毎日を健康に過ごし、ヨボヨボにならないためにはどうすればいいのか。医師の和田秀樹さんは「ぜひ牛乳を飲むことを習慣にしてほしい。
※本稿は、和田秀樹『医師が教える長生きする牛乳の飲み方』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■“睡眠の質”は食事でも解決できる
年齢を重ねるとさまざまな変化と出くわし、悩むことが増えます。なかでも多いのが睡眠の悩み。布団に入っても眠れない、深夜に目が覚めてしまう、朝の目覚めがよくない、そもそもよく眠れた気がしない……。その原因はストレスや薬の影響、慢性疾患による痛みなどとさまざまです。
睡眠には、体はリラックスしているけれど脳は活動していて情報などの整理をしている「レム睡眠」と、体も脳もリラックスしている「ノンレム睡眠」があります。この二つがセットで90~110分サイクルをひと晩に4~6回繰り返します。このサイクルがスムーズでないと眠りは浅くなります。
また、ノンレム睡眠は浅い眠りから段階的に深くなるのが特徴ですが、その際、深い眠りに到達できない場合があります。これもまた、睡眠の質が下がっていることになります。
睡眠の質を低下させる根本的な原因を解決させることは大切ですが、食事でも解決する方法があります。
■「日常」は睡眠を阻害するものだらけ
メラトニンは別名・睡眠ホルモンといわれ、睡眠のリズムを調整してくれるため、よい睡眠には欠かせません。
ところが睡眠の味方であるメラトニンは、日常生活の中で分泌が抑制されてしまうことが多々あります。その一つはストレス。長時間、ストレスにさらされることでメラトニンは抑制されます。気にかかることや不安なことなど、ストレスがかかると眠れないという経験をしたことがある方も多いと思います。
次に、不規則な生活リズム。起床時間が早朝だったり、昼近くだったりとバラバラだとメラトニンの分泌が乱れます。
そしてここ何年かで問題になっているのが、スマートフォンなどによるブルーライト。眠りを妨げるとわかっていても、見ずにはいられないとつい寝室に持ち込んでしまう。子どもや孫に使い方を教えてもらい、つい何時間もスマートフォンとにらめっこ。ブルーライトもまたメラトニンの分泌を大きく抑制するのを実感している人も多いと思います。
また、カフェインやアルコールの摂取もメラトニンの分泌を阻害します。さらに、加齢によってもメラトニンの分泌は減少するのです。
■「朝牛乳」で夜の眠りが深くなる
こうして日々、抑制されるメラトニンの分泌をスムーズにするにはどうしたらいいのでしょうか? それはメラトニンの材料となる食材をとることです。メラトニンは、たんぱく質の一種であるトリプトファンが材料となりますが、これは体内で合成することができない必須アミノ酸のひとつです。だから、食べ物から摂取するしかありません。そこで助けの手を差し伸べてくれるのが「朝牛乳」なのです。
牛乳を飲むとトリプトファンが体内に取り込まれ、セロトニンというホルモンを分泌します。このホルモンは、イキイキと暮らすために大切なもの。セロトニンは分泌されると、幸福感が増し、前向きで明るい気持ちになるなど、メンタル面に大きな影響を与えるため「幸せホルモン」と呼ばれています。
牛乳のトリプトファンはセロトニンに変換され、さらにメラトニンに変換されます。牛乳を飲んだらすぐにメラトニンを分泌するわけではなく、その点が一足飛びにはいかないところです。
「トリプトファン→セロトニン→メラトニン」というゴールにたどり着くには14~16時間かかるといわれ、朝8時に牛乳を飲むと、夜の10時~12時頃に分泌されることになります。
つまり、朝牛乳を飲むことで、夜に向けて睡眠体制を整えることになります。自分の就寝時間から逆算して朝牛乳を飲むと、深い眠りにつけるようになります。
■「昼牛乳」でヨボヨボを防ぐ
「スーパーへ買い物に行くのが面倒だな」とか、「あのカフェに行きたいけれど、入り口の階段がちょっと不安……」というとき、ありませんか?
小さな面倒くさいを積み重ねていくうちに、どんどん活動量が減ってしまい、高齢になればなるほど筋肉や骨などの運動器官が弱くなってしまいます。足腰が弱ってくると、さらに外出が億劫になる。これではヨボヨボへと一直線です!
こういうときこそ牛乳を飲んでほしいものです。これが活動の多い時間帯に飲む「昼牛乳」です。
たんぱく質はアミノ酸が連なったもので、その構造や種類によってさまざまな役割があります。例えば、サプリメントや基礎化粧品などに含まれる「コラーゲン」もたんぱく質のひとつで、皮膚や骨などをつくるもの。コラーゲン入りのサプリや化粧品は肌を再生する効果が期待できるため、それが美肌に欠かせない成分といわれる所以です。ただし、コラーゲンは皮膚から吸収されることはありません。
■“筋肉の衰え”を感じたら試してほしい
牛乳に含まれるたんぱく質は、筋肉にスイッチを入れる種類のものが多く含まれているのが特徴です。
スポーツをされたことがある方なら聞いたことがあるかもしれませんが、「分岐鎖アミノ酸」は「BCAA」といわれ、スポーツドリンクの成分になっています。バリン、ロイシン、イソロイシンという3種のアミノ酸で、これらが理想的な比率(バリン:ロイシン:イソロイシン=1:2:1)で含まれています。
「BCAA」は、筋肉を成長や修復し、筋肉のエネルギー源となります。そのため、スポーツ選手にとってはなくてはならない成分です。
筋肉の成長や修復を担っていますが、ハードな運動中や運動後だけに必要なのではありません。中高年にとっては筋力低下の予防や疲労回復にも有効です。
「外出すると疲れる」「駅の階段がしんどくなってきたな」というのは、筋肉の衰えはじめか、筋肉が疲労しているサインです。そんなときは、「もう年だからダメだ……」と言わずに、「昼牛乳」を毎日コツコツ試してみてください。
■「夜牛乳」は骨を強くする
中高年になると途端に骨折する人が増えてきます。特に女性は更年期を迎え、女性ホルモンの減少によって骨がスカスカになる「骨粗しょう症」に不安を感じる人も少なくありません。そこで欠かせないのがカルシウムです。
カルシウムには、骨や歯を強く健康な状態で維持する役目があります。また筋肉の収縮を助けるため、日常の動作にも欠かせません。ほかにも血液の凝固プロセスとも関係していて、出血を止めるのに欠かせないミネラルの一種。神経細胞の間で信号を伝達する重要な役割もあります。
このように、多くの役割を担っていて血中で働くカルシウムは、必要量を維持するために、足りなくなると骨から溶け出して血中に補充します。こうして骨は脆くなっていくのです。
だからこそ補うのがとても大切です。カルシウムは食事から取り入れやすく、特に牛乳は最適です。カルシウムを多く含む上に、体内の吸収率が小魚などよりも高いのは、あまり知られていない事実です。
そして、吸収に適している時間帯が夜、さらに睡眠中です。「夜牛乳」を飲むことが、骨の強化につながるというわけです。
■脱水症状は“電解質が失われている”状態
ここ何年か、日本の夏は殺人的な暑さですよね。ニュースでは「不要不急の外出は控えるように」とか、「熱中症に十分気をつけてください」とか。それでもこんなに暑いと、熱中症で搬送される人が多いこと。部活中の中高生や、エアコンを使わずに過ごしている高齢者が熱中症で搬送されたなどと耳にします。
特に高齢者の熱中症の場合、加齢とともに体温調整機能が低下し、暑さへの感度が鈍くなり、気づいたら熱中症になっていたというケースがよくあります。
以前、タレントの所ジョージさんが夏に畑仕事をしている最中に熱中症で倒れたというニュースがあり、その後、彼は経口補水液のCMに起用されました。熱中症の際、なぜ水ではなく経口補水液を飲むのかわかりますか?
それは脱水症状を伴う熱中症だったからです。脱水症状は熱中症の代表的な症状のひとつで、頭痛、めまい、口渇、尿量の減少、けいれん、重度の疲労感などさまざまな症状が出ます。
脱水症状は、単に体内の水分が暑さによって不足するだけではありません。重要なのは電解質が失われることです。これを補うためには「経口補水液」でなければならないのです。
■熱中症にも牛乳がいい
では「電解質」とはなんのことでしょうか? 聞いたことはあるけれど、きちんと理解している人は少ないと思います。ですからあえて、少し説明しますね。
「電解質」はナトリウム、カリウム、マグネシウムのことです。これらが失われると、①けいれん、②疲労感、③心拍数の異常、④血圧への影響といった症状が起こります。
さらに重症化すると、混乱、意識喪失など命の危険にさらされかねません。実際に、熱中症などで高齢者が亡くなる事故は毎年のようにあります。たかが熱中症、されど熱中症です。
そこで対策としては水分をとることなのですが、同時に電解質を補う必要があります。だからといって電解質を含む経口補水液を常備するのも大変。そんなときに便利なのが牛乳なのです。
牛乳にはナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムといったミネラルの一部である電解質が含まれています。そのため、体内の水分バランスを整えて脱水の予防や症状を抑える役割もあります。
■高熱が出たときにもいい
また、牛乳の成分の9割弱は水です。その上、胃にとどまる時間が長く、持続的な水分補給に有効ともいわれています。つまり牛乳は脱水を伴う熱中症対策に有効なため、「夏牛乳」はとてもおすすめなのです。ぜひ暑くなる前の時間帯から飲みはじめてください。
「夏牛乳」は脱水症状の予防と改善に効果的な上に、高熱が出たときにもいいでしょう。「熱が出たらスポーツドリンクを飲むように」と、医者に言われたことがあるかと思います。ただし、スポーツドリンクには独特の甘さがあるので、飲み慣れていない人には苦痛に感じるかもしれません。そこで牛乳の登場です。
おすすめの飲み方は、炭酸水やサイダーと牛乳を1:1で割るドリンク「牛乳サイダー」(写真1右)。炭酸のシュワシュワッとした感じと牛乳の組み合わせは意外と新鮮で、口の中に清涼感が広がります。炭酸水で割れば甘みはなくよりすっきりとした味わいで、とても飲みやすいのも特徴です。「夏に牛乳は重たい」と感じる人にも好評です。ぜひお試しください。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)
朝・昼・晩に飲むとそれぞれ異なる効果が得られ、ヨボヨボな老後を防げるだろう」という――。(第3回)
※本稿は、和田秀樹『医師が教える長生きする牛乳の飲み方』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■“睡眠の質”は食事でも解決できる
年齢を重ねるとさまざまな変化と出くわし、悩むことが増えます。なかでも多いのが睡眠の悩み。布団に入っても眠れない、深夜に目が覚めてしまう、朝の目覚めがよくない、そもそもよく眠れた気がしない……。その原因はストレスや薬の影響、慢性疾患による痛みなどとさまざまです。
睡眠には、体はリラックスしているけれど脳は活動していて情報などの整理をしている「レム睡眠」と、体も脳もリラックスしている「ノンレム睡眠」があります。この二つがセットで90~110分サイクルをひと晩に4~6回繰り返します。このサイクルがスムーズでないと眠りは浅くなります。
また、ノンレム睡眠は浅い眠りから段階的に深くなるのが特徴ですが、その際、深い眠りに到達できない場合があります。これもまた、睡眠の質が下がっていることになります。
睡眠の質を低下させる根本的な原因を解決させることは大切ですが、食事でも解決する方法があります。
それは、深い睡眠へと誘うホルモンであるメラトニンの分泌を活発にすることです。
■「日常」は睡眠を阻害するものだらけ
メラトニンは別名・睡眠ホルモンといわれ、睡眠のリズムを調整してくれるため、よい睡眠には欠かせません。
ところが睡眠の味方であるメラトニンは、日常生活の中で分泌が抑制されてしまうことが多々あります。その一つはストレス。長時間、ストレスにさらされることでメラトニンは抑制されます。気にかかることや不安なことなど、ストレスがかかると眠れないという経験をしたことがある方も多いと思います。
次に、不規則な生活リズム。起床時間が早朝だったり、昼近くだったりとバラバラだとメラトニンの分泌が乱れます。
そしてここ何年かで問題になっているのが、スマートフォンなどによるブルーライト。眠りを妨げるとわかっていても、見ずにはいられないとつい寝室に持ち込んでしまう。子どもや孫に使い方を教えてもらい、つい何時間もスマートフォンとにらめっこ。ブルーライトもまたメラトニンの分泌を大きく抑制するのを実感している人も多いと思います。
また、カフェインやアルコールの摂取もメラトニンの分泌を阻害します。さらに、加齢によってもメラトニンの分泌は減少するのです。
■「朝牛乳」で夜の眠りが深くなる
こうして日々、抑制されるメラトニンの分泌をスムーズにするにはどうしたらいいのでしょうか? それはメラトニンの材料となる食材をとることです。メラトニンは、たんぱく質の一種であるトリプトファンが材料となりますが、これは体内で合成することができない必須アミノ酸のひとつです。だから、食べ物から摂取するしかありません。そこで助けの手を差し伸べてくれるのが「朝牛乳」なのです。
牛乳を飲むとトリプトファンが体内に取り込まれ、セロトニンというホルモンを分泌します。このホルモンは、イキイキと暮らすために大切なもの。セロトニンは分泌されると、幸福感が増し、前向きで明るい気持ちになるなど、メンタル面に大きな影響を与えるため「幸せホルモン」と呼ばれています。
牛乳のトリプトファンはセロトニンに変換され、さらにメラトニンに変換されます。牛乳を飲んだらすぐにメラトニンを分泌するわけではなく、その点が一足飛びにはいかないところです。
「トリプトファン→セロトニン→メラトニン」というゴールにたどり着くには14~16時間かかるといわれ、朝8時に牛乳を飲むと、夜の10時~12時頃に分泌されることになります。
ちょうど就寝時間にあたりますね。
つまり、朝牛乳を飲むことで、夜に向けて睡眠体制を整えることになります。自分の就寝時間から逆算して朝牛乳を飲むと、深い眠りにつけるようになります。
■「昼牛乳」でヨボヨボを防ぐ
「スーパーへ買い物に行くのが面倒だな」とか、「あのカフェに行きたいけれど、入り口の階段がちょっと不安……」というとき、ありませんか?
小さな面倒くさいを積み重ねていくうちに、どんどん活動量が減ってしまい、高齢になればなるほど筋肉や骨などの運動器官が弱くなってしまいます。足腰が弱ってくると、さらに外出が億劫になる。これではヨボヨボへと一直線です!
こういうときこそ牛乳を飲んでほしいものです。これが活動の多い時間帯に飲む「昼牛乳」です。
たんぱく質はアミノ酸が連なったもので、その構造や種類によってさまざまな役割があります。例えば、サプリメントや基礎化粧品などに含まれる「コラーゲン」もたんぱく質のひとつで、皮膚や骨などをつくるもの。コラーゲン入りのサプリや化粧品は肌を再生する効果が期待できるため、それが美肌に欠かせない成分といわれる所以です。ただし、コラーゲンは皮膚から吸収されることはありません。
■“筋肉の衰え”を感じたら試してほしい
牛乳に含まれるたんぱく質は、筋肉にスイッチを入れる種類のものが多く含まれているのが特徴です。
少し難しい話になりますが、筋肉をつくるスイッチを入れるのが「分岐鎖アミノ酸」というたんぱく質を構成するアミノ酸です。
スポーツをされたことがある方なら聞いたことがあるかもしれませんが、「分岐鎖アミノ酸」は「BCAA」といわれ、スポーツドリンクの成分になっています。バリン、ロイシン、イソロイシンという3種のアミノ酸で、これらが理想的な比率(バリン:ロイシン:イソロイシン=1:2:1)で含まれています。
「BCAA」は、筋肉を成長や修復し、筋肉のエネルギー源となります。そのため、スポーツ選手にとってはなくてはならない成分です。
筋肉の成長や修復を担っていますが、ハードな運動中や運動後だけに必要なのではありません。中高年にとっては筋力低下の予防や疲労回復にも有効です。
「外出すると疲れる」「駅の階段がしんどくなってきたな」というのは、筋肉の衰えはじめか、筋肉が疲労しているサインです。そんなときは、「もう年だからダメだ……」と言わずに、「昼牛乳」を毎日コツコツ試してみてください。
■「夜牛乳」は骨を強くする
中高年になると途端に骨折する人が増えてきます。特に女性は更年期を迎え、女性ホルモンの減少によって骨がスカスカになる「骨粗しょう症」に不安を感じる人も少なくありません。そこで欠かせないのがカルシウムです。
カルシウムは骨の成分だと思われがちですが、実はカルシウムは骨より血液中に多く存在します。
カルシウムには、骨や歯を強く健康な状態で維持する役目があります。また筋肉の収縮を助けるため、日常の動作にも欠かせません。ほかにも血液の凝固プロセスとも関係していて、出血を止めるのに欠かせないミネラルの一種。神経細胞の間で信号を伝達する重要な役割もあります。
このように、多くの役割を担っていて血中で働くカルシウムは、必要量を維持するために、足りなくなると骨から溶け出して血中に補充します。こうして骨は脆くなっていくのです。
だからこそ補うのがとても大切です。カルシウムは食事から取り入れやすく、特に牛乳は最適です。カルシウムを多く含む上に、体内の吸収率が小魚などよりも高いのは、あまり知られていない事実です。
そして、吸収に適している時間帯が夜、さらに睡眠中です。「夜牛乳」を飲むことが、骨の強化につながるというわけです。
ただし、寝る前に冷えた牛乳を飲むのは胃腸に負担がかかります。ぜひ温めて飲みましょう。ちなみに、牛乳は加熱しても栄養そのものは変化しませんのでご安心ください。
■脱水症状は“電解質が失われている”状態
ここ何年か、日本の夏は殺人的な暑さですよね。ニュースでは「不要不急の外出は控えるように」とか、「熱中症に十分気をつけてください」とか。それでもこんなに暑いと、熱中症で搬送される人が多いこと。部活中の中高生や、エアコンを使わずに過ごしている高齢者が熱中症で搬送されたなどと耳にします。
特に高齢者の熱中症の場合、加齢とともに体温調整機能が低下し、暑さへの感度が鈍くなり、気づいたら熱中症になっていたというケースがよくあります。
以前、タレントの所ジョージさんが夏に畑仕事をしている最中に熱中症で倒れたというニュースがあり、その後、彼は経口補水液のCMに起用されました。熱中症の際、なぜ水ではなく経口補水液を飲むのかわかりますか?
それは脱水症状を伴う熱中症だったからです。脱水症状は熱中症の代表的な症状のひとつで、頭痛、めまい、口渇、尿量の減少、けいれん、重度の疲労感などさまざまな症状が出ます。
脱水症状は、単に体内の水分が暑さによって不足するだけではありません。重要なのは電解質が失われることです。これを補うためには「経口補水液」でなければならないのです。
■熱中症にも牛乳がいい
では「電解質」とはなんのことでしょうか? 聞いたことはあるけれど、きちんと理解している人は少ないと思います。ですからあえて、少し説明しますね。
「電解質」はナトリウム、カリウム、マグネシウムのことです。これらが失われると、①けいれん、②疲労感、③心拍数の異常、④血圧への影響といった症状が起こります。
さらに重症化すると、混乱、意識喪失など命の危険にさらされかねません。実際に、熱中症などで高齢者が亡くなる事故は毎年のようにあります。たかが熱中症、されど熱中症です。
そこで対策としては水分をとることなのですが、同時に電解質を補う必要があります。だからといって電解質を含む経口補水液を常備するのも大変。そんなときに便利なのが牛乳なのです。
牛乳にはナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムといったミネラルの一部である電解質が含まれています。そのため、体内の水分バランスを整えて脱水の予防や症状を抑える役割もあります。
■高熱が出たときにもいい
また、牛乳の成分の9割弱は水です。その上、胃にとどまる時間が長く、持続的な水分補給に有効ともいわれています。つまり牛乳は脱水を伴う熱中症対策に有効なため、「夏牛乳」はとてもおすすめなのです。ぜひ暑くなる前の時間帯から飲みはじめてください。
「夏牛乳」は脱水症状の予防と改善に効果的な上に、高熱が出たときにもいいでしょう。「熱が出たらスポーツドリンクを飲むように」と、医者に言われたことがあるかと思います。ただし、スポーツドリンクには独特の甘さがあるので、飲み慣れていない人には苦痛に感じるかもしれません。そこで牛乳の登場です。
おすすめの飲み方は、炭酸水やサイダーと牛乳を1:1で割るドリンク「牛乳サイダー」(写真1右)。炭酸のシュワシュワッとした感じと牛乳の組み合わせは意外と新鮮で、口の中に清涼感が広がります。炭酸水で割れば甘みはなくよりすっきりとした味わいで、とても飲みやすいのも特徴です。「夏に牛乳は重たい」と感じる人にも好評です。ぜひお試しください。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)
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