■外国人の国保未納問題が国会でも話題に
先日、プレジデントオンラインでこんな記事を書きました。
新宿区では「11億円の税金」が日本人の負担に…全国で常習化する「外国人の診療費踏み倒し」を放置していいのか このままでは世界に誇る医療制度が崩壊する
大変多くの皆さまにお読みいただいた結果、この問題はめでたく今年5月の国会で新たな局面を迎えました。
日本維新の会の参議院議員・柳ヶ瀬裕文さんが参議院予算委員会で、外国人による国保未納問題を鋭く追及したのです。
外国人の国保未納は年4千億円と試算 維新・柳ケ瀬氏「日本国民の税金で立て替えている」(産経新聞)
■「骨太の方針」にも検討事項として入れ込まれた
その結果、政府も重い腰を上げることになりました。今月閣議決定を予定している経済財政運営の指針である『骨太の方針』に「「外国人の保険適用の在り方などの検討」をするとして、国内で受診した外国人の医療費未払い対策を強化する方針を決めたようなのです。
そして、懸案となっている日本に住む外国人による国民健康保険(国保)の保険料納付漏れ防止策も検討する運びとなっています。
■「督促はガン無視で医療にタダ乗り」が横行
こうした国会での議論が注目を集める中、実は厚生労働省がそれに先立ち、自由民主党の「在留外国人の医療に関するワーキンググループ(座長・自見はなこ参院議員)」に対して、在留外国人の国保納付率が63%だったとの調査結果を明らかにしています。
これは、同じ調査対象の150市区町村で日本人も含めた全体の納付率は93%であることを踏まえると、在留外国人の国保納付率の低さが際立ちます。
国民健康保険の外国人納付率63% 厚労省が初調査公表(日本経済新聞)
在留外国人による国保未納の手口の大半は「自治体や関係団体から納付の督促が来てもガン無視して払わない」感じですが、後述する経営管理ビザを悪用した医療タダ乗り目的での来日の多いグループは、民泊施設や軽食飲食店など同じ住所に住み着き、保険証を複数の中国人で使い回す手法が一般的になっています。
日本では違法な白タクも含め、大阪を中心に不適切な滞在を手引きするシンジケートがあるという話も出ていて、今後の問題になっていくのではないかと思います。
■国保納付の知識がなく、順法精神もない
外国人人種別でも特に国保滞納が多い国籍では、そもそもそのコミュニティに納税や国保納付といった基本的な知識がないとか、特定のエスニック料理店や運送・解体業者などコミュニティの中心となる人物に順法精神がないのでみんなそれを真似してしまうなどの弊害も出ているようです。
このあたりの問題は、昨今急増している高級車・室外機窃盗やメガソーラーでの銅線盗難被害、果ては果樹園荒らし、産廃の不法投棄など、類型化された外国人犯罪と地続きな点は注意が必要です。
■自民党がようやく重い腰を上げた
そんな中、自由民主党では、従前外国人材等に関する特別委員会において、この問題を含む包括的な検討を重ねてきていました。自見はなこさんにもお話が聞けましたので、現状と今後の推移も整理してみましょう。

結論としては、国保未納の不届き外国人については、自民党もちゃんと腰を上げてアカンやつを絞り込み、日本からツマミ出せるように制度化が進むようです。
◆ 自民党は、協会健保・組合健保を含め「外国人フラグ」を全保険制度に導入して実態把握を強化することにした。
◆ 未納情報を入管と連携し、滞納者の新規入国・在留更新を停止する仕組みを令和9(2027)年春から本格運用予定である。
◆ 保険料前納方式や医療未収金データ共有も盛込み、外国人受け入れ適正化と国民皆保険の持続性確保を図る包括改革が進行中。

■協会けんぽ、組合保険に国籍要件がなかった
日本は国民皆保険制度なので、外国人でも日本に住民票があれば必ずどこかの保険に入っています。例えば中小企業だったら協会けんぽ、大企業だったら組合健保、そしてそれ以外の人が基本的には市町村国保に入っています。
在留外国人の問題について、いままで国保関係が未調査のままザルだった問題について、自見さんはなんといままで仕組みとして外国人がどういう状況か把握できる仕組みがなかった経緯を説明してくださいました。
「実は(外国人による国保未納が多いことは)大変問題なのにいままで騒がれていなかったのは、協会けんぽと組合健保は国籍要件を取っていないことが理由です。協会けんぽも組合健保も、事業主は外国人労働者を雇い入れる際には必ず在留管理番号を控えているのですが、それを保険組合、保険者に渡していませんでした。この接続がないが故に、保険加入者の国籍が、直接はわからないんですね」
■健保のシステム改修にはかなりの時間がかかる
市町村国保の外国人問題に注目が集まる一方で、より大きな規模を持つ協会けんぽや組合健保では、外国人の実態把握すらできていないという構造的な盲点があるわけですね。
また、いま話題の経営管理ビザは、問題となる外国人は国保か協会けんぽに加入することになるため、いわゆる医療目的で医療保険を使用しても炙り出しができない問題があります。
自見さんによると、これを改善しようとすると、保険者数が1383もある組合健保それぞれにシステム改修をお願いしなきゃいけない。
また中小企業で働く約4000万人が加入する協会けんぽは、保険者自体は1つなんですが、システム改修には実はかなりの時間がかかるという技術的課題を指摘します。
抜本的に外国人の国保問題を追及しようとすると、国籍を把握するためのシステム改修が要るというのは大変なことです。
■2027年からは未納者の在留資格延長を止められるように
しかし、具体的な解決策として「今回の自民党の提言では、その協会けんぽ、組合健保、市町村国保、後期高齢者医療全部において外国人フラグを立てるということを明確化するよう検討する方針」も自見さんは示しています。
まあ「この人国保払ってないよフラグ」が立てられるのなら、公共サービスメッシュ(データ群)に載せて、2027年春からは国保未納の外国人をそのまま出入国在留管理庁(法務省)に流し込んで、在留資格延長を止めちゃうとかそういうことはできるようにはなります。
国保未納の外国人は新規上陸の申請は認めない、また日本在留の資格の更新はしないという厳格な措置をとるような在留資格と、保険料納付を直接連動させる仕組みを構築する計画を進めています。
さらに自見さんのチームは厚生労働省に対して「例えば年に1回とか半年に1回情報を公表してほしい」ということも求めるとしています。
この「状況を定期的にレビューしていない問題」は、同じく国会で自民党の小野田紀美参院議員が「外国人の生活保護などの支給がおかしいんじゃないか」と国会で質問されているのにも通じるのですが、いまこれはこれで調査中なので私もまた本稿で確報が書けるようなら発表したいと思います。
■外国人の保険料納付は日本人にとってもプラス
外国人診療者による踏み倒しで困っている医療機関の救済に関しては、2018年に自民党でまとめた提言によって、訪日外国人観光客の未払いのものについては医療費不払い情報管理システムを構築しているものの「3カ月以上日本に在留し住んでいる外国人に適用されていなかった」として、在留外国人も入れるよう要求しています。
その上で、自見さんは「一般的に言えば外国人労働者は20代、30代、40代までの若くてあまり病気しない人が多いんですよ。だから保険料を払っていただくということは、実は日本の他の日本人の国保の保険料を下げています。ちゃんと払っていただければなおさらですね」と、外国人の保険料納付そのものは制度全体にとってプラスになることを説明しています。
■外国人の前納方式は画期的
対する厚生労働省なんですが、取材に対する口ぶりは重く「問題の所在は認識しているが、国会質疑などでもある通りこれからの課題として適切に取り組む」とのことで、拙速に話を進めてハレーションが返ってくるのをとても怖れているご様子です。

まあ、この問題を追いかけていったら、いままで厚労省は何故問題を把握しようと思わなかったのかと批判されたり、他の地雷のような問題が新たに出てきて釈明に追われる、なんて可能性もなくはないですからな……。マンパワーの足りないところで多くの仕事をおっかぶせられている厚労省の皆さまには衷心より深いご同情を申し上げる次第です。いきなり騒いですまんかった。
これらの議論を踏まえ、自民党の外国人材等に関する特別委員会は包括的な提言をまとめています。それは5つの柱からなりますが、特に第三の「外国人の税・社会保険料の未納付防止等に向けた取組の推進」では、医療保険制度改革が中核を占めています。
国民健康保険について日本に入国し新たに加入する際の国民健康保険料の前納方式の導入は画期的と言えます。きちんと国保保険料を払ってもらえないことには制度が成り立ちませんので、訪日外国人には保険加入を義務付けたり、長期の滞在を予定している外国人には滞在状況を都度チェックできるような仕組みを考えなければならないでしょう。
■持続的な医療制度の再構築を
そんなわけで、外国人の国保未納や診療費踏み倒しもかなりな問題であって、政府も自由民主党も対策に乗り出してきてこの問題を取り上げてよかったなと思うわけですが……。問題は、これからわが国の医療全体が立ち行かないぐらい厳しい状況になっているなかで、どのようにして医療の現場を守っていくのかという本丸についても議論をしていかなければなりません。
仮に制度的に対応が進んで外国人の国保未納問題が解決されたとしても、日本の医療制度が直面する根本的な危機は残ったままです。少子高齢化による医療費の急激な増大、地方の医師不足、診療報酬の削減圧力、そして医療従事者の働き方改革による人手不足など、複合的な課題が医療現場を襲っています。医療のリソース問題は、近い将来大変なことになると思うんですよ。

国保財政の健全化は重要な第一歩ですが、それだけでは焼け石に水かもしれません。団塊世代が後期高齢者となる2025年問題を目前に控え、医療・介護需要はさらに膨張します。外国人問題の「適正化」と並行して、診療報酬制度の抜本改革、医療DXの推進、そして持続可能な医療提供体制の再構築に本腰を入れなければ、世界に誇る国民皆保険制度そのものが瓦解しかねません。政治の真価が問われるのはこれからです。

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山本 一郎(やまもと・いちろう)

情報法制研究所 事務局次長・上席研究員

1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所 事務局次長・上席研究員。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。

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(情報法制研究所 事務局次長・上席研究員 山本 一郎)
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