筋トレはダイエットに効果的なのか。内科医の奥田昌子さんは「残念ながら日本人は筋肉がつきにくい。
基礎代謝を上げることは難しいが、男性ホルモンを増やす効果は期待できる」という――。(第3回/全3回)
※本稿は、奥田昌子『これをやめれば痩せられる』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。
■「筋トレで筋肉が増えると基礎代謝が上がる」は本当か
ダイエットの黄金ルールをおぼえていますか。まず大枠として摂取カロリーを抑え、次いで脂質を減らし、その次に糖質を控えることでした。
うん、そう言われると、そうなんだろうなって思うけど、基礎代謝量を上げれば脂肪が燃えやすくなるんでしょ。それなら食事に気をつけるより、筋トレして、筋肉つけるほうが大事なんじゃないですか?
「筋力トレーニングで筋肉が増えると基礎代謝が上がる」という話は、もはや「常識」となっています。おなじみの基礎代謝は、心も体も安静にしているときに消費する、必要最小限のエネルギーのこと。そして、筋トレは、ダンベル運動やスクワット、腕立て伏せ、腹筋運動など、大きな負荷をかけて、瞬間的に力を入れる動作を繰り返すトレーニングのことです。レジスタンス運動ともいい、無酸素運動の仲間です。
無酸素運動の特徴は、筋肉を動かすためのエネルギーを、酸素を使わずに作ることです。続けて実施できるのは1~3分に限られますが、強く、速く体を動かすことができます。運動後、約48時間にわたって基礎代謝が高い状態が続くという報告もありますし、働いた筋肉が回復するときにもエネルギーを消費します。

こう聞いて、「やっぱりそうか!」と、通販サイトでダンベルを探し始める人がいるかもしれませんが、残念ながら、そう簡単な話ではありません。問題点は2つあります。
■日本人は筋肉がつきにくい
1つは、日本人は筋肉がつきにくいことです。筋肉には、赤い成分と白い成分があります。図表1を見てください。
赤い成分は粘り強く、長い時間働くことができ、白い成分は瞬間的に大きな力を発揮します。
魚は、赤い成分と白い成分が目で見てはっきりわかります。マグロに代表される赤身の魚は筋肉の大部分が赤い成分で、大海原をゆったり回遊しながら成長します。一方、ヒラメやタイなど白身の魚は白い成分が多く、狭い範囲に生息し、獲物をみつけるやいなや、襲いかかってつかまえます。
魚と異なり、人の筋肉は赤い成分と白い成分がモザイクのようにまざっています。どちらの成分が多いかは個人差もあるものの、それ以上に大きいのが人種差です。これは遺伝子で決まっていて、白い成分が多い順に、アフリカ系、欧州系、日本人を含むアジア系となっており、アフリカ系の人が、筋肉全体の約70パーセントが白い成分であるのに対し、日本人は逆に、筋肉全体の70パーセントが赤い成分です。
白い成分が少ないのですね。
■基礎代謝量は確かに上がるが…
困ったことに、筋トレで太くなるのは大部分が白い成分なので、日本人が筋肉を大きくしようと思ったら、もともと少ない白い成分を鍛えるしかありません。世界レベルのアスリートは例外として、一般の日本人が筋肉を太くするのは非常に効率が悪いのです。とくに鍛えているふうでもない、アフリカ系ないし欧州系の人が、たくましい体をしているのとは対照的です。
もう1つが、基礎代謝量に関する誤解です。
筋トレで筋肉量が増えると、確かに基礎代謝量は上がります。しかしながら、その増加は筋肉1キログラムあたり、わずか13~20キロカロリー。せいぜいキャラメル1粒ぶんのカロリーで、これによる体重の減少は、1年で約1キログラムです。「脂肪が燃えやすくなる」は、ちょっと大げさでしょう。
話はこれにとどまりません。筋肉だけでなく、脂肪の量も基礎代謝にかかわっています。
脂肪が1キログラムつくと、基礎代謝量が5キロカロリー増加します。
つまり、肥満の人は、痩せた人より基礎代謝量が高いのですね。
逆にいうと、脂肪を1キログラム落とせば基礎代謝量が5キロカロリー下がるということです。
■テストステロンの効果
筋トレを通じて筋肉が1キログラムつき、脂肪が2キログラム減ったとしましょう。差し引きすると、基礎代謝量は10キロカロリーしか増えません。となると、1年で落とせる体重は0.5キログラムとなります。一生懸命筋トレした結果がこれでは、悲しいですね。
もともと体の脂肪が少ない人が筋トレすれば、基礎代謝量はもう少し、上がるでしょうが、本書を読んでくださっている皆さんは、脂肪がしっかりと、いえ、ある程度ついているわけです。こういう人が筋トレで基礎代謝量を高め、それだけで減量するのは無理といえます。
筋トレで筋肉を大きくしても基礎代謝はたいして上がらない、と聞いて、がっかりした皆さん。ご心配なく。筋トレは、別の形でダイエットに役立ちます。
男性ホルモンであるテストステロンには、エネルギー消費を促して脂肪を燃焼させる働きがあります。
だから、テストステロン量が減ると一気に太るわけですが、運動にはテストステロンをしっかり増やす力があり、とくに筋トレの効果はよく知られています。
■トレーニングマシンよりスクワット
若い男性を2つのグループに分けて、一方には腕だけを、もう一方には腕と脚を、週2回、9週間にわたって筋トレしてもらいました。すると、腕の筋トレだけではテストステロンが増えなかったのに対し、腕と脚を鍛えると、血液中のテストステロンが明らかに増加しました。
この結果が示しているのは、筋トレするなら大きな筋肉、具体的には、たくましい胸を作る大胸筋、幅広い背中を作る広背筋、がっちりした太ももを作る大腿四頭筋などを鍛えるべきだということです。
また、同じ筋肉に働きかけるにしても、トレーニングマシンを使うより、バーベルやダンベルなどをもちいて鍛えるほうが、効果が高いようです。男性参加者にバーベルを使うスクワットを10回、6セット行ってもらったのち、1週間後に、マシンによるレッグプレスを同じく10回、6セット実施するよう指示して、血液中のテストステロン濃度を比較しました。その結果、運動直後のテストステロン濃度は、スクワットのほうが1.2倍高いことがわかりました。
有酸素運動もテストステロンを増やします。
■筋トレでおぼえておくべきこと
体格指数(BMI)が25以上で、腹囲も90センチメートル以上と、堂々たるお腹をした男性に、ウォーキングなどの有酸素運動を週3回、3カ月続けてもらいました。参加者は平均50歳で、その半数が、テストステロンが基準値以下でした。
3カ月後に測定したところ、テストステロンが少なかった参加者のうち、なんと半数近くが、テストステロンが基準値を超えていたのです。別の研究では、強度と実施時間が異なる数種類の運動プログラムを用意して、健康な男性に自転車型の健康器具をこいでもらい、血液中のテストステロン濃度を比較しました。
運動プログラムのカロリー消費量はすべて同じです。
すると、運動強度が低度もしくは中等度のプログラムでは数値が変化しなかったのに対して、運動強度がもっとも高いプログラムでだけ、テストステロン濃度が大きく上昇しました。有酸素運動でテストステロンを増やすなら、運動強度が重要だということになります。
女性の体内で作られるテストステロンも、筋トレや有酸素運動で増えるというデータがあります。ただ、男性、女性を問わず、おぼえておきたいことがあります。残念ながら、筋トレによるテストステロンの増加は一時的なのです。
激しい筋トレで、ゴツい体を作り上げた人は、体内でテストステロンをガンガン作っているイメージがありますが、テストステロンの値が上がるのは筋トレ直後だけ。トレーニング終了10分後をピークとして、通常は24時間以内に、もとの水準まで下がります。
それに対して、有酸素運動はおだやかな効果が長く続きます。筋トレと有酸素運動をどちらも行うことで、テストステロンの分泌を促し、分泌量を維持できます。

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奥田 昌子(おくだ・まさこ)

内科医

京都大学大学院医学研究科修了。京都大学博士(医学)。
博士課程にて基礎研究に従事。生命とは何か、健康とは何かを考えるなかで予防医学の理念にひかれ、健診ならびに人間ドック実施機関でのべ30万人以上の診察/診療にあたる。海外医学文献と医学書の翻訳もおこなってきた。航空会社産業医を兼務し、ストレス対応を含む総合診療を続けている。著書に『これをやめれば痩せられる』(東洋経済新報社)、『欧米人とはこんなに違った日本人の「体質」』(講談社ブルーバックス)、『内臓脂肪を最速で落とす』(幻冬舎新書)など。

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(内科医 奥田 昌子)
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