価格で購入できることを考えれば、「強めの風でしっかり涼みたい」という人には十分お買い得といえる。最終的には「どんなシーンで、どんなふうに使いたいか」によって選ぶのがポイントになるだろう。
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石井 和美(いしい・かずみ)
家電プロレビュアー
1972年生まれ。出版社の編集者を経てフリーランスに。日用品や家電のレビューを行うライターとして活動を始め、家電レビュー歴は15年以上。一戸建ての「家電ラボ」を開設し大型白物家電をはじめ生活家電の性能や使いやすさをテストしている。
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(家電プロレビュアー 石井 和美)