※本稿は、戸田久実『すごいフィードバック~心が動き、行動が変わる~』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■短い言葉で繰り返して伝える
気分によって態度が変わったり、威圧的だったりする上司には、本当に直してほしいところを短い言葉で繰り返し伝える方法をおすすめしています。
例えば、指示内容を変えるうえに威圧的な態度の上司には、次のように伝えてみてください。
部下「指示内容が短いスパンで変わるので、やり直しが大変な状況です。変えるのであれば、期限の1週間前までにしていただけますか」
上司「だって、突発事項や急な報告が出てくることもあるじゃないか。そういう事情もわかるよね」
部下「はい、そういうこともあると思います。でも、変更はせめて期限の1週間前までにしてもらえると助かります」
上司「ええ? でも、そんなことを言うけど、いままではできたんだからなんとかなるんじゃないの?」
部下「いままではそうしてきましたが、今後は1週間、難しければせめて3日前までにお願いします」
「本当に困っている」を伝える
アサーティブ・コミュニケーション(お互いの主張や立場を大切にした自己主張・自己表現)の研修でも、一番わかってほしいことを端的に繰り返し伝えるというトレーニングがあります。繰り返し伝えることで、「本当に困っている」と本気度が伝わりやすくなります。また、「ここがポイントなのか」と相手の記憶にも残りやすくなり、問題の改善にもつながります。
気分によって態度が変わる威圧的な上司には、「この人は言うことがブレないし、結構本気だな」と思わせることが重要です。相手のペースで言い負かされないような伝え方を磨いていきたいですね。
■できれば「1人」でポイントは「明確」に
上司にフィードバックする場合、1対1でも、メンバー複数名でも、伝える際のポイントは同じです。
ただ、部下が2~3人で、
「Uさんの、こういうところがダメなんです!」
と上司を責めてしまうと吊し上げになってしまいます。複数名で言うのは、相手のパワーが強すぎて言い負かされそうなときだけにしましょう。
1対1で言えるような間柄であれば、1対1で伝えるのがおすすめです。
伝えるときは、まわりくどくならないようにします。
【OK例】
「今後のチームのために、Uさんにわかっていただきたいことがあったのでお時間をいただきました。お時間を設けてくださってありがとうございます」
【NG例】
「こんなことをチーム長に言うのは本当に気が引けて、失礼なことになってはいけないと思ったのですが、誤解のないように…」
長く話しすぎると、ポイントが曖昧になってしまいます。話す前から要点をまとめておきましょう。
■いったん意見を聞く
アサーティブ・コミュニケーション研修では、伝えるための練習をします。
たとえば次のようにです。
「全体ミーティングで『みんな意見を言ってほしい』と言ってくださることは、大変ありがたいことです。
とはいえ、実際に誰かが『こんな改善をしていけばいいのではないか』と言うと、『いやいや、そんなことできっこない。
ですから、チームメンバーの発言に対しては、『やったことがない』『前例がない』『うまくいくはずがない』という発言ではなく、いったん意見を聞いて議論をさせていただけないでしょうか」
■ゴールがぶれないように
ここで強調しておきたいポイントは、相手を責めないことです。
「こんなふうに言っておきながら、聞いてくれないですよね」
と責めるような言い方をすると、揉めてしまいます。そうではなく、「意見・提案・お願い」というスタンスで、上司にフィードバックをするのです。
そして最後は、
「そうだったんだ。こちらも、いままでやったことがないことに関しては、つい無理だろうと思う気持ちが働いてしまったんだ」
と上司が返してくれた場合は、
「はい。ご理解いただいてありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」
と前向きに終わるようにしましょう。
フィードバックする相手が上司であっても部下であっても、「チームが理想的な姿になる」というゴールがブレないようにすることが重要なポイントです。
フィードバックの時間は、相手を責めるのではなく、今後のチームがよくなるよう、前向きな状態で終われるように心がけましょう。
■上司だってほめられたい
「Sさんのアドバイスのおかげで、無事に進めることができました」
「Yさんの○○を見習ったおかげで、うまくいきました。ありがとうございます」
このようなフィードバックをもらえたら、上司はとても喜ぶものです。
私自身が言われて嬉しかったのは、
「戸田さんは、細かいことを言わずに任せてくれるのでとても動きやすいです」
というフィードバックでした。
わたしの知人は、次のように言われたことが、とても嬉しかったそうです。
「以前、『今後こういうふうにするように』とフィードバックをしていただいたおかげで、わたしの取り組みにとてもよい影響がありました。わたしも今後Iさんのように、自分の部下に伝えていきたいと思います」
■上司への上手な「ヨイ出し」方法
「部下の自分が、上司にフィードバックするのはおこがましいかな…」と、気が引けてしまうこともあるかもしれませんが、上司も勇気づけのフィードバックがあるとモチベーションが上がります。
気づいたことがあれば感謝の気持ちを伝え、「素晴らしいな」と思ったところはぜひ言葉にしてみてください。
【NG例】
「なかなかよかったです」といった上から目線の言葉
【OK例】
「出してくれる指示が、とてもわかりやすくて動きやすいです」
評価をするような言葉は「上から目線」と感じられてしまうこともありますが、部下から上司へのダメ出しならぬ「ヨイ出し」や感謝の言葉は、アドラー心理学でいう勇気づけ(困難を克服する活力を与えること)につながります。
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戸田 久実(とだ・くみ)
アドット・コミュニケーション代表
日本アンガーマネジメント協会理事。立教大学文学部卒業後、服部セイコー(現 セイコーホールディングス株式会社)にて営業、その後音楽業界企業にて社長秘書を経て2008年にアドット・コミュニケーションを設立。研修講師として民間企業、官公庁の研修・講演の講師の仕事を歴任する。著書に『アンガーマネジメント 怒らない伝え方』など。
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(アドット・コミュニケーション代表 戸田 久実)