※本稿は、三上ナナエ『一生使える「敬語&ビジネスマナー」』(大和出版)の一部を再編集したものです。
■雑に見えてしまう「声の出し方」はこれ
挨拶の発声で気をつける点は、「1つひとつの言葉をしっかり出す」ことです。そんな初歩的なこと……と思うかもしれませんが、意外とできていないもの。
例えば「おはようございます」では、最初の二音「おは」がほとんど聞こえず、間の「ご」が抜けて、「(は)ようざいます」となっていることが結構あります。
雑な印象に見えますので、一音一音をはっきり伝える意識を持ちましょう。
また、「間延び」も気をつけるポイントです。
「おはようございまーーす」とか「おつかれさまでーーす」のように、語尾が延びる挨拶は、幼い印象やいい加減なイメージを与えかねません。
さらに、声が小さいと「自信がないのかな?」と思われたり、「もしかして、何か嫌われているのかな?」と思わせてしまうことも。意図せずマイナスな見え方にならないように、しっかり相手に届く声量で伝えましょう。
■鼻先、心臓、つま先を相手に向ける
声を出す際は、次のことを意識します。
①声を前に出す
②声の方向に気をつける
この2つを意識するだけで、相手からの反応が驚くほど変わります。
1つ目の「声を前に出す」とは、自分の気持ちをボールに乗せて、放射を描いて相手に届けるイメージです。
ただ口を大きく開けることに意識を向けすぎると、かえって声が前に出ていきません。相手にボールを届けるイメージで、声を出してみましょう。
2つ目の「声の方向に気をつける」は、体全体を相手に向けるということです。
声の方向は、体の向きで変わります。
鼻先、心臓、つま先、この3点が相手に向いている状態(「正対」と言います)で声を発することで、しっかりと相手に伝わる挨拶になります。
顔だけを相手に向けていたり、つま先は別の方向を向いていたり、3点が揃っていない状態で挨拶をしていることは、意外に多くあります。
3点が揃っていないと、適当な挨拶に見えてしまうので注意しましょう。
また、挨拶をするときは、立ち姿にも意識を向けましょう。
①足はかかとをつけて、つま先を開く
(かかとが離れていると、雑な立ち方に見えるため)
②背筋を伸ばし、顎が上がらないようにする
(顎が上がると、見下しているように見えるため)
③手は指を揃え、体の脇にぴったりとつける
(そうすると、自然に胸が張れる)
■3種類の「お辞儀」を使い分ける
お辞儀とは、相手への感謝や尊敬の気持ちから自然に頭が下がる動作です。
挨拶にあわせてお辞儀も一緒にすると、より相手に思いが伝わります。
お辞儀には、「会釈」「敬礼」「最敬礼」の3つの種類があります。
1 会釈(頭を下げる角度は15度)
会釈はすれ違うときや、相手のためにすぐ動作に移るときに使います。
「失礼いたします」「はい、かしこまりました」などのひと言を添えて会釈します。
2 敬礼(頭を下げる角度は30度)
敬礼は相手を迎えるときのお辞儀です。「おはようございます」「よろしくお願いいたします」などの挨拶の際に使います。
3 最敬礼(頭を下げる角度は45度)
最敬礼は一番深いお辞儀です。「ありがとうございました」「申し訳ございません」など、感謝や謝罪の際に使います。
これらのお辞儀を、挨拶の場面に応じて使い分けましょう。
よくお辞儀をしながら、電話で話している人を見かけます。
お礼やお願い、謝罪、状況はさまざまですが、動作と声は連動すると気持ちがより伝わりやすくなります。
たとえ、姿は見えなくても「自然に頭が下がる」その心が大切だと感じます。
見えない相手にも頭を下げるそのマナーは、電話の先にいる相手にもきっと届いているはずです。
POINT
挨拶は一音一音はっきりと。
■言葉遣いは「敬意」を表したもの
言葉遣いは、言うなれば「車間距離」のようなものです。
近づきすぎると、ちょっとしたことでぶつかってしまい、離れすぎると見失ってしまう――。常に相手に合わせながら、適度な距離感を保つことが大切です。
CAをしていた頃、こんなことがありました。
中学生の男の子が一人で飛行機に乗っていたので、私はいろいろと世話を焼き、友達口調で話しかけていました。「これわかる~? これはこうするんだよ~」「ジュース飲む?」「今、学校で何が流行ってるの~?」こんな調子です。
すると、その中学生の男の子に「すいません、普通の言葉遣いでお願いします」と言われてしまったのです。
言葉遣いを考えるとき、とても大事なことがあります。
それは「相手への敬意」です。中学生の男の子も一人の大切なお客様として、敬意を持って接していたら、きっと言葉遣いは自ずと変わっていたはずです。
まずは丁寧語、「です・ます」でお話しすることが大切でした。
もしお客様が砕けた言葉で返答してくださったら、こちらもトーンを合わせた表現になることもあるでしょう。
中学生の男の子との会話で、そんな大切なことに気づかされました。
■慣れてきたときこそ、ため口は禁物
「言葉が崩れると、関係も崩れやすい」と聞いたことがあります。
職場での人間関係も慣れが出てくると、これくらい大丈夫と思って言葉遣いがどんどん崩れていく傾向があるでしょう。
「その言葉遣いないよね」とムッとしても、なかなか指摘しづらいものです。
誰かに注意されることもなく、気づかないままでいると、いつの間にか関係がギクシャクしてしまうことも……。
また、常連の気の知れたお客様が相手だと、回を重ねるごとに慣れが生まれ、いつしかため口になっていた……、なんてこともあるかもしれません。
今まで使っていた敬語が崩れると、相手はやはり気づくものです。
細やかな配慮を感じない、関係が友達ふうになっている、適当に扱われている気がするなど、相手がそう感じると、そこからまた信頼を取り戻すのは至難の技です。
たとえ親しい仲であっても、「敬意」を忘れないこと。適度な緊張感を保つことで、よい関係が長く続いていきます。
POINT
ビジネス上では、どんなときでも「敬語」を重視しよう
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三上 ナナエ(みかみ・ななえ)
元CA・人材教育講師
新卒でOA機器販売会社に入社し、販売戦略の仕事に携わる。その後、ANAに客室乗務員として入社。
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(元CA・人材教育講師 三上 ナナエ)