なぜネガティブな考えに囚われてしまうのか。マインドトレーナーの田中よしこさんは「私たちが日常的に抱えている悩みや不安などの原因は、脳の『クセ』にある。
クセを理解することで、捉え方や行動は自分で大きく変えられる」という――。
※本稿は、田中よしこ『私は私を幸せにできる 脳が作り出す「無意識の思い込み」にさよなら』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■なぜ思考の歪みが生まれるのか?
幸せになりたいのに、どうして生き辛くなる思考の歪みが出てきてしまうのでしょうか?
それは、「経験をどう解釈したのか」という過程にかかっています。
私たちの脳は五感を通して外の物事を「情報」にして、脳内に格納します。その時に自分がどう感じたのかという「感情」と一緒に記憶しているのです。
例えば、大勢の前で褒められたことを「嬉しい」という感情で格納すると、それは良いこととして脳内に記憶されます。反対に、大勢の前で褒められたことを「恥ずかしい」という感情で格納すると、嫌なこととして脳内に記憶されます。
まったく同じシチュエーションで同じ経験をしても、人によって全く別のものになるのです。どちらがいい訳でも悪い訳でも、優れている訳でもありません。ただ、感じ方が違うだけ、捉え方が違うだけ。もっとシンプルに言えば、脳内情報が違うだけ、なのです。
どのような情報を格納するのかは、自分で選べます。
脳のオーナーは私たち自分自身です。ですから、捉え方を自分で修正して、好きな情報に作り替えることはいつでも可能なのです。
■ラベリングしてしまうのは「人間の習性」
自分から見て良いもの・悪いもの、という解釈に沿って評価をした情報が、私たちの言動や感情に強い影響を及ぼしています。
例えば、何かで失敗した経験があると、「私はいつも失敗する人間だ」「どうせうまくいかないんだ」というように、自分自身を勝手に決めつけてしまいます。
心理学用語では「ラベリング」と呼ばれています。人前で褒められた経験について良い解釈をすると“頑張ると人から認めてもらえる”というラベリングになります。一方で、悪い解釈をすると“頑張っても人前で恥ずかしい想いをする”というラベリングになります。
私たちは、大なり小なり、こういったラベリングをしながら物事を見ています。しかし、これは全部、脳の習性ゆえの“ただのクセ”です。
新しい情報が入ってくるたび毎回最初から処理をするのは脳が大変なので、過去に貼ったラベリングに沿って判断しています。そうする方がラクだからです。だから、ラベリング自体は習慣的なものにすぎません。

でも、クセは、直そうとしないと直せないものですよね。私のラベリング=思い込みは本当に合っているのか?と見直していけば、誰でもラベルの内容は変えられます。もちろん、ネガティブなラベリングをポジティブなラベリングに変えることだって可能です。
■そのラベリングは本当にダメなのか確認しよう
あるクライアントさんは“私はいつも失敗ばかりで人生はうまくいかない”と長い間、思い込みながら過ごしていました。その結果、いつも不安がつきまとってしまい、医療機関で「不安障害」と診断されるほどになりました。
何をするにも失敗が怖いので、とにかく自分に自信がありません。自分のダメな部分を何とかしなければならないと、不安や焦りを抱えながら仕事をしていたので、病になってしまっても無理もありませんよね。
先ほどもお伝えしたように、捉え方はいつでも自分で変えることができます。
本当にダメなのか? どこがダメなのか? と確認していくと……仕事でミスをした一部分がダメなのであって、自分の存在がダメなわけではない。今回たまたま、うまくいかなかったことがあっただけで、人生そのものがダメではない。
丁寧に確認をするクセを付け替えることで、不安が少なくなっただけではなく、自分のこともどんどん好きになって、やがて周りから「性格が明るくなった」「ずいぶん変わったね!」と言われるようになりました。
「ダメなところ探し」な毎日から、どこが“ダメだと感じたのか”、どこを“直したらもっと楽しくできるのか”と自分で確認と修正ができる思考パターンを構築させたのです。

自動で拾ってしまう情報をその後どうするのか? どうしたいのか? まで、考えられるようになると、見える景色は大きく変わってきます。
■人間の脳はクセでできている
私たちが日常的に抱えている悩みや不安、その原因は脳の「クセ」にあります。
例えば、いつもネガティブな考えに囚われてしまう。毎回、同じような失敗をして落ち込んでしまう。そんな状況に、心当たりはありませんか?
こういった負のパターンの繰り返しは、習慣化された言動がクセになっているだけ。「今度こそ変わろう! 明日からやめよう! 次こそは!」と本気で「決断」したつもりでも……。同じことを繰り返してしまうこと、ありますよね。
本心は、今の自分は私らしくないよと教えてくれていても、クセになっているから、すぐに変えられないだけだったりします。このクセを理解することで、私たちの行動は大きく変わります。
人間の脳は、効率を求めている機能が驚くほど高いと言えます。毎日の選択や判断の多くは自動的に行われていて、私たちはその都度、深く考えることなく決定を下しています。
脳は過去の経験に基づいて、どの選択をするべきか「クセ」をベースにプログラムされています。
ですから、あなたが変えたいと思えば、いくらでもこれからの選択や未来を変えられるという事実を知ってください。
“どうして私はこうなのだろう”と落ち込むのではなくて、「どのクセを変えたらいいのだろう?」と楽しみながら、探すようになればいいのです。
■自分を観察して思考のクセに気づこう
そして、いくつか変えられたという体験をすると、“もっとこうしたい”“ここをもっと伸ばしたい”という想いが自然と出てきます。あんなこともこんなこともできると思えれば、未来が自由で明るく変わります。
自分への信頼を手に入れて、未来を明るくするためには、まず自分が何を恐れ、どのように反応しているのかを観察し、「このクセが出ているな」と気づくことが大切です。
その瞬間から新しい行動を選択するチャンスが生まれます。無意識に自分に合っていない選択ばかりをしていたのが、今はこの状態がクセになっているだけだと理解し、修正していくと、未来をもっと良くしようとする自分が大好き、かっこいいと思えるようになるからです。
こうして、新しい思考パターンを上書きしていくと自然と自己肯定感が育ちます。自己効力感から自己肯定感も一緒に育つ、素晴らしい方法でもあるのです。
自己効力感(self-efficacy)とは、自分自身が特定の目標や課題を達成するために必要な行動を遂行できるという信念を指します。心理学者アルバート・バンデューラによって提唱された概念で、自己効力感が高い人ほど目標達成に向けた意欲が高く、困難に直面しても諦めずに努力を続けやすいと言われています。
■クセはなぜ身についてしまうのか?
そもそも、嫌なのに同じ言動や行動を選んでしまう“クセ”は、どうして身についてしまうのでしょうか?
それこそ、自分自身が持っている“見たくない”想いが理由だったりします。

誰でも嫌なものを好き好んで見たくはないので、ネガティブな感情や印象を持っているものに対しては、知らないうちに目を背けながら、その場しのぎの対処で乗り切っているものです。
例えば、自分の想いを伝えるのが苦手な人は、伝えると面倒だから、どうせ分かってもらえないからと感じて、我慢してその場をやり過ごします。しかし、無意識はハッキリと分かっているのです。自分はまた、この問題から逃げている、無力さや恐怖に対処しないままでいるつもりだ、だから、生き辛いのに……と。
避けるたびに、大なり小なりのストレスを感じていることを知っておきましょう。そして、そんな自分は見たくないというループにハマってしまうのです。こういった反応が問題の解決を遠ざけ、より大きな不安やトラブルを生み出します。
■感情とセットで「認める練習」をしよう
でも、安心してください。私たちの脳はとても優秀です。「見たくないと思っているな」「今こうやって逃げているな」と自分で気づくだけで、思考に変化を起こしてくれるのです。
すごいですよね。まずは、感情とセットで「認める練習」をしていきましょう。

“また怖いと思って避けたな”“伝えても無駄だと思っているからだな”“それって悲しいと感じているんだな”“悲しい思いをずっと抱えていたんだな”というように思ったことと感情をそのまま確認するのが第一歩です。
ポイントは2つです。
(1)見たくないものは何かを明確にする

(2)その時に感じた感情を知ってあげる
ここまで確認できたら上出来です。クライアントさんたちも「見たくないもの」を明確にすることで対策まで考えて、これまで苦手だったものを克服した人はたくさんいます。
例えば、「なんだかあの空間が怖い」というような、ふわっとした捉え方だと、霊がいるのでは? 気が悪いのでは? とあいまいに怖がってしまいます。
しかし、「小さな頃、家にあった置物が倒れたことが怖くて大泣きしたことがある」と分かれば、「あの空間が怖い」理由が明確になり、置物が倒れないように対策できます。
■上司からの指摘が嫌な人が思い込んでいること
上司から指摘されるのがとにかく嫌な人は、「指摘される自分はダメな人」だと思い込んでいることが分かってからは、解釈を変えただけで上司に指摘される嫌悪感が大きく減ることになりました。
ここが間違っているという業務上の指示を、自分の存在にダメ出しされていると解釈していたので、相手を敵視してしまいました。「私はこういった事象の時に失敗者だと思うクセがあるんだな」「この思考をどうしようかな?」と前向きに受け止めることで、原因は上司ではなく、自分の思考による私の問題だと捉えられるようになるのです。
多くの場合、今のあなたの「見たくないもの」は、過去の経験や他人の評価、あるいは社会的な期待に応えられない想いに由来していることが多いです。あなたの人生にとって大切かそうでないのか、見たくないものから気づき、選別してあげましょう。
アメリカの心理学者・哲学者であるウィリアム・ジェームズが「我々が恐れているのは、恐れそのものである」と言っているように、脳の仕組みを理解していないと、誰でも“恐れていることへの恐れ”に振り回されてしまうのです。

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田中 よしこ(たなか・よしこ)

マインドトレーナー

マインドトレーナー、コレット代表。自分自身が生き辛さを抱え、本当の自分と向き合った30年間の経験をベースに、心理学・脳科学、コーチングの知見を取り入れ、「自分を本当に知る」ことをメソッド化。オリジナルメソッドである「無意識の言語化®」を確立。個人セッションやセミナーなどを中心に、潜在意識を整え、本心と「未来の理想の思考」を引き出す方法を伝えている。現在まで、約7500人以上の人たちの、本当の自分らしさを手に入れるサポートをしている。カウンセリング、講演会や著書執筆など、多岐にわたり活動する。

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(マインドトレーナー 田中 よしこ)
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