全身浴と半身浴、疲れが取れるのはどちらか。医師の加藤浩晃さんは「半身浴が体にいいというイメージがあるかもしれないが、疲労回復には全身浴のほうが向いている。
入り方にもポイントがある」という――。
※本稿は、加藤浩晃『休養ベスト100 科学的根拠に基づく戦略的に休むスキル』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■疲労回復には「15分の全身浴」
お風呂の疲労回復効果は、もっと評価されていいと思っています。忙しいとつい、シャワーで済ませてしまう人もいるでしょう。しかし、入浴をうまく活用して疲れをとれば、パフォーマンスを高くキープすることも可能になります。
お風呂は、前回の記事でも述べたように、少しぬるめの39~40℃の湯船に15分つかるのがおすすめです。これで体がしっかり温まり、自然と眠気がやってきます。
ポイントは、湯船につかるのは「15分」でいいということです。もっと長くつかる「半身浴」が体にいいというイメージがあるかもしれませんが、疲労回復を優先させるならば15分の全身浴のほうが向いています。
半身浴は、お湯の温度はぬるめで37~39℃にして、みぞおちあたりの深さまでお湯を張り、30~40分ほどつかることが多いでしょう。ダイエット目的で半身浴をやっている人もいるかもしれません。
ただ、今では半身浴よりも全身浴のほうが体が温まりやすく、結果として疲労回復の目的には向いていると考えられています。

平日に疲れをとって翌日に備えるのなら、全身浴がおすすめです。
■半身浴で体重が減るのは水分が失われるから
半身浴でリフレッシュできると感じられるのなら、リフレッシュ目的のために、時間のある休日に行うのもいいかもしれません。
汗をたくさんかくので、ダイエットの効果があると思う人もいるでしょう。確かに、半身浴によって一時的に体重が減るかもしれませんが、それは体内から水分が失われたため。水を飲めばまた体重は戻るので、半身浴だけではダイエットにはならないといえます。
また、長く湯船につかっていると、皮膚の保湿成分が流れ出てしまいます。長湯をする習慣のある人は、実は肌が乾燥しがちかもしれません。お湯に長くつかるのであれば、入浴後に全身をしっかり保湿する必要があります。
■「15分」は完全に自分のために使う
疲労回復の効果を考えると、本書で何度も繰り返しているように、お風呂では少しぬるめの39~40℃のお湯に15分つかるのが理想的です。
この「15分」というのは、忙しい現代人にとってある程度のまとまった時間だといえるのではないでしょうか。ですから、この時間を有効活用しないともったいないと私は考えています。
とはいえ、その15分を仕事に必要な情報収集や勉強のために使おうというわけではありません。
それだと気が休まらず、逆効果になる可能性もあります。
入浴中の15分は、完全に「自分のために」使うことで、精神的な余裕を生み出せると私は思っています。つまり、お風呂の中でタブレットで動画を見たり、音楽を聴いたり、本を読んだりと、自分の好きなことをする。それによって、精神的にもよりリフレッシュできるのです。
■入浴しながらストレッチするのもいい
仕事をしていない時間でも、現代人は家事や育児など、やることがいっぱいあります。私も2歳と3歳の子どもがいるので、家事と育児のためにやるべきタスクは日々たくさんあります。
しかし、入浴中は子どもの世話からも解放され、自分だけの時間を過ごすことができます。
入浴しながらストレッチするのもいいでしょう。腰をひねったり、肩を回したり、首を倒したりするストレッチをすれば、腰痛や肩こりなどの不調の予防や改善にもつながりそうです。
また、夜の寝る前にタブレットを使って動画を見たりすると寝付きが悪くなると考えられていますが、湯船につかっている間だけなら、むしろ適度なリフレッシュになるからいいと感じています。タブレットでYouTubeの動画を見たり雑誌を読んだりするのは、自分だけのかけがえのない時間です。
朝に入浴するときは、その日に何をやるのかをじっくり考えながら、心を落ち着かせるようにしています。
それがよい1日のスタートを切るルーティンになるのです。
夜ではなく朝にお風呂に入る習慣の人もいます。お風呂に入るなら夜と朝のどちらのほうがいいでしょうか。これは好みの問題でもあり、どちらでもいいといえます。
朝風呂のメリットといえば、温まることで目が覚め、体が活動的になるということです。朝はぼうっとして頭が働かず、体のだるさも感じるような人は、お風呂で手っ取り早く体を温めるのがおすすめです。
■朝、湯船につかると午前中眠くなることも
ただ、朝風呂の場合、湯船につかるのか、シャワーだけで済ませるのか、どちらが自分に合っているかを見極める必要があります。
・湯船につかると、短い時間でも体が温まりやすいが、その後、眠くなる可能性がある

・入浴後、眠くなってしまう人は、シャワーだけで済ませたほうがよい
なぜ朝にしっかり湯船につかってしまうと、その後、眠くなってしまうのでしょうか。
前回の記事でも触れたように、湯船にしっかりつかると深部体温が一時的に上昇し、その後、下がります。その深部体温が低下するタイミングで眠気がやってくるのです。夜ならば、就寝したい90分前に入浴すれば、ちょうど寝る時間に自然と眠気がやってきます。
ところが、朝しっかり湯船につかってしまうと、午前中の仕事をしている時間帯に眠くなってしまうかもしれないのです。

■42℃くらいの湯船に短時間つかる手もある
湯船につかると午前中に眠気がくるのであれば、理論的には、朝はシャワーで済ませるのが理想だといえます。しかし、絶対に湯船につかってはいけないわけではなく、実は私は、朝でも湯船につかっています。
特に私の場合は、体質的に入浴後の眠気をあまり感じないということもあります。湯船につかるのが好きなので、朝に時間があるならばぜひ入りたいというわけです。
私が感じている朝の入浴のメリットは以下の通りです。
・心身を整えて、仕事に向かえる

・湯船につかる時間を利用して1日の計画を立てられる
人によって入浴後にどれぐらい眠気を感じるかは異なります。また、その日の体調によって体の反応も変わってくるかもしれません。
入浴後の眠気を感じやすいという人でも、今日は午前中からバリバリと働きたいのに、どうも頭がシャキッとしないという場合には、少し熱めの42℃くらいの湯船に短時間つかるのはどうでしょう。こういった朝風呂の活用法もあると思います。
様子を見ながら、自分に合ったお風呂の習慣を探っていくことが大切です。

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加藤 浩晃(かとう・ひろあき)

デジタルハリウッド大学大学院 特任教授

東京科学大学医学部 臨床教授。アイリス共同創業者・取締役副社長CSO。
2007年、浜松医科大学卒業。眼科専門医として1500件以上の手術を執刀し、白内障手術器具や眼科遠隔医療サービスを開発。2016年、厚生労働省医政局研究開発振興課に勤務。2017年、AI医療機器開発企業であるアイリス株式会社を共同創業し、取締役副社長兼CSO(最高戦略責任者)に就任。2021年、一橋ビジネススクールにてMBA取得。医療現場、医療制度、ビジネスという3つの領域を経験し、横断的に理解することで医療領域全般の新規事業開発支援を行う。大企業やベンチャーの顧問・アドバイザー・取締役も務める。著書に『医療4.0』『医療4.0実践編』(いずれも日経BP)、編著に『医療×起業』『デジタルヘルストレンド』(いずれもメディカ出版)など多数。

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(デジタルハリウッド大学大学院 特任教授 加藤 浩晃)
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