特別優秀なわけではないのに、なぜか「デキる」と思われる人がいる。なぜなのか。
静岡産業大学経営学部の岩本武範教授は「複数人でコミュニケーションをとるときに、なぜか好かれる“おいしいポジション”がある。そこにハマるために重要なのが、席取りだ」という――。
※本稿は、岩本武範『なぜ4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか』(サンマーク出版)の一部を抜粋・再編集したものです。
■集団の中では「2番手」を目指す
複数コミュニケーションの場では、話さないと「つまらない」と思われ、反対に話しすぎると調和を乱しかねない。
「話せない」をなんとかしたいと思うかもしれませんが、同時に「話しすぎてがんばりを察知され、どこか下に見られる」のも避けたいところ。
出しゃばりすぎず、控えめすぎず、なぜか「また話したい」と思ってもらえる。
そんなポジションが理想といえます。
拙著『なぜ4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか』では、4人の場で、発言が多い順に1番手、2番手、3番手、4番手とした場合、その理想のポジションはずばり、「2番手」、というお話をしました。
ここで目指す「2番手」以外の、「1番手」「3番手」「4番手」とはどういう人なのか、具体的な戦略をお伝えする前に、4人のコミュニケーションにはどういう人がいるのか、心理学的な視点も絡めて把握していきましょう。
私がこれまでやってきたグループインタビューを例に出すとこんな感じです。
まずは、もっともよく話す「1番手」。
この属性の人たちは声のボリュームが大きく、話すスピードも速い人が多いのが特徴です。
自分が話すことに夢中になっていて、相手の話を理解することが若干苦手。
まわりの反応に関係なく、ひたすら話しつづけるので、グループインタビュー中は「わかりました。じゃあ……」と、こちらが話を途中で区切らないと進行できないほど。グループインタビューが終わってからも話しつづけている強者(つわもの)もいます。
まわりの人の反応はというと、愛想笑いや苦笑いで対応することが多く、そこには、「この人に深入りするのはちょっと……」という空気が漂うことも。
続いて、あまり口数が多くない「3番手」「4番手」。
このポジションの人たちは、一度きりの場であればまわりからの印象はそんなに悪くありません。とはいえ、2番手のように、「感じがいい」とか「話しやすい」などと思われることが少ないのも事実。
悲しいかな、よくも悪くもあまり記憶に残らない存在といえます。
■「あいづち」は脳を疲弊させる
では、「3番手」と「4番手」は何が違うのか。
「3番手」は、よく話す人や声の大きな人に引っ張られる傾向があります。これは話せる人に憧れがあるから。

この3番手は、「口数は少ないけれど、思いはすごく強い」という人が多いのが特徴で、本当はしゃべりたいし、自分のことを認めてもらいたい。でも、その術を知らない。だから、饒舌(じょうぜつ)に話しているように見える1番手に憧れを抱きやすいのです。
その結果、1番手の発言に過度にうなずいたり、賛同したりするような発言が多くなります。悪く聞こえてしまうかもですが、1番手に迎合するような存在といえます。
しかしながら、心の底から1番手に賛同しているわけではありません。3番手の人も、自分勝手に話されては彼らのことをずっとよくは思えませんし、グループインタビューが進むにつれて「早く帰りたい」「なんだか強引だな、この人」と思っているのが顔に出てきたりして、表情がこわばってくるのです。
口数がもっとも少ない「4番手」は、ときには、いたかどうかも記憶に残りにくいレベル。
実際、グループインタビューに来ていただいても、「何をおっしゃってたっけ?」と、録音した音声をもう一度聞き直すことが多々あります。
誰の意見に対しても「うん、うん」とうなずき、発言している人にとにかく合わせがち。これは、3番手が1番手に気に入られるためにするのとは異なり、単に自分の意見が言えないためのことが多いようです。
この「同意していないのにするあいづち」は脳にとって大きなストレス。
後半はスタミナ切れになってリアクションが薄くなり、脳へのストレスが引き金となってダンマリしがちなのも彼らの特徴といえるでしょう。
■就職面接で「副部長」が大量発生する理由
こう分析すると、2番手以外のポジションは何かしら爆弾を抱えていることがおわかりいただけると思います。
複数コミュニケーションの場でまずめざすべきは、やはり、自分からは無理にガツガツ話さないけれど会話のパスが集まってくる「2番手」といえそうです。
この「2番手が最強ポジションである」という説。
「多くの人が、じつは共感してくれているのでは?」と感じる場面があります。
それは、「就職試験での面接」。
私はこれまで何度か就職試験の面接官をつとめましたが、「学生時代は何をやっていたのですか?」と質問すると、圧倒的に多い回答があります。それは、サークルの「副キャプテン」や「副部長」をしていたというもの。
キャプテンでも部長でもなく、多くの人が「副」のポジションなんです。
私はこれを、すごく日本的だなあと感じます。
キャプテンや部長にはなりたくないけれど、「その他大勢」とは見られたくない。2番手なら責任はそこまで重くないし、かといって軽んじられるポジションでもない。
ほどよくおさまりがいいというわけです。
■教室で「最前列真ん中」が空席になる理由も同じ
セミナーを開いたときにも、「どこに座るか?」で同じような傾向がみられます。
教壇に立つと、私から見て逆M字形に席は埋まっていきます。
最後尾から、ではなく、真ん中やや後ろから埋まりだし、いちばん前の真ん中の席はいつまでたってもポッカリ空いたまま。
たしかに、いちばん前に座ると目立ちます。講師との距離が近い分、目も合いやすい。緊張感が生まれ、ただセミナーを聞くという受け身の姿勢ではいられなくなる。セミナー受講生の1番手になってしまう、だからみんな避けるのです。
いちばん目立つのはイヤだけれど、でも注目はされたい。
日本人というのは極端なものに拒否反応を起こす国民性。そんな日本人だからこそ、「2番手」という、ちょっと特別感はありつつも、出しゃばることのないポジションを居心地よく感じるのだと推測しています。
つまり、2番手は自他共に認める「おいしいポジション」だということ。

そんな2番手に大きく近づくための方法こそが、「振ってもらう」なのです。
「2番手が、まわりから好かれるのも居心地がいいのもわかったけど、そのポジションにつくのがむずかしい……」
そんな声がそろそろ聞こえてきそうなので、2番手になるための具体的な「振ってもらう」戦略を、ここからは書いていきたいと思います。
■会話量が多い人の「左」に座る
まず押さえてほしいのが、「『振ってもらう』ということは、動作の主体はあくまで相手」だということ。
なので、「振ってくれる側の脳」の仕組みを利用して、相手が反応して「振りたくなる」シチュエーションをつくることが肝心です。
また、「振りたくなる」状態にすると同時に、「振りたくない」モードにさせないことも心がけたいポイント。
この2つを頭に置いて読み進めていただければ、と思います。
まずとても簡単にできる方法としてやってほしいのが、「振られやすいポジションに座る(位置する)」方法。
4人以上での飲み会やランチのとき、じつは「そこにいるだけで、会話が集まってきやすい」場所があるのです。
会話が集まりやすい場所とは、いちばん話す人から見て「左前」の席。
1番手から見て左前(左側)に座るだけで、なんと話をどんどん振ってもらいやすくなることを、振ってもらう作戦の最初にお伝えしたいと思います。
■人間の視線は「左から右へ」流れている
私は以前、スーパーで「買い物しているとき、人の視線がどう動いているか」を調べる店頭実験をおこないました。人の視線の動きを記録する「アイトラッカー」という機械をつけて買い物をしてもらう実験です。
そこで、ある興味深い結果が得られました。
それは、人は左から右へと視線を動かしているということ。
たとえば、お客さんがある鍋つゆ商品Aを見たとすると、次はその右にある鍋つゆBを必ず見ます。
この視線の流れを踏まえて私はある仮説を立てました。それは「脳は左から右の方向に情報を取得していく」という法則です。
つまり、売れている定番商品の右側に売りたい商品を置けば、お客さんの目に留まりやすくなり、売り上げを伸ばすことができるのではないか、と考えたのです。
そして、早速これを陳列に生かすことにしました。
フランス製の朝食用のビスケットを販売したときのこと。初めは健康食品コーナーで販売していたのですが、正直、まったく売れませんでした。
そもそも日本人には朝にビスケットを食べる習慣がありません。前提としてそういう考えがないわけですから、お客さんは手に取るどころか、目にも入っていない様子です。
■陳列の「位置」で売り上げが7倍に
とはいえ、商品自体はとてもいいもので、小麦胚芽(はいが)からできていて栄養たっぷり。いそがしい朝でもお皿に並べるだけと手軽だし、知ってもらえれば人気が出る自信はありました。
そこで、「左から右」に流れる視線の法則にのっとって、ビスケットをパンコーナーの売れ筋商品である食パン類の右側に配置することに。
すると、陳列を替えた瞬間、なんと売り上げが7倍に伸びたのです!
ほかにも、「ビールの右横にチーズを置く」レイアウトや、鮮魚コーナーの商品陳列でも同様の仕掛けで売り上げが伸びる効果がありました。
これらの経験から、人間の視線は左から右へ流れている、そしてこれこそ脳が情報を得やすい順序であるという仮説に確信を得ることができました。
ちなみにこの傾向は、見る人が右利きでも左利きでも関係ないようです。
■集団インタビューの席取りも同じ
また、プレゼン資料にもこの法則は応用できました。
「人は文字より、写真や図を好む」性質と、「左を選ぶ」特性を組み合わせて、ぱっと見てわかりやすい写真やイラストなどをスライドの左側に置き、右側に短い説明文を配置した資料をつくりました。
すると、3割弱だったコンペの勝率が、なんと9割を超えるまでに上がったのです。
この「脳は左からの情報を取得しやすい」理論を複数の場における席の配置に応用すると、早速効果がありました。
グループインタビューで「1番手」の人から見て左前に「4番手」と思われる人を配置したところ、4番手ポジションの人に1番手の人は積極的に話を振り、結果、4番手だった人の会話量が2番目に多くなったのです。
いちばん話す人の「左前」に座れば、あなたへ同意を求めたり、あなたに向かって話してきたりと、1番手から自分へのパスが増える。
すると自分に会話が集まる流れになりやすく、話すチャンスがうんと増えるのです。
このポジショニング、座るだけで大きな効果を発揮するので、ぜひ重宝していただければ、と思います。

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岩本 武範(いわもと・たけのり)

静岡産業大学経営学部教授、京都大学工学博士

1975年生まれ、静岡市出身。マーケター、データサイエンティスト、行動分析の実務家として20年以上にわたり、「人はなぜ選び、なぜ動くのか」を探究。延べ3000億件を超える行動データと1000人超のグループインタビューを通して、人間の行動パターンと変容の兆しを読み解いてきた。著書に、『なぜ4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか』(サンマーク出版)などがある。

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(静岡産業大学経営学部教授、京都大学工学博士 岩本 武範)
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