頭のいい子が育つ家庭と、普通の家庭では何が違うのか。東大生作家の西岡壱誠さんは「東大生の家庭は、スマートフォンとの向き合い方がまるで違った。
際限なく自由に使える環境であれば、成績が下がるのは避けられないだろう」という――。
■「スマホ認知症」が注目されている
「最近、うちの子、全然勉強に集中できないんです」

「スマホをいじってばっかりで、学力が全然伸びなくて……」
保護者の方とお話ししていると、そうした声をよく耳にするようになりました。教育現場で生徒と接していても、ここ数年、明らかに「思考の粘り」や「集中の持続時間」が落ちていると感じることがあります。そしてその背景にあるのは、「スマホ認知症」呼ばれる現象だと考えられます。
「スマホ認知症」という言葉がここ最近、メディアでも注目されています。TBSのニュース番組でも取り上げられていました。医学的には正式な診断名ではないものの、スマートフォンの過剰使用によって記憶力・注意力・思考力などの“認知機能”が低下する状態を指す言葉として、教育・医療の現場では警鐘が鳴らされています。特に若年層、学校に通っている児童・生徒においては、「スマホ依存」と「学力低下」が結びつくケースが顕著です。
■集中力を妨げ、思考力の育成を阻害する
実際、自分が指導している生徒たちでも、スクリーンタイム(1日のスマホ使用時間)が4時間を超える層は、成績が伸びにくい傾向にあります。もちろん一概に断定はできませんが、長時間スマホを手放せない生活が、集中力の妨げとなり、思考力の育成を阻害している可能性は高いと考えられます。今回の記事では、子どもを「スマホ認知症」にしないためにどうすればいいのかについて、お話しさせてください。
まず、スマホで遊んでいるばかりいる子はなぜ学力が伸びなくなってしまうのか、ということについて、自分は3つの分析をしています。

【1 情報を主体的に取りに行かなくなる】
今、YouTubeやSNSなどのコンテンツは「勝手に進んでいく」形式が主流です。YouTubeのショートでも、Xでも、TikTokでも、上下に「スワイプ」するだけで、勝手に新しい情報が入ってきます。本を読んでいる時にページをめくったり、タブレットでボタンを押したりするのとは違って、ほぼ無意識的に、勝手に情報が入ってきてしまうわけです。
■自分の意思で探さなくなってしまう
さらに、最近は「サジェスト機能」が優秀になってきています。YouTubeでも、次の動画や投稿が半自動的に提示されますよね。しかもそれは、今見ているものと同じようなコンテンツや、過去に見た動画の焼き直しになっている場合が多いのです。これらのコンテンツとばかり触れ合っていると、自分の意思で何かを探す行動がなくなっていきます。つまり、新しいものに触れるというよりは、過去に見た情報をぼんやり眺めることばかりが増えていってしまうのです。
これによって起こるのは、「新しいことに出会いたい」という好奇心や探究心の鈍化です。「見慣れたもの」「以前見たものと似たコンテンツ」が供給され続けるため、新鮮な情報に触れる機会が減り、結果的に学びの意欲も失われていくのではないかと考えています。
ちなみに後述しますが、「新鮮な情報」を得るためにスマホを使っていた東大生たちは、スマホを使っていても成績が悪くはなっていませんでした。自分から情報を取りに行くような使い方をしているかどうかがポイントになるようです。

■ポケットに入れたままの勉強はNG
【2 注意力が散漫になる】
次の弊害は、注意力です。これはいろんな教育現場で言われ、耳にする話ですが、最近の生徒たちは、長く人の話を聞くことができなくなっていると言われています。3分以上の話だと、どこか上の空になってしまうのです。また、スマホの通知が来た瞬間にそっちに気を取られて、スマホを取り出したりする人もいるようですし、自分もそのような現場を実際に見ています。
これは勉強している最中でも同じです。勉強していても「通知来てないかな」と気になってしまう人が多く、これでは集中力が下がってしまいます。最近の研究では、「スマホをポケットに入れたまま勉強すると、何もスマホをいじっていなくても学習効果が低くなる」ということが科学的に証明されています〔参考:アンデシュ・ハンセン(著)、久山葉子(翻訳)『スマホ脳』(新潮社)〕。1分1秒たりともスマホをいじっていないにもかかわらず、スマホをポケットに入れているかどうかで、成績に差が出てしまうのです。
■東大生は親に預けていた
その理由は、なんの連絡も来なくても、「もしかしたら○○君から連絡が来るかもしれない」という意識が、勉強の集中力を疎外してしまうからだと言われています。通知が来るのではないかという意識があるだけで、注意力散漫になってしまうわけです。
この点、東大生はどうしていたのかを聞くと、勉強の際にはスマホを親に預けていたという人も多かったです。これによってのびのびと学習できて、集中力を維持していたわけですね。

中でも印象的だったのは、「親にスマホを渡すと、毎回鍵のかかる『棚』に入れられてしまい、自分では絶対に触れないような仕組みになっていた」というエピソードです。強烈ですが、東大生の家庭では、スマホを手元から完全に離して物理的に触れない環境を作り出すことで、注意力の維持を徹底していることがわかります。
■「考える」プロセスが失われてしまう
【3 深く考えなくなる】
最後は、「思考力」です。こちらも多くの教育現場で言われていることですが、子どもに対して何らかの質問をしたときに、「そんなのわからないよ」「答えは何?」と何も考えずにすぐ答えを求めてくる子の割合が増えているそうです。反対に、「うーん、何だろう?」「もうちょっと時間が欲しい」という人の割合は減っているそうです。
これはきっと、スマホの検索性が非常に高くなっていることによる弊害なのではないかと考えられます。つまり、クイズやなぞなぞのように考えるのではなく、「考える前に検索してしまう」という姿勢が当たり前になっている場合があるのです。
「わからないことはすぐ調べよう」という姿勢は一見よさそうに見えますが、それは「調べる前に考える」という前提があってこその話です。スマホが当たり前にある生活環境だと、その「考える」というプロセス自体が失われてしまうのです。
自分はよく学校や塾で講義を行いますが、「これについて考えてみよう!」と問いを出した時に、「1分以上考えられない生徒」が増えていると感じます。もちろん解答の糸口が見つけやすいものであればそこから考えを深めてくれますが、わかりづらい問題や難しい問題に対しては、1分以上は考えず、「解けなかったから答えを早く知りたい」「次の問題を出してほしい」という生徒が増えています。きっとこれはスマホによって「熟考する力」が削られているのではないかと推測しています。

■数学や算数に影響大
ちなみに、「スマホ認知症」というと、暗記科目の成績が下がるイメージを抱いた人も多いと思います。が、自分が生徒たちを見ている限りだと、影響を受けやすいのは意外なことに暗記科目ではなく、数学や算数だと思います。
数学は「AならばB、BならばC」といった論理的な思考を積み上げる力が必要です。そしてその論理の流れを理解するには、ある程度の集中力と粘り強さが欠かせません。
ところが、スマホに慣れすぎた子どもたちは、「わからない=すぐ諦める」ようになっており、一つひとつを丁寧に考える習慣が失われつつあるのです。
よく考えてみると当たり前ですよね。「この問題の答えは、3だ」という答えだけがわかるようになっても、数学の成績は良くなりません。どうしてこの問題の答えが3で、どうすればその答えに辿り着けるのか、プロセスが大事な科目です。
それに対して、スマホは思考のプロセスを「飛ばして」答えにたどり着く装置でもあります。その便利さゆえに、考える力そのものを放棄させてしまう――これは、今の教育現場が直面している最大の課題かもしれません。
■「使用時間の可視化」と「制限」の徹底
では、子どもがスマホ認知症にならないようにするために、親御さんができることは何でしょうか? 結論から言えば、「使用時間の可視化」と「制限」の徹底が大切です。特に、1日4時間以上スマホを見ている子どもに対しては、放置しておくべきではありません。

簡単にできる方法としては、次の3つです。
・スマホの「スクリーンタイム」を親子で毎週確認する

・夜9時以降はスマホをリビングに置くルールを作る

・勉強中は物理的にスマホを別の部屋に置くように指導する
また、「親子で一緒にルールを作り、定期的にルールの見直しを行う」というのも重要です。
上記は、東大生の家庭が実践していたルールに基づいています。東大生の家庭では、これらをスマホを使うときのルールとして決めているところが多かったのです。
例えば、「家族会議で半年に一回程度、スマホの利用状況を話し合い、その上で1日の利用時間をみんなで決め直している」と話す家庭もありました。また、東大生本人が中学生の頃から親が「なぜスマホの使用を制限するのか」を子ども自身にじっくり考えさせるよう促しており、自分自身で「夜は9時以降触らない」「通知は勉強中オフにする」といった具体的なルールを作り出していった家庭もありました。
親が一方的に禁止するのではなく、親子が一緒に悩み、話し合ってルールを決めるプロセスそのものが考えさせることにつながり、「スマホ認知症」の予防につながっているのかもしれません。
■“上手な付き合い方”が求められている
これはスマホの使い方に限らず日常のコミュニケーションも同じでした。東大生の親御さんに話を聞いてみると、あらゆることでしっかりと「悩ませる」というのも特徴的で、コミュニケーションの中で「相手に考えてもらう」ということに主眼を置いている場合が多いです。
ニュースを見ていても、「これについてどう思う?」と聞く。進路に関してやテストの結果に対しても、「自分ではどう考えている?」と思考プロセスを尋ねる。その上で、「わかんないよ」と返されたら、「いやいや、もうちょっと深く考えてみようよ」と尋ねてみる。
このようにして考えさせる時間があるからこそ、成績向上にもつながっていると考えられます。
逆に言えば、考えるためにスマホを使うことには制限を設けるべきではないと思います。答えを調べるためにスマホを使うと思考力が下がりますが、考える時に必要な情報を集め、その素材を使って思考するための材料を集めるようなスマホの使い方は、逆に“頭を良くしてくれる”のではないでしょうか。東大生の家庭のように、まずしっかり考えさせたうえで、情報を補う手段としてスマホをうまく使いこなしてもらうことが重要に思います。
スマホは、もはや生活の一部で完全に手放すことはできません。「スマホを子どもに買い与えない」みたいな極端な解決策は無意味ですし、反発されて勉強どころの話ではなくなってしまうかもしれません。であるならば、今回紹介した東大生の家庭のルールなどを参考に、親御さんたちも「スマホとの向き合い方」を学び、それを子どもに伝え、上手な付き合い方を実践していくことが求められているように感じます。ぜひ参考にしてみてください。

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西岡 壱誠(にしおか・いっせい)

現役東大生 カルペ・ディエム代表

1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。日曜劇場「ドラゴン桜」の監修や漫画「ドラゴン桜2」の編集も担当。著書はシリーズ45万部となる『東大読書』『東大作文』『東大思考』『東大算数』(いずれも東洋経済新報社)ほか多数。

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(現役東大生 カルペ・ディエム代表 西岡 壱誠)
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