新潟・群馬を地盤とする地方スーパー「アクシアルリテイリング」が、いま業界関係者の注目を集めている。流通科学大学教授の白鳥和生さんは「売上高2819億円、営業利益121億円。
2025年3月期は過去最高の実績を記録した。強さの秘密は、『製造業的』と評されるマネジメント手法にある」という――。
新潟・群馬で「原信ナルス」「フレッセイ」などのスーパーを展開するアクシアルリテイリングが導入するのはTQM(Total Quality Management=総合的品質管理という経営システム。本来はトヨタやソニーといった製造業の世界で発展したこの品質管理の思想を、アクシアルはいかにしてスーパーの現場に根づかせたのか。そこには「惣菜の盛り付け」から「POP掲示」「教育体系」まで、全社を巻き込んだ“品質経営”の現場があった。
■「売り上げよりも、質」業界では脅威の営業利益率
アクシアルリテイリングは2025年3月期、売上高2819億円、経常利益127億円、純利益90億円を達成し、売り上げ・利益ともに過去最高を更新した。その収益性はスーパー業界でもトップクラスに位置している。たとえば、売上高営業利益率は2024年度で約4.3%に達しており(営業利益121億円/売上高2819億円)、業界最大手のライフコーポレーションの3.1%を大きく引き離す。売り上げ規模で上回るGMSやドラッグストアに対しても、利益率の面ではひけを取らないどころか凌駕する存在だ。
既存店売上高も前年度比3.2%増、特に客数は2.6%と堅調に伸びており、物価高の中でも実質的な客数・客単価の維持を実現している。だが、この高収益体質は、単なる出店拡大や価格政策だけでは説明できない。
■合言葉は「チェーンストアは製造業である」
同社の根幹にあるのが「TQM=総合的品質管理」だ。
「チェーンストアは製造業である」という信念のもと、売場・商品・サービスのすべてに“品質”という視点を持ち込み、日々の業務改善を全員参加で行う。TQMはその基盤を支える思想であり、手法である。原和彦社長は「TQMとはお客様に満足していただくための、組織的かつ継続的な経営活動だと考えています。それを経営の根幹に据えて、地道に取り組んできました」と語っている。だが、この高収益体質は、単なる出店拡大や価格政策だけでは説明できない。
■1948年創業の長岡市の「原信」が始まり
アクシアルリテイリングは、新潟県長岡市に本社を置き、原信・ナルス・フレッセイなどの屋号で130店舗超を展開する。1948年に創業した原信を母体に、2000年にはナルスと、2011年にはフレッセイと経営統合し、現在のグループ体制を築いた。
原信ではQCの導入から40年以上にわたってパートにまで浸透させており、近年では「TQM(総合的品質管理)」をグループ全体に導入した品質経営が注目されている。
TQMとは、品質を起点に業務全体を改善していくマネジメント手法。製造業ではトヨタやソニーが導入し、現場改善や品質保証の分野で成果をあげてきた。
アクシアルではこの考え方をスーパーの現場に応用した。QCサークルや改善提案制度が導入され、現場の従業員が日々の業務から課題を抽出し、自ら解決策を考える土壌がある。
2018年には小売業として初めて「日本品質奨励賞 TQM奨励賞」を受賞。TQMは「手法」ではなく、「文化」として根づいている。
■惣菜改革と“おいしさ”の定量化はできるのか?
同社が力を入れるのが惣菜改革だ。ローリーデリカセンターには「おいしさ創造室」が併設され、官能評価員制度や「オムライス検定」なども導入。おいしさという主観的な価値を、数値と手順で再現できるようにしている。
アクシアルの惣菜部門を語るうえで欠かせないのが、「サラダ」「だし香るシリーズ」、そして店舗内での対面販売を軸とする「魚菜屋」だ。たとえば、ポテトサラダやマカロニサラダなどの定番品は、味のばらつきを抑えるために製造工程を見直し、官能評価の結果をもとに味付けを標準化した。「だし香るシリーズ」は、惣菜でありながら“家庭の味”を再現することにこだわった人気ラインであり、調味液の配合から加熱時間までマニュアル化されている。しかもこのシリーズは「減塩」でありながら、だしの力で“物足りなさ”を感じさせない工夫が凝らされている。
■人手不足の中、あえて「袋詰めサービス」
また、「魚菜屋」は鮮魚と惣菜を融合させた“和の専門店”として位置づけられ、地元の魚を使った煮付けや焼き物を店舗内で丁寧に仕上げる。「手間をかけた分、再現性を高めて全店展開できる」──この思想こそ、まさにTQMがもたらした現場革新の象徴だ。
さらに注目されるのが、「袋詰めサービス」だ。
アクシアル傘下の原信などでは、レジ通過後にスタッフが顧客の買物袋に商品を丁寧に詰める「サッカーサービス」を提供している。人件費削減が叫ばれる中、あえて手間のかかるこのサービスを続けるのは、「買い物の最後まで気持ちよく帰ってほしい」という“品質経営”の哲学があるからだ。TQMで培われた現場目線の改善と顧客満足の追求が、このような細部にまで貫かれている。
TQMを支えるのは人材である。アクシアルでは教育体系を再構築し、評価制度と連動した「スペシャリスト認定制度」を導入。単なるスキル評価ではなく、日々の改善活動やチームへの貢献が重視される。
現場力の形式知化とナレッジ共有を進め、「人が育つ仕組み」が整っている点も、アクシアルの強さの源泉だ。
■“攻め”の長野、“守り”の新潟
アクシアルは長野県内でも着々と店舗数を増やしており、地域密着型のドミナント戦略が成果を上げている。同社は長野県内に物流センターの設置を計画し、ドミナント出店を進めている。一方、地盤の新潟ではロピアやイオンなど競合出店が相次ぎ、「新潟戦争の再来」ともいわれる状況にある。
こうしたなかでも収益を維持できるのは、価格対応力(ESLP)と品質訴求力、そして現場改善力の三位一体の経営にある。店舗数は130店ながら、TQMによって“質で勝つ”モデルを確立しつつある。

さらに、ローカルスーパーでありながら「原信」などアクシアルの店舗は、清潔感とデザイン性のある外観・内装で知られ、地域での“あか抜けた店”というブランドイメージを確立している。富山県など新規出店エリアでは、当初、知名度不足からパート・アルバイトの採用に苦労したが、店舗の雰囲気や評判が浸透するにつれて応募数が増え、好循環が生まれている。イメージと運営品質が両輪となった経営が、採用力・定着力の面でも成果を上げている。
■スーパーは「製造業型経営」で変われるか
アクシアルの取り組みは、今後の地方スーパーや中堅チェーンにとって示唆に富む。「属人的経営」から「構造的経営」への転換。その鍵は、TQMという地道で継続的な改善の積み重ねにある。「現場は知っている」。その声に耳を傾け、全員参加の改善が文化として根づいたとき、スーパーマーケットの未来はきっと変わる。

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白鳥 和生(しろとり・かずお)

流通科学大学商学部経営学科教授

1967年3月長野県生まれ。明治学院大学国際学部を卒業後、1990年に日本経済新聞社に入社。小売り、卸、外食、食品メーカー、流通政策などを長く取材し、『日経MJ』『日本経済新聞』のデスクを歴任。2024年2月まで編集総合編集センター調査グループ調査担当部長を務めた。
その一方で、国學院大學経済学部と日本大学大学院総合社会情報研究科の非常勤講師として「マーケティング」「流通ビジネス論特講」の科目を担当。日本大学大学院で企業の社会的責任(CSR)を研究し、2020年に博士(総合社会文化)の学位を取得する。2024年4月に流通科学大学商学部経営学科教授に着任。著書に『改訂版 ようこそ小売業の世界へ』(共編著、商業界)、『即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術』(CCCメディアハウス)、『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』『グミがわかればヒットの法則がわかる』(プレジデント社)などがある。最新刊に『フードサービスの世界を知る』(創成社刊)がある。

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(流通科学大学商学部経営学科教授 白鳥 和生)
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