英語が上達する方法はあるのか。精神科医の樺沢紫苑さんは「『なんとなく英語がしゃべれるようになりたい』では何も身につかない。
英会話が壊滅的にできなかった私が、1年間の個人レッスンで話せるようになった方法を紹介したい」という――。
※本稿は、樺沢紫苑『勉強脳』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■英会話学校で最初に聞かれたこと
語学の勉強をしている人は、非常に多いはずです。ここでは、英会話学校の話を少し詳しくしたいと思います。
私は留学までに、医学研究を15年やり、その間英語論文を読み、英語論文を書いていたので、英語の読み書きはまあまあできていました。ところが、英会話が壊滅的にできなかった。「これは、まずい」と気づき、「とりあえず、英会話学校に通ってマンツーマンレッスンを受けよう」と思いました。
まず、話を聞きに行って、週2回の個人レッスンを半年受けることにしました。

最初にカウンセリングがあり、英語で簡単な質問をされ、自分の英語力を評価されました。そして、「何のために英語を学ぶのですか?」「何を目的として英語を学ぶのですか?」という質問をされました。
■「科学的な議論ができる英語力」
「2004年4月からアメリカに留学して働かなくてはいけません。それで留学したときに、困らない英語力を身につけたいのです」
「さらに、具体的に言うと?」
「アメリカに渡ったときに、教授の指導を受けながら、研究計画を立てて、その指示通り仕事をしていかなくてはいけません。
そうした研究会議の折に、上司の言っていることを理解し、さらに自分の考えを話せるようになりたい。具体的には、科学的な話題についてネイティブと議論できる英語力を身につけたいのです」
こんなふうに掘り下げていくうちに、私の頭の中で「どんな英語を、どの程度まで話せるようになりたいのか」という考えが非常に明確になりました。
留学までの期間が1年しかないということもあり、「科学的な話題に対してディスカッションできる英会話力」を目標にして、マンツーマンレッスンの特別なプログラムを組んでくれました。ネイティブ・スピーカーの講師が毎回、科学的な読み物や新聞や雑誌の科学欄の記事をコピーしてきます。まず、それを5分くらいで、ザッと読みます。その後、「それについて、どう思いましたか?」と感想を聞かれます。
■科学記事でディベートする特訓メニュー
次に、「○○について、あなたは賛成の立場ですか、反対の立場ですか?」と、その記事についてのディスカッションが始まります。講師は、私の意見に対してあえて反対意見を述べて、反論してきます。それに対して、私も持論を展開したり、反論を繰り返したりと、いわゆるディベート形式のレッスンを導入してくれたのです。
最初の数回は悲惨なものでしたが、徐々にディベート用の表現も覚えて、討論の体裁ができてきました。3、4カ月目に入ると、自分の思っていることが時間差なく言葉になるようになりました。そして、6カ月目には自分でも「結構、話せるなあ」と自覚するようになったのです。

結局、アメリカに渡り、上司との最初の実験計画の会議はどうだったのか……? 直属の上司である准教授の言うことはほとんど聞きとれて、何の問題もなく会議を終了することができました。その後も、実験をしていくうえでの問題点を議論することがありましたが、研究についてのディスカッションの場面で困ることは、ほとんどありませんでした。
1年間の個人レッスンを受けても、上達をあまり自覚しない人もいるでしょう。
私の場合は、「科学的な話題に対してディスカッションできる英語力」と非常に狭く目標を絞りに絞って練習したので、結果としてその一点に関しては、納得がいく効果が得られたのです。
「目的」「目標」を詳細に決めれば、効果は最短で表れるのです!
■「なんとなく」では何も身につかない
私の周りにも英語を勉強している人がいるのですが、「英語を勉強する目的は?」と質問すると、「英語が話せたほうが、将来、何かと便利じゃないかと思って」とか、漠然とした目標しか語れません。
「なんとなく上達したい」という目標であれば、なんとなくしか上達しません。
ハワイに旅行に行くので、買い物やレストランで困らないようにしたい。外国から来るクライアントに、英語で堂々と対応したい。国際会議で、英語で講演したい。アメリカの大学を卒業して、アメリカの企業に就職したい……。
いずれも「英語を上達させたい人」ですが、それぞれの目的によって勉強法は全く異なってくるはずです。あなたは、どうなりたいのか? そのなりたい姿をありありとイメージすれば、そこに至るために、何を勉強すべきか、最適の勉強法が見えてくるはずです。

なんとなく「英語がしゃべれるようになりたい」では、何も身につかないのです。
語学に限らず、何かを勉強する場合は、ターゲット、すなわち「目的」「目標」を詳細に決めて、「どうなりたいのか」を明確にイメージする。たったそれだけで、勉強の効率は何倍もアップし、勉強の効果が最短で表れます。
これを「ターゲット勉強法」と呼びましょう。
■勉強と「電車の乗り換え」の仕組みは同じ
電車の経路検索、乗り換え案内アプリを利用している人は多いと思います。「現在地」と「目的地」を入力するだけで、最短時間で目的地に到達する電車の路線と乗り換えの駅など、すなわち「行き方」を瞬時に案内してくれる、とても便利なサービスです。行き慣れない場所に行く場合、ほとんどの人は、スマホやパソコンで「経路検索」をして、目的地への行き方を確かめてから電車に乗るはずです。
勉強も、同じように考えられます。「現在地」は、自分の現状、実力のことです。自分の長所や短所を洗い出すことも含まれます。今の自分が、どれだけ、その知識を持っているのか。それが、「現在地」です。

そして、「目的地」は、勉強の「目標」です。勉強をすることで、どうなりたいのか、獲得した知識をどのように活用するのか、ということも含まれます。
「現在地」と「目的地」がわかれば、どうすればそこにたどりつけるのか、すなわち「経路」が見えてきます。「経路」とは、勉強の方法、つまり勉強法です。
目的地(ゴール)を明確にしないまま、勉強をスタートする人がほとんどです。それでは、いつまでたっても目的地に到達できないのは当然のことです。
ゴールがわからなければ、勉強法は決まらない。ゴールがわかれば、勉強法も決まる。だから、勉強を始める前にゴールをきちんと設定して、勉強法を見極めましょう。
■「とりあえず勉強」が最もムダな理由
目的地を決めずに電車に乗る人は、ほとんどいないでしょう。電車に乗っているだけで楽しいという電車オタクの人は別として、多くの人は必ず目的地を決めてから電車に乗るはずです。しかし不思議なことに、「勉強」の世界では、目的地を決めずに「とりあえず」電車に乗る人がたくさんいるのです。

「経路検索勉強法」の真逆ともいえるのが、「とりあえず勉強法」です。勉強してどうなりたいのか、勉強して得た知識をどのように活用するのか。そうした目的地を全く決めずに、とりあえず勉強を始めてしまうのが、「とりあえず勉強法」です。
とりあえず、英語を勉強しておけば、いざというとき役に立つ。とりあえず、ファイナンシャルプランナーの資格をとっておけば、いつか役に立つかもしれない。とりあえず、大学院を出ておけば、将来、有利なはず……。
「とりあえず」勉強しておけば、後で役に立つかもしれないという「とりあえず勉強法」をする人は物凄く多いですが、これこそがやってはいけない「ムダの多い勉強法」の最たるものです。
■電動ノコを買うだけでは大工にはなれない
英語を話す。資格をとる。大学院を修了して修士号をとる。それらは、「目的」ではなく、「手段」です。あなたの人生をより良くするための「道具」です。
ただし、それは上手に使いこなせての話。
「とりあえず、やっておこう」という勉強は、「日曜大工なんてしないけど、いつか使うかもしれないから、電動ノコを買っておこう」というくらいバカらしい話です。英語がペラペラに話せるようになっても、その英語力を全く使わないならば、勉強した意味がなく、全くのムダになってしまいます。
目的のない勉強は、意味がないのです。英語を話せても、資格を持っていても、修士号を持っていても、それを使わない限りは、あなたの人生に全くプラスにはなりません。それは、単なる「自己満足」の勉強です。まさに「ムダな勉強法」です。
とにかく勉強を開始する前にターゲットを明確に思い描くこと。目的のハッキリとしない、「とりあえず勉強法」は時間とお金をムダにするだけです。
■ビジネスパーソンに刺さる「アニメ」とは
私の好きな映画の1つに『カンフー・パンダ』があります。「なんだ子供向けのアニメじゃないか」と思ったら大間違い。この映画には、「学び」と「自己成長」のヒントが、山ほど盛り込まれています。子供だけではなく、ビジネスパーソンにお勧めしたい映画なのです(※この先少しネタバレあり)。
『カンフー・パンダ』の主人公パンダのポーは、カンフーが大好きなカンフーオタクですが、「食いしん坊」で運動は大の苦手。そんなポーが、ひょんな偶然から、最強の戦士とされる「龍の戦士」の候補に選ばれてしまい、カンフーの修行を始めることになります。
最初は全くダメダメなポーですが、「カンフーが好き」という思いと、「食いしん坊」という長所を活いかし、カンフーの稽古に励み、戦士として成長していきます。
そして、努力の末にポーは免許皆伝ともいえる「龍の巻物」を授けられることになります。カンフーの究極の奥義が書かれているといわれる「龍の巻物」をおそるおそる開くポー。そこに書かれていたのは……。なんと、何も書かれていなかったのです。
何も書かれていない奥義書にガッカリするポーですが、ある日、気づきます。「龍の巻物」には光沢があり、そこには鏡のように自分の顔が映し出されていることに。

そう、「究極の奥義」とは、「自分」だったのです!
■大人の勉強とは、「知識」ではなく「気づき」
「究極の奥義」。つまり強くなるための究極の方法やノウハウなどは存在しない。もしあるとすれば、それは「自分自身」の中にある。「究極の奥義」とは、人から教えられるものではなく、自分で「気づく」ものなのだと! ポーは、その究極の奥義に気づいた瞬間に猛烈に自己成長し、圧倒的な強さを発揮できるようになるのです。
「究極の奥義」とは、自分自身が得た「気づき」なのです。もちろんこれは、カンフーに限らず、私たちの日々の勉強においても同じです。
受験生の勉強の目的は、「知識を増やすこと」かもしれませんが、大人の勉強の目的は「気づき」を得ることです。大人の勉強の目的は、「自己成長」と「自己実現」です。そして、「気づき」がないと「自己成長」ができません。
「気づき」は「自己成長」のための必須条件です。「気づき」を得て、それを「行動化」していく。これが自己成長のために、物凄く大切です。

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樺沢 紫苑(かばさわ・しおん)

精神科医

作家。米・イリノイ大学への留学を経て樺沢心理学研究所を設立。YouTubeやメルマガで精神医学の情報を発信。著書に『学びを結果に変えるアウトプット大全』『精神科医が教える ストレスフリー超大全』『読書脳』ほか。

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(精神科医 樺沢 紫苑)
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