ビジネスシーンで間違えがちな敬語は何か。ANAの元CAで研修講師の三上ナナエさんは「敬語には『尊敬語』『謙譲語』『丁寧語』の3種類があり、相手との関係性や状況によって使い分けることだ。
間違えやすい敬語として『頂戴する』は『もらう』の謙譲語だから、物に対して使う言葉である」という――。
※本稿は、三上ナナエ『一生使える「敬語&ビジネスマナー」』(大和出版)の一部を再編集したものです。
■一流の人こそ敬語を重んじる
相手が間違った言葉遣いをしていたら、あなたはどう感じますか?
「ああ、なんか間違って覚えちゃったのかな」と思うくらいでしょうか。
ただ、仕事のプロフェッショナルは、まず間違った言葉遣いをしません。
なぜなら、ビジネスに関わる知識全般に抜け漏れがないからです。
一流と言われる人は、常に相手を大切にし、あらゆることに対して動じず、信頼のある印象です。そんな印象を、言葉遣いのせいで損なったら「そんなことでもったいない」と無意識レベルで理解しているのだと感じます。
そう言われると、話す言葉1つひとつに間違いはないか、緊張してしまいますよね。大事なのは、あくまで「相手を尊重する姿勢」が伝わることだと思います。
しかし、間違いが重なると、相手も気になってしまうでしょう。相手を不安な気持ちにさせることだけは、避けたいものです。
■間違えやすい敬語10パターン
正しい敬語を使うために、事前に知識を知っておくことは大切です。

基本として、敬語には「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の3種類があり、相手との関係性や状況によって使い分けます。
●尊敬語:相手が行うことに対して、敬意を表す言葉。「相手を立てたいとき」に使う。

●謙譲語:自分や自分の会社側が行うことに対して、へりくだる言葉。「自分を下げて相手を上げたいとき」に使う。

●丁寧語:言い回しを丁寧にすることで、敬意を表す言葉。誰に対しても使える。
次に、間違えやすい敬語の使い方を、一緒に確認していきましょう。
×「私の上司がおっしゃっていました」

○「私の上司が申しております」もしくは「私の上司が言っております」
お客様との会話で、身内の上司の動作を尊敬語で表現すると、逆にお客様を下げることになるのでNG。謙譲語で表現するのが正しい敬語です。
×「これは拝見されましたか」

○「こちらはご覧になりましたか」もしくは「こちらは見られましたか」
まず、「これ」は普通語です。文全体のバランスを整える「改まり語」の「こちら」を使います。
そして、「拝見」は謙譲語ですので、お客様の動作には、尊敬語の「ご覧になる」を使います。
「改まり語」を使うと、全体がとても丁寧な印象になります。意外と普段使わない言い回しもあるので、下記の一覧表を参考にしてみてください。
言い換えるだけで、一段上の印象を与えることができます。
■「頂戴する」は物に対して使う謙譲語
×「ご不明な点はあちらで伺ってください」

○「ご不明な点はあちらでお尋ねいただけますでしょうか」
「伺う」は謙譲語、「ください」は命令形に聞こえるのでなるべく避けたい表現です。
依頼形の「いただけますでしょうか」は、相手が自分で選択できるニュアンスになり、受け取りやすい語尾になります。
×「参考になりました」

○「勉強になりました」もしくは「教えていただき助かりました」
「参考」は参考材料の1つ、採用するかはわからない、という意味なので、立場が上の人に対して使うと失礼な印象を与えます。
×「お名前を頂戴してよろしいでしょうか」

○「お名前を伺ってもよろしいでしょうか」もしくは「お教え願えませんか」
「頂戴する」は「もらう」の謙譲語。物に対して使う言葉です。
×「田中社長様」

○「田中社長」
名前の直後にくる役職は、敬称の役割をします。
敬称が2つ重なることになるのはおかしいので、もし「様」をつけたいときは「社長の田中様」と言います。
■癖になりがちな「~のほう」に要注意
×「ご持参ください」

○「お持ちください」
持参の「参」は「参る」なので謙譲語です。
「私が持参します」のように使います。
もしくは、「ご用意ください」でもいいでしょう。
先に「ください」は命令形とお伝えしましたが、使うことは間違いではありません。変換するのであれば、「お持ちいただけますでしょうか」という表現がいいでしょう。
×「変更の件、了解いたしました」

○「変更の件、承知いたしました」もしくは「かしこまりました」
「了解」は響きが軽めな印象、また事務的にも聞こえるので、お客様には使わないのが無難です。
×「上司のほうは席を外していますので、ご連絡先のほう、お教えいただけますか」

○「上司は席を外していますので、ご連絡先をお教えいただけますか」
「ほう」は方角、もしくはどちらか一方という意味です。
癖になると連発しがちな「ほう」。意味を持たない言葉は、なるべく使わないことが理想です。「Aのほう、Bのほう」など、2つ以上のものを比較する場合には使えます。
×「鈴木様がお見えになられました」

○「鈴木様がお見えになりました」
「お見えになられる」は、「お見えになる」と「来られる」が一緒になった二重敬語と言われるものです。丁寧に見えますが、実は間違っているので注意が必要です。
一見正しそうに見えたり、実は使っていたものもあったかと思います。

よく使う言葉の尊敬語・謙譲語・丁寧語、それぞれの敬語をしっかり頭に入れて、正しい使い方をしていきましょう。
POINT

周りにいる人の敬語もヒントに。

どんな場面でも一流の敬語を目指そう

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三上 ナナエ(みかみ・ななえ)

元CA・人材教育講師

新卒でOA機器販売会社に入社し、販売戦略の仕事に携わる。その後、ANAに客室乗務員として入社。チーフパーサー、グループリーダー、OJTインストラクター、客室部門方針策定メンバーを経験。ANA退社後は、研修講師として活動。著書に『仕事も人間関係もうまくいく「気遣い」のキホン』『マンガでわかる!仕事も人間関係もうまくいく「気遣い」のキホン』『気遣いできる人は知っている! 会話のキホン』(以上すばる舎)、『ビジネストラブル脱出フレーズ80』(学研プラス)、『仕事の成果って、「報・連・相」で決まるんです。』(大和出版)などがある。

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(元CA・人材教育講師 三上 ナナエ)
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