仕事のできるリーダーは何をしているか。エグゼクティブ・コーチの林健太郎さんは「これからの時代に成果を出すのは、『ついてこい型』ではなく、メンバーのさまざまな能力を引き出して新しいものを作る『共創型』のリーダーだ。
その出発点が、『任せる』ことである」という――。
※本稿は、林健太郎『チームが「まとまるリーダー」と「バラバラのリーダー」の習慣』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■任せるとは、任せたい用事を伝えることではない
チームがまとまるリーダーは「助かる」と言い、

バラバラのリーダーは「用事」を言う。
「任せることが大事」と言うと、多くの人がこう言います。
「でも、やり方がわからない」
それもそのはず。ほとんどのリーダーは、正しい任せ方を教わる機会がありません。
結果、自己流の任せ方になり、失敗しては悩むのです。
そこでまずは、知っていただきましょう。
任せるとは、任せたい用事を伝えることでは「ない」、ということを。
例えばAさんはふだん、こんな言い方をしているそうです。
「監査の日までに仕上げておくべき仕事は、1と2と3と4と……」

「あなたは1、あなたは2、あなたは3をお願い。提出形式はコレコレで……」
別に、間違ったことは言っていません。
任せる際、必ず伝えるべき情報でもあります。
「なのに、残念なものを仕上げてくるのはなぜなんだ⁉」
とAさんは首をひねります。ちなみにAさんは、その提出物を受け取る際、たとえ出来栄えがいいときでさえ、「問題ないです」としか言わないそうです。
任せるときも受け取るときも、用事しか言わない。
これで部下は、「やるぞ」という気になれるでしょうか?
「いやいや、仕事なんだからやって当たり前でしょ?」とAさんは反論するでしょうが、実際、部下の仕事ぶりは今ひとつで、成長もしていません。
■出来るリーダーは用事を任せるとともに「感謝」を伝える
一方、Bさんはどうでしょう。彼女のやり方は、用事を言うところまではAさんと同じですが、そのとき「○○してくれると『助かる』、『嬉しい』」「○○さんに任せたら安心」など、感情を伴った言葉で伝えています。
任せた後も、「今日も頼むね!」「あの件、順調?」と声かけをし、成果物を受け取ったときは出来不出来にかかわらず「ありがとう!」を欠かしません。
このように、担当を割り振るだけでなく「任された喜び」を感じてもらうことが大事なのです。ここまでやって、はじめて「任せる」は完成します。
上司が「任せたよ」と言うのはまだ中途、部下が「私に任せて!」と思うのがゴールだと思ってください。
ここまで読んで「自分は部下時代、『用事だけ』の任され方だったけどな」と思った方もいるでしょう。

以前なら、それでよかったのです。有無を言わせず部下を引っ張るリーダーが、「統率力があっていいリーダー」とされた時代だったからです。
しかし今どき、「俺についてこい」タイプのリーダーは支持されません。部下は「ハイ、ついていきます!」と答える代わりに、転職先を探しはじめるでしょう。
■「任されて嬉しい」と感じたとき、部下は成長したくなる
これからの時代に成果を出すのは、「ついてこい型」ではなく、メンバーのさまざまな能力を引き出して新しいものを作る「共創型」のリーダーです。
部下が仕事に喜びを感じない限り、共創型のチームを作ることはできません。
その出発点が、「任せる」です。
「任されて嬉しい」と感じたとき、部下の仕事には熱が入ります。
やがてそれは、パフォーマンスに反映されます。結果、部下はさらに喜びを感じ、もっと成長しようと心に決めます。自分の強みや個性を活かそう、という意識も強まります。
そのサイクルを回していくこと――それはリーダーにとって、業務と同じくらい重要な役割なのです。

「任せてくれて嬉しい!」と、

部下が感じる任せ方をしよう。
■部下育成は「上司が段取る」は大間違い
チームがまとまるリーダーは「提案」型、

バラバラのリーダーは「独断」型。
部下育成とは、「部下の成長を上司が段取ること」だと思っている人がいます。
課題設定、目標設定、手段の提示、タイムスケジューリング、すべてを上司の采配で行わなくてはならないと、あなたも思っていませんか?
「君のためにこの仕事を用意したよ。やってみたいだろ? はいどうぞ」
と、1人ひとりに「わんこそば」のようにタイミングよく渡し続ける、謎の苦行をイメージしてはいないでしょうか?
そんなことは不可能ですし、する必要もないし、しないほうがいいです。
部下のしたいこと・部下に必要なことを事前に察知するなど、エスパーでもない限り無理です。無理を押して推測で判断すると、それは「独断」になってしまいます。
「でも、自分はその方式で育てられましたよ?」
と思った方。それはあなたが部下だったころ、まだ働き方が多様化していなかったからです。ひとつの会社に定年まで勤め、その中で役職を上げる道筋が定番だったからです。
今の働き手ははるかに多くの選択肢を持っていますし、「何をもって成長とするか」の基準も千差万別。そのため、「やってみたいだろ?」は、当てが外れる確率が高くなっています。

上司の苦労は報われず、部下も不満を感じやすく、離職リスクも高まるのです。
■「察しの悪いダメ上司」より危険なダメ上司
ではどうするか。参考になるのが「提案型営業」です。
従来の営業は、「お客様、これ、いいですよ!」と、売りたいものを勧める手法が主流でした。売る側が情報を多く持ち、それを知らない顧客に教えるスタイルです。
今は高度情報社会とあって、その手が通じなくなってきました。ですから顧客に「どのようなものが必要ですか?」と聞いてから「それなら、こちらは?」と提案するスタイルに変わってきています。
部下育成にもこの方法を取り入れましょう。「どんなことがしたい?」「何ができるようになりたい?」と、問いかけることからはじめましょう。
提案型営業ならぬ「提案型リーダーシップ」が、今後の社会に必要とされるスタイルなのです。
と言うと、リーダーからはよく、こんな反応が返ってきます。
「『何がしたい?』と聞くなんて、バカみたいで恥ずかしい」

「察しの悪いダメ上司だと思われそう」
皆さん、察しのよいカッコいい上司でいたいのですね(笑)。

でもそこは、「独断で外し続ける」という、別の意味での残念な上司になる危険のほうを心配すべきでしょう。
■リーダーが希望を叶える必要はない
あるいは、こんな危惧を示す人もいます。
「『あなたのしたいこと』を聞いて、ヤブヘビにならない?」
これは、あると思います。「今の仕事じゃなくて、○○さんの仕事をさせてほしいです」などの、嬉しくない返答が来る確率は、正直低いとは言い切れません。
ですが、悩む必要はありません。
リーダーがすべきは、ただ「聞く」だけ。希望を叶える必要はないのです。
「あなたがそう思っていること、受け止めたよ」という「承認」があればいいのです。「わかった、覚えておくよ」と承認するだけで、相手の心は軽くなります。
「覚えておくよ」も、口先だけではありません。この先、その部下の希望に合いそうな案件は随時発生するはず。そのときに「この仕事はどう?」と、提案すればいいのです。

あてずっぽうで突き進むか、高精度のマッチングをするか。
どちらがハッピーな育成になるかは、きっと想像できるはずです。
手探りで正解を探すより、部下の気持ちを聞こう。

----------

林 健太郎(はやし・けんたろう)

否定しない専門家/コーチ

2 万人以上を指導したコーチ。リーダー育成家。ナンバーツーエグゼクティブ・コーチ。一般社団法人国際コーチ連盟日本支部(当時)創設者。1973年、東京都生まれ。バンダイ、NTTコミュニケーションズなどに勤務後、エグゼクティブ・コーチングの草分け的存在であるアンソニー・クルカス氏との出会いを契機に、プロコーチを目指して海外修行に出る。帰国後、2010年にコーチとして独立。これまでに大手企業などで2万人以上のリーダーに指導してきた。否定しないコミュニケーション術をまとめた『否定しない習慣』(フォレスト出版)が14万部を超えるベストセラーになる。このほか『できる上司は会話が9割』『優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか?』『できるリーダーになれる人は、どっち?』(いずれも三笠書房)、『いまを抜け出す「すごい問いかけ」』(青春出版社)など著書多数。

----------

(否定しない専門家/コーチ 林 健太郎)
編集部おすすめ