ペットは家族の一員と考えている人も多いが、意外な効果も期待できそうだ。住宅ジャーナリストの山下和之さんは「イヌやネコを飼うと家族の会話が増え、特に高齢者のいる世帯での効果が大きい。
ただ、専門家によるとイヌとネコを比べると、その効用には大きな差がありそうだ」という――。
■イヌを飼う人が減りネコが増えている理由とは
家庭のペットといえば、イヌとネコが双璧だが、最近はイヌが減ってネコが増える傾向にある。図表1にあるように、2010年代の半ばまではイヌとネコの飼育頭数はほぼ同数だったが、その後イヌはジワジワと減って、反対にネコは着実に増えて、その差が大きくなっている。
その要因としては、まず、ネコのほうが手間はかからないという点が挙げられる。特にコロナ禍で外出がままならない時期があり、日々の散歩が欠かせないイヌを飼う人が減ったといわれている。加えて、共働き世帯が増加、散歩に行けない世帯が増えているという事情もあるのかもしれない。
また、飼育にかかる費用にも違いがある。イヌは定期的なワクチンの接種が必要など医療費はけっこうかかるが、ネコはさほどでもない。なかには、一度も病院に行ったことがないまま亡くなるネコもいるほどだ。
しかもイヌには大型犬も多く、食事代もばかにならない。諸物価高騰の折り、この差は大きく、ますますネコ派のほうが多くなりそうだ。しかし、ペットの効用はイヌのほうが大きい。
なかでもシニアに対する効用が大きいという調査結果が出ているので注目しておきたい。
■イヌを飼えば高齢者の介護費用が半分になる
日本ペットフード協会では、毎年犬猫飼育の実態を調査しているが、ペット飼育の効用にはイヌとネコでかなりの差がある。
図表2にあるようにシニアへの影響をみると、「家族の表情が明るくなった」「家族との会話が増えた」「運動量が増えた」といった効用はイヌのほうが大きく、なかでも「運動量が増えた」はイヌがネコを10ポイント以上上回っている。
日々の散歩が欠かせないだけに運動量が増えて、健康にもいい影響を与えることになるのではないだろうか。特にリタイア後の高齢者は外出機会が減少しているから、イヌの散歩を通して外出機会が増えれば、心身に好影響を与える効果が大きい。
実際、犬猫の飼育についての研究を行っている麻布大学副学長で獣医学部介在動物学研究室教授の菊水健史氏はこう語っている。
「イヌを飼育している家庭の高齢者の介護費用は、飼っていない家庭に比べると半額になっています。認知症も4割ほど減るという結果です。加齢によって心身が衰えた状態になるフレイルの予防にもつながります。もともとイヌを飼う人は元気で、社交性の高い人が多い傾向にあり、スタート地点が違うという面があるのですが、それにしても海外でも同じような結果が出ていて、シニアがいる世帯にはイヌを飼育する効用が大きいのは間違いありません」
■“イヌ友”によって社交性が高まる効果
ただイヌを飼っているというだけでは、そんなに大きな効果は期待できない。イヌを飼っても散歩などに出なければ運動量は増えないし、効果が少ないのは当然だろう。何より積極的に外に出て行かないと効果は期待しにくいのだ。

散歩すれば、同じようにイヌを散歩させている人に出会う。飼い主同士は面識がなくても、イヌたちは吠え合い、じゃれ合い、あいさつする。それに合わせて飼い主たちも会話するようになる。
最初はぎごちなくても、やがて飼い主たちもあいさつを交わし、コミュニケーションするようになる。それも何頭も集まって一つのコミュニティが出来上がり、“ママ友”ならぬ“イヌ友”ができるようになる。
それによって社交性が高まり、各種の付き合いが増えて元気になる。結果、介護費用を削減でき、認知症のリスクが低下、フレイルの予防につながるわけだ。麻布大学ではそうした調査に力を入れているので、いずれ調査結果のデータからもそうした点が明らかになるはずだ。
■低年収の人がイヌを飼えば年収が高まる?
このイヌを飼う効用はそれだけではない。麻布大学の菊水教授がこんなことを教えてくれた。
「年収はウェルビーイングに影響を与えることが知られています。おそらく年収の高い人たちは金銭的に余力があり、旅行やグルメを楽しむことができます。
一方、年収の低い方々は自分のやりたいことができず、またそれを比較してしまうことでウェルビーイングが下る可能性があります。しかし、私たちのデータでは、年収の低い方でもイヌの飼育者はウェルビーイングが高いことがわかってきました。
イヌを飼うと、わが家のイヌが一番と思うようになってかわいがります。現実に人間のわが子に、誰もが一番と納得するようなものを身に付けさせるのは簡単ではないし、できたとしてもそれを自慢すれば毛嫌いされます。でも、イヌであれば『うちのイヌが一番』と自慢できますし、皆が自分のイヌが一番と思っているので、誰も文句はいいません。いわば人間の競争社会から抜け出して、自分も幸せになれるのです。
結果、ウェルビーイングが上がると考えられます。ウェルビーイングの高い方は何事にも前向きに取り組む傾向がありますし、家庭も明るく、仕事の業績も高いことが知られています。最終的にはそのような生活や意識の持ち方が年収をあげることにもつながるかもしれません」
ことに、近所に“ママ友”などがいない男性に効果が大きいのではないかとしている。ふつうの家庭では、子どもたちはお母さんとは話をしても、お父さんとはあまり会話がないもの。そんな孤独なお父さんも、イヌを飼えば“イヌ友”ができて世界が広がり、コミュニケーションできるようになり、家庭でも会話できるようになるものだ。
積極的に外に出るようになって、身体的に元気になるだけではなく、精神的にも元気になり、ひいては仕事面でも実績が上がって、年収が上がる可能性も出てくるというわけ。
一石二鳥、三鳥もの効果になりそうだ。
■ネコ好きにもSNSなどで効用が高まる
ところで、イヌにはさまざまな効用があるのにネコはそうでもないというと、ネコ好きの人たちに怒られそうだが、最近は変化の兆しもみられるようになってきたという。菊水教授が続ける。
「イヌには介護費用を減らし、認知症リスクを低減する効果があるのですが、ネコにはそれがありません。むしろ、逆効果になるのではないかともいわれるほどです。イヌはヒトに付き、ネコはイエに付くといわれ、外に出ません。その分、ネコは手がかからないので、飼い主に対する効用を期待しにくいということでしょう。でも最近はネコを巡って、コミュニティが形成されるようになりつつあります。外には出ませんが、ネット上で、ネコを紹介するサイトなどが増え、SNSでネコ好きのやり取りも増加しており、ネット上とはいえ、交流が進み、コミュニケーションが成立するようになっているのです」
それが進めば、イヌを飼っているのと同様にウェルビーイングが上がり、健康や場合によっては年収アップなどにつながる可能性がある。ネコ好きも仮想空間であっても積極的に外に出れば、イヌ同様の効用が期待できるので、ネコ好きには朗報ではないだろうか。
さて、あなたはイヌ派ですか、ネコ派ですか。

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山下 和之(やました・かずゆき)

住宅ジャーナリスト

1952年生まれ。
住宅・不動産分野を中心に新聞・雑誌・単行本の取材、執筆、講演、セミナー講師など幅広く活動。著書に『2017-2018年度版 住宅ローン相談ハンドブック』『よくわかる不動産業界』など。

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(住宅ジャーナリスト 山下 和之)
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