場の雰囲気を読んで行動する人と、自分の価値観に従って行動する人、どちらが理想的なのか。アメリカでは、前者のほうが出世しやすいという研究結果が報告されているという。
■あなたは場に合わせるか、信念に従うか
いつでも同じように見える人と、状況に応じてカメレオンのように変わる人がいるのはなぜでしょうか?
あなたは葬式で、「葬式の参列者」らしく振る舞えますか?
バーベキューでは、「バーベキューを楽しむ人」らしく振る舞えますか?
それとも、バーベキューで陽気に騒ぐ人たちから、「葬式にいるみたいに暗い人」と思われていますか?
まずは、SMテストを実施してください。SMといっても、あのSMではありません。「セルフモニタリング」の略です。
■18項目で分かる「セルフモニタリング」尺度
以下の文は、さまざまなシーンにおける「反応」を表したものです。各文について慎重に検討し、文の内容が当てはまることが多い場合は「○」、当てはまらないことが多い場合は「×」と回答してください。
1 他の人の行動を真似ることは苦手だと思う。
2 人の集まる場で、他の人を喜ばせるようなことをしたり、言ったりしようと思わない。
3 確信を持っていることしか主張しない。
4 あまり詳しく知らないことでも、とりあえず話をすることができる。
5 自分を印象づけたり、その場を盛り上げようとして演技しているところがあると思う。
6 たぶん、いい役者になれるだろうと思う。
7 グループの中では、めったに注目の的にならない。
8 場面や相手が異なれば、まったくの別人のように振る舞うことがよくある。
9 他の人から好意を持たれるようにすることが、それほどうまいとは思わない。
10 自分自身は「いつも見た目どおりの人間」ではないと思う。
11 他の人を喜ばせたり気に入ってもらうために、自分の意見ややり方を変えたりしない。
12 自分には、人を楽しませようとするところがあると思う。
13 これまでに、ジェスチャーや即興の芝居のようなゲームで、うまくできたことがない。
14 いろいろな人や場面に合わせて、自分の行動を変えていくのは苦手である。
15 集まりでは、冗談を言ったり話を進めたりするのを人にまかせておく方だ。
16 人前ではきまりが悪くて思うように自分を出すことができない。
17 いざとなれば、相手の目を見ながらまじめな顔をして嘘をつける。
18 本当は嫌いな相手でも、表面的にはうまく付き合っていけると思う。
採点方法:以下の○×と、自分の答えが一致するものに◎をつけてください。最後に◎の数を合計したものが、あなたのセルフモニタリング尺度のスコアになります。
1× 2× 3× 4○ 5○ 6○ 7× 8○ 9× 10○ 11× 12○ 13× 14× 15× 16× 17○ 18○
■いつでもどこでもできるチェック方法
スコアが高いほどセルフモニタリングが高いことを意味します。
セルフモニタリングが高い人は、人からどう見られているかを気にし、状況に合わせて振る舞います。低い人は、人からどう見られているかを気にしないので、状況ではなく自分の価値観に従います。
人目を気にせず自分に正直に振る舞うのと、相手の気持ちを察して振る舞うのとでは、どちらが実りある人間関係につながると思いますか?
または、場の雰囲気を読んで行動するのと、周りのことは気にせずに自分を貫くのとでは、どちらの態度が仕事で効果を発揮するでしょう?
先の質問数が多すぎて面倒くさいという場合は、簡単な方法を紹介します。誰かがあなたの目の前に立っているとして、その人から「指で額にアルファベットの“Q”を書いてください」と言われたとします。今すぐ、額に“Q”を書いてみてください。
あなたは、“Q”の下の出っ張りの部分を、自分から見て右側(相手から見ると“Q”は逆さまに見える)に書いたでしょうか? それとも、自分から見て左側(相手から見て実際に“Q”に見える)に書いたでしょうか?
そう、前者はセルフモニタリングが低く、後者は高くなります(もし“Q”以外の文字を書いた天邪鬼な人がいたとしたら、少なくとも協調性が低いとは言えるかもしれません)。
■内向型ならパーティには行かない?
セルフモニタリングが高い人は、場の空気に敏感です。それゆえに、場にふさわしいと思われる行動をとれるかどうかが、とても重要だと考えます。このことをよく示す実験があります。
セルフモニタリングが高い学生は、自らが外向型か内向型かにかかわらず、状況とやるべきことが明確な場合に参加を選ぶ傾向が見られました。一方セルフモニタリングが低い学生は、自らが外向型の場合にのみ、参加する傾向が見られたのです。
どのような状況であれば参加したいかと条件を尋ねると、セルフモニタリングが高い人は「どのように振る舞えばいいかが明確な状況」、低い人は「自らの外向レベルに合った状況」と回答しました。
■面接前に「調べる人」と「調べない人」
これらの研究結果から見て、私はセルフモニタリングが高い人はグーグル検索が好きなのではないかと考えています。すなわち彼らは、特定の状況に足を踏み入れる前に、どのような振る舞いが求められる状況なのかネットで下調べをして、疑問や不安をクリアにしようとするのではないか、と。
就職の面接を考えてみましょう。志望者はたいてい、その企業の情報を調べようとします。しかしセルフモニタリングが高い人の場合は、とくにそれが徹底しているはずです。
実際、私はグーグル検索をして、志望企業の情報や、さらには面接官の出身校や趣味、SNSアカウントまで調べた学生の例を知っています。このような事前調査をした学生は、面接官に興味を持ってもらえるように話を持っていけるでしょう(人によっては気味が悪いと思うかもしれませんが)。
一方セルフモニタリングが低い人は、服装や話し方、自らの表現方法については心配しません。
■「部屋の中を見せてください」と言われたら…
セルフモニタリングが高い人は、状況が明確であることを望みます。私の経験でも、彼らは何が起こるか、どのように振る舞えばいいかがわからない状況に置かれると、強くストレスを感じます。
同僚から電話があり、明日のディナーパーティに誘われたとします。セルフモニタリングが低い人は、誘ってきた同僚をどう評価しているかに応じて、出席するかどうかを決めようとしますが、セルフモニタリングが高い人は、「他に誰が来るのか」「パーティは堅苦しいのか、ラフな感じなのか」「手土産は必要か」「パーティの目的は何か」などを知ろうとします。
別の例で考えてみましょう。今、私の助手があなたの家のチャイムを鳴らし、「心理学の研究で必要なので、暮らしぶりを見るために部屋の中を見せてください」と言ったとしたら、あなたは助手を玄関先で待たせている数分間に何をしますか? このような場合でも、セルフモニタリングのスコアによって対応に違いが生じます。
低い人は、当惑しつつも自宅は自分の性格や趣向が表れる場所であり、それ以上でも以下でもないと考えて、とくに取り繕ったりはしません。
しかし高い人は、少しでも家の中がよく見えるように、慌てて物を動かしたり、だらしない暮らしをしていると思われないように片付けたりします。
セルフモニタリングが高い人にとって、平日の夜に事前の連絡なく突然知人が訪ねてくるのは悪夢のような体験になりますが、低い人は平然と突然の訪問者を受け入れることがあります。
■セルフモニタリングの違いが恋愛トラブルに
セルフモニタリングの違いによって生じる人間関係の摩擦は、恋愛ではさらに大きなものになることがあります。
恋愛対象候補の経歴と写真を見せられると、セルフモニタリングの低い人は人物紹介を読むのに、高い人は写真を見るのに多くの時間を費やします。
恋愛関係の安定性にも違いが見られます。セルフモニタリングが低い人は、高い人より恋愛関係が長続きし、離婚や浮気も少ないのです。ポジティブな言葉を使えば、セルフモニタリングが高い人は「柔軟に」恋愛ができるのかもしれません。しかし、セルフモニタリングが低いパートナーにとって、そのような柔軟さは好ましく思えません。
とはいえ、セルフモニタリングの高い人がすべて不誠実な浮気症だというわけではありません。彼らは状況に合わせた振る舞いをしているのであり、それがセルフモニタリングの低い人から見た場合、行動に一貫性を欠くと見られてしまうことがあるのです。
■義実家でうまく振る舞える人への不満
20世紀初頭の心理学者ウィリアム・ジェームズの有名な言葉に、「人間には意見の違う相手と同じ数だけの『社会的自己』がある」というものがありますが、今なら「とくにセルフモニタリングが高い人にそれが当てはまる」と付け加えたほうがいいでしょう。
私は長年の研究の結果、セルフモニタリングの高い人の行動は「社会的」とも呼べるし、低い人はそれを「偽り」と呼ぶこともあると考えるようになりました。このことは、セルフモニタリングの高低が異なるカップルにとって、フラストレーションの原因になることがあります。
その典型例が、休暇中に互いの家族の家を訪問するときです。このような集まりでは、セルフモニタリングの高い人は、さまざまな相手に合わせて会話のスタイルをうまく切り替えることができます。
一方、低い人は誰に対しても同じように振る舞います。セルフモニタリングの低い人は、パートナーが相手によって態度や考えをコロコロと変えているように思えて不満を感じてしまいます。
逆に、セルフモニタリングの高い人も、パートナーに対して、「もうちょっと相手に話を合わせればいいのに」「自己中心的で鈍感だ」というふうにフラストレーションを感じることがあります。
■「誠実」と「頑固」は表裏一体
セルフモニタリングが高い人のほうが、低い人よりも組織内で出世しやすいことを示す研究結果があります。
セルフモニタリングが高い人は集団のリーダーになりやすく、さまざまな役割を果たし、周囲の変化に敏感であることが求められる管理職として、高い評価を得やすいことがわかっています。が、この能力には「微妙なもの」も含まれています。つまり、仕事で失敗したときに自らを正当化し、他者に責任を押しつけることにも長けているのです。
一方このような局面で、セルフモニタリングの低い人は批判の矛先をうまくかわすことができずに、失敗の責任を全面的に被ることがあります。こうした様子が、周り(とくに同じようにセルフモニタリングの低い人たち)からは「誠実」だと見なされることもあります。
しかし、セルフモニタリングの低い人の態度が、組織内での円滑な人間関係にとってマイナスに作用することもあります。職場で対立が生じたとき、セルフモニタリングの低い人は強硬な態度をとり、自らの主張を曲げないことがあるのです。対照的にセルフモニタリングの高い人は、妥協と連携を通じて対立を解決しようとします。
■追跡調査でわかった「5年後」の違い
マーティン・キルダフとデビッド・デイは、「Do Chameleons Get Ahead? The Effects of Self-Monitoring on Managerial Careers」(カメレオンは出世するか? セルフモニタリングが昇進に及ぼす効果)と題した論文で、興味深い研究結果を報告しています。
二人は経営大学院の学生のセルフモニタリング・スコアを入学時に測定しておいてから、卒業後の社会的成功具合を、5年かけて追跡調査しました。
その結果、セルフモニタリングの高い人のキャリアには、はっきりとしたパターンがあることがわかりました。5年のあいだ、転職によってキャリアアップの可能性を高めていること、さらに、同じ会社に勤め続けている場合でも、昇進の割合が高いことがわかりました。彼らは昇進の可能性を高めようとして、自分が上の役職に相応しい人間であることを示すような振る舞いをします。
対照的に、セルフモニタリングの低い人は、会社への強い忠誠心を示し、セルフモニタリングの高い人のようにキャリアアップに相応しいような振る舞いを示そうとはしなかったのです。
■出世欲の強い「でしゃばり」という悪評も
もちろん、それぞれマイナス面もあります。
セルフモニタリングの低い人の場合は、柔軟性のなさが組織内での反発を招くこともあります。たとえば、チャックは誰からも好かれていて、「トゥイステッド・シスター」のTシャツがトレードマークになっています。しかし、顧客と商談をするときにもスーツではなくTシャツ姿です。そのため、ビジネスパーソンらしくないラフな話し方をする彼のことを、快く思わない人もいます。
一方、セルフモニタリングが高い人の場合は、昇進したいという態度が露骨だと批判されることがあります。セルフモニタリングが高い人は、同僚よりも上司から業績を評価されることを好むという研究結果もあり、とくに同僚からは、でしゃばりで、これみよがしな人間だと見られることがあります。
セルフモニタリングの高い人の昇進に対するアプローチのスタイルは、恋愛でも見られます。つまり、「よく言えば柔軟、悪く言えば軽薄」なのです。
また、セルフモニタリングの低い人が職場の狭い範囲内で少数の人と深い友好関係を築くのに対し、セルフモニタリングの高い人は、社内の大勢の人間と人脈を築く傾向があります。こうした広い人間関係の中で、彼らは中心的な役割を担い、本来なら知り合う機会がない人同士を結びつけることが多くあります。
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ブライアン・R・リトル
心理学者
パーソナリティや動機付けをテーマにした心理学分野で世界的に有名な研究者。大学教育界のノーベル賞とも呼ばれる「3Mティーチング・フェローシップ」受賞。ケンブリッジ大学ウェルビーイング・インスティテュート特別研究員、カールトン大学特別教授。ケンブリッジ大学心理学部、ケンブリッジ・ジャッジ・ビジネス・スクール、カールトン大学、マギル大学、オックスフォード大学、ハーバード大学などで教鞭をとり、常に満席の講義によって、3年連続ハーバード大学の人気教授に選出された。
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(心理学者 ブライアン・R・リトル)
アメリカの有名大学で心理学を教えるブライアン・R・リトルさんの著書『ハーバードの心理学講義』(大和書房)より一部を紹介する――。(第2回/全2回)
■あなたは場に合わせるか、信念に従うか
いつでも同じように見える人と、状況に応じてカメレオンのように変わる人がいるのはなぜでしょうか?
あなたは葬式で、「葬式の参列者」らしく振る舞えますか?
バーベキューでは、「バーベキューを楽しむ人」らしく振る舞えますか?
それとも、バーベキューで陽気に騒ぐ人たちから、「葬式にいるみたいに暗い人」と思われていますか?
まずは、SMテストを実施してください。SMといっても、あのSMではありません。「セルフモニタリング」の略です。
■18項目で分かる「セルフモニタリング」尺度
以下の文は、さまざまなシーンにおける「反応」を表したものです。各文について慎重に検討し、文の内容が当てはまることが多い場合は「○」、当てはまらないことが多い場合は「×」と回答してください。
1 他の人の行動を真似ることは苦手だと思う。
2 人の集まる場で、他の人を喜ばせるようなことをしたり、言ったりしようと思わない。
3 確信を持っていることしか主張しない。
4 あまり詳しく知らないことでも、とりあえず話をすることができる。
5 自分を印象づけたり、その場を盛り上げようとして演技しているところがあると思う。
6 たぶん、いい役者になれるだろうと思う。
7 グループの中では、めったに注目の的にならない。
8 場面や相手が異なれば、まったくの別人のように振る舞うことがよくある。
9 他の人から好意を持たれるようにすることが、それほどうまいとは思わない。
10 自分自身は「いつも見た目どおりの人間」ではないと思う。
11 他の人を喜ばせたり気に入ってもらうために、自分の意見ややり方を変えたりしない。
12 自分には、人を楽しませようとするところがあると思う。
13 これまでに、ジェスチャーや即興の芝居のようなゲームで、うまくできたことがない。
14 いろいろな人や場面に合わせて、自分の行動を変えていくのは苦手である。
15 集まりでは、冗談を言ったり話を進めたりするのを人にまかせておく方だ。
16 人前ではきまりが悪くて思うように自分を出すことができない。
17 いざとなれば、相手の目を見ながらまじめな顔をして嘘をつける。
18 本当は嫌いな相手でも、表面的にはうまく付き合っていけると思う。
採点方法:以下の○×と、自分の答えが一致するものに◎をつけてください。最後に◎の数を合計したものが、あなたのセルフモニタリング尺度のスコアになります。
1× 2× 3× 4○ 5○ 6○ 7× 8○ 9× 10○ 11× 12○ 13× 14× 15× 16× 17○ 18○
■いつでもどこでもできるチェック方法
スコアが高いほどセルフモニタリングが高いことを意味します。
セルフモニタリングが高い人は、人からどう見られているかを気にし、状況に合わせて振る舞います。低い人は、人からどう見られているかを気にしないので、状況ではなく自分の価値観に従います。
人目を気にせず自分に正直に振る舞うのと、相手の気持ちを察して振る舞うのとでは、どちらが実りある人間関係につながると思いますか?
または、場の雰囲気を読んで行動するのと、周りのことは気にせずに自分を貫くのとでは、どちらの態度が仕事で効果を発揮するでしょう?
先の質問数が多すぎて面倒くさいという場合は、簡単な方法を紹介します。誰かがあなたの目の前に立っているとして、その人から「指で額にアルファベットの“Q”を書いてください」と言われたとします。今すぐ、額に“Q”を書いてみてください。
あなたは、“Q”の下の出っ張りの部分を、自分から見て右側(相手から見ると“Q”は逆さまに見える)に書いたでしょうか? それとも、自分から見て左側(相手から見て実際に“Q”に見える)に書いたでしょうか?
そう、前者はセルフモニタリングが低く、後者は高くなります(もし“Q”以外の文字を書いた天邪鬼な人がいたとしたら、少なくとも協調性が低いとは言えるかもしれません)。
■内向型ならパーティには行かない?
セルフモニタリングが高い人は、場の空気に敏感です。それゆえに、場にふさわしいと思われる行動をとれるかどうかが、とても重要だと考えます。このことをよく示す実験があります。
それは、学生の被験者に、「パーティに行って、たくさんの人と話すミッションに参加するかどうか(外向型として振る舞うべき状況に参加するかどうか)」を選ばせるというものです。
セルフモニタリングが高い学生は、自らが外向型か内向型かにかかわらず、状況とやるべきことが明確な場合に参加を選ぶ傾向が見られました。一方セルフモニタリングが低い学生は、自らが外向型の場合にのみ、参加する傾向が見られたのです。
どのような状況であれば参加したいかと条件を尋ねると、セルフモニタリングが高い人は「どのように振る舞えばいいかが明確な状況」、低い人は「自らの外向レベルに合った状況」と回答しました。
■面接前に「調べる人」と「調べない人」
これらの研究結果から見て、私はセルフモニタリングが高い人はグーグル検索が好きなのではないかと考えています。すなわち彼らは、特定の状況に足を踏み入れる前に、どのような振る舞いが求められる状況なのかネットで下調べをして、疑問や不安をクリアにしようとするのではないか、と。
就職の面接を考えてみましょう。志望者はたいてい、その企業の情報を調べようとします。しかしセルフモニタリングが高い人の場合は、とくにそれが徹底しているはずです。
実際、私はグーグル検索をして、志望企業の情報や、さらには面接官の出身校や趣味、SNSアカウントまで調べた学生の例を知っています。このような事前調査をした学生は、面接官に興味を持ってもらえるように話を持っていけるでしょう(人によっては気味が悪いと思うかもしれませんが)。
一方セルフモニタリングが低い人は、服装や話し方、自らの表現方法については心配しません。
なぜなら、本来の自分の性格や趣向、信念に従うこと以外に選択肢がないからです。
■「部屋の中を見せてください」と言われたら…
セルフモニタリングが高い人は、状況が明確であることを望みます。私の経験でも、彼らは何が起こるか、どのように振る舞えばいいかがわからない状況に置かれると、強くストレスを感じます。
同僚から電話があり、明日のディナーパーティに誘われたとします。セルフモニタリングが低い人は、誘ってきた同僚をどう評価しているかに応じて、出席するかどうかを決めようとしますが、セルフモニタリングが高い人は、「他に誰が来るのか」「パーティは堅苦しいのか、ラフな感じなのか」「手土産は必要か」「パーティの目的は何か」などを知ろうとします。
別の例で考えてみましょう。今、私の助手があなたの家のチャイムを鳴らし、「心理学の研究で必要なので、暮らしぶりを見るために部屋の中を見せてください」と言ったとしたら、あなたは助手を玄関先で待たせている数分間に何をしますか? このような場合でも、セルフモニタリングのスコアによって対応に違いが生じます。
低い人は、当惑しつつも自宅は自分の性格や趣向が表れる場所であり、それ以上でも以下でもないと考えて、とくに取り繕ったりはしません。
しかし高い人は、少しでも家の中がよく見えるように、慌てて物を動かしたり、だらしない暮らしをしていると思われないように片付けたりします。
セルフモニタリングが高い人にとって、平日の夜に事前の連絡なく突然知人が訪ねてくるのは悪夢のような体験になりますが、低い人は平然と突然の訪問者を受け入れることがあります。
■セルフモニタリングの違いが恋愛トラブルに
セルフモニタリングの違いによって生じる人間関係の摩擦は、恋愛ではさらに大きなものになることがあります。
恋愛対象候補の経歴と写真を見せられると、セルフモニタリングの低い人は人物紹介を読むのに、高い人は写真を見るのに多くの時間を費やします。
また、セルフモニタリングの低い人は相手の人柄や価値観を重視し、高い人は外見や社会的地位を重視するという研究結果もあります。
恋愛関係の安定性にも違いが見られます。セルフモニタリングが低い人は、高い人より恋愛関係が長続きし、離婚や浮気も少ないのです。ポジティブな言葉を使えば、セルフモニタリングが高い人は「柔軟に」恋愛ができるのかもしれません。しかし、セルフモニタリングが低いパートナーにとって、そのような柔軟さは好ましく思えません。
とはいえ、セルフモニタリングの高い人がすべて不誠実な浮気症だというわけではありません。彼らは状況に合わせた振る舞いをしているのであり、それがセルフモニタリングの低い人から見た場合、行動に一貫性を欠くと見られてしまうことがあるのです。
■義実家でうまく振る舞える人への不満
20世紀初頭の心理学者ウィリアム・ジェームズの有名な言葉に、「人間には意見の違う相手と同じ数だけの『社会的自己』がある」というものがありますが、今なら「とくにセルフモニタリングが高い人にそれが当てはまる」と付け加えたほうがいいでしょう。
私は長年の研究の結果、セルフモニタリングの高い人の行動は「社会的」とも呼べるし、低い人はそれを「偽り」と呼ぶこともあると考えるようになりました。このことは、セルフモニタリングの高低が異なるカップルにとって、フラストレーションの原因になることがあります。
その典型例が、休暇中に互いの家族の家を訪問するときです。このような集まりでは、セルフモニタリングの高い人は、さまざまな相手に合わせて会話のスタイルをうまく切り替えることができます。
保守的な父親と話すときは保守的に振る舞い、リベラルな叔母と話すときはリベラルに振る舞い、弟と話すときは格好いい年上として振る舞います。
一方、低い人は誰に対しても同じように振る舞います。セルフモニタリングの低い人は、パートナーが相手によって態度や考えをコロコロと変えているように思えて不満を感じてしまいます。
逆に、セルフモニタリングの高い人も、パートナーに対して、「もうちょっと相手に話を合わせればいいのに」「自己中心的で鈍感だ」というふうにフラストレーションを感じることがあります。
■「誠実」と「頑固」は表裏一体
セルフモニタリングが高い人のほうが、低い人よりも組織内で出世しやすいことを示す研究結果があります。
セルフモニタリングが高い人は集団のリーダーになりやすく、さまざまな役割を果たし、周囲の変化に敏感であることが求められる管理職として、高い評価を得やすいことがわかっています。が、この能力には「微妙なもの」も含まれています。つまり、仕事で失敗したときに自らを正当化し、他者に責任を押しつけることにも長けているのです。
一方このような局面で、セルフモニタリングの低い人は批判の矛先をうまくかわすことができずに、失敗の責任を全面的に被ることがあります。こうした様子が、周り(とくに同じようにセルフモニタリングの低い人たち)からは「誠実」だと見なされることもあります。
しかし、セルフモニタリングの低い人の態度が、組織内での円滑な人間関係にとってマイナスに作用することもあります。職場で対立が生じたとき、セルフモニタリングの低い人は強硬な態度をとり、自らの主張を曲げないことがあるのです。対照的にセルフモニタリングの高い人は、妥協と連携を通じて対立を解決しようとします。
■追跡調査でわかった「5年後」の違い
マーティン・キルダフとデビッド・デイは、「Do Chameleons Get Ahead? The Effects of Self-Monitoring on Managerial Careers」(カメレオンは出世するか? セルフモニタリングが昇進に及ぼす効果)と題した論文で、興味深い研究結果を報告しています。
二人は経営大学院の学生のセルフモニタリング・スコアを入学時に測定しておいてから、卒業後の社会的成功具合を、5年かけて追跡調査しました。
その結果、セルフモニタリングの高い人のキャリアには、はっきりとしたパターンがあることがわかりました。5年のあいだ、転職によってキャリアアップの可能性を高めていること、さらに、同じ会社に勤め続けている場合でも、昇進の割合が高いことがわかりました。彼らは昇進の可能性を高めようとして、自分が上の役職に相応しい人間であることを示すような振る舞いをします。
対照的に、セルフモニタリングの低い人は、会社への強い忠誠心を示し、セルフモニタリングの高い人のようにキャリアアップに相応しいような振る舞いを示そうとはしなかったのです。
■出世欲の強い「でしゃばり」という悪評も
もちろん、それぞれマイナス面もあります。
セルフモニタリングの低い人の場合は、柔軟性のなさが組織内での反発を招くこともあります。たとえば、チャックは誰からも好かれていて、「トゥイステッド・シスター」のTシャツがトレードマークになっています。しかし、顧客と商談をするときにもスーツではなくTシャツ姿です。そのため、ビジネスパーソンらしくないラフな話し方をする彼のことを、快く思わない人もいます。
一方、セルフモニタリングが高い人の場合は、昇進したいという態度が露骨だと批判されることがあります。セルフモニタリングが高い人は、同僚よりも上司から業績を評価されることを好むという研究結果もあり、とくに同僚からは、でしゃばりで、これみよがしな人間だと見られることがあります。
セルフモニタリングの高い人の昇進に対するアプローチのスタイルは、恋愛でも見られます。つまり、「よく言えば柔軟、悪く言えば軽薄」なのです。
また、セルフモニタリングの低い人が職場の狭い範囲内で少数の人と深い友好関係を築くのに対し、セルフモニタリングの高い人は、社内の大勢の人間と人脈を築く傾向があります。こうした広い人間関係の中で、彼らは中心的な役割を担い、本来なら知り合う機会がない人同士を結びつけることが多くあります。
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ブライアン・R・リトル
心理学者
パーソナリティや動機付けをテーマにした心理学分野で世界的に有名な研究者。大学教育界のノーベル賞とも呼ばれる「3Mティーチング・フェローシップ」受賞。ケンブリッジ大学ウェルビーイング・インスティテュート特別研究員、カールトン大学特別教授。ケンブリッジ大学心理学部、ケンブリッジ・ジャッジ・ビジネス・スクール、カールトン大学、マギル大学、オックスフォード大学、ハーバード大学などで教鞭をとり、常に満席の講義によって、3年連続ハーバード大学の人気教授に選出された。
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(心理学者 ブライアン・R・リトル)
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