なぜ人は浮気や不倫をしてしまうのか。福厳寺住職の大愚元勝さんは「人間関係は盤石ではなく、二人の関係にすれ違いや溝があれば、ふと心が動いてしまうこともある。
※本稿は、大愚元勝『絶望から一歩踏み出すことば 大愚和尚の答え一問一答公式』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■気持ちが生まれ、通じ合った時点で浮気
男女の関係というのは、なかなか理屈通りにいきません。
結婚していたら、浮気や不倫は許されることではありませんが、二人の関係にすれ違いや溝があれば、ふと心が動いてしまうこともあるでしょう。
「体の関係は持っていない。でも、その人が好きです」
最近よく聞くのが、こういうお悩みです。お互い結婚しているのに同僚と気持ちが通じてしまった。あるいはSNSなどで異性と意気投合してしまった。
どこまでが「友達としてセーフ」で、どこからが浮気・不倫かと考えるとき、肉体関係のあるなしを線引きにする人がいますが、私は違うと思っています。
気持ちが生まれ、通じ合った時点でもう、浮気なんです。
たとえ肉体関係がなく、たまに会って話をするだけだったとしても、お互いの心の内には恋愛感情がある。どちらかが結婚していたら周りに隠しますよね? それは外から見えない培養器の中に、恋愛感情をそっと入れたのと同じです。
温室みたいに安全で生育に最適な環境に入れれば、恋愛感情は芽を出し、枝を伸ばし、浮気へとすくすく育つのは当たり前です。
■不倫する人は生き地獄を味わうことになる
ダンマパダ(法句経)の中に、「他人の妻に近づく者は四つのことを得る」という教えがあります。功徳なきこと、安眠なきこと、非難、地獄の四つです。
一つ目の「功徳なきこと」は、文字通りの意味。浮気は人の道を外れているので、功徳、つまり良い行いを積み重ねていくことはできません。
二つ目の「安眠なきこと」は、自分の心が落ち着かなくなるということ。相手の家族のことを考えたり、周りにバレないようにコソコソしたり、嫉妬したりと、心がいつもどこか不安です。夜もおちおち寝ていられません。
三つ目の「非難」は、もちろん人に知られたら非難、批判されるということ。
最後の四つ目の「地獄」は、現代社会でもよくありますね。浮気が知られたことで社会的制裁を受け、まるで生き地獄のような状態になるかもしれません。
■男女の愛情のもつれは人間を狂わせる
大昔、インドは一夫多妻制でした。
ところが、古い経典を見ていると、第一夫人、第二夫人とのすさまじい争いなど、男女間の愛にまつわる憎悪の激しさ、醜(みにく)さ、そのえげつなさが、これでもかと描かれています。浮気がバレて体を切り刻まれ、みんなが見ている前でグツグツ煮えたぎるお湯に投げ込まれたなんて話すらあるほどです。
ダンマパダは決して「聖人君子になりなさい」という教えではありません。
人間はつい浮気をしてしまうものだが、それは決して良い結果を生まない。その事実をさんざん歴史の中で見てきた上で、「やめておきなさい」と警告しているのです。
男女の愛情のもつれほど、人間を狂わせることはありません。
確実に言えることは、恋愛感情が芽生えそうになったら、態度をはっきり表明すべきだということ。曖昧なままだと、勝手に恋心が育って手に負えなくなります。
その前にどうするか、自分で決めるんです。その人との関係を、人生の中でどう位置付けるのか。これは生き方のセンスが問われる決断だと思います。
「綺麗な花はたくさんある。
これは大山倍達(ますたつ)という伝説の空手家が残した言葉ですが、まさに名言です。
■サレ夫「やり直す方法はないものか」
あなたにとって、大切にしたい人は誰ですか。
親? 妻? 子ども? パートナー? 仕事の仲間? 友?
誰を失ったら、心の底から後悔しますか。
あなたが大切にしたい関係、失いたくない人を、はっきり思い浮かべてください。
その関係は、本当に大丈夫ですか。
崩壊へのカウントダウンは、始まっていないでしょうか。
嫌な質問をしてごめんなさい。
けれど、なぜこんな問いをするのかというと、人間関係というものは、あぐらをかいたら一瞬で終わるからです。
「妻に不倫された。問いつめると逆ギレされて離婚を言い渡された。子どものためにも、家族としてやり直す方法はないものか」。
今さら何を言っておられるのか。私は正直に申し上げました。
■結婚・出産したからといって安泰ではない
とうの昔に夫婦の関係は崩壊していたのでしょう。結婚という関係の山を築いたつもりが、そこにあぐらをかいている間に少しずつ亀裂が入っていたのだと思います。
そんなときに片方がブチキレることが起きて、一気にガラガラ、ドシャーンと土砂が崩れた。人間関係、特に男女の間柄が崩れていくときの典型的なパターンです。
結婚した。子どもができた。そのような通過儀礼を経て家族になっていくのではないんです。デートした。告白した。
人間関係の地盤をつくることは、ものすごく時間のかかる営みです。精一杯の心遣いで地面を踏み固めながら、その上に経験を積み重ねていくしか方法はないのです。
終わらせたくないなら“親しき仲にも礼儀あり”。これを、どんなに近しい夫婦でも、親子でも、兄弟姉妹でも、会社の関係でも心がけていきましょう。
■一度崩れてしまった関係はもう戻らない
それはなにも、他人行儀にかしこまることではありません。
礼儀とは、相手に対しての敬意、心遣いです。
その上で、共同生活や共同作業の中で、力を合わせようとすることです。時間をつくり、ゆっくり話をしたり、旅行に出かけたりすることです。そのような日々の小さな小さな積み重ねが地層のように厚くなり、盤石の関係が築かれていきます。
このことを忘れて、敬意や積み重ねを欠いてしまうと、震度1ぐらいの揺れでも、あっという間に山は崩れ去ります。
崩れてしまった地盤がまた戻るかといったら、戻らないと思っておいたほうがいいでしょう。だからこそ大切な関係があるのなら、そこにあぐらをかかず、今日この瞬間から、礼儀を持って接してください。
万が一、失いたくなかった関係が崩れてしまったなら、その痛みをしっかりと受け止めてほしいと思います。
それがどんなにつらくても、こうすれば心が楽になるという魔法のお薬はありません。
のたうち回って、歯を食いしばって生きるのです。
けれど、その痛みを知った人は、大きな大きな学びを得ることができました。
もう二度と、同じ過ちを繰り返すことはないでしょう。
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大愚 元勝(たいぐ・げんしょう)
佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表
空手家、セラピスト、社長、作家など複数の顔を持ち「僧にあらず俗にあらず」を体現する異色の僧侶。僧名は大愚(大バカ者=何にもとらわれない自由な境地に達した者の意)。YouTube「大愚和尚の一問一答」はチャンネル登録者数57万人、1.3億回再生された超人気番組。著書に『苦しみの手放し方』(ダイヤモンド社)、『最後にあなたを救う禅語』(扶桑社)、『思いを手放すことば』(KADOKAWA)、『自分という壁』(アスコム)、『愚恋に説法: 恋の病に効く30の処方箋』(小学館)などがある。
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(佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表 大愚 元勝)
それでも、お釈迦さまは『浮気はやめておきなさい』と警告した」という――。
※本稿は、大愚元勝『絶望から一歩踏み出すことば 大愚和尚の答え一問一答公式』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■気持ちが生まれ、通じ合った時点で浮気
男女の関係というのは、なかなか理屈通りにいきません。
結婚していたら、浮気や不倫は許されることではありませんが、二人の関係にすれ違いや溝があれば、ふと心が動いてしまうこともあるでしょう。
「体の関係は持っていない。でも、その人が好きです」
最近よく聞くのが、こういうお悩みです。お互い結婚しているのに同僚と気持ちが通じてしまった。あるいはSNSなどで異性と意気投合してしまった。
どこまでが「友達としてセーフ」で、どこからが浮気・不倫かと考えるとき、肉体関係のあるなしを線引きにする人がいますが、私は違うと思っています。
気持ちが生まれ、通じ合った時点でもう、浮気なんです。
たとえ肉体関係がなく、たまに会って話をするだけだったとしても、お互いの心の内には恋愛感情がある。どちらかが結婚していたら周りに隠しますよね? それは外から見えない培養器の中に、恋愛感情をそっと入れたのと同じです。
温室みたいに安全で生育に最適な環境に入れれば、恋愛感情は芽を出し、枝を伸ばし、浮気へとすくすく育つのは当たり前です。
■不倫する人は生き地獄を味わうことになる
ダンマパダ(法句経)の中に、「他人の妻に近づく者は四つのことを得る」という教えがあります。功徳なきこと、安眠なきこと、非難、地獄の四つです。
一つ目の「功徳なきこと」は、文字通りの意味。浮気は人の道を外れているので、功徳、つまり良い行いを積み重ねていくことはできません。
二つ目の「安眠なきこと」は、自分の心が落ち着かなくなるということ。相手の家族のことを考えたり、周りにバレないようにコソコソしたり、嫉妬したりと、心がいつもどこか不安です。夜もおちおち寝ていられません。
三つ目の「非難」は、もちろん人に知られたら非難、批判されるということ。
最後の四つ目の「地獄」は、現代社会でもよくありますね。浮気が知られたことで社会的制裁を受け、まるで生き地獄のような状態になるかもしれません。
■男女の愛情のもつれは人間を狂わせる
大昔、インドは一夫多妻制でした。
ところが、古い経典を見ていると、第一夫人、第二夫人とのすさまじい争いなど、男女間の愛にまつわる憎悪の激しさ、醜(みにく)さ、そのえげつなさが、これでもかと描かれています。浮気がバレて体を切り刻まれ、みんなが見ている前でグツグツ煮えたぎるお湯に投げ込まれたなんて話すらあるほどです。
ダンマパダは決して「聖人君子になりなさい」という教えではありません。
人間はつい浮気をしてしまうものだが、それは決して良い結果を生まない。その事実をさんざん歴史の中で見てきた上で、「やめておきなさい」と警告しているのです。
男女の愛情のもつれほど、人間を狂わせることはありません。
確実に言えることは、恋愛感情が芽生えそうになったら、態度をはっきり表明すべきだということ。曖昧なままだと、勝手に恋心が育って手に負えなくなります。
その前にどうするか、自分で決めるんです。その人との関係を、人生の中でどう位置付けるのか。これは生き方のセンスが問われる決断だと思います。
「綺麗な花はたくさんある。
綺麗だと思うのは仕方ない。でも、摘むのは一本だけにしておきなさい」
これは大山倍達(ますたつ)という伝説の空手家が残した言葉ですが、まさに名言です。
■サレ夫「やり直す方法はないものか」
あなたにとって、大切にしたい人は誰ですか。
親? 妻? 子ども? パートナー? 仕事の仲間? 友?
誰を失ったら、心の底から後悔しますか。
あなたが大切にしたい関係、失いたくない人を、はっきり思い浮かべてください。
その関係は、本当に大丈夫ですか。
崩壊へのカウントダウンは、始まっていないでしょうか。
嫌な質問をしてごめんなさい。
けれど、なぜこんな問いをするのかというと、人間関係というものは、あぐらをかいたら一瞬で終わるからです。
「妻に不倫された。問いつめると逆ギレされて離婚を言い渡された。子どものためにも、家族としてやり直す方法はないものか」。
これは30代男性からのお便りでした。
今さら何を言っておられるのか。私は正直に申し上げました。
■結婚・出産したからといって安泰ではない
とうの昔に夫婦の関係は崩壊していたのでしょう。結婚という関係の山を築いたつもりが、そこにあぐらをかいている間に少しずつ亀裂が入っていたのだと思います。
そんなときに片方がブチキレることが起きて、一気にガラガラ、ドシャーンと土砂が崩れた。人間関係、特に男女の間柄が崩れていくときの典型的なパターンです。
結婚した。子どもができた。そのような通過儀礼を経て家族になっていくのではないんです。デートした。告白した。
ずっと一緒にいる。だからといってパートナーになるのでもない。契約を交わしたからといって仲間になれたわけじゃない。
人間関係の地盤をつくることは、ものすごく時間のかかる営みです。精一杯の心遣いで地面を踏み固めながら、その上に経験を積み重ねていくしか方法はないのです。
終わらせたくないなら“親しき仲にも礼儀あり”。これを、どんなに近しい夫婦でも、親子でも、兄弟姉妹でも、会社の関係でも心がけていきましょう。
■一度崩れてしまった関係はもう戻らない
それはなにも、他人行儀にかしこまることではありません。
礼儀とは、相手に対しての敬意、心遣いです。
その上で、共同生活や共同作業の中で、力を合わせようとすることです。時間をつくり、ゆっくり話をしたり、旅行に出かけたりすることです。そのような日々の小さな小さな積み重ねが地層のように厚くなり、盤石の関係が築かれていきます。
このことを忘れて、敬意や積み重ねを欠いてしまうと、震度1ぐらいの揺れでも、あっという間に山は崩れ去ります。
崩れてしまった地盤がまた戻るかといったら、戻らないと思っておいたほうがいいでしょう。だからこそ大切な関係があるのなら、そこにあぐらをかかず、今日この瞬間から、礼儀を持って接してください。
万が一、失いたくなかった関係が崩れてしまったなら、その痛みをしっかりと受け止めてほしいと思います。
それがどんなにつらくても、こうすれば心が楽になるという魔法のお薬はありません。
のたうち回って、歯を食いしばって生きるのです。
けれど、その痛みを知った人は、大きな大きな学びを得ることができました。
もう二度と、同じ過ちを繰り返すことはないでしょう。
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大愚 元勝(たいぐ・げんしょう)
佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表
空手家、セラピスト、社長、作家など複数の顔を持ち「僧にあらず俗にあらず」を体現する異色の僧侶。僧名は大愚(大バカ者=何にもとらわれない自由な境地に達した者の意)。YouTube「大愚和尚の一問一答」はチャンネル登録者数57万人、1.3億回再生された超人気番組。著書に『苦しみの手放し方』(ダイヤモンド社)、『最後にあなたを救う禅語』(扶桑社)、『思いを手放すことば』(KADOKAWA)、『自分という壁』(アスコム)、『愚恋に説法: 恋の病に効く30の処方箋』(小学館)などがある。
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(佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表 大愚 元勝)
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