40代から仕事で心掛けることは何か。経営コンサルタントの藤井孝一さんは「40代は過去に積み重ねてきた経験や知識やスキルを『アウトプット』して、人を育てたり、人を率いていったりする世代だ。
そのために自分の持ち物を細かく分析する作業が必要になる」という――。
※本稿は、藤井孝一『40代がうまくいく人の戦略書』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■40代は守るべきものを守りながら攻める戦略
司馬遼太郎の歴史小説『坂の上の雲』。その主人公のひとりに、秋山好古という実在の人物がいます。
彼は日露戦争において、屈強なロシアのコサック騎兵を封じ、「守りを固めながら攻める」という戦略を見事に体現しました。
秋山好古は日本陸軍騎兵隊の創設者であり、「日本騎兵の父」と呼ばれる人物です。明治16年、陸軍大学校に入学したのちに、騎兵の研究を命ぜられフランスに留学。そこでヨーロッパのすぐれた騎兵戦術を学んだあと、日本で騎兵隊の改革に着手しました。
当時、日本の騎兵隊は防御力のなさが悩みの種でした。軍馬の能力からして列強国より低く、「無用の長物」と呼ばれる弱小部隊だったのです。
彼は、この状態で世界最強と目されるロシアのコサック騎兵と戦ってもまったく勝ち目はないと考えました。
そこで、彼はコサック騎兵が来たら兵隊はすぐに下馬し、機関銃を使って撃退するという、意表を突いた作戦を考えました。
普通なら騎兵と騎兵が馬上で戦うところを下馬させて塹壕に潜るという戦法を取り、当時の常識を覆したのです。
この作戦により、8000ほどの小兵力だった秋山騎兵隊は、10万ともいわれているコサック騎兵の猛攻をしのいだのです。しっかり守りを固めながら攻めるという、好例でしょう。
人は年齢を重ねると、どうしても保守的になっていくものです。経験があるゆえ、行動する前にその結果を予測して、失敗を回避しようとしてしまいます。
若いころと違い、40代の失敗は傷が大きく、挽回のチャンスも少ないのが現実です。40代の人間にはこれまで築き上げてきた立場や信用、家族など、守らなければいけないものがたくさんあります。
たしかに、すべてをなげうってのチャレンジは無鉄砲そのものです。しかし、守ってばかりいてはそれ以上の成長がなく、ただただ衰えていくばかりです。
40代は、守るべきものを守りながら攻める戦略を立てるべきだ、と思うのです。
■「根回し」がヘタな40代は二流
私は、40代の転職もありだと考えていますが、その前に、いまいる職場でできる限りのことをすべきだとも思います。
いまの部署でやりたいことをできないのなら、他の部署に異動させてもらうのも手でしょう。
転職をしなくても、地方の事業所に転勤するだけでかなり職場環境は変わります。
20代や30代は転職や起業も勢いでなんとかなりますが、40代はそうもいきません。転職や起業をして、いままで築いてきたものをすべてゼロにする前に、これまでの知識や経験やスキルを守りながら生き抜いていく方法を、いま一度よく探ることが先決ではないでしょうか。
そして、組織で生き抜くために重要なのが調整力や根回し力です。
これは20代や30代より、40代が優っている力でもあります。根回しは人脈のストックがものをいうので、職場や取引先に知り合いが大勢いる40代こそ有利なのです。
私も20代のころは報・連・相が苦手で、嫌いでした。「仕事で成果を出していれば、報告しなくても上司はわかってくれるだろう」と思っていました。
実際は、多忙な上司は自分の仕事だけを見ていてくれるわけではありません。
「あの案件、どうなった?」と尋ねられて、「順調に進んでいます」と伝えると、「こっちは気になっているんだから、ちゃんと報告しなさい」と釘を刺されたりしました。
あるときの会議で、私が作成した資料を見た役員の上司が顔色を変えました。
「なんだ、これ。
こんな企画、オレは聞いてない」
事前に直属の上司には資料を見せ、会議で提案する承諾を得ていたのですが、その直属の上司がさらに上の上司に報告していなかったのです。
■縛りからも自由になり、企画が通りやすくなる
私の失敗ではないのですが、事前に役員の上司に見せてくれたかどうか、直属の上司に確認しなかった私の詰めが甘かったのは事実です。
役員の上司は、「オレの知らないところで、こんな話を進めていたのか? どういうことだ!」と大激怒。いうまでもなく、その企画は通りませんでした。
このことから、組織で仕事をするには根回しや調整がいかに大事なのか、痛感しました。
40代ともなれば、組織内のパワーバランスをよく心得ています。「先にこの部署の部長に話を通しておくか」などの適切な判断、調整ができるでしょう。
こういった勘どころ、ツボを押さえながら仕事を進めるのも、守りながら攻める方法のひとつです。
20代や30代のころは、新しいことにチャレンジしようとしても「前例がない」「うちの会社に向いてない」となかなか自由にさせてもらえない時期を誰もが過ごします。
しかし40代になり実績が伴ってくると、その縛りからも自由になってきているのではないでしょうか。
上の意向も充分わかっているし、前もって外堀を埋めておくといった社内調整のやり方もわかっているでしょう。
保守的な上司が相手なら、たとえば一流企業とのコラボを提案して、「この会社にはこんな実績があるのでウチにも大きなメリットがありますよ」と強調すれば、企画が通りやすくなるかもしれません。

40代は正面突破を狙うのではなく、知恵を駆使し、迂回して目的地にたどりつく方法を取れるはずです。
「守り」は現状維持のために行なうものではありません。次の「攻め」を最大限に行なうためです。
守るだけではなにも生み出せませんが、守るべきものを守らなければ、攻めることも充分にはできないのです。
■余計なスキルアップは、もういらない
20代、30代は仕事を覚えたり、あらゆる経験を積んだりと、いわゆる「インプット」の時期です。
しかし40代は、そういった過去に積み重ねてきた経験や知識やスキルを「アウトプット」して、人を育てたり、人を率いていったりする世代になります。
さらに、これまでの経験を「アウトプット」することで、「お金を稼ぐ」ことはできないか? ということを考えるのは自分の強みを発見することにつながりますし、起業するためのトレーニングにもなります。
元リクルートワークス研究所所長の大久保幸夫氏は、
「ミドルキャリア以降の働き方については、あまり語られていないが、ビジネスパーソンとして最も脂の乗る40代、そこからトッププロが巣立っていく50代こそ、自律的なキャリアデザインが必要になる」
ということを語っていますが、本当にそのとおりだと思います。
40代からは、誰も「こう行動すればいい」「こう判断すればいい」と教えてくれなくなります。私もこのことは強く実感しました。
40代は、基本的に物事をすべて自分で決めなければならないのです。そのためにも、まずは自分がこれまでインプットしてきたものを振り返り、「持ち物検査」をすることが必要ではないでしょうか。

自分がこれまでどんな経験をしてきて、どんな知識やスキルを持っているのか――それをしっかりと確認することが、これからの働き方を考えるうえで重要なステップになるでしょう。
■自分が得意な分野はなにかを細分化して考える
このときに大事なのは、「自分の持ち物を細かく分析する作業」です。
たとえば、いままで営業一筋で生きてきたなら、やはり営業が強みであり、稼ぎにもつなげられるでしょう。
ただし、ざっくりと「営業」ととらえていると、すべての営業マンがライバルになります。そこで、自分はどの分野で勝てるのか、もっと細分化してみてください。
たとえば、マンションひとつ取っても、ファミリータイプと単身者向けではセールスの仕方が変わるでしょう。
さらに、客が自分で住むために購入する場合と、投資用として購入する場合でも、セールスの仕方は違います。
自分が得意な分野はなにかをもっともっと細分化して考えること。それが大切です。
投資用マンションを売るのが得意なら、大家さん向けのコンサルタントとして独立することも考えられます。単身者向けのマンションを売るのが得意なら、独身向けの不動産アドバイザーになる方法だってあります。
そうやって「稼げるネタ」を持っている人は、転職するときも起業するときも有利になるのは間違いないでしょう。

■40代なら、自分で資格をつくってしまう
私の知り合いに、25キロのダイエットに成功した男性がいます。
彼は猛烈に忙しいビジネスパーソンでしたが、そんななかでも試行錯誤を繰り返しながら工夫を重ねて、独自の短時間ダイエット法を編み出し、25キロという減量を成し遂げたのです。
私はその話を聞き、「エグゼクティブに特化したダイエットの個人コーチをやったらどうか」と提案しました。
セレブは外食の機会が多いうえに、使える時間も限られています。そのなかで体型をなんとかしたいと思っているはずですから、彼の経験は必ず活きるでしょう。
これも立派な彼の「持ち物」のひとつです。
よく私は、「40代で新たな資格を取るくらいだったら、自分で資格をつくってしまえばどうか」とアドバイスすることがあります。
いまは夜景観光士や温泉ソムリエ、家電製品アドバイザー……などあらゆる分野で資格や検定があります。こういうのは「やったもん勝ち」なので、自分で肩書をつくって検定をはじめてしまえばいいのだと思います。話題になれば、ビジネスになります。
最近は、一般の人に向けたコーディネートを職業にしている人たちがいます。
ビジネスの場やデートの場など、「こんなときにスタイリストがいて、ファッションを考えてくれたらな」と考える人は、なにも芸能人だけではありません。
そこに目をつけた、コーディネートの知識や資格を持った人が、一般の人を相手にスタイリストの仕事をはじめたのです。
これが商売として成り立っているということは、それだけファッションに困っている人がいるのでしょう。そのような世の中の隠れたニーズを掘り起こせたら、成功への道が一気に開けます。
自分が培ってきたスキルは、もう「アップ」させる必要はありません。40代は、自分のスキルを再構築――「リストラクチャリング」してみるのです。

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藤井 孝一(ふじい・こういち)

経営コンサルタント

中小企業診断士。1966年、千葉県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、大手金融機関を経て99年に独立。著書に『週末起業』(ちくま新書)など。

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(経営コンサルタント 藤井 孝一)
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