40代から仕事で意識するべきことは何か。経営コンサルタントの藤井孝一さんは「40代は一つひとつの失敗が命取りになりかねない。
リスクマネジメントができない40代は信用されないし、もうその先の成長は望めないだろう」という――。
※本稿は、藤井孝一『40代がうまくいく人の戦略書』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■コミュニケーションの取り方は“意識”だけでなく“仕組み化”を
以前は、マネジメントといえば人材育成や目標管理という要素がほとんどでした。
最近は部下のメンタルヘルスやコンプライアンスなどの予防的な管理も上司に求められるようになっています。
40代はとくに、そういったデリケートな対処を含めてのマネジメントをしていかなくてはならないでしょう。
私も、部下がうつ病にかかり休職した経験があります。激務の職場だったとはいえ、「上司としてもっとできることがあったんじゃないかな」と、いまでも反省しています。
そういう反省もあり、いまではコミュニケーションの取り方には気を配るようになりました。
さらにいうなら、コミュニケーションの取り方は“意識する”だけではなく、“仕組み化する”のが効果的です。
私の会社は社員10人ほどの小さな会社ですが、毎朝朝礼をして社内全体でコミュニケーションを取る時間を設けています。コロナ以降、社員の大半が在宅勤務になってからは、Zoomを使って続けています。
朝礼では「グッド&ニュー」という手法を用いています。

グッド&ニューはアメリカの教育者、ピーター・クライン氏が開発したコミュニケーション法で、24時間以内にあったいいことや新しいことを1分間で発表し合います。
発表するのは、「仕事の業務で悩んでいたんですけど、こんなふうに解決できました」といった仕事上の話から、「この週末、親戚が遊びに来て楽しかったです」といったプライベートでも、なんでもあり。
これを続けると、ポジティブな思考が養われていくという効果があります。
みんなでいい話を共有すると連帯感も生まれ、チームが活性化するのです。
これが仕組みのひとつだと思います。
■何回も同じことをいわないと部下には伝わらない
また、朝礼が終わってから、上司と部下が個別に話す時間を設けています。時間は数分から、長い場合でも10分ぐらい。仕事の進捗状況や今日の仕事の予定などを報告してもらうのがメインで、グッド&ニューで発表してもらった内容について感想を述べることもあります。
部下から「ちょっとこういうところで行き詰まっているんです」、「今月の数字が達成できそうもないんですけど、どうしたらいいでしょう」などと相談を受けたときは、アドバイスをします。
この段階で全員にきちんと指示を出しておけば、その日はそれ以外に接点がなくても問題なく業務は進むのです。
さらに、月に一度の個別面談も行ない、仕事での悩みや今後の目標などについて話し合います。
ここまでコミュニケーションの仕組みをつくっていても、報告のし忘れや話の行き違いなどは起きるものです。

部下の指導をしているとき、「何回も同じことをいわせるな!」とキレる上司もいるでしょう。けれども、私は、何回も同じことをいわないと部下には伝わらないものだと考えています。
上司の考えをうまく先読みして動いてくれる部下ばかりだったら、どんなにラクなことか……と思うかもしれませんが、自分の考えは言葉にして伝えなければ相手はわかりません。
上司が「伝える努力」をするのは基本です。うまく伝わらないのなら部下ではなく、自分に問題があるのだと考えたほうがいいでしょう。
■企業の理念を毎朝唱和する効果
私の会社では「憲章」をつくっています。
憲章とは「ミッション」とも呼ばれるもので、会社の使命や目指すべき姿について定めています。
たとえば、私たちの使命のひとつとして、「精神的・経済的・社会的自立を果たす人材の発掘・育成・支援をするために、価値ある教育コンテンツ・パートナーシップ・インフラを提供する」としています。
この憲章を手のひら大の紙に印刷し、社員全員に配っています。それを毎日朝礼で唱和するのです。
これはいつの時代も変わらずに大切な、社員の意識をひとつにする方法なのだと思います。
以前、ベネッセの契約社員が会社の顧客の個人情報を流出させたことが発覚し、批判が集中しました。

一度こういう問題を起こしてしまったら、あっという間に会社の信頼は失われます。信頼を回復するまでに何年間もかかるでしょう。
社員にコンプライアンスの意識を抱かせるには、企業の理念を毎朝唱和するような、地道な活動を続けるしかないのではないかと思います。
入社式で「わが社のモットーは……」と伝えるだけでは、ただのお題目になってしまいます。毎日声に出して読むことで、自然と自分の会社の目指す姿が共有されるようになっていくのだと思います。
■「人を動かす技術」のある40代は、必ず生き残る
さらに、私の会社の憲章には「行動規範」も記されており、わが社の社員としてどう行動すべきなのかを定めています。そこから毎日ひとつ選んで朝礼で話し合います。
たとえば、「私たちは、業務や企画の文書化・標準化・マニュアル化・情報共有を徹底し、資源をフル活用できる環境を保ちます」という規範を選んだら、それをどう実行するのかを発表するのです。
「情報共有を徹底するために、○○の文書化を今日中にやります」
という具合です。
ただ唱えるだけではなく、実際に行動に移すことによって、規範は活かされます。
このように全員で憲章や行動規範を共有していると、「それはちょっと、ウチのミッションからずれてるんじゃないの?」と互いに指摘できるようになります。そうすることで、より企業の理念が深く刻み込まれていくと思います。

ちなみに、憲章は変えることはありませんが、行動規範は半年に一度、社員全員で見直します。
「最近、挨拶の声が小さくなってるよね」など、その段階での社内の問題点を話し合い、それを行動規範に反映するようにしています。
社長や上司が一方的に決めてしまうとやらされ感がありますが、自分たちで決めたことなら守ろうという能動的な意識が社員の心に芽生えるのです。
この項で紹介した方法は、会社という単位に限らず、ひとつの部署、ひとつのチームであっても実行できると思います。
部下の育成も管理も、上司は業務の一部として当然やらなければなりません。それを仕方なくやるのではなく、ポジティブに仕組みを考えて自分なりのメソッドをつくれば、苦にはならないでしょう。
40代でマネジメント力を認められれば、組織で必ず生き残っていけます。これは自分を守る術でもあるのです。
■「能力」があっても「信用」がない人はもう伸びない
20代、30代の失敗は、ある意味では「挑戦」と対になるものですから、その挑戦を評価されますし、次のチャンスも回ってくるでしょう。
しかし、40代は、「一つひとつの失敗が命取りになりかねない」ので、非常に怖いのです。
もちろん、完璧な人間はいないので、誰でもミスはします。
ただし、経験がある人間は、ミスの芽を早めに摘み取れるので、「大失敗」に至らずにすむでしょう。
この「大失敗に至るミスを予防する能力が40代には求められる」のです。
けっしてミスがあってはならない医療の世界でも、必ず一定の割合でミスは起こります。医師も人間ですから、どんなに気をつけていてもミスはするでしょう。
このうち、しょっちゅうミスをする医師は「リピーター医師」と呼ばれ、最近は行政処分をされるなど問題になっています。
「ミスのリピーター」になってしまうのは、ミスをしたときに「運が悪い」「あいつが悪い」と、なにかのせいにしてごまかしてきたからではないでしょうか。自分の向上の糧にしなかったので、同じミスを繰り返すのです。
失敗を活かして仕組みや環境を見直した人は、ミスをしなくなります。なにも対策を取らないと、なにも学ばず、何十年経っても同じミスを繰り返すのです。これはとても怖いことです。
みなさんのまわりにも、「ミスのリピーター」がいませんか? 若いころは「そそっかしいなあ」などと許してもらえても、40歳からは許してもらえなくなってくるのです。
とくに取引先や顧客など外部からの信頼をなくすようなミスは最悪ではないでしょうか。
たとえば、取引先との重要な打ち合わせを失念したり、時間を間違えたりするのは、「ついうっかり」ではすまされません。
完全なミスです。
役職につき、仕事が忙しくなると、打ち合わせや会議を忘れたり、時間に遅れたりしてしまうのはよくある話です。
身内なら「忙しいから仕方ない」ですませてもらえます。しかし取引先や顧客の場合、相手も忙しいのです。そのなかで時間を割いてもらっているわけですから、相手の時間を奪ったことになります。
こういった、人の時間や労力を奪う失敗は、年齢が上がれば上がるほど許されなくなると心得てほしいと思います。
■40代で致命的な失敗をしない方法
40代で「ルーズな人」という印象をまわりに与えてしまうダメージは大きく、なかなか挽回がきかないものです。
分刻みで業務をこなす経営者や政治家が、スケジュールを忘れることはないでしょう。それは、秘書などがしっかりスケジュールを管理しているからです。
スマートフォンには時間管理アプリがそろっています。予定の時間になると教えてくれるアプリもあるので、そういったツールを駆使して、徹底的に管理するしかありません。
このようなツールを使うのが苦手な人は、何度も手帳を見たり、出先に向かう時間を時計のタイマーでセットしたり、部下に伝えておいて声をかけてもらうなど、思いつく限りの対策を練りましょう。
大事なのは「ちゃんと覚えたから大丈夫だろう」と過信せずに、念には念を入れておくこと。二重三重の対策を取っておくこと。
それに尽きるのではないでしょうか。画期的なノウハウなどないと、私は思います。
また、40代にとって、お酒の失敗も致命的です。
私もそうですが、若いころにお酒を飲みすぎて何度も失敗した経験がある人は、だんだん気をつけるようになるはずです。体調を考慮し、飲む量やスピードをコントロールするでしょう。
しかし、懲りない人もいるものです。ほんのたまにならわかりますが、いくつになってもしょっちゅう深酒をして、翌日お酒が残っている状態で出社したりします。
そういうタイプの人は、仕事に対する真剣度が足りないのでしょうが、もしアルコール依存症なのであれば、早めに専門家に相談したほうがいいかもしれません。率先して酔いつぶれる40代なんて、部下からは愛されても、上司からは評価されないでしょう。
とにかく、「リスクマネジメント」ができない40代は信用されないし、もうその先の成長は望めないでしょう。
40代は、自分自身だけではなく、部下や同僚など、自分のチームのすべてをコントロールできなければ評価されないということです。
40代には、ミスを小さな芽のうちに摘み、たとえミスが起きたとしても即対処できる力が必要なのです。

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藤井 孝一(ふじい・こういち)

経営コンサルタント

中小企業診断士。1966年、千葉県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、大手金融機関を経て99年に独立。著書に『週末起業』(ちくま新書)など。

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(経営コンサルタント 藤井 孝一)
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