職場の人との会話にはどのように耳を傾けるといいか。エグゼクティブ・コーチの林健太郎さんは「優れたリーダーは、聞く姿勢で信頼を築いている。
※本稿は、林健太郎『チームが「まとまるリーダー」と「バラバラのリーダー」の習慣』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■話を聞いているつもりでも、人間は別のことをしたくなる
チームがまとまるリーダーは「傾聴」し、
バラバラのリーダーは「またその話か」と思う。
私たち人間は、「聞くこと」に関して、少々厄介な性質を持っています。
日本人の場合、1分間に話す単語はおよそ150語くらい(諸説あります)。
それに対して、脳が処理できる単語の数は、600語に上るそうです。
つまり人は、脳のフル稼働の約4分の1のパワーで、人の話が聞けます。
一見、いいことですよね。しかし「聞けてしまう」結果、人は話を聞く間、「別のこと」をしたくなります。スマホを見るとか、テレビを見るとか、別のことを考えるとか。
複数の作業を同時に行うことを「マルチタスク」と呼びますね。
しかし厳密に言うと、人間はマルチタスクをできません。
ここからわかる、不都合な真実。
人は、聞くときに別のことをしたくなるけれど、その結果、話は「ぶつ切り」になってきちんと聞けなくなる、ということです。
図表1は、人間が人の話を聞くときの、4つのレベルです。
まず、下の2段に注目。耳に入ってくる話を受動的に聞く状態が③パッシブリスニングです。それよりさらに無関心な、いわゆる「上の空」の聞き方が④スパウザルリスニングです。
配偶者(Spouse)や、長い付き合いの恋人・友人の話を聞くとき、そうなる傾向があります。
■「毎回似たりよったりの話」は無関心になるリスク
「ちょっと、聞いてる⁉」と相手に怒られたりしていませんか?
ここで再び、不都合な真実。
配偶者や恋人と同じくらい、「職場の人」の話にも、スパウザルモードになる傾向があります。
なぜなら、「毎回似たりよったりの話」になりやすいからです。
部下の話に「またか」と思うこと、多いのではないでしょうか。
さて、上の2つも見てみましょう。
②アクティブリスニングは、能動的傾聴。コーチングの世界ではシンプルに「傾聴」と呼び表します。
そして①コンテクスチュアルリスニングは、言葉で語られないこと――文脈や行間、話の背景、相手の表情も含めて真意を汲み取ろうとする、ハイレベルな傾聴です。
ふだんは、③や④のモードでも構いません。常に①や②のモードになっていたら、脳内が情報でパンクしてしまいます。
ですから「この話は大事かも」と思ったときに、傾聴スイッチを入れられるようにしましょう。
「でも、部下の話にはスパウザルモードになりやすいんでしょ?」
「また同じ話だ、と感じながら『大事かも』なんて思える?」
と思いますよね。そんなときのいい対策があります。「疑問文」にすればいいのです。
■「なんでかな?」の疑問がスパウザルモード解除のコツ
「また同じ話だ~」→「なぜ、同じ話をするんだろう?」
こう変換した瞬間、ほんの少し、好奇心が湧きます。
「何度も話すってことは、この人にとっては重大事なんだな、なんでかな?」
という次の疑問が、「小指の爪の先」程度に湧いてくるのです。
ごくわずかでOK。それだけでスパウザルモードが解除されます。
少し皮肉な気持ちを伴う「ダークな好奇心」でも(顔に出なければ)OKです。
微量でも、ときにシニカルでも、好奇心は好奇心。相手には「聞かせてほしいな」という姿勢が伝わります。そしてまた、「小さな信頼」が積まれるのです。
否定語を「疑問文」に変換して、
好奇心を発動させよう。
■部下が相談にきたら、しっかり「止まる」
チームがまとまるリーダーは部下が話すまで待ち、
バラバラのリーダーは沈黙に耐えられない。
「聞く(聴く)」モードに入るときには、最初に入れたいスイッチがあります。
名付けて、「見る・止まる」。
相手を見て、「何か言いたいのかな」「納得してない表情だな」などの違和感をチラリとでも抱いたら、止まる。これだけですが、意識できない人が多い印象があります。
たとえば、部下が失敗したときに、依頼した際に部下が言った「わかりました」という言葉を思い出し、「……『わかりました!』と言ったくせに……」と怒る人、いますよね。
でもそれは依頼時に、部下の「わかりました」という言葉だけを信じ、不安げな表情を見て、止まって、「あ、わかりづらい?」と聞かなかった(あるいは、表情すら見ていなかった)――つまり、あなたが見落としたことがそもそもの原因なのです。
「見る」は相手の様子に気づく力、「止まる」は我慢する力とも言えます。
こちらがしゃべりたくても、ぐっと踏みとどまって相手に話させる。この能力、そこそこ鍛錬が要ります。
部下のほうから相談に来てくれたときは、「見る」からはじめてほしいところですが、もしそれが難しい場合でも「止まる」はしっかり実践しましょう。「止まる」ができなくて失敗するケース、想像できますか? たとえば……。
部下:例の件でご相談があるんですが、今、お時間いいですか?
上司:(間髪入れずに)うん、いいよ。どうしたの?
部下:えーと、心配しすぎかもしれないんですが、あの……。
上司:(食い気味に)あ、もしかして納期のこと? 大丈夫だよ、先方も納得してたし。
部下:あ、はい……。
上司:(さえぎるように)うんうん、心配しないで!
部下:……わかりました……。
この上司、見事なまでに止まれていません。結果として当然、聞けていません。
■部下の心理的安全性を高めることを意識
なぜ止まれないのでしょう。答えは意外と簡単、沈黙が怖いからです。
そして、このとき部下は、さらに「怖い」と感じています。言いづらいことを言う怖さ、「立場が下」であることの怖さ。つまり「心理的安全性」が低い状態にあります。
会社組織は本質的に、心理的安全性が低くなりやすい場所です。
成果を出さないと評価されない、ミスをしたら怒られるなどの「危険」に事欠かず、かつ、立場が下であるほど危険を感じやすい構造になっています。
このシーンで言うと、部下は「忙しいときに相談したら、上司は不機嫌になるかも」という危険を感じています。
この場面では、部下の心理的安全性を高めることに意識を向けましょう。
その方法が「止まる」です。
止まれない・待てない上司はたいてい、2秒くらいで沈黙を破っています。
目安としては、5秒待ちましょう。緊張しますが、踏ん張ってください。
「自分からは沈黙を破らない」を、鉄のルールとしましょう。
■「真顔&上目遣いでジーッと見る」は絶対ダメ
ただし、鉄のルールを守ろうとしすぎて「怖い待ち方」にならないよう注意。
たとえば「真顔&上目遣いでジーッと見る」は非常に怖いです。
待つときは、真顔ではなく「微笑む」ことを忘れずに。相手を見るときも、柔らかい視線を意識しましょう。無理に相手の目を見る必要もありません。「身体を相手のほうに向ける」だけで、傾聴の姿勢は伝わります。
これらの「非言語要素」=言葉以外の表現にまで気を配りつつ待ちましょう。
これで部下も安心して、言いづらいことを言えるようになります。
最後にもう1つだけアドバイスを。5秒待っても相手が何も言わないときは「潔く撤退」です。相手をしっかり「見る」ことで、緊張感が高まりすぎているようであれば、一旦普段の会話に戻してみてくださいね。
部下が言葉を出せるまで待つ時間を、
「2秒」から「5秒」に伸ばそう。
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林 健太郎(はやし・けんたろう)
否定しない専門家/コーチ
2 万人以上を指導したコーチ。リーダー育成家。ナンバーツーエグゼクティブ・コーチ。一般社団法人国際コーチ連盟日本支部(当時)創設者。1973年、東京都生まれ。バンダイ、NTTコミュニケーションズなどに勤務後、エグゼクティブ・コーチングの草分け的存在であるアンソニー・クルカス氏との出会いを契機に、プロコーチを目指して海外修行に出る。帰国後、2010年にコーチとして独立。これまでに大手企業などで2万人以上のリーダーに指導してきた。否定しないコミュニケーション術をまとめた『否定しない習慣』(フォレスト出版)が14万部を超えるベストセラーになる。このほか『できる上司は会話が9割』『優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか?』『できるリーダーになれる人は、どっち?』(いずれも三笠書房)、『いまを抜け出す「すごい問いかけ」』(青春出版社)など著書多数。
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(否定しない専門家/コーチ 林 健太郎)
沈黙に耐えられるかどうかが、その分かれ道になる」という――。
※本稿は、林健太郎『チームが「まとまるリーダー」と「バラバラのリーダー」の習慣』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■話を聞いているつもりでも、人間は別のことをしたくなる
チームがまとまるリーダーは「傾聴」し、
バラバラのリーダーは「またその話か」と思う。
私たち人間は、「聞くこと」に関して、少々厄介な性質を持っています。
日本人の場合、1分間に話す単語はおよそ150語くらい(諸説あります)。
それに対して、脳が処理できる単語の数は、600語に上るそうです。
つまり人は、脳のフル稼働の約4分の1のパワーで、人の話が聞けます。
一見、いいことですよね。しかし「聞けてしまう」結果、人は話を聞く間、「別のこと」をしたくなります。スマホを見るとか、テレビを見るとか、別のことを考えるとか。
複数の作業を同時に行うことを「マルチタスク」と呼びますね。
しかし厳密に言うと、人間はマルチタスクをできません。
同時に行っているつもりでも、脳は複数の作業を細かく瞬時に切り替えているのだそうです。
ここからわかる、不都合な真実。
人は、聞くときに別のことをしたくなるけれど、その結果、話は「ぶつ切り」になってきちんと聞けなくなる、ということです。
図表1は、人間が人の話を聞くときの、4つのレベルです。
まず、下の2段に注目。耳に入ってくる話を受動的に聞く状態が③パッシブリスニングです。それよりさらに無関心な、いわゆる「上の空」の聞き方が④スパウザルリスニングです。
配偶者(Spouse)や、長い付き合いの恋人・友人の話を聞くとき、そうなる傾向があります。
■「毎回似たりよったりの話」は無関心になるリスク
「ちょっと、聞いてる⁉」と相手に怒られたりしていませんか?
ここで再び、不都合な真実。
配偶者や恋人と同じくらい、「職場の人」の話にも、スパウザルモードになる傾向があります。
なぜなら、「毎回似たりよったりの話」になりやすいからです。
部下の話に「またか」と思うこと、多いのではないでしょうか。
さて、上の2つも見てみましょう。
②アクティブリスニングは、能動的傾聴。コーチングの世界ではシンプルに「傾聴」と呼び表します。
そして①コンテクスチュアルリスニングは、言葉で語られないこと――文脈や行間、話の背景、相手の表情も含めて真意を汲み取ろうとする、ハイレベルな傾聴です。
ふだんは、③や④のモードでも構いません。常に①や②のモードになっていたら、脳内が情報でパンクしてしまいます。
ですから「この話は大事かも」と思ったときに、傾聴スイッチを入れられるようにしましょう。
「でも、部下の話にはスパウザルモードになりやすいんでしょ?」
「また同じ話だ、と感じながら『大事かも』なんて思える?」
と思いますよね。そんなときのいい対策があります。「疑問文」にすればいいのです。
■「なんでかな?」の疑問がスパウザルモード解除のコツ
「また同じ話だ~」→「なぜ、同じ話をするんだろう?」
こう変換した瞬間、ほんの少し、好奇心が湧きます。
「何度も話すってことは、この人にとっては重大事なんだな、なんでかな?」
という次の疑問が、「小指の爪の先」程度に湧いてくるのです。
ごくわずかでOK。それだけでスパウザルモードが解除されます。
少し皮肉な気持ちを伴う「ダークな好奇心」でも(顔に出なければ)OKです。
微量でも、ときにシニカルでも、好奇心は好奇心。相手には「聞かせてほしいな」という姿勢が伝わります。そしてまた、「小さな信頼」が積まれるのです。
否定語を「疑問文」に変換して、
好奇心を発動させよう。
■部下が相談にきたら、しっかり「止まる」
チームがまとまるリーダーは部下が話すまで待ち、
バラバラのリーダーは沈黙に耐えられない。
「聞く(聴く)」モードに入るときには、最初に入れたいスイッチがあります。
名付けて、「見る・止まる」。
相手を見て、「何か言いたいのかな」「納得してない表情だな」などの違和感をチラリとでも抱いたら、止まる。これだけですが、意識できない人が多い印象があります。
たとえば、部下が失敗したときに、依頼した際に部下が言った「わかりました」という言葉を思い出し、「……『わかりました!』と言ったくせに……」と怒る人、いますよね。
でもそれは依頼時に、部下の「わかりました」という言葉だけを信じ、不安げな表情を見て、止まって、「あ、わかりづらい?」と聞かなかった(あるいは、表情すら見ていなかった)――つまり、あなたが見落としたことがそもそもの原因なのです。
「見る」は相手の様子に気づく力、「止まる」は我慢する力とも言えます。
こちらがしゃべりたくても、ぐっと踏みとどまって相手に話させる。この能力、そこそこ鍛錬が要ります。
部下のほうから相談に来てくれたときは、「見る」からはじめてほしいところですが、もしそれが難しい場合でも「止まる」はしっかり実践しましょう。「止まる」ができなくて失敗するケース、想像できますか? たとえば……。
部下:例の件でご相談があるんですが、今、お時間いいですか?
上司:(間髪入れずに)うん、いいよ。どうしたの?
部下:えーと、心配しすぎかもしれないんですが、あの……。
上司:(食い気味に)あ、もしかして納期のこと? 大丈夫だよ、先方も納得してたし。
部下:あ、はい……。
上司:(さえぎるように)うんうん、心配しないで!
部下:……わかりました……。
この上司、見事なまでに止まれていません。結果として当然、聞けていません。
■部下の心理的安全性を高めることを意識
なぜ止まれないのでしょう。答えは意外と簡単、沈黙が怖いからです。
そして、このとき部下は、さらに「怖い」と感じています。言いづらいことを言う怖さ、「立場が下」であることの怖さ。つまり「心理的安全性」が低い状態にあります。
会社組織は本質的に、心理的安全性が低くなりやすい場所です。
成果を出さないと評価されない、ミスをしたら怒られるなどの「危険」に事欠かず、かつ、立場が下であるほど危険を感じやすい構造になっています。
このシーンで言うと、部下は「忙しいときに相談したら、上司は不機嫌になるかも」という危険を感じています。
この場面では、部下の心理的安全性を高めることに意識を向けましょう。
その方法が「止まる」です。
そしてそれをキープする=「待つ」が必要です。
止まれない・待てない上司はたいてい、2秒くらいで沈黙を破っています。
目安としては、5秒待ちましょう。緊張しますが、踏ん張ってください。
「自分からは沈黙を破らない」を、鉄のルールとしましょう。
■「真顔&上目遣いでジーッと見る」は絶対ダメ
ただし、鉄のルールを守ろうとしすぎて「怖い待ち方」にならないよう注意。
たとえば「真顔&上目遣いでジーッと見る」は非常に怖いです。
待つときは、真顔ではなく「微笑む」ことを忘れずに。相手を見るときも、柔らかい視線を意識しましょう。無理に相手の目を見る必要もありません。「身体を相手のほうに向ける」だけで、傾聴の姿勢は伝わります。
これらの「非言語要素」=言葉以外の表現にまで気を配りつつ待ちましょう。
これで部下も安心して、言いづらいことを言えるようになります。
最後にもう1つだけアドバイスを。5秒待っても相手が何も言わないときは「潔く撤退」です。相手をしっかり「見る」ことで、緊張感が高まりすぎているようであれば、一旦普段の会話に戻してみてくださいね。
部下が言葉を出せるまで待つ時間を、
「2秒」から「5秒」に伸ばそう。
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林 健太郎(はやし・けんたろう)
否定しない専門家/コーチ
2 万人以上を指導したコーチ。リーダー育成家。ナンバーツーエグゼクティブ・コーチ。一般社団法人国際コーチ連盟日本支部(当時)創設者。1973年、東京都生まれ。バンダイ、NTTコミュニケーションズなどに勤務後、エグゼクティブ・コーチングの草分け的存在であるアンソニー・クルカス氏との出会いを契機に、プロコーチを目指して海外修行に出る。帰国後、2010年にコーチとして独立。これまでに大手企業などで2万人以上のリーダーに指導してきた。否定しないコミュニケーション術をまとめた『否定しない習慣』(フォレスト出版)が14万部を超えるベストセラーになる。このほか『できる上司は会話が9割』『優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか?』『できるリーダーになれる人は、どっち?』(いずれも三笠書房)、『いまを抜け出す「すごい問いかけ」』(青春出版社)など著書多数。
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(否定しない専門家/コーチ 林 健太郎)
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