社会生活の中から自分で“問い”を見いだし、課題を立てて、調査・分析、まとめ・発表を行う「探究型学習」。2022年度から高校の学習指導要領に組み込まれたこともあり、探究型学習を導入する中学、高校が急増している。
「従来の知識習得型教育と違って“正解”がないのが探究型学習の大きな特徴です」
こう語るのは、コアネット教育総合研究所の福本雅俊さんだ。
では、本当の探究型学習を実践している学校を選ぶポイントは何か。「一つは、教育活動全体を貫くコンセプトが探究型学習を意識した設定になっていること。もう一つは教職員の資質です。正解のない学びだからこそ、教員にも探究し続ける資質が求められます」(福本さん)
一方、声の教育社の後藤和浩さんは、別の視点を提示する。「探究型学習はいきなりできるものではありません。高校生になって質の高い探究を行うには、中学時代からのトレーニングが必要です。その意味で中高一貫校というのは有利。また、受験勉強の負担が少ない大学附属校は、高校3年まで探究が続けられ、より高い成果が期待できます」
福本、後藤両氏に挙げていただいた「お薦めの探究型学習校」を見ていこう。
■中村【東京都・江東区/女子校】
6年間で数百回のプレゼン経験
「探究発表のテーマの自由度がとにかく高いんです。普段から型にはめるような指導はしていないことがうかがえます。校内の雰囲気はいつ行っても活気があり、生徒も先生も楽しそうにしているのが印象的です」(後藤さん)
毎年2月には、各学年が1年がかりで探究した内容を発表する「NQ(Nakamura Quest)フェスタ」が開催される。
生徒の自由な探究心がいかんなく発揮されるのが、高2による個人探究のポスターセッション。
地球環境からジェンダー問題、はてはぶりっ子からモテテクまで、おもしろそうな探究テーマがずらりと並ぶ。発表者はポスター3枚を張りだし、ショルダー型の拡声器をぶらさげて、取り囲む聴衆に発表を行う。
「敬語8割、ため口2割! これ、ほんと効くから持って帰って!」と露店販売ばりの口上でモテテクを発表する生徒も。中学時代から数百回の発表経験を積んできただけに、プレゼン力はどの子も高い。これが学校中いたるところで繰り広げられるさまは圧巻だ(拡声器は、周囲の発表の声に紛れないため)。
「ただ楽しいだけではなく、東大に推薦入学を果たす生徒も出てきており、探究型学習の成果が実績として表れ始めています」(後藤さん)
■佼成学園【東京都・杉並区/男子校】
アメリカの投資家に英語で売り込み
「部活で日本一になる、勉強で難関大を突破する、グローバルな世界で探究活動をするなど、いろんな生徒がいて、しかも生徒同士がお互いを認め合っている。生徒と教師、生徒同士の距離が近い、のびのびとした校風が魅力ですね」(福本さん)
高校は「難関国公立コース」「総合進学コース」「グローバルコース」に分かれていて、それぞれに探究プログラムが用意されているが、特徴的なのがグローバルコースだ。
高1でアントレプレナーシップの基礎を学ぶと同時に、ベトナムを訪ねて現地の人と交流しながら、社会課題解決の方法を提案する。高2では自分の興味や強みと社会課題を結び付け、解決のためのプロトタイプを作成。作成したプロトタイプをアメリカに持ち込み、現地の投資家や起業家にプレゼンテーションを行う。
「アメリカの本物の投資家に英語で投資を呼びかけるのですから、英語力はもちろん、プレゼン能力も相当なものが求められます」(福本さん)
生徒の中には在学中に起業を果たすつわものもいる。
小中学生が金融について学べるボードゲームを製品化して販売。この実績を武器に、総合型選抜で慶應義塾大学に入学したというから、その力は本物だ。
科学分野でも「イシガイ目二枚貝の保全」の研究でJSEC2024朝日新聞社賞を、「ポンポン船の推進力はパイプ形状によって変わるのか?」の研究でサイエンスキャッスル2024を受賞するなど、たくさんの生徒が優秀な成果を残している。
■ドルトン東京学園【東京都・調布市/共学】
毎日が文化祭の前日みたいな雰囲気
「いつ行っても、文化祭の前日みたいな雰囲気です。生徒たちは個人、または少人数のグループで、それぞれ興味のあることに一生懸命取り組んでいます。それが実に楽しそう」(後藤さん)
開校7年目の新しい学校である同校は、米国の教育家ヘレン・パーカストが100年ほど前、詰め込み教育への問題意識から提唱した「ドルトンプラン」という教育メソッドで運営されている。
「主体的に学び、探究・挑戦を続ける人材を育成するという、学習者中心のメソッドです。狙いどおりに、生徒たちは何を学ぶべきか、何のために勉強すべきかをわかっている。能動的に学ぶ姿勢が、文化祭での取り組みに似ているのかもしれません」(後藤さん)
自分の学びを広げ、深めるための「ラボラトリー」という時間が、探究型学習の中核になっている。
「学年ごとのテーマに取り組む“基礎ラボ”、個人の興味・関心を深める“探究ラボ”があり、探究ラボはさらに、『珈琲ラボ』や『水中ロボット制作ラボ』などテーマを選べるものと自分でテーマを決められるものに分かれています。生徒たちは毎時間、わくわくしそうです」(後藤さん)
年間のエネルギー消費量収支ゼロを目指した校舎「STEAM棟」での学びも自慢だ。
■田園調布学園【東京都・世田谷区/女子校】
オリジナルスイーツが商品化!
中等部では探究活動の準備段階として、“デザイン思考”を学ぶ。

「デザイン思考とは、ユーザーの視点から課題解決策を創造する思考スキルのこと。『教室での困りごとを解決する』など、身近な素材を使いながらデザイン思考のプロセスを学んでいくのです」(福本さん)
高等部からは本格的な探究プログラム「BOTTOプロジェクト」がスタート。
「『赤って666色あんねん』『ディズニーから考える人種差別』など、ユニークなテーマが多くて驚かされました。同校は『問いを立てること』を大切にしています。獲得した知識を活用して、まずは問いを立てること。そして、その問いに対する自分なりの解決策を創造することまで生徒に求めています。毎年2月には全校挙げての探究学習発表会がありますが、非常に質の高いものが多く、参加するのを楽しみにしています」(福本さん)
2024年は、「田園調布を代表するスイーツを提案しよう」というプロジェクトに取り組み、生徒のアイデアをもとにしたスイーツが実際に商品化されることが決まったそうだ。
■常翔学園【大阪府・大阪市/共学】
併設大学でゼミ活動を体験
「高校生のうちに大学のゼミ活動を体験できる珍しい学校です」(福本さん)
というのも、経営母体である常翔学園が、大阪工業大学、摂南大学、広島国際大学という三つもの大学を併設しているから。中1の2月には、大阪工業大学に赴いて「ものづくり体験」を実施し、その強みを発揮する。
高校から始まる「ガリレオプラン探究」では、「イノベーション」「物理」「化学」「生物」など9つのゼミのいずれかを選択。個人またはグループで研究活動を行うわけだが、このとき3大学の研究室によるレクチャー、アドバイスなどのサポートが受けられるのだ。「血栓の生成を防ぐ人工血管」など、かなり専門的な研究も行われている。

「関西ではまだまだ従来型の教科指導で進学実績を誇る学校が多いのですが、そんななか、20年前から探究型授業を行っている同校に注目が集まっています」(福本さん)
■雲雀丘学園【兵庫県・宝塚市/共学】
青いバラの開発から味噌づくりまで
「実は、学校の設立にサントリー創業者の鳥井信治郎氏が関わっていて、初代理事長を務めています。サントリーの文化である『やってみなはれ』の精神が校風にも感じられますよ」(福本さん)
挑戦心や主体性、課題解決能力を備えた人材の育成を目指してきたが、希望制の課外活動「探究プロジェクト」が特にユニークだという。
「主に校外や長期休暇中に行われるプロジェクトで、大学や企業と連携しておもしろい研究をしています」(福本さん)
サントリーフラワーズと連携した「青いバラの開発」、産経新聞社と連携した「新聞記者入門」、和歌山県のアドベンチャーワールドとコラボした「私たちとペンギンの未来~動物とSDGsのかかわりを学ぶ~」など。
教員が課外で行う「探究ゼミ」も人気だ。「日本の交通網」や「手作り味噌(みそ)の商品化に至るまでのプロセスを学ぶ」など、教員の趣味や嗜好(しこう)も反映されていて、大人でも気になる本格的なテーマが多い。
教える人

福本雅俊さん

コアネット教育総合研究所 横浜研究室室長。教育現場のコンサルタントとして数新設校、学校改革。多くの学校を訪問。のカリキュラムづくりも請け負う。
後藤和浩さん

声の教育社社長。私立公立中学・高校500校の過去問を発行。YouTube「声教チャンネル」の取材を含め年間100校を訪問。


※本稿は、『プレジデントFamily2025春号』の一部を再編集したものです。

(プレジデントFamily編集部 文=田中 義厚)
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