※本稿は、越川慎司『一流のマネジャー945人をAI分析してわかった できるリーダーの基本』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■自分で選択した期限には強い責任感が生まれる
成果を出し続けているリーダーの92%が、まずメンバーに「いつまでにできそう?」と尋ねる習慣を持っていることが判明しました。
うまくいっていない組織78チームに、この期限を尋ねる習慣を2カ月行ってもらったところ、予想外の結果になりました。
メンバーが自ら設定した締切りは、リーダーが設定する期限より平均2、3日早く、97%が期限内に業務を完了させたのです。
なぜ、このような「逆転現象」が起きたのでしょうか。
その理由は、自己選択権と宣言効果にあります。
期限を押し付けられると、人は無意識に「抵抗」や「反発」を感じます。
しかし、自分で選択した期限には「必ず守らなければ」という強い責任感が生まれるのです。
実際、ある印刷会社では、この手法を導入してからの2カ月間で、納期遵守率が98%に向上し、メンバーの時間外労働時間が22%減少したそうです。
しかし、なかにはうまくいかない組織もありました。
そこで、うまくいかなかった組織での事例を踏まえてやり方を改良し、2769名のリーダーに検証してもらったところ、次の5つのポイントを押さえることで効果が出やすくなることが判明しました。
■効果を出やすくする5つのポイント
1.オープンに質問する
●「いつまでにできそう?」とフラットに尋ねる
●プレッシャーを感じさせない口調にする
●考える時間を十分に与える
2.理由を聞く
●なぜその期限なのか、根拠を聞く
●どんな障壁が予想されるかを聞く
●どのように進めていくのか確認する
3.期限を明確化する
●「○月末」など、あいまいな表現は避ける
●「○月○日の17時まで」と具体的にする
4.コミットメントを取る
●「この期限で本当に大丈夫?」と確認
●無理のない設定か再確認する
●必要なサポートを約束する
5.進捗を共有する仕組みをつくる
●問題点は早めに共有する
●進捗の見える化(中間報告の設定など)を設定してもらう
●成功体験はみんなで共有する
■やる気に頼らず成果が出る4つの習慣
ある製薬会社のマネージャーは、このルールを実践し、成果を次のように共有してくれました。
最初は不安でした。現実離れした期限を言い出すのではないかと。でも実際は、私が考えていた以上に現実的な期限を提示してきたんです。さらに、自分で決めた期限だからこそ、何とか守ろうと必死で工夫もしてくれました。
この手法は、単なる期限管理の手法ではありません。
メンバーの主体性を引き出す仕掛けです。
リーダーの仕事は、押し付けることではありません。
メンバーの中に眠る「責任感」と「やる気」を引き出すこと。
この「締切りを決めさせる」手法は、そのためにも最も効果的な方法のひとつなのです。
「やる気がないと、成果は出ない」、多くのリーダーがこう考えがちです。
しかし、弊社が2019~2023年に実施した「チームパフォーマンス実態調査」(対象 全国312社)で、この常識を覆す発見がありました。
モチベーションが低い状態でも高いパフォーマンスを維持できるチームが存在したのです。
それらのチームに共通する行動習慣が、次の4つでした。
■「必ず結果が出る」行動のルールを確立
1.明確な行動規範
東海地域にある従業員50名規模の金属加工会社では、社員の「やる気」に頼るのではなく、「これをやれば必ず結果が出る」という行動のルールを確立していました。
その仕組みについて、工場長はこう語ります。
モチベーションは波があって当然です。でも、「標準作業は、全員で守り、全員で磨く」や、「5分フィードバックルール(ラインのプロセス変更後は遅くとも5分以内に簡易なフィードバックをする)」「クロス作業20%ルール(稼働時間の20%以上はメイン業務以外の工程をこなす)」……など、決められた行動規範があればすぐに行動を始められます。そうわかっていれば、気分に左右されずに動けるのです。
2.小さな成功体験
埼玉県のある物流企業では、1日の目標をできるだけ小さな単位に分解し、「午前中に20個のピッキング」といった、確実に達成できる目標を設定していました。
その仕組みについて、現場主任はこう説明します。
小さな成功体験の積み重ねが、次の行動を生む。
■モチベーションに依存しない組織づくり
3.進捗の見せる化と結果の見える化
全員がタスクや期限、課題点を一目で把握できる環境が整えば、指示待ちではなく、自ら考えて動くメンバーが増えます。
福岡県にあるITスタートアップ企業では、オンラインツールで開発プロセスを常時可視化し、案件の進度と問題点を誰でも即座に確認できるようにしました。
その結果、メンバー同士のフォローアップが円滑化し、情報格差が縮まりました。
最終的に、全員が状況を理解し、自律的に連携するチームへと進化できたのです。
この場合、タスクや期限、課題点だけでなく、「結果の見える化」も必要です。
個々の努力がどんな価値を生み出したのかを把握できれば、評価と改善のサイクルが自然に回り始め、またメンバーはより高い意欲を持ち、行動が加速します。
また、大阪にある印刷会社では、デジタルサイネージを活用し、チームの進捗状況をリアルタイムで表示。「見える化」により、モチベーションに関係なく、自然と行動が生まれる環境をつくり出していました。
4.相互支援の仕組み
福岡発祥の食品メーカーでは、「助け合いポイント制度」を導入。誰かが低調でも、チーム全体でカバーできる体制を整えていました。
その仕組みについて、人事部長はこう話します。
誰にでも調子の悪い時期はある。でも、チームで支え合える仕組みがあれば、個人のモチベーションの波は問題になりません。
ここで紹介した事例が示唆するのは、モチベーションという「不安定な要素」に依存しない組織づくりの重要性です。
実際、この4つの習慣を112チーム824名に3カ月実践してもらい、匿名アンケートを実施したところ、「以前に比べて士気が高まった」と回答した人は71%でした。
また注目すべきは、施策に特別な投資や大規模な改革を必要としないこと。
小さな変化から始めて、着実に積み重ねれば、どの組織でも実現可能なのです。
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越川 慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー代表
元マイクロソフト役員。国内および外資系通信会社に勤務し、2005年に米マイクロソフト本社に入社。2017年にクロスリバーを設立し、メンバー全員が週休3日・完全リモートワーク・複業を実践、800社以上の働き方改革の実行支援やオンライン研修を提供。オンライン講座は約6万人が受講し、満足度は98%を超える。著書に『AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣』、『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣』(共にディスカヴァー・トゥエンティワン)、近著に『29歳の教科書』(プレジデント社)がある。
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(株式会社クロスリバー代表 越川 慎司)