※本稿は、内藤誼人『やばい心理学』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。
■ハッピーになる曜日、ブルーになる曜日
日曜日の夕方くらいになると、「ああ、明日から仕事か、イヤだなあ」という気持ちになることがあります。そうして月曜日の朝になると、どうも気分が乗らないとか、やる気が出てこないという経験がある人もいるでしょう。“ブルーマンデー症候群”と呼ばれる現象です。
「ブルーマンデー」という言葉が一般的に使われるくらいですから、たいていの人は本当に月曜日には気分が落ち込んでしまうのでしょうか。それとも、そんなこともないのでしょうか。
カナダにあるブリティッシュ・コロンビア大学のジョン・ヘリウェルは、1年半もかけた大規模調査を行いました。のべ50万人を超える人たちから、曜日ごとに、幸福感、楽しみ、気分の高揚(こうよう)などのデータを集めたのです。
その結果、「ブルーマンデーなどというものは存在しない」ということがわかりました。平日はだいたいどの曜日も同じだったのです。月曜日に気分が乗らない人もいましたが、そういう人は、月曜日だけではなくて、火曜日も水曜日も気分が乗らない人でした。
一方でヘリウェルは、「日曜日になるとウキウキして、ハッピーな気分が高まる」という明確な事実があることを確認しました。
ブルーマンデーはありませんでしたが、日曜日の気分の高揚は確認できたわけです。ヘリウェルは、これを“ウィークエンド効果”と名付けています。
ただし、このウィークエンド効果にはいくつかのルールがあることもわかりました。組織で言うと、平社員のほうが重役や社長よりも2倍も気分の高揚は高かったのです。平社員のほうが、ウィークエンド効果の恩恵を受けやすかったのです。
どうしてそうなるのかというと、平社員に比べて、重役や社長は日曜日だからといって気を緩めることができないからです。
彼らはいつも非常に強い責任やプレッシャーを感じていて、日曜日でも気が休まらないのです。そう考えると、平社員のほうが社長よりも気がラクだと言えなくもありません。平社員は少なくとも1週間のうちで日曜日だけは幸福感が高まりますが、重役や社長は、日曜日にさえそんなに幸せな気分を感じることができないのです。
少し話はそれますが、ヘリウェルの調査では、人との交際(おしゃべりなど)を1週間に1.7時間ほど増やすと、幸福度が約2%高まることもわかりました。わずかな増加だと思われるかもしれませんが、少しでもハッピーな気分を高めたいのであれば、だれかとおしゃべりをするのが有効だということも覚えておくとよいでしょう。
■ポジティブに生きれば仕事もうまくいく
毎日、ハッピーな気持ちで仕事をしていれば、仕事は成功するように思えます。
ところが、この因果関係は逆なのかもしれません。仕事がうまくいっているからハッピーな気持ちになれるのであって、ハッピーだから仕事がうまくいくわけではない、という考え方もできます。
「ハッピーな気持ちが成功に結び付く」という因果関係と、「成功しているからハッピーな気持ちが生まれる」という因果関係では、どちらが正しいのでしょうか。
ドイツにあるエアランゲン・ニュルンベルク大学のアンドレア・アベルは、法学部、医学部、教養学部、経済学部、工学部の学生たち1336名について、卒業1年後、3年後、7年後、10年後までの追跡調査を行いました。彼らはさまざまな職業に就いていました。
何を調べたのかというと、客観的な成功と主観的な成功の2つ。客観的な成功は、月収と、組織内でのポジションで調べました。収入なしの人を0点とし、1万ユーロ以上稼ぐ人を11点として測定したのです。
また、入社してから出世した回数も測定し、これらを客観的な成功の指標としました。
主観的な成功というのは、本人の満足感です。どれだけ仕事が好きで満足しているかで得点を出しました。
アベルは客観的な成功と主観的な成功の要因について、それぞれに因果関係の強さを求めてみたのですが、「主観的な成功(満足)が高ければ、客観的な成功も後から付いてくる」という因果関係のほうが強い、ということが明らかにされました。
「客観的に成功しているから、主観的にも成功(満足)を感じられるのだ」という因果関係については、弱かったのです。
結論としていえば、「仕事がうまくいっているから、ハッピーになれる」のではなくて、「ハッピーでいるから、仕事はうまくいく」という因果関係が見られると言えるでしょう。
もし仕事で成功したいのであれば、とにかく不満などを抱えず、「なんて自分は幸せ者なんだ!」とか、「いやあ、毎日楽しくてしかたがない!」という言葉を口グセにしましょう。そういうハッピーな気持ちで仕事に取り組んでいれば、そのうちに成功もやって来るでしょう。
自己啓発系の本には、普段からポジティブな思考をするようにしていると、ポジティブな結果が訪れると書かれています。「そんなにうまくいくものかなあ?」と疑問に思う人もいると思うのですが、どうやらこれは本当のことだと言えます。毎日ウキウキしながらポジティブに生きていきましょう。そうすると仕事もうまくいきます。
■ハッピーになれるお金の使い方
賢くお金を使いたいのであれば、「モノより思い出」というルールがあることを覚えておくとよいかもしれません。買い物をするのが楽しいという人もいるでしょうが、基本的に「モノ」にお金を使っても、人は幸せな気分になれません。
「なんだかつまらないものにお金を使っちゃったな」
「なんでこんな買い物をしちゃったんだろう」
そういう後悔が起きることもしばしば。
その点、形としては残りませんが、「経験や思い出になるもの」にお金を払うのは非常に賢いお金の使い方になります。
たとえば、自己成長のためにセミナーに出かけるとかスクールに通ったりするのは、良いアイデアです。あるいは旅行に出かけたりするのも良いでしょう。こういうところにお金を使うと、人はハッピーな気分になれます。
米国コロラド大学のリーフ・ファンボーベンは、電話帳でランダムに選んだ1279名の人にインタビューをお願いしました。お金を使うとして、どれくらいハッピーになれるのかを尋ねるインタビューです。
その結果、図表のような結果になりました。人は経験的に、「モノよりも何か経験できること」にお金を使ったほうが、自分がハッピーになれることを知っているのでしょう。
モノを買えば品物は残ります。経験や思い出にお金を使っても何も残りません。けれども、何か新しい経験をするとか、かけがえのない思い出が手に入れば、人はとてもハッピーな気分になれるのです。
高い洋服や車を買ったりするのは、ほどほどにして、体験にお金を使ったほうが賢いお金の使い方と言えるでしょう。
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内藤 誼人(ないとう・よしひと)
心理学者
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。立正大学客員教授。有限会社アンギルド代表。社会心理学の知見をベースに、心理学の応用に力を注ぎ、ビジネスを中心とした実践的なアドバイスに定評がある。『心理学BEST100』(総合法令出版)、『人も自分も操れる!暗示大全』(すばる舎)、『気にしない習慣』(明日香出版社)、『人に好かれる最強の心理学』(青春出版社)など、著書多数。
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(心理学者 内藤 誼人)