医療ドラマや映画を通して、看護師という職業に憧れを抱く人も多いのではないだろうか。ただ、実情は違う。
男性看護師のえぼしさんは「一日の流れの中に、急変が起きたら対応したり、退院の準備、看護学生が実習に来ていれば指導などが追加される。医療ドラマや映画は、業務のワンシーンしか映していない」という――。
※本稿は、えぼし『男性看護師ですが何か?』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■採血が一発で決まると心の中で小さくガッツポーズ
看護師の仕事内容は、医療ドラマや映画などで、なんとなく知っている方も多いかもしれません。しかし、細々とした一日の流れを知っている人は、なかなかいないのではないでしょうか。そこで、医療ドラマや映画では描かれていない部分を含めた、看護師のリアルな一日をお伝えしようと思います。一般病棟、集中治療室、精神科など科によって異なりますが、今回は僕が勤めている、一般病棟の基本的な流れを説明します。
出勤したらまずは、自分が受け持つ患者さんの「情報収集」から始まります。30分ほどで患者さんの状態の把握、検査の予定はあるかなど確認し、今日のスケジュールを頭の中でざっくり組み立てます。この段階ではまだ、業務は始まっていません。いわゆる、「前残業」というものです。情報収集が終わったら朝会が始まり、本日の入退院数の把握を行い、夜勤者から申し送りを受けます。

次は、清拭やオムツ交換といった「清潔ケア」に回ります。清潔ケアと一緒に包帯を巻き直したり、傷があればその処置も一緒に行ったりします。続いて採血ですが、血管が細く出にくい人は血管を探すのが難しく、朝立てたスケジュールが押してしまうため、ここは看護師の腕の見せどころです。難しい血管の採血が一発で決まると、心の中で小さくガッツポーズをしています。
■お昼休憩も患者に異変があれば食事は中断
採血が終わったら、体温測定や血圧測定をして、コミュニケーションを取りながら病状の観察をします。なんてことをしていたら、もうお昼時で、昼食が運ばれてきます。昼食前にやるべきことも多く、血糖測定やインスリン注射をしなければいけません。本当に、バタバタです。血糖測定の前にお食事が運ばれてしまった際は、「まだ食べないでーーー‼」といった、悲鳴に近い声がよく飛び交っています。その後は、食事介助が必要な患者さんの対応をして、お昼休憩です。お昼休憩といっても、患者さんに異変があれば、食事は中断して飛んでいきますし、なかなかゆっくりした休憩は取れないのが現実です。
お昼休憩が終われば、「カンファレンス」を行います。
退院に難渋している患者さんに対し必要な支援やケアなどの検討を、医療ソーシャルワーカーや理学療法士などの多職種で話し合います。カンファレンスの後は、午後にもう一度、患者さんの観察に伺います。しかし、リハビリを行っていたり、訪室しても患者さんが不在だったりすることが多々あります。
■確認事項も多く定時にはなかなか退勤できない
その間にカルテの入力を行い「今日は早く帰れそうだ!」と思った16時頃に、緊急入院依頼が来るのがあるあるです。いつも、そのくらいの時間に入院されるんですよね。入院の受け入れ準備をしつつ、夜勤のスタッフに日中の申し送りを行います。申し送り後の17時くらいに、緊急入院の患者さんが病棟に上がってきて対応をします。緊急入院では、書類の作成や持参薬の確認といった確認事項が多いため、時間かかってしまいます。そして、本来は17時退勤なのですが、帰宅時間が19時頃となってしまうのです。
これがざっくりとした、一日の流れになります。この一日の流れの中に、急変が起きたら対応したり、退院の準備、看護学生が実習に来ていれば指導などが追加されたりします。医療ドラマや映画がいかに、業務のワンシーンしか映していないかがおわかりいただけたことと思います。
看護師って結構大変そうでしょ?
■夜勤は3人で対応…無理して腰が逝きかけたことも
「夜勤って何やっているの? 患者さんは寝ているだけで、暇でしょ?」たまにこんな質問をされることがあります。確かに、夜勤の時間は患者さんも寝ているし、やることがないと思われがちですが、実はそうではありません。
昼間はぐっすり寝て、夜中に覚醒する、夜行性の患者さんも存在します。急に「これで帰ります」と着替えて、荷物をまとめて帰ろうとする患者さんもいます。点滴も酸素も繋がっているのに、どうやって帰るというのでしょうか。しかも夜中1時です……。そんな患者さんの対応をしたり、緊急入院が来たりすることも珍しくありません。夜勤では看護師が3人で、極端に少なく、何をするにしても時間がかかってしまいます。
あとは、翌日退院される患者さんの準備のチェックをしたり、夜分の点滴を作って繋げたり。オムツ交換もします。昼間は20人の患者さんを15人くらいのスタッフで回りますが、夜勤はたったの3人ですからね。オムツ交換の最中にナースコールが鳴る場合も多いので、なかなか終わらないケースもあります。
無理して1人で行い、ぎっくり腰になったスタッフも何人か見てきました。僕も、腰が逝きそうになりかけたことは何度もあります。体格が小さい患者さんなら平気なのですが、体格が大きい患者さんだと、1人では危険です。救急外来に心肺停止の患者さんが運ばれてきたら、応援要請がかかり、外来に行くこともあります。
■中途半端な2時間の仮眠時間で不機嫌になるスタッフも
もちろん、落ち着いている夜勤の日だって存在します。その際に看護師は何をして過ごしているのかというと、お菓子を食べたり、本を読んだり、「看護サマリー」という、患者さんが転院、退院などする際に持って行ってもらう、転院先の看護師やケアマネージャー宛てのお手紙を書いたりしています。書く内容は、入院中の経過や現在の問題点などです。昼間は検査なども多く、バタバタして、まとまった時間が取りづらいので、夜勤の空いている時間に書くことが多いです。
22時~翌5時の7時間を夜勤スタッフ3人で割り振って、1人2時間ほど仮眠休憩が取れます。でも、2時間は中途半端すぎるので、寝起きが最悪なんです。この上なく体調が悪いです。そのため、仮眠明けすぐは、機嫌が悪いスタッフもたまにいます。
眠いのはお互い様だから「不機嫌になるのは、やめてくれ」と思うこともしばしば(笑)。落ち着いている夜勤では、仮眠時間を21時くらいから取れることもたま~にあるんですけどね。まぁ、たまーーーにです(笑)。
このように、夜勤は勤務時間も長く、やることも意外と多いんです。急変が起きれば休む時間なんてありません。だから、もう「夜勤は、患者さん寝ているだけで、暇でしょ?」なんて言っちゃいけませんよ。白衣の天使が、成敗に行くかもしれません。
■日進月歩の医療業界…日々勉強の毎日
社会人になったら勉強から解放だ‼ と看護学校卒業間近は思っていました! しかし、そんなことはありません。どの業界も、日々勉強の毎日だと思います。
医療業界なんて尚更です。医療の世界は日進月歩どんどん医療器具や薬などが新しくなるので、僕らもそれについていかなければいけません。薬の名前だけ変わる時もあります。
5文字だった名前が13文字へ……。「なんで名前、長くした⁇ もっと覚えやすい名前にしてくれや!」と、毎回思います。
さらに、看護師は数年に一度、病院内で病棟を異動することがあります。一般の会社でたとえるなら、部署異動に似ています。ある社員が、営業部からマーケティング部に異動するように、看護師も循環器病棟から脳神経病棟へといったようにです。病棟を異動するにあたって、見る科が変わるわけですが、これが本当に大変です。ずっと、心臓の疾患しか見てこなかったのに、来月から脳の疾患を見るなんてそんなすぐには難しいんです。観察項目も違えば、飲んでいる薬、点滴など、全てが違うわけです。
せっかく前の病棟に慣れてきたと思ったら異動なんて切なすぎます。異動してそこでまた、疾患から薬の勉強など一から始めなければいけません。あと、人間関係も一からなので、誰がその病棟のボスなのか見極め、接し方の勉強もしないといけませんね。
■看護学生時代の恐怖「国試に落ちたら、ただの人ですよ?」
看護学生時代を思い返すと、寝るひまもないくらい勉強していました。看護師は国家試験が待ち受けていますからね。看護学校の先生の口癖はこうでした。「国試に落ちたら、ただの人ですよ?」。なんというパワーワードでしょう。緊張感ある言葉を投げかけることは必要だと思いますが、緊張を通り越して恐怖ですよ。でも、みんなそんな言葉に負けず打ち勝ったんですけどね。
看護師の世界にも、検定や資格の取得などをする人がいます。看護業界に携わっていないと聞き慣れないかもしれませんが、認定看護師や専門看護師といった上位資格が存在します これらの資格は特定の分野、循環器だったり消化器だったりのスペシャリストと言ったらわかりやすいかもしれません。
■心不全患者のサポーターとなるための資格取得
僕は心不全療養指導士という資格を持っています。あとは、去年には心電図検定の2級を受験し、合格することができました。なぜ、取得しようと思ったのか。僕の働く循環器病棟では、心不全という病気が大半を占めており、最近は在宅療養を望む患者さんの数が増えています。
心不全療養指導士とは、心不全の治療方法の専門家であるだけでなく、運動指導や栄養相談、生活習慣へのアドバイスなど、心不全患者さんの日常生活の支援も行う心強いサポーターです。さらに、心不全の患者さんの数は、高齢化に伴い増加しており、心不全療養指導士の社会的なニーズも増えているため、取得してみようかなと思ったのがきっかけです。
現在では、その資格を活かし、心不全看護師外来を立ち上げ、日々心不全患者さんの療養相談・指導を行っています。
■切実なお願い「病院でやっちゃダメなこと」
また、循環器病棟では、心電図を装着している患者さんがほとんどです。しかし、心電図の波形は奥が深く、ベテランの看護師でも判断に迷う場面が多いです。僕も心電図は得意とは自信を持って言えなかったのですが、心電図検定2級を取得したことで知識が増え、心電図を目の前にしても臆せず、自信を持って判断できるようになりました。今後は、病棟での心電図学習会などを開催する予定です。
このように、資格の取得は、努力の末に取得できたという成功体験による自信や自己効力感を得られます。ただ、いくら資格や検定を取っても、お給料には反映されない病院がほとんどだと聞きます。そのため、こういう検定や資格を取る人たちは自分のスキルアップのために取得しているんです。そのことをこう呼びます。自己研鑽と。
病院には多種多様な患者さんが入院しています。そんな患者さんが、実際に起こしたNG行為をいくつか紹介したいと思います。
まずは、ちょっと外まで買い物です。基本、入院中の患者さんは、院外に出ることはできません。もし、どうしても外に行く用事がある時は、医師、病棟師長の許可を得た上で外出届けを提出し、やっとこ外出できるのです。たかが外出くらいと思うかもしれませんが、勝手に外出し、外で怪我をして帰ってきた場合、管理がなっていないとされ、病院の責任になってしまいます。
■トイレかと思ったら、パチンコと牛丼屋に行っていた
血圧などを測りに訪室したら、患者さんがおらず、「あれ? トイレか? リハビリ?」と想像していました。時間が経ち、患者さんの姿をやっと見つけたのですが、買い物袋をぶら下げてルンルンで歩いていました。どこに行っていたのかと問えば、パチンコを打ってから牛丼を買ってきたと言います。はい、論外です。ニコニコしているあたり、パチンコの結果は良かったのでしょうが、論外です。勝手に病院の外に出れば、離院という形になり、看護師の間でブラックリスト入りになってしまいます。勝手な外出は、お控え願います。
次は、自分の食べきれないご飯を、別の患者さんに「あんたいるか?」と言い、食べさせてしまうことです。高齢者の患者さんにありがちです。捨てるのは勿体ないということから、そのような発想になるのでしょうが……。しかし、患者さん一人一人、食事形態が違い、お粥を食べている人に普通のご飯を食べさせたらムセてしまう可能性があります。カロリーのコントロールをしている患者さんも多いため、良かれと思っての行為だとは思いますが、自分の食事は自分だけで召し上がってください。
■なぜ病院で吸っていいと思ったのか…
あとは、喫煙です。言わずもがな、病院で喫煙なんて許可されるわけがありません。入院時にも禁煙の説明はしているのですが、抗えないんですかね。いつどこで吸ったのかはわかりませんが、においで、一瞬でバレます。患者さんのテーブルには、消臭スプレーが置いてあり、「あぁ、これで一生懸命、においを消そうとしたんだ……」と思いましたが、全く意味がありません。
その病室にタバコのにおいが残ってしまうと、次に入院する患者さんからも苦情がきてしまいます。そもそも、タバコの吸いすぎで体調を崩し入院したというのに、なんということでしょう。タバコの煙で火災報知器が作動したら、とんでもない騒ぎになってしまいます。もう一度言います。病院は禁煙です。入院したことを機に、タバコをやめてください。健康のためです。
このように、病院では様々なNG行為があります。今回書かせていただいたのはNG行為のほんの一部に過ぎません。全員が快適に過ごせる環境を作るために、他者への配慮を心がけて行動していただければ、幸いです。以上、現役看護師からのお願いでした。

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えぼし(えぼし)

看護師

1997年生まれの現役看護師。長野県上田市で生まれ、佐久で育つ。YouTubeでメンズ看護師の日常やあるあるを投稿しており、共感者が続出中。チャンネル登録者数は13万人を超える。(2025年2月現在)

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(看護師 えぼし)
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