夏に増加する体調不良にはどんなものが多いのか。イシハラクリニック副院長の石原新菜さんは「クリニックに来る患者さんの中には『なんとなく不調』と訴える人が多い。
その中には体温が低く、それが免疫力の低下等を引き起こして不調になっているケースが多い」という――。(第1回/全3回)
※本稿は、石原新菜『体温を1度上げると不調はすべて解消する』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■体温が35度台の人が増えている
私のクリニックでは、主に「漢方医学」に基づき、漢方薬を用いた診療を行っています。来院される患者さんのお悩みは多岐(たき)にわたりますが、なんとなくの「不調」や、わけもない「不安」を訴える方がたくさんいらっしゃいます。
実際には体や心を目いっぱい酷使しているにもかかわらず、忙しい毎日の中で、不調や病気という形で体が悲鳴を上げないと、なかなかそのことに気づくことができないのです。
現代人は多くの問題を抱えていますが、その中のひとつが「低体温」です。
私のクリニックでは、診療を始める前に体温を測っていただいています。一般に、人間の体は、36.5~37度の体温で全身の血流が高まり、細胞が最もよく働くといわれています。
ところが最近は、体温が35度台の患者さんが少なくありません。34度台の方もいます。しかも、その自分の体温(の低さ)を聞いて驚く方もいらっしゃるのです。ご自身の平熱をご存知ないのですね。

今や、日本人は「一億総冷え症」状態といっても過言ではありません。
■健康の鍵を握るのは「血流」
私たちの体は、約37兆個の細胞で構成されています。そして体の中には、手足の末端まで血管が網の目のように伸びており、その中を血液が流れています。
血液は、体を構成する細胞の1つひとつに必要な栄養や水、酸素などを届け、同時に、細胞から老廃物や二酸化炭素を回収するという大切な役割を担っています。
血管の中に十分な血液があって、血管がしなやかだと、心臓の拍動に合わせて全身にスムーズに血液を送ることができ、血流がよくなります。血液の巡りがよいと、全身の隅々まで血液や栄養が届き、細胞が活性化して体調を整え、健康な体を維持することができます。
ところが、何らかの理由で血管が弾力を失ったり、血管が収縮して血流が悪くなると、全身に血液が行き渡りにくくなります。
すると、栄養や水、酸素が細胞に十分に届かなくなり、さらに老廃物を回収できないことで、血液が汚れていきます(漢方では、この状態を「瘀血(おけつ)」といいます)。
■「体の冷え」が免疫力の低下をもたらす
血管が収縮して血液が滞ってしまう最大の要因は、「体の冷え」にあります。
皆さんも「冷えは万病のもと」という言葉を聞いたことがあると思います。これは、体が冷えることで、いろいろな不調や病気が引き起こされることを意味しています。
寒さや冷えを感じると、私たちの体は血管を収縮させて熱を逃がさないようにしています。
これは自らを守るための防御機能ですが、それによって血流が悪くなってしまうのです。
血流の悪さ(瘀血)がもたらす一番のトラブルが「免疫力」の低下です。
私たちの体の中の「免疫システム」を担う「免疫細胞」は、血液やリンパ液に乗って全身を巡り、体を守ってくれています。つまり、血流の悪さは、免疫システムにとって、致命的ともいえるものなのです。
■血流の悪さが生活習慣病や各種症状の原因に
免疫力が低下すると、生活習慣病やがんのリスクが高まることがわかっています。それだけでなく、血流が悪くなることで臓器の機能も落ちてきます。
特に女性の場合、卵巣や子宮の働きが低下して、生理痛や生理不順が起こりやすく、瘀血の状態が長く続くと、子宮筋腫、不妊、子宮がん、卵巣がんなどの原因になることも考えられます。
血流が悪くなると、腸の働きも悪くなります。便秘や下痢になったり、その両方を繰り返したり……。水分の排出がうまくいかずに、むくみの原因になることもあります。腸の働きが免疫に及ぼす影響も見逃せません。
さらに、血流の滞りが、肩こりや腰痛などの症状を引き起こすこともあります。

■体温が1度下がると免疫力は約30%低下するという説も
このように体温は、結果的に私たちの体にとても大きな影響を及ぼしています。
私たちの体は、体温が1度下がるごとに免疫力が約30%、基礎代謝が約12%低下することがわかっています。これは、体温が1度下がるごとに、病気にかかるリスクが30%高まり、同じものを食べても12%太りやすくなる可能性があることを意味しています。
このことは逆に、体温が1度上がるごとに病気にかかるリスクが30%減り、同じものを食べても12%太りにくくなる可能性がある、と言い換えることもできます。
私たち人間の体温は36.5~37度が理想。ということは、今の体温が35.5度だとしても、1度体温を上げることができれば、適正ゾーンに到達できることになります。
体温を1度上げるだけで、血流が高まり、免疫力が上がる、代謝が上がる、自律神経のバランスがよくなるなど、多くのメリットを得ることができるのです。感染症や生活習慣病、がんなどになりにくくなる、太りにくい体になる、心の不安がなくなって、やる気が出てくる……今あるさまざまな不調や悩みが解消されていくのです。
これって、すごいことだと思いませんか? 体温を上げて全身の血行をよくすることは、「病気にならない体づくり」の基礎の基礎なのです。
■「冷え」は女性特有の症状というのは勘違い
「冷え」というと、どうしても女性特有の問題と思われがちですが、実はそんなことはありません。
「手足が冷えて眠れない」などといった悩みを抱えて私のクリニックを訪問する男性もすくなくないのです。本人は自覚していなくても「体が冷えている人」は、男女を問わず本当にたくさんいる、というのが私の実感です。

実は、西洋医学には「冷え」や「冷え症」という概念はありません。ですから、「冷え(症)」を治すための西洋薬はありませんし、治療法もないのです。
このことが、事態をさらに悪化させています。
■現代人の体は「冷たい」
現代人の体は、どうしてこんなにも「冷え」てしまっているのでしょうか。
原因は、私たちの「生活そのもの」にあるといえます。ということは、日々の生活を変えるだけで、冷えは解善できるということでもあります。
私が専門とする「漢方医学」には、病院にかからずとも、自分で自分の体や心の様子を知り、自分自身を守るための知恵がいっぱい詰まっています。
人生100年時代といわれる今、生涯を健康に過ごしていただくために、次の3つのことを覚えておいていただきたいと思います。
①自分の平熱、そして「自分の体(体質)と心」の状態を知ること。これによって、いち早く「いつもと違う不調のサイン」に気づくことができるはずです。
②体温を上げて血流を高めるために、体を温める活動=「温活」を継続して行うこと。日々の生活を見直すためのヒントは、漢方医学の中にあります。
不調の改善には漢方薬も有効です。
③それでも改善しない個々の症状、悪い部分(患部)、病気に対しては、西洋医学に頼ること。東洋医学には東洋医学の、西洋医学には西洋医学の得意分野がそれぞれあります。
■東洋医学と西洋医学の知恵を融合した「温活」のすすめ
今回、『体温を1度上げると不調はすべて解消する』を著(あらわ)し、誰でも実践可能な「温活」の基本をまとめました。
まず、体を温め、体温を上げて、血液の流れをよくすることの大切さについてお話ししています。免疫力が高まるだけでなく、全身の不調や心のトラブルまで解消できるでしょう。
次に、多くの人が耳にしているけれど、理解するのが難しい「免疫」の仕組みを平易に解説します。「免疫ってすごい」「私たちの体って愛おしい」と、感じていただけるとうれしいです。
続いて、「漢方医学」の考え方の基本について説明します。漢方というと、ちょっとハードルが高いと思われがちですが、実はとても身近なもの。多くの方に「漢方」の魅力を知っていただきたいと思います。
最後に、体を温めるためには、実際にどんな生活を送るといいのか、「温活」のための食事法や生活習慣、さらには不調別の対策を紹介します。

■「温活」5原則
お伝えする体を温める活動=「温活」のポイントは、たったの5つ。すぐに実践できるものばかりです。
【石原新菜式・温活5カ条】

①ショウガ紅茶など、体を温める食品を日常的に摂る

②はらまきは1年中。お腹を中心に下半身を温める

③ちょこちょこ運動で下半身に筋肉をつける

④水分は摂りすぎない。水は喉が渇いたら飲む、で十分

⑤自分の体を知って、自分の体質に合った温活を続ける
あなたの体を守ることができるのは、あなた自身です。本書が皆様の元気な毎日をつくるご参考になれば幸いです。

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石原 新菜(いしはら・にいな)

イシハラクリニック副院長・内科医

医学生の頃から、自然医学の泰斗で医学博士の父、石原結實とともに、海外で自然医学の基礎を養う。現在は、父の経営するクリニックで漢方薬処方を中心とする診療を行うかたわら、テレビ・ラジオへの出演や、執筆、講演活動などを積極的に行う。著書に『病気にならない 蒸しショウガ健康法』(アスコム)、『やせる、不調が消える 読む冷え取り』(主婦の友社)、『体温を1度上げると不調はすべて解消する』(プレジデント社)など多数。

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(イシハラクリニック副院長・内科医 石原 新菜)
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