「頂き女子りりちゃん」こと渡邊真衣受刑者は男性にどのようなアプローチをかけていたのか。りりちゃんと接見を重ねたフリー記者の宇都宮直子さんは「私も被害者の男性に話を聞くまで、知り合ってすぐの女性に大金を支払う意味がわからなかった。
だが、りりちゃんはとんでもない行動力で男性を落としにかかっていた」という――。
※本稿は、宇都宮直子『渇愛 頂き女子りりちゃん』(小学館)の一部を再編集したものです。
■アプリでマッチしたりりちゃんの驚きの行動力
約3850万円を騙し取られた50代の恒松洋一氏(仮名)と渡邊被告は2023年4月20日、マッチングアプリを通じて知り合った。渡邊被告が逮捕される約4カ月前のことだ。
「最初は“かわいいコだな”と思って『いいね』を押しただけ。そうしたら向こう(渡邊被告)も『いいね』を返してくれて、やり取りが始まったんです。年の差もだいぶあったし、別に付き合いたいとか、そういう気持ちはなかった。向こうがプロフィールに、『マッチングアプリをやめようかな』と書いていたので“やめちゃうんなら、最後に『いいね』を押しとこうかな”という、それくらいの軽い気持ちでした。
そうしたら向こうからすぐに『突然だけどLINE聞いてもいい?』とメッセージが来たから、『別にいいよ、LINEくらいだったら』って返しました。嫌だったら最悪、ブロックでも何でもしちゃえばいいわけだから。1時間とか1時間半とか、メッセージのやり取りをして、夜の11時半を過ぎた頃だったのかな? 翌日、仕事が休みだったので『明日休み』と送ったら、『●●(恒松氏の住む街)いっていい?』って、メッセージが来た」
翌朝、「良かったら電話しても良いですか?」とLINEがあり、その後電話がかかってきて、少し話した後、「優しい声で安心しました」とメッセージがあったという。
その日、渡邊被告は本当に恒松氏の住む町まで来た。

■大人しくて「年上の人がいい」
「最初の印象は、かわいくて、ちょっとおとなしい雰囲気のコ。長い黒髪に、控え目なメイクと服装でした。こんなコが、わざわざこっちまで来てくれるなんて……と」
その日は地元の喫茶店で、2人で一緒にひとつのかき氷を食べ、恒松氏の元カノの話など、たわいのない話をして1時間ほどで別れた。
「アトピーで悩んでいることや、いろいろあって同世代の男性が苦手で、年上の人がいい、と言っていたのが印象に残っています。会ってみて、話しやすかったし、すごく良いコだなぁと思いました」
■「こんなに素の自分を出せる人は他にいない」
2人はその日から頻繁にLINEでメッセージをやり取りするようになる。渡邊被告からはこんなLINEが届いた。
《よういちくん、優しくて沢山お話してくれてすごく居心地よかったですゆっくりあいたい!色んなとこ行きたい!!!よういちくんのこと楽しませたいよ/(*˙ω˙*)\》
《こんな自分の素をだせてリラックスしながら話せる人 他に現れるのかなー?って気持ちになったよ たくさん色んなこと教えてくれて これから色々なところにも出かけられそうで わくわくがとまらないよ》
恒松氏も絵文字入りのメッセージを返した。
《これから一緒にお互いの事もっと知れたらいいよね。まだまだ分からない事多いしさ。 何か聞きたい事あれば聞いてね。 俺も聞くから》
次に会ったのは、4月24日。今度は恒松氏が東京まで出向き、秋葉原で食事をしたという。

恒松氏は渡邊被告から「私たちにとって初デートだね」と言われたことが印象に残っていると話す。帰宅後、恒松氏の元に《私喋るの本当に苦手なのに あんなに沢山喋れる自分に驚いています 自然に 笑顔になって 笑えるんです たくさん笑わせてくれて幸せな気持ちにしてくれてありがとう。すきです》とメッセージが届いた。
■出会って1週間後に「養育費800万円」の話が出た
その後も「理想の女性になりたいよ」「よういちくんが困ったらぜんぶ助けるからね」など恒松氏のことを強く思い、真剣に考えていることを示唆するメッセージが次々に届く。
彼女の様子が変わったのは、秋葉原で食事をした2日後のことだ。
「『どうしよう 私いなくなるかも』とか、『また必ず連絡するから心配しないでね』とか不穏な内容が送られてくるようになった。びっくりして、『どうしたの?』と聞くと、『親と不仲で、手切れ金としてこれまでの養育費800万円を払わなければいけない、そのお金を用意しなければいけない』と言う。思い返せば一番最初に会った時から『真衣は普通じゃない』『家庭環境が悪い』と、親と不仲であることを匂わせていました」
渡邊被告は再び恒松氏の住む町までやって来て、恒松氏の家で改めて「家族と早く縁切りしたい」「2人で一緒にいるためには養育費を払わなきゃいけない」と話した。その結果、恒松氏は渡邊被告の話を信じ込み、貯金に加え、生命保険を解約してまずは200万円を振り込み、近いうちに残りの600万円を渡す約束もした。
■「好きという感情しかなかった。一目ぼれだった」
だが、どうしても疑問に思ってしまうのは、まだ知り合って1週間、しかも3回しか会っていない相手に、どうしてすぐにそんな大金を振り込んだのか、ということだ。
「怪しい、とか、騙されているとは思わなかったのでしょうか」と聞くと、恒松氏はこう答えた。

「確かにおかしいとは思ったけれど、その頃にはもう『好き』っていう感情しかなかったんですよね。一目ぼれだったし、趣味も合った。何回も『すき』『すき』と送ってくれて、『今度はどこ行きたいね』『あそこ泊まってみたいね』とか、未来の話をする。彼女との将来を想像するようになってしまっていたんです」
2人の間には結婚の話が持ち上がり、7月には恒松氏の自宅で一緒に暮らそうという話にもなった。恒松氏は若くして両親と弟を亡くし、天涯孤独だ。だからこそ「結婚」に対する思い入れがあったのだという。
「問題を抱えているのであれば、一緒に解決をしていこうと、真剣に思った。
今にして思えば、私に好意や恋愛感情を持たせた上で、未来を想像させようとしたのでしょう。事件後に、警察からマニュアルを見せてもらう機会があったんですが、そこに載っていた『未来系色恋会話』というテクニックを読むと、私への対応の内容そのままでした。だけど当時は気がつかずにハマってしまった」
■振り込んだお金は「高い結納金」のつもりだった
恒松氏が渡邊被告のウソを簡単に信じてしまった背景には、恒松氏の孤独な身の上やマニュアルの存在があった。しかしそれ以上に、渡邊被告が自身のコンプレックスや弱点を受け入れてくれるように感じたことが大きかったという。
「私は目が悪く、車の運転はあまりしないようにと言われているのですが、土地柄、車がないと生活ができない。
そのことを話すと『私が免許を取って車も買う。真衣が洋一君の目になるよ』と言ってくれた。それが、心が震えるほど嬉しかった。心を動かされてしまったんです」
恒松氏は、渡邊被告に「お金を渡す代わりに、電話でもいいから親と話させて」と求めた。彼の中ではあくまでも、“高い結納金”のつもりだったという。大金を振り込んだ後に、恒松氏が感じたのは「詐欺だったらどうしよう」という疑いや不安ではなく、「ああ、これで問題は解決した。結婚できる」という、安堵の気持ちだった。
■連絡が取れなくなることの繰り返し
だが、200万円の振り込みが終わった途端、渡邊被告からの連絡は途絶えてしまう。
「電話も繋がらないし、LINEも既読にならない。さすがに騙されたと思って、焦りのあまり《バカ女》とか、きつい言葉も送ってしまったのですが、しばらくすると『充電が切れてた』とか『疲れて寝てしまって連絡ができなかった』とか、それらしい言い訳をする。そんなメッセージを見ると、きつい言葉を言って悪かったな、と思って……でもまたしばらくすると連絡が取れなくなる。その繰り返しでした」
業を煮やした恒松氏は、渡邊被告にこうLINEした。

《真衣ちゃんが俺の立場で200万用意して 俺が遠くで受け取って。

昨夜みたく連絡取れなくなったらどう思う?

騙されたって思わない?

お金貯めるのは本当に大変なんだよ。

これは分かってるだろうけど。

本当に好きだから。

連絡取れなくなると不安なんだよ!!

真衣ちゃんの。親の事だって。

お金用意するのは良いとしても。

それに対する真衣ちゃんの気持ち。俺に対するわるいって気持ち? も分かるよ。

でもね 200万送金して。昨日みたくなるとさ。ね? 不安でしょ。

■600万円を渡した直後「2714万円が必要…」
渡邊被告からは、
《どれだけ大変に稼いだお金かも理解しているから、受け取ることすごく怖かったし だから、何度も悩んだし》《やっぱりお金は返して自分でなんとかしようと思う、どちらにせよ間に合わないし、ごめんね、ありがとう、で会えて嬉しいんだよ、優しくしてくれてありがとう、一緒にご飯食べてくれてありがとう》
《もうまいは充分幸せでしたから》《お金返します》《考えてくれてありがとうね》
などと返信があり、渡邊被告がお金を受け取り、これからも付き合っていく方向で2人の関係はひとまず修復された。
その後、5月1日に恒松氏は600万円を持って渋谷に向かい、渡邊被告に手渡ししている。その後のLINEでは、
《まいの殻を破ってくれてありがとう》《受け入れてくれてありがとう》
《とりあえず。真衣ちゃんの問題が片付いて本当に一安心》《俺も本当に気が楽になりました。これで何の気兼ねなく。真衣ちゃんと楽しく付き合えます》
などのやり取りがあった。
「だけどその日から再び連絡の頻度が落ち、5月8日にやっと会えたと思ったら、その3日後に電話がかかってきて、今度は『アパレルの会社を立ち上げる際に、池田という知人に借金をしてしまい、2714万円を返済しなければいけない』と言われて……」
■男性が2714万円を渡す際に提示した条件
渡邊被告は恒松氏にその借用書も見せたため、借金の存在を疑うことはなかったという。
「『返さないと、夜の仕事をしなければいけない』とか『闇金に行く』とか言う。この池田なる人物は、渡邊に好意を持っていて、返せなければ『囲われる』ことになるというのです」
しかし恒松氏はすでに渡邊被告に800万円を渡している。そこからさらに、2714万円を工面することは容易ではない。恒松氏はLINEで次の条件を提示した。
《1.明日から毎日一日一回は俺に電話する事。

2.2700万あれば足りるって事。(正確な金額の確認)

3.相手の方に連絡とって。返す方法。振り込み?直接?(返済方法の確認) 振り込みの場合。書類は? 直接の場合。(相手と)俺との電話。

4.相手の方に連絡とって。返す金額を聞いて。俺に端数(は すう)まで報告する事 それに対して。2700万より多い場合。きちんと理由をつける事。利息によりとか。

5.直接返す場合。前日に来て家に泊まり。翌日一緒に行く事

6.7月上旬には●●(恒松氏の住む地方の地名)の家に引っ越してくる事。

7.仲良くやってく事

8.大きい借金はもうないって事。

9.●●(恒松氏の住む地方の地名)に引っ越してきても。ご近所さんと仲良くやってく事。

10.お金は用立てますが。一応借用書と保険証の写真を撮らして貰うこと。

11.以上の事に関して守られない場合。真衣ちゃんと別れ。お金は全額返済して貰います。》
そして、最後に《信用してます。》と付け加えた。
渡邊被告からは、
《まいのこと すきでいてくれて ありがとう かんしゃしている かんしゃではつたわらないから ぜんぶでひょうげんしようとおもっている これからずっと だいすきです ほんとうにここまでわたしのことを かんがえてくれて だいじなおかね、わたしのために、よういしてくれて ありがとう》
と返信があった。
■3500万円を渡してはじめて体の関係を持った
2714万円を振り込んだその日、2人は初めて体の関係を持ったという。
「だけどそれからは、ウソ、ウソ、ウソのオンパレード。
最初に渡した800万円と次に渡した2714万円の借用書を書いてもらったんですが、自宅住所も、勤務先もまるでデタラメだった」
■言い訳を重ね、逃げられ続けた
「2714万円を振り込んだ翌日に『話を聞いてほしい』と言うので、東京に出向き『真衣ちゃんの部屋で話をしよう』と言うと、『なんで?』って。こっちは借用書に住所が書いてあるんだから、そこに行けばいいじゃないかと思っていたら、『実は、先輩と一緒に住んでいたんだけど、ケンカして追い出されて、今はネットカフェを転々としている』と言い訳する。
しょうがないからカラオケボックスで話をしました。『折り入って話したいこと』とは何かと思えば、『実は私は実家で虐待を受けていて、家族とは不仲なんだけど、このままじゃいけないから今は母親に歩み寄っているところ』だと。
渡邊はお金に関して、『親に返してもらう』とも言っていたから、私が『じゃあ、この間のお金を今すぐ返してって言ったらどうするの?』と聞くと、『それはもう闇金でもどこでも行って返そうと思う』って。そこまでの覚悟があるのなら信用してもいいのかな? と、一瞬は納得したのですが、その後は逃げの一手。
急に『お腹が痛い』と言い出して、『今からちょっとお医者さん行って来る』と逃げられるようにして別れました。それが5月下旬の話でした。その後、6月頃にうちの地区の行事があるのですが、『私も一緒に出て、地域のみんなに挨拶するね』という会話をしたものの、結果的にまた連絡が取れなくなって。
その後も何度も会う約束をしたけれど、いつも直前で連絡が取れなくなったり、ドタキャンされたりして、最後に会ったのは6月4日。こちらに来て、時間にして4、5時間ほど。地元にあるテーマパークにちょっとだけ行って、もうそれで終わりですね。そこからは、一切会っておらず、連絡をしても、まったく会話にならない状態でした」
■出会って4カ月後、りりちゃんは逮捕された
出会いから渡邊被告の逮捕までは4カ月。その間に、渡邊被告には3500万円以上渡したが、直接会ったのは、わずか7回ほどだ。恒松氏が返金を迫るも、《こわい》《死のうかな》などと話をそらし続けた。
恒松氏が最後に渡邊被告にLINEを送ったのは、2023年の8月24日。
《あんまりLINEして責められていると思われても嫌なので…昨日はお昼のLINE 最後にしました けど…いまだに既読にもなりません…留守電に入れるのも疲れました》《連絡がとれないので心配しています。連絡ください》
しかし、このメッセージに既読がつくことはなかった。前日の昼、渡邊被告は宿泊していたカプセルホテルで逮捕されていた。

----------

宇都宮 直子(うつのみや・なおこ)

ノンフィクションライター

1977年千葉県生まれ。多摩美術大学美術学部卒業後、出版社勤務などを経て、フリーランス記者に。「女性セブン」「週刊ポスト」などで事件や芸能スクープを中心に取材を行う。著書に『ホス狂い 歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る』(小学館新書)がある。

----------

(ノンフィクションライター 宇都宮 直子)
編集部おすすめ