伝えたいことをうまく伝えるには、どうすればいいのか。テレビ東京の豊島晋作キャスターは「自慢や武勇伝など、自分の言いたいことだけを話してはいけない。
相手の関心に応えることが重要で、そのための効果的な伝え方がある」という――。
※本稿は、豊島晋作『不器用だった僕がたどり着いた「伝え方」の本質』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■「相手が聞きたいこと」を話すといい
ここからは、効果的に「伝える」ための「鉄則」を紹介していきます。
まず、大前提として、「自分が話したいことを話す」というクセを、あなたも含めて誰でも持っているということを理解しておいてください。すると、どうすれば相手に伝わるのか。シンプルな答えが出てきます。
まずは、「自分が話したいこと」ではなく、「相手が聞きたいこと」を話すことです。これが、相手に物事を伝える最初のステップです。会議や打ち合わせ、プレゼン、あるいはプライベートの会話でも、まず相手の関心や求めている情報を伝えることから始めましょう。
では、相手が思わず身を乗り出して聞きたい話とはなんでしょうか? 多くの人が最も気にしているのは、「自分が他人からどう思われているか」という評判です。中でも、一番聞きたいことは、「自分が他人から褒められている」という情報です。
■褒めることから始める
「○○さんは、業界ですごく評価が高いと聞きました」と直接的に伝えてくる人がいたら、多くの人は「いやいや、そんなことはないですよ」と謙遜するでしょう。
しかし、当人の本音としては、そんな褒め言葉を「もっと聞きたい」と思っています。あるいは、その可能性が高いと言えます(私もそうです。もちろん絶対に謙遜しますけど……)。
だからこそ、伝え方が上手な人は、まず相手を褒めることから始めます。そうすると、相手の承認欲求が満たされて心を開いてくれる可能性が高まり、話を聞く姿勢になってもらえるからです。
Aさん「先日のプレゼン、面白かったです。すごく説得力がありましたね」(褒める)
Bさん「ありがとうございます」 ※警戒心が和らぐ
Aさん「そのプレゼンの中で気になった点があるのですが……」
Bさん「どういった点ですか?」 ※聞く姿勢になる

話を聞いてほしい相手にもし褒めるべき要素があるのなら、Aさんのようにまず最優先で褒めるべきです。また、相手のポジティブな評価を過去に見聞きしたことがあるならば、同じくそれも最優先で伝えるべきでしょう。「○○さんの資料はいつも分かりやすくて、こちらの部署でも評判です」と、最初に伝えるのです。
褒めること、評価することは、相手を最も心地よくさせる「承認」であり、相手との円滑な意思疎通の基礎をつくるからです。
■相手の行動や業績に言及する
ただし、評価する理由は具体的であるべきです。
「昨日のプレゼン、データへの切り口が非常に勉強になりました」
「いつも細かいところまで気を配ってくれて助かってるよ。
昨日も最後まで残っていたお客さんに寄り添ってくれてありがとう」
「お書きになった本の最終章の○○という記述に、とても感銘を受けました」

といったように、相手の実際の行動や業績に言及することが重要です。そうしないと、単なるお世辞だと思われてしまいます。評価されている事実と、その具体的な理由をセットで伝えることで、相手は精神的にも満足し、こちらと意思疎通する基礎ができます。
ただ、率直に言えば、よほど露骨でない限り、実はお世辞も非常に効果的です。どんな人でも褒められることに悪い感情は抱かないからです。会社組織でお世辞がはびこる理由が、まさにこれです。
例えば、私たちのようなTVディレクターが聞きたいのは、自分が作った映像(作品)に対する評価です。ディレクターたちは、「○○さんがつないだ昨日の映像、面白かったね」「あのシーンはどうやって撮ったの?」という賛辞や評価に飢えています。具体的に面白かったシーンを伝えるのは特に効果的です。もちろん、お世辞も有効です。
■“俺の若い頃”の話は「つまらない」
「褒める」の次に伝えるべきは「聞き手が満足する話」です。最近はずいぶんと減ったかもしれませんが、時折、これとは全く逆の話をする人がいます。
つまり、自己満足のための話です。
つい後輩や部下に「お前は○○したほうがいい」「俺が若い頃は○○だった」と一方的に語るような話です。部下のためだと思っていても、これは単に上司自身が「話したい」「自慢したい」という欲求を満たそうとしているだけで、完全な自己満足のための会話です。部下や後輩たちは、一見おとなしく聞いているように見えても、「つまらない」「時間がたつのが遅い」「苦痛だ」と感じています。
そうした「つまらない話」の中心は、基本的に「過去に起こったこと」です。もともと私たちは日々の出来事や経験をもとに会話をするため、自然と過去の話題が多くなります。そして、先ほど書いた通り、ほとんどの人は「自分が経験したことは、後輩や若い世代にとって役に立つはずだ」と考えがちです。もちろん、こうした過去の教訓が有益な場合もあります。
しかし、聞き手は「現在」を生きています。知りたいのは、今も有益な情報です。本当に聞きたいのは、現在においても意味のある話であり、再現可能な情報です。
■相手は「再現可能性」が聞きたい
例えば、あなたが過去に何かで成功したとします。
ダイエットに成功したとか、新商品の開発がうまくいって大量に売れた場合などです。そんなとき、周りの人が気になるのは「なぜうまくいったのか?」という理由です。
あなたが話すべきは当然「成功の理由」になりますが、重要なポイントは、その理由に「再現可能性」があるかどうかです。つまり、相手が「自分も同じように成功できるかもしれない」と思うような、再現可能な方法が含まれているかどうか。含まれているならば、その具体的な情報を伝えることです。
ダイエットなら「このダイエット器具が役に立った」「このサプリが効いた」「このトレーナーが素晴らしかった」といった具体的な話です。ビジネスシーンなら「あの製造メーカーに発注したのが良かった」「デザインをあの事務所に頼んだのが大きかった」といった情報が相手にとって価値のあるものになります。
逆に言うと、「死ぬ気で努力したから」「気合で乗り切ったから」「たまたま運が良かったから」といった再現可能性のない答えは、全く求められていません。本当に努力や気合が理由だったら仕方ありませんが、そんな中でも、相手が「自分も同じようにやれるかも」と思える「学び」や「教訓」を少しでも伝えるべきでしょう。「情報」を求められているのに、自分の「頑張り」「感想」あるいは「思い」などを答えている人も見受けられますが、的外れなのでやめるべきです。
■「失敗談」が効果的
もし、過去の話をもとに、どうしても伝えたいことがあるなら、まずは自分の失敗談から語り始めることです。
多くの場合、「過去の成功」ではなく、「過去の失敗」を話すほうが伝わります。
失敗談は成功談よりも多くの教訓を含むからです。聞き手の「そうはなりたくない」という切実な願望も引き付けます。失敗を率直に語る人のほうが、成功を声高に語る人より共感や信頼感を得られるため、尊敬されやすいでしょう。
そこで相手が聞きたいのは、同じ失敗をしないための情報です。つまり「再現を防ぐ」ための方法です。
例えば、ある上司が、期限までに営業用の資料を準備できなかった部下を注意するとします。そのとき、単に「きちんと時間通りに出しなさい。自分が若い頃でも、締め切りだけは絶対に守っていたもんだ」と説教するのは、あまり効果的ではありません。
■部下も前向きに受け止めやすくなる
それよりも、次のように自身の失敗談から話すほうが、部下にとっても納得しやすいはずです。
「自分も新入社員の頃、会議の資料が間に合わず上司にこっぴどく叱られたことがある。『完璧を目指さなくていい。まずは70点の資料でもいいから約束の時間を守れ』と言われた。
だから、それを意識して頑張ったよ。ところが、その後に異動した部署では『70点の資料なんか顧客に出すな。会社の評価が下がるだろう!』と言われて面食らったのを覚えている。
結局、仕事のゴールや基準は上司によって変わることが分かった。今思えば、どちらの教えも間違いではない。新人のうちは、まずは70点でもいいので時間を守ることを優先しなさい。経験を積んだら100点のものを時間内に仕上げるプロになりなさい。こういうことなんだろうな。だから、君もまずは時間を守ることを徹底してくれ。そして、いつかは100点を取れるようになってくれればいい」
単なる叱責ではなく、こうした自分の失敗体験と教訓を交えて伝えれば、部下も前向きに受け止めやすくなります。
かつて、政治記者だった私は後輩の記者たちに、「昔は何日も何日も政治家や首相秘書官の夜回り・朝回りを繰り返していたもんだ」と、まるで武勇伝のように話していました。しかし、これは実際には全く意味のない苦労話でした。
■単なる思い出話では“伝わらない”
確かに、当時の私は、夜中や早朝に何百回も政治家や官僚の自宅の前で待ち続けて取材をしていました。ところが、相手のことをよく調べもせず、まともに会話もできないまま、ただ待ち続けるだけの時間を過ごしていたことが多くありました。ろくに話を聞けず、無視されることも何度もありました。
それでも、私は「こういう無駄な経験があったから今がある。だから無駄な経験も時には必要だ」と、ノスタルジーの混じった、単なる思い出話を後輩にしていたのです。今振り返ると、この私の「伝え方」は、いろんな意味で間違っていました。
まず、こうした過去の働き方は、現在の仕事の進め方にそぐわないものです。さらに、そもそも、「自分の努力が結果につながらなかった」という純粋な失敗談でしかなく、「再発を防ぐ」ための学びもありません。純粋に失敗の日々だったことを認めるのには時間がかかりましたが、今では後輩などから聞かれたときは、次のように伝えるようにしています。
■「学び」をセットで伝えることが重要
「自分は二流どころか三流の記者だった。何日も何日も夜回り・朝回りで無駄な時間を過ごした。でも、それは取材先のことをろくに調べず、準備不足のまま突撃していたから。結果、ほとんどネタはつかめなかった。
だから、同じような無駄な時間を過ごしてほしくない。取材をするなら、事前に取材相手の趣味、出身地、学校、好きなもの、悩み、読んでいる本まで徹底的に調べる。読めるものはすべて読み、相手の思考を理解した上で取材したほうがいい。そのほうがよほど効率的だし、時間が無駄にならない。もっとも、それでもうまくいかないことは多い。取材先との相性もある。そんなときでもくじけないメンタルのほうが大事だろう」
部下や後輩に何かを伝える際、ただ厳しく指摘するのではなく、自分自身の失敗談を交えながら伝えることで、相手にとって納得しやすいものになります。単なる苦労話や武勇伝ではなく、そこから得た学びをセットで伝えることが重要です。
つまり、過去の失敗を正直に認め、その上で「どうすればもっと良い結果が出せるのか?」という聞き手にとっての「再現可能性」の視点を持つことが、より良い「伝え方」になるのです。
■「今」役立つ情報や教訓がベスト
多くの場合、「後輩に自分の経験を伝えるべき」という気持ちの奥には「昔の自分の努力や成功を知ってもらいたい」という承認欲求が潜んでいます。特に、自分に何か大きな成功体験があると、「そのときの知識や教訓を誰かに伝えることで、自分の過去の栄光をアピールできる」という願望が強くなるからです。
ただ、多くの人にとって、他人の成功体験は、そんなに聞きたい話ではありません。むしろ「自慢話」「過去の武勇伝」として話し手の評価を下げる場合もあります。基本的に自分の成功体験は、よっぽど求められているとき、よっぽど大きな教訓があるときなどに限定して伝えるべきだと思います。
成功談の場合、話し手は「役に立つはず」と思っていても、聞き手は「また思い出話か」「また武勇伝か」と思っているかもしれません。
どうしても成功談を語りたい場合は、その前にまずは失敗談を語り、「その失敗から学んで成功できた」「少なくとも次は失敗しなかった」という流れになれば、再現可能性の視点がある話になり、あなたの成功談はより説得力を持つと思います。
そして、過去について話すときは具体的で役立つ情報をはっきりと提示すべきです。例えば「あなたがやろうとしていることは、過去に自分たちも経験している。そのときは失敗して大変な目に遭ったので、こうした部分に注意してほしい」といった具合です。こうすれば、相手は共感を持ってしっかりと聞いてくれるはず。結局のところ、聞き手が本当に知りたいのは、「今」に役立つ情報や教訓なのです。

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豊島 晋作(とよしま・しんさく)

テレビ東京報道局記者/ニュースキャスター

1981年福岡県生まれ。2005年3月東京大学大学院法学政治学研究科修了。同年4月テレビ東京入社。政治担当記者として首相官邸や与野党を取材した後、11年春から経済ニュース番組WBSのディレクター。同年10月からWBSのマーケットキャスター。16年から19年までロンドン支局長兼モスクワ支局長として欧州、アフリカ、中東などを取材。現在、Newsモーニングサテライトのキャスター。ウクライナ戦争などを多様な切り口で解説した「豊島晋作のテレ東ワールドポリティクス」の動画はYouTubeだけで総再生回数4000万を超え、大きな反響を呼んでいる。

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(テレビ東京報道局記者/ニュースキャスター 豊島 晋作)
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