※本稿は本田秀夫『発達障害・「グレーゾーン」の子の不登校大全』(バトン社)の一部を再編集したものです。
■「学校に行きたくない」は最終段階
Q1
子どもに「学校に行きたくない」と言われたら?
子どもが「学校に行きたくない」と言い出したとき、あるいはすでに休んでいるときに、どう対応すればいいのでしょう。第3章では学校での環境調整について触れましたが、この章では、主に家庭でいますぐにできる対応のポイントについてお伝えします。
不登校の対応で最初にお伝えしておきたいのが、大人と子どもとの間に視点のズレが起こりやすいということです。
大人は、子どもが「学校に行きたくない」と言い出したときに、それを問題の始まりだと考えがちです。何かきっかけがあって、休みたい気持ちがちょっと出てきたぐらいの段階だと思いやすいのです。ちょっと頑張って登校すれば、また通えるようになるんじゃないかと考えて、子どもに「そんなこと言わないで」「頑張ろう!」と声をかけたりします。
しかし子どもの側から見ると、大人に「学校に行きたくない」と伝えるのは、心のなかで葛藤していた問題が最終段階に入ったときです。いろいろと悩みながら、誰にも言わずに精いっぱい頑張ってきたけれど、もう限界だと感じて、ようやくその気持ちを言葉に出したわけです。「学校に行きたくない」という言葉は、子どもからのSOSのサインなのです。
子どもが学校を休みたがったとき、大人がそれを「問題の始まり」だと思いやすいのに対して、子どもは「問題の最終段階」だと考えている場合が多い。そこに視点のズレが起こってきます。
■子どもは全部分かったうえで不登校になる
親や先生は、子どもが登校をしぶるようになったとき、勉強が遅れることや集団活動の経験が減ることなどを心配しがちです。何日も続けて休んだら、勉強面でも生活面でも、さまざまな学習が滞るのではないかと案じたりします。その遅れが将来に響くのではないかという不安もあるかもしれません。
そういう気持ちもあって、子どもを頑張らせようとすることがあるわけですが、本人としては、学校に行って勉強したほうがいいことがわかっていても「もう行きたくない」「つらくて勉強どころではない」というくらいに追いつめられて、登校をしぶっています。「問題の最終段階」というのはそういうことです。
大人と子どもの視点に、それぐらい大きなズレが起こることがあります。そのズレに気づかないまま、子どもを無理に学校に行かせようとしていると、それまで仲のよかった親子でも、関係が険悪になっていくこともあります。
■担任の誘いで6時間目まで出席できたが…
次に、実際に大人と子どもの視点に大きなズレが生じてしまった例を紹介しましょう。
(相談例1)
担任に誘われて再登校したが、
また行けなくなった子
小学6年生 女子の場合
このお子さんは小学6年生の女子です。自閉スペクトラム症(ASD)の特性があり、対人関係が苦手です。ある時期から何人かの同級生との関係が悪くなってしまい、学校を休むようになりました。すると、担任の先生がこのお子さんのことを心配して、ある朝ご家庭に立ち寄り、彼女を励まして、一緒に登校しようと誘いかけました。
お子さんは、その日は先生と一緒に学校へ行ったそうです。そして最後の6時間目まで授業に出てから帰宅しました。同級生との間にも特にトラブルは起こらなかったようで、その日の夜、先生から親御さんに「楽しそうにしていましたよ」「もう大丈夫でしょう!」「明日もぜひ来てください!」「待っています」というような連絡がありました。
親御さんと先生は「これでまた学校に通えるようになるのでは」と考えたそうですが、次の日の朝、お子さんは登校をしぶりました。
そしてまた学校を休むようになり、その後は担任の先生が立ち寄っても、絶対に会おうとしませんでした。
■「帰宅しぶり」があるかを確認するべき
(相談例1の子どもを理解する)
登校しぶりがあるなら、帰宅しぶりはあるのか
不登校の初期には、学校に行ける日もあれば行けない日もあるという場合が多いです。
そういう時期に親が学校に相談すると、先生から「学校に来たら楽しそうにしていますよ」と言われることがあります。そう言われると親としては、この子は家から出るのが億劫なだけで、学校に行ってしまえば元気に活動できるのだと思うかもしれません。
私は、そういう話を聞いたときには必ず「帰宅しぶりはありますか?」と聞くようにしています。というのも、本当に学校が楽しければ、帰るときにしぶることもあるからです。
学校生活を楽しんでいる子は、下校の時間帯に「もう少し遊んでいたい」などと言って、帰宅をしぶることがあります。そして学校の先生から「遊んでいないで、早く帰りなさい」などと注意されたりします。
帰宅しぶりはなく、学校では楽しそうにふるまっているということは、その子の「芝居」である可能性があります。
■「楽しそうな演技」で苦しむ子供たち
相談例1では、学校が嫌なのにどうして楽しそうにしているのかというと、芝居をしないと、かえって面倒なことになるからです。
私たち大人も、あまり気が進まないけれど、つき合いで行かなければならない飲み会などに参加するときには、つまらなくてもそれなりに社交的にふるまいますよね。しかしその笑顔は愛想笑いであり、楽しそうにしているのは演技です。先々のことを考えて、芝居をしています。不登校の子はそれと同じようなことを、子どもながらにやらされているわけです。
その場合に必要なのは、登校をうながすことではなく、その子が愛想笑いと演技をしなければならないような状況を変えていくことです。
ごくまれに登校しぶりも帰宅しぶりもある子どももいます。
例えば活動の切り替えが苦手な子は、登校の時間帯にテレビを見始めてしまって、登校をしぶることがあります。そして下校の時間にもついおしゃべりを始めてしまって、帰宅をしぶったりするのです。
その場合、学校が嫌だというわけではなく、切り替えを強要されるのが嫌なだけなので、活動の切り替えをサポートすれば、登校しぶりも帰宅しぶりも解消していきます。
■「やっと解放された!」と思っているかもしれない
しかし、子どもが登校しぶりをするという場合に、帰宅しぶりがあるかどうかを親や先生に聞いてみると、「ない」と言われることがほとんどです。先ほどの例のように、切り替えが苦手で登校も帰宅もしぶるという子もいますが、それは登校しぶり全体の1%もいないと思います。登校しぶりをする子のほとんどは、自宅に帰ることを嫌がりません。
学校に行くのは嫌だけど、家に帰るのは嫌ではないということは、つまり学校は楽しくないということでしょう。そう感じている子は学校の授業が終わると、さっさと家に帰っていきます。なかには笑顔で帰宅していく子もいます。
その姿を見て「あの子は充実した一日を過ごして、晴れ晴れとした気持ちで帰っていった」と思う人もいるかもしれませんが、おそらくそうではないでしょう。本人は「やっと解放された!」という安堵に包まれているのかもしれません。
【まとめ】
子どもが「学校に行きたくない」と言い出すのは問題の最終段階、SOSのサインです。いろいろと悩みながら、誰にも言わず、もう限界だと感じて、ようやくつらい気持ちを言葉に出したときです。様子を見ている場合ではなく、すぐに対応する必要があります!
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本田 秀夫(ほんだ・ひでお)
信州大学医学部 子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長
特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事。
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(信州大学医学部 子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長 本田 秀夫)