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■「エモい」を希求するか「チルい」を大切にするか
Z世代とは、主に1996年から2015年にかけて生まれた、今年10~29歳になる世代を指します。ですが、この定義は厳密に定められたものではなく、企業や研究機関によって幅広く設定されることがあります。
たとえば、私の所属するサイバーエージェント次世代生活研究所(以下、次世代生活研究所)は、消費者研究やマーケティングを行っているため、購買傾向の特徴を加味して「高校生以上で26歳より若い人たち」をZ世代と設定し、調査活動やトレンド分析を行っています。
皆さんの職場にも、Z世代の若手や新人がいると思います。私自身もZ世代なのですが、先輩がた(X世代/Y世代)と接する中で「自分たちはZ世代ならではの、独特な価値観を有している」と感じています。
Z世代は「チルの世代」とも称されます。チルとは英語で“落ち着く、くつろぐ”を意味するchill outからきています。Y世代が動的な感情の高まり「エモい」を希求したのに対し、Z世代は静的な感情の心地よさ「チルい」を大切にしています。自然が豊かで静かな公園をのんびりと散策したり、サウナやシーシャ(水たばこ)でまったりするのが人気なのは、こうした“チル志向”がベースになっているのでしょう。
また、卒業時の就職率は高く初任給も上昇傾向にあることから、デフレ期に育った世代ではありながらも将来への不安はあまり感じていません。多感な時期に自然災害や疫病の蔓延を経験したためか、人と比べたり競ったりするよりも、自分の価値観を大切にして人生を歩んでいきたいと思っている人が多いようです。
昭和・平成の時代と違い、職場の親睦を深める飲み会文化は形式が変わりつつあります。
Z世代は可処分所得は多くないもののトレンドの発信源であり、商品企画やマーケティング戦略における重要層ともされています。Z世代を理解することは、職場のマネジメント上もビジネス戦略上も、有益です。そこで本稿では、定性・定量調査からわかったZ世代ならではの文化や思考の特徴についてご紹介したいと思います。
■トレンドの発信源が急速に変わってきた
さて、次世代生活研究所ではZ世代が「今年流行ったと思うもの」を調査し、毎年「Z世代ヒットトレンドランキング」として発表しています。皆さんは、それぞれいくつずつ知っているでしょうか?
じつは24年のランキングにはそれまでとは異なる、特筆すべき変化がありました。それは“トレンドの発信源”についてで、1位から30位までの30項目のうち、TOP5を含めた約半数の13項目が動画アプリ「TikTok」から流行したものだったのです。X(旧ツイッター)発の流行が5項目、テレビ発の流行は3項目でした。
23年のトレンドランキングTOP30では、TikTok発が8項目、X発が2項目、テレビ発が7項目だったほか、YouTube発が3項目でした。このことからもZ世代の中で、TikTokがいかに急速に大きな存在になっていったのかがわかります。
■なぜTikTokが支持されるのか
TikTokは15秒~1分程度の「ショート動画」が、投稿・閲覧できるアプリです。
ユーザーが音楽に合わせて踊る「踊ってみた」動画がバズったことから「ああ、ダンスのあれね」と思っている方がいるかもしれませんが、「ファッション」「コスメ」「グルメ」「癒し系」などからビジネス知識を紹介するものまで、ジャンルは多岐にわたります。
同じようなショート動画のコンテンツはYouTubeやインスタグラムにもありますが、TikTokが支持される理由は、コメント欄の反応も含めて“よりリアルに近いものが見られる”ところにあると私は分析しています。
たとえば、最新の家電や美容アイテムなどを購入する際には、実際の使用感を短くまとめた「レビュー系」の動画をチェックします。このときに閲覧者が警戒するのは、ステルスマーケティングや仕込みでしょう。発信者が企業から商品提供や制作費を受けて作られた動画(いわゆる案件)だと、忖度が働いて本音が語られていない可能性があります。
このときにコメント欄の「私も買ったけど××だった」などの一般ユーザーの本音が参考になるのです。ほかの動画サイトにもコメント欄はありますが、TikTokの特徴はコメントハードルの低さにあります。
YouTubeのアカウントはGmailをはじめとしたGoogleのアカウントと結びついており、自分がコメントすると友人や知人にも見られてしまうかもしれません。
インスタグラムは、さらにその傾向が顕著です。基本的には自分の身の回りで出合ったキレイやカワイイなど“映(ば)え”を意識した写真を見てもらうアプリですから、そのアカウントで辛辣な意見やネガティブなコメントを書くには抵抗があるのです。
その点、TikTokは閲覧専用でアカウントを持っている人が圧倒的に多く、顔見知りとフォロー/フォロワーの関係で繋がってもいません。それだけに、コメント欄に本音を書きやすいのだと思います。
■“映える写真”が撮れないSNSがなぜ人気なのか
もう一つ、TikTokが優れていると感じるのは、タイムラインに表示される動画を抽出しているアルゴリズムです。
TikTokはフォロー登録や検索/お気に入り履歴からの動画に加えて、見たことも検索したこともないけれど「確かに自分が興味のある動画」が、絶妙な割合で表示されるのです。
まだ使ったことがないという方は、ぜひこの機会にアカウントを作って、最新トレンドの発信源を体感してみることをおすすめします。1分前後の短時間で、必要な情報がぽんぽんと得られるテンポの良さは、クセになるかもしれません。
トレンドの発信源は時代とともに変遷します。ここ数年はTikTokが目覚ましい伸びでしたが、次にきそうなメディアもあります。たとえばZ世代の中でもとくに情報感度の高い女子高生・女子大生の間で爆発的に伸びているのが「BeReal.」というアプリです。
このSNSは1日1枚の写真を友だちとシェアするのですが「アプリから通知がきたら、2分以内に自分と周囲の写真を撮って投稿しなければならない」というユニークなルールがあります。
通知は毎日異なる時間に突然くるので、あらかじめ準備することは不可能です。2分以内ですからお化粧を直す時間も、部屋を片付ける余裕もありません。写真が撮れない状況にあるときはスキップして次の通知を待つこともできますが、自分の写真をアップしない限り、友だちの写真も見られません。
画像加工機能は使えないので、どうやっても“映える写真”にはなりませんが、それがこのアプリの良さなのです。
このように言うと、Z世代は閉鎖的で気に入った人としか交流したがらない性向と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。多様性を前提とした世の中で育ってきたので「なるほど、あなたはこういうことが好きなんだね」と認めてくれるだけで嬉しいのです。
■Z世代に一番嫌われる話し方とは
今、TikTokで静かなブームとなりつつあるのは、おじいちゃん・おばあちゃん世代が発信している動画です。エンタメ性などのクオリティは必ずしも高くはないのですが、年の離れた世代が自分たちのカルチャーに興味を持って挑戦してくれていることが多くの共感を呼び、コメント欄は「楽しそう」「がんばって」といった温かい言葉で溢れています。
逆に、上の世代に自分たちのカルチャーを知ったかぶりされたり、否定的な決めつけをされるのは大嫌いです。「○○ちゃんってZ世代だよね? やっぱり動画でも、1分以上だと飽きちゃうのかな。TikTokばかり見てるとアホになっちゃうよ」などと見下されたら「この人とは絶対にわかり合えない」と感じて、最大限の距離をとるでしょう。
もし、Y・X世代の皆さんがZ世代の部下や後輩をもっと理解したい、心理的な距離を縮めたいとお考えなら、こうしたツボを押さえていただくと上手くいくのではないかと思います。
試しに「○○さんは、TikTokでどんな動画を見ているの? 『猫ミーム』って何?」などと、聞いてみてください。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2025年4月4日号)の一部を再編集したものです。
(初公開日:2025年5月9日)
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松崎 瑞穂(まつざき・みずほ)
サイバーエージェント次世代生活研究所、研究員
大学卒業後、外資系のマーケティング企業で、コスメブランドのデジタルマーケティング施策の設計やインフルエンサーマーケティングを担当。Z世代を主とした消費者のインサイト研究を行っている。
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(サイバーエージェント次世代生活研究所、研究員 松崎 瑞穂 構成=渡辺一朗 取材協力=原田曜平)