さまざまな人とよい人間関係を築くにはどうすればいいか。ANAの元CAで研修講師の三上ナナエさんは「人と話すときに、言葉以外の声色、表情、しぐさにも気持ちを少し向けると、察する力を高めることができる。
こうして相手を観察することが、相手との距離を縮め、よい関係を築くきっかけになる」という――。
※本稿は、三上ナナエ『一生使える「敬語&ビジネスマナー」』(大和出版)の一部を再編集したものです。
■できる人は誰よりも「観察」している
相手にとって心地よいマナーを実践するためには、まず相手を「察する」ことが大切です。
察するとは、相手の言葉や様子から、その人の状態や望みを感じ取ることを指します。
ちょっと難しく聞こえるかもしれませんが、察するためにすべきことは、相手を「観察する」ことです。
この観察力が備わっている人は、察する力も高く、結果として相手が心地よく感じるビジネスマナーができる確率が上がります。
友人と二人で、ホテル内にあるレストランへ行ったときのことです。
ランチにコース料理を注文し、メイン料理を待っていました。
私たちはシェアする目的で、魚料理とお肉料理を1つずつ頼みました。シェアすることはお店の方にはお伝えしていませんでした。
いざ魚料理が先に運ばれてきて、二人で目を合わせ、どちらに魚料理を置こうか、ほんの一瞬迷っていると、すかさずお店の方が「シェアされますか? お皿をお持ちしますね」と言って、お皿を取りに行ってくれました。
どうしてわかったのか聞いてみると、「お二人が一瞬迷われている感じがしたので」と教えてくれました。

この察する力は、誰かに教えてもらったわけではなく、毎日の仕事の中で、お客様を観察して、自分なりに考えて行動に移すことで培ったようでした。
この場面での基本のマナーは、お声をかけながら、どちらかのテーブルに、音を立てずにお皿を置くということかもしれません。
でもその方は、お客様の小さな行動を見逃さず、細部まで観察し、その場に合った最善の選択をしてくれました。
私たちはとても温かい気持ちになり、二人ともそのお店のファンになったことは言うまでもありません。
■普段の行動にこれを「プラスα」するだけ
では、観察を通して、察する力を高めるにはどうしたらよいのでしょうか?
察する力が高い人の習慣から、少し紐解いてみたいと思います。その方たちには、こんな習慣や傾向があるように思います。
●人と話すときは、言葉以外の声色、表情、しぐさにも気持ちを向けている

●待ち合わせには早めに到着し、時間、気持ちに余裕をもった行動をしている

●会話をするときは、相手へ質問したり、話を聴くことを大切にしている

●会食や飲み会では、周りを見渡し、飲み物がない人に声かけをしている
いかがでしょう。あなたもやっていること、またはちょっとやってみようかなと思うことがあったかもしれません。
どれも特別なことではなく、普段の行動にプラスしてできるようなことばかり。
やってみると、意外にも面白いものもありそうです。
■苦手な相手でも「知ろうとする」ことが大事
また、察する力を高めると、もう1ついいことがあります。
それは、苦手な人が減る可能性があるということです。

「あの人のことよくわからないな」「ちょっと苦手だな」と、その人に興味が持てないときもあると思います。そんなときは、興味が持てなくても相手を「観察する」ことからスタートしてみましょう。
ちょっとでも「観察する」「知ろうとする」そのことが、相手との距離を縮め、よい関係を築くきっかけになります。
なぜなら、今まで見えていなかった一面を発見することで、普段の仕事でのその人の意見、考えなども「そういえば前にこんな話をしていたな、こういう意図や思いからなのかな」と理解ができ、実は苦手だと勝手に思い込んでいたことに気づけるからです。
苦手な人が少なくなると、自分のストレスも減り、仕事がスムーズに進むでしょう。
マナーとは少し離れてしまいましたが、「観察すること」の応用編として、試してみることをおすすめします。
POINT

「観察する」ことで、相手に合ったビジネスマナーが見えてくる
■テンションが高いときは、相手に合わせた会話運びになりがち
「この人に気に入られたい」「これからぜひ、取引をしてもらいたい」と思っている相手に会うときは、テンションが高くなりがちです。
よい印象で見られたいと思うあまり頑張りすぎてしまうことは、誰にだってあるでしょう。
しかし、第一印象で、あまりにも普段と違う姿を見せようとするのは禁物です。
気合いを入れ過ぎると、それをキープするのがつらくなり、その後ボロが出て評価が大幅に下がってしまう……、なんてことになりかねないからです。
また、テンションが高いときは、得てして相手に合わせた会話運びになりがちです。
マナーがある人というよりは、「調子のいい人」という印象を与えてしまう恐れがあります。

気に入られようとするあまり、冷静でいられず、マナーを超えた失言をしてしまうなんていうことも……。
私にも、失敗した経験があります。
気に入られたいあまりに、はりきりモードで力が入り「何かいいことを言わなきゃ!」と相手を褒めすぎる流れに……。
結局、「そんな無理に褒めなくてもいいですよ」「それはちょっとオーバーだなあ」と相手に見透かされてしまい、会話がぎこちないものになっていきました。
すると今度は、相手の気遣いに対し、マナーを超えた遠慮をして、かえって相手をがっかりさせてしまうことに。
思い出すと今でも大きなため息が出そうになります。
人はみんな気に入られたいと思うもの。でも、いつもと違う自分で、取り繕ってまで好かれようとしなくていいのです。
「良好な関係を築きたい」「ご縁をつなぎたい」と思う相手に会うときこそ、一旦冷静になりましょう。その場を必要以上に盛り上げようとせず、基本のマナーを思い出し、落ち着いて、相手と向き合おうとすることが大事です。
■お客様と会う際に慌てないためのルーティーンの種類
では、どうすれば、空回りせずに、自信を持って振る舞えるのでしょうか?
そのために大事なのは、「準備」と「ちょっとした習慣」です。
ある心理カウンセラーの方は、クライアントに会う前、心を落ち着けるために「静かな湖が目の前にあって、湖面に自分の姿が映っているイメージ」をするそうです。

すると、呼吸が深くなり、心が落ち着いてくると教えてくれました。
慌ただしい日常から少し離れ、クライアントさんの話に集中するための大事なルーティーンだそうです。
私もお客様と会う際、慌てないために心がけていることがあります。
●事前に、相手に関する情報を調べておく

●その人の大事にしているものは何か想像する

●どんな会話をするか、質問をするか、いくつか考えておく

●時間に余裕を持って、その場所に出かける

●全身鏡を見て、身だしなみを整える
これらの準備をするのとしないのとでは、その場での自信が大きく違います。
特に身だしなみを事前にチェックし、自分で気になるところがない状態ならば、堂々と振る舞うことができます。また、
●背筋を伸ばす

●笑顔のチェックをする

●深呼吸を3回する
など、自分なりのルーティーンを持ち、それを習慣にするのもおすすめです。
■大事なのは、相手に敬意を持ち心から接すること
もう1つポイントをお伝えします。
それは、「相手に好かれよう」とするのではなく、「相手を不安にさせなければいい」と思うことです。理想や願望はひとまず脇に置いて、まずは相手を不安にさせないことに注力しましょう。
大事なのは、自分をよく見せることではなく、相手に敬意を持ち心から接すること。
あまり気負いせずに普段の自分を心がけると、その姿を見て、相手も安心してくれるはずです。できれば、スタートは7割くらいのテンションで落ち着いて、最後に向けて余力を残しながら、徐々によい印象を持ってもらう。

そんなふうに、ぜひ自分をプロデュースしてみてください。
きっといつも通りのあなたで、接することができるはずです。
POINT

「相手に好かれよう」ではなく「相手を不安にさせない」ことが大事

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三上 ナナエ(みかみ・ななえ)

元CA・人材教育講師

新卒でOA機器販売会社に入社し、販売戦略の仕事に携わる。その後、ANAに客室乗務員として入社。チーフパーサー、グループリーダー、OJTインストラクター、客室部門方針策定メンバーを経験。ANA退社後は、研修講師として活動。著書に『仕事も人間関係もうまくいく「気遣い」のキホン』『マンガでわかる!仕事も人間関係もうまくいく「気遣い」のキホン』『気遣いできる人は知っている! 会話のキホン』(以上すばる舎)、『ビジネストラブル脱出フレーズ80』(学研プラス)、『仕事の成果って、「報・連・相」で決まるんです。』(大和出版)などがある。

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(元CA・人材教育講師 三上 ナナエ)
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