優秀なプレーヤーが、マネジメントも上手いとは限らない。これまで約2万人ものビジネスパーソンを指導してきた橋本拓也さんは「マネジャーがメンバーの成長を支援するのには、適切な“フィードバック”がかかせない。
適切なフィードバックを行うには、常に3つのポイントを意識することが重要だ」という――。
※本稿は、橋本拓也『部下をもったらいちばん最初に読む本』(アチーブメント出版)の一部を再編集したものです。
■フィードバックは「ちょっとサポートしていい?」という声かけ
今では当たり前のように使われるようになったフィードバックという言葉ですが、そもそもは軍事用語で「このままいくと目標地点からどれくらいズレて砲弾が着弾しそうかを射手(しゃしゅ)に情報を戻すこと」を指しました。
要するに「このまま進めて予定通りにいくかどうかの情報提供」という意味です。ビジネスに置き換えるならば、このままいくと目標(=たどり着きたいところ)にたどり着けるかどうかの情報提供になります。
マネジャーがメンバーに対して行うフィードバックがこれです。メンバー本人が目指す成長に対して現状の情報提供を行います。
「このままいくと目標達成しなさそうだから、ちょっとサポートしていい?」と関わります。例えば、遅刻が多いメンバーがいたら「いつも遅刻しているね。今後も繰り返されると、あなたが目標にしている『周りから信頼されるマネジャーになる』を達成できないと思うので、改善のためにフィードバックしますね」と伝えるイメージです。
また、時には耳の痛いことを伝える必要もあります。
例えば「期日までに仕事を終わらせてプライベートを楽しむことをしたい」と言っているメンバーがいるとします。

そんな彼が時間の使い方がうまくない場合には「いつも忙しそうにして、仕事が終わらずにバタバタと帰っているけど、その進め方だと仕事のことを思い出してプライベートを楽しめないから、ちょっと時間の使い方に改善が必要だと思いますよ」と指南することもあります。
■何でもかんでも承認は「NG」
そもそもフィードバックには2種類があります。
1つは、良かったことを伝える「ポジティブ・フィードバック」です。相手のどういうところが良かったのか、マネジャーには真似できないすごいところ、今回すごく助けてもらったところなど、相手への感謝を言葉にして伝えるのがポジティブ・フィードバックです。
特に大切なのが、具体性です。何でもかんでも承認するのではなく「このような行動が」「このような良い影響が周囲にもたらされた」「私はこのように感じた」など具体的に伝えることがポイントです。
もう1つは、先述の耳の痛いことを伝える「ギャップ・フィードバック」です。ギャップ・フィードバックによってメンバーは成長を促されます。
■適切な「フィードバック」をおこなうポイント3選
実践できるよう次の3つのポイントを押さえておきましょう。
1.誰が言うか?
まず必要なのは「誰が」フィードバックをしているかです。
まったく知らない人間、嫌いな相手からどれだけ正しいことを言われても人は聞く気にはなれません。ですから第一に、日頃からの人間関係を構築している必要があります。
その上で、フィードバックする内容を実践できていることが大事です。
例えば遅刻ばかりしているメンバーにフィードバックをするときに、マネジャーも遅刻がちだとしたら、注意をしても「あなたに言われたくない」と思われます。
メンバーにフィードバックする内容をまずマネジャーがきちんと実践できているかを見直してみてください。もしも実践できていないとしたら、マネジャーが自分自身を正すところからスタートです。
2.何を言うか?
次に伝えるべき内容は「現状の把握」「問題点のすり合わせ」「改善計画の立案」の3つの段階に分けることができます。
【現状の把握】
現状の把握では、伝えるべき内容の状況・行動・発言・周囲への影響などを事実に基づいて伝えます。さらに伝え方は「I(アイ)メッセージ(=私は~)」で伝えます。
例えば、遅刻について伝えるなら「今日、本来は9時にミーティング開始のところを君は9時10分に参加してきましたね。そのためもう一度要点を繰り返し説明する時間も取り、他のメンバーは一度理解したことをもう一度重複して聞くことにもなりました。遅刻は今回3回目でしたね。私はとても残念に思いました」などです。
【問題点のすり合わせ】
問題点のすり合わせでは、問題の焦点をヒトではなく「コト」に合わせます。

例えば、お客様からクレームがあった場合に「誰が怒らせたんだ?」となりがちですが、これではヒトにフォーカスして“犯人探し”になってしまいます。
そうではなく「何が原因でクレームにまでなったんだ?」というコトにフォーカスします。すると、犯人探しではなく問題解決に思考が向きます。
【改善計画の立案】
改善計画の立案では、同じ問題が起きないよう次への計画を立案します。
「もしも同じことが起きたら、次はどうするか?」「問題が起きる前日に戻れるとしたら、どう行動するか?」と考え、同じ轍を踏まないように考えてもらいます。
■人間関係を壊す「トリプル発言」に注意
3.どのように言うか?
最後に伝え方ですが、基本的に遠慮をせずに言うべきことを言うスタンスで伝えてください。
ただし、注意点もあります。1つは先述のIメッセージです。
Iメッセージで伝えると、主語が「私」なので相手は否定することができません。逆にYouメッセージで「遅刻した君は不誠実だ」「君の遅刻でみんなが迷惑した」という伝え方だと「私は不誠実ではありません」「全員が迷惑したわけではありません」と否定できてしまいます。
「私は遅刻をとても残念に感じたんだ」「私はこれが続くと、プロジェクトチームで一緒に続けることはできないと感じているんだ」などの「私は」という主語で表現するほうが、受け取りやすい伝え方になります。
もう1つは感情的にならないことです。
Iメッセージでも感情的になってしまうと相手には感情だけが伝わってしまい、批判になってしまいます。伝えるべきメッセージが伝わりません。特に、感情的になるとYouメッセージになりがちです。
「感情が高ぶっている+コトではなくヒトにフォーカス+Youメッセージで批判的に伝わる」のトリプル効果で人間関係が壊れてしまいかねません。ポジティブな場合はともかく、ギャップ・フィードバックは難しいわけではありませんが、慎重な取り扱いをしなければいけません。
ですが「誰が」「何を」「どのように」を押さえておけば、マネジャーとして伝えなければいけない厳しいことを、メンバーに伝えることができるのです。マネジメント同様、フィードバックも技術ですので、ぜひ身につけましょう。

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橋本 拓也(はしもと・たくや)

アチーブメント 取締役営業本部長、トレーナー

千葉大学卒業後、2006年アチーブメントに入社。入社1年目で新規事業の責任者に抜擢され家庭教師派遣事業を立ち上げるも、5年で事業閉鎖。2008年よりメンバーマネジメントに携わるが、異動・退職などが多く、7年間マネジメントの無免許運転期間を過ごす。その後、世界60カ国以上で学ばれる「選択理論心理学」を土台にしたマネジメントに取り組み、マネジメントが激変。メンバーおよび組織の飛躍的な成長を創り出し、2021年に新卒初の執行役員、2022年に取締役に就任。
現在は130人以上のメンバーマネジメントに携わる。2023年に開講したマネジメント講座は1年でシリーズ累計1000人以上が受講。また、企業経営者や管理職、ビジネスパーソンらが年間1.8万人以上受講するセミナー『頂点への道』講座シリーズのメイン講師を務める。これまでに研修を担当した受講生は2万人に上る。

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(アチーブメント 取締役営業本部長、トレーナー 橋本 拓也)
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