橋本龍之介くんの小学生時代の自由研究は、だいたい毎日の通学路で感じた「なんでだろう」から始まる。2年生のときの「発芽の力グランプリいちばん力持ちの植物は?」は、道端でアスファルトを押し上げて生えてきた草を見つけたのが出発点だ。
「世界一」を目指してクラウドファンディングに挑戦中
25年6月フランス・パリで開催されるモデルロケット国際大会に出場が決定。6月29日まで資金調達のクラウドファンディングを行う。
「何か気になると、それをとことん調べてみたいというスイッチが入る感じでした。通学途中の坂道の滑り止め舗装や、ガードレールを研究したこともあります」と、母の佳世さんは言う。地下鉄駅の研究のときは、タイトル通り東京メトロ9路線の157駅をすべて現地調査。電車がホームに入ってくるときと出ていくときの風速を、小さな風速計で測定し、駅の構造との関係を考察した。龍之介くんいわく、木場駅の風が特に強く、お気に入りのページだそうだ。ディレクターとして働く佳世さんも、仕事の隙間時間を使ってすべての現地調査に付き合ったという。
「せっかくだから全部調べようと思いました」と龍之介くんが言えば、「大変でしたけど、せっかくだから親も一緒に楽しもうと(笑)」と佳世さんは言う。どうやら橋本家では、「せっかくだから」が魔法の言葉らしい。
出来上がったリポートは、写真や図版がふんだんに入った100ページ以上もの分厚いファイルに。
■校長先生に交渉! 「ロケット班」を立ち上げ
気象衛星の名づけ親に応募したことをきっかけに、小学3年生のときJAXA(宇宙航空研究開発機構)のロケット打ち上げを種子島まで見に行った龍之介くん。迫力いっぱいの打ち上げを見て以来、宇宙に強い関心を持つようになったという。中学に入学すると、ロケットを打ち上げる部活づくりに動き出した。それも本物のロケット同様に火薬で打ち上げ、到達高度やパラシュートを用いた安全な着陸などを競う、本格的な「モデルロケット」の打ち上げである。
入学してすぐ、龍之介くんは日本モデルロケット協会の講習会に参加して、打ち上げに必要なライセンスを取得。仲間を集めて校長先生と交渉し、「物理研究会ロケット班」を立ち上げた。しかし発足当初はロケットづくりは難航。発足翌年の2022年5月に参加した初めての全国大会は、エントリーした10機のうち9機が墜落して最下位に。同年秋の大会には機体を改良して挑戦したが、やはり全機墜落という結果に終わったという。
■全国大会で見事優勝「ロケット甲子園」へ
しかし、龍之介くんはあきらめなかった。学校の公式HPやX、電話などで自ら連絡し、ライバルの強豪校に頼んでノウハウを伝授してもらったほか、ロケット工学の第一人者である千葉工業大学の和田豊教授や日本大学理工学部の日大ロケット研究会からも助言を受け、機体の改良を続けた。「昔、自由研究の際に、母が企業や自治体にメールや電話でアポを取ってくれるのを見ていたので、外部への連絡はそれをまねしました」(龍之介くん)
その結果、24年春の全国大会では高度競技で優勝。秋の全国大会では総合優勝を果たした。さらに25年2月には、より大型のロケットを使った「ロケット甲子園」で見事優勝。25年6月にフランスのパリで開かれる国際大会への挑戦権を手にした。龍之介くんとロケット班のメンバーは今、フランス大会に向けた機体の開発とともに、約1000万円かかる遠征費用の確保に必死だ。OBからの寄付やスポンサーの募集に加え、ネットを用いたクラウドファンディングも展開している。「競技だけでなく英語でのプレゼンも採点の対象になるので、頑張らないと」(龍之介くん)
■今に生きる父と母のアドバイス
龍之介くんのパワフルな知性を、親はどう育てようとしてきたのだろう。「昔から、迷ったら母に『とにかくやってみたら?』と言われたのを覚えています」(龍之介くん)
「やるならネットで調べるだけでなく、現場に行って話を聞くことが大切だとも伝えていました」と佳世さんは言う。実際、小学生時代の自由研究では、龍之介くんが東京メトロなどの担当者から直接話を聞いている。
放送作家である父の大介さんは、自由研究では「失敗したことも省かないで、ちゃんと記録しておいたほうがいい。
将来は宇宙開発関係の仕事に就きたいと龍之介くんは言う。「ロケットのほか、探査機を造ったり、地上から支援する仕事にも興味があります」調べる力、聞く力、そして失敗を糧にする力を持つ龍之介くんなら、その夢をきっとかなえてみせるだろう。
※本稿は、『プレジデントFamily2025夏号』の一部を再編集したものです。
(プレジデントFamily編集部 文=川口昌人 撮影=大森大祐)