大地震が発生したとき、最初にすべきことは何か。東日本大震災で被災したアナウンサーの奥村奈津美さんは「かつては『揺れたら火の始末』と言われていたが、揺れている中で移動するのは危険。
それよりもまずは安全な場所に隠れることが第一だ」という――。
※本稿は、奥村奈津美『大切な家族を守る「おうち防災」』(辰巳出版)の一部を再編集したものです。
■「倒れるものから離れる」と体に叩き込んでおく
今、大地震が起きたら、あなたはどうしますか? 今は、夜でしょうか? 昼でしょうか? 家族そろって家にいますか? 職場にいますか?
その時その場所で対応は変わってきます。どんな時に地震が起きても対応できるようにシミュレーションしておくことが大切です。
緊急地震速報が鳴ったら、まずは身の安全を確保。条件反射のように、頑丈な机があればその下へ。隠れるところがなかったら、とにかく倒れるものから離れるなど、体にインプットしておくことが大切です。
子どもにも、あらかじめ伝えて、訓練しておく必要があります。「かくれんぼ」など遊びを通して、「揺れたら机の下に隠れよう」「揺れたら本棚から離れよう」など子どもの体にもインプットさせておきます。ダンゴムシのポーズを幼稚園や保育園などで習うこともありますが、ダンゴムシのポーズをする前に、落ちるもの、倒れるもの、移動するものから離れる! ということも伝えておきましょう。
■火の始末よりもまずは身の安全の確保
そして、実際に揺れた時は、どう行動すべきか、パパ・ママが大きな声で具体的に叫ぶことで、子どもも動くことができます。パニックにならないよう的確な指示を出すことが大事です。

昔は、揺れたら「火を消して、ドアを開ける」などと言われていましたが、揺れている中で移動するのは大変危険です。ガスは大きな地震では自動で止まります。大地震の時は、その場で安全な場所を見つけ、揺れに耐えるしかないのです。
■ベッドサイドの懐中電灯はふっとんで見つからなかった
夜、寝ている時に地震が起きた想定で考えてみます。大地震の場合、停電になる恐れがありますが、暗闇の中で行動するのは大変危険です。まずは灯り、そして足元の安全を確保しましょう。そのために、灯りになるものと、足をケガしないようにスリッパなどを枕元に用意しておくと安心です。
2016年の熊本地震で被災された女性の話です。夜9時過ぎ、女性が、ベッドで横になっていたところ、地震が発生。ベッドにしがみついてなんとか揺れに耐えたそうです。この女性は防災意識が高く、ベッド横の棚に、懐中電灯や車の鍵、スリッパなどを用意していました。
しかし、揺れが収まって、停電で真っ暗な中それらを探しても、何一つ見つからなかったそうです。
翌朝、明るくなってから確認すると、物が全て2~3メートル飛び、懐中電灯は真っ二つに割れていたそうです。大きな地震では置いてある物は飛んでしまうのです。
この話を聞いてから、私は寝る時に、ホイッスルを付けたネックライトと、ケガ防止の折りたたみスリッパをポーチに入れ、さらに、そのポーチを枕の下に挟んで、その上に寝ています。名付けて「まくら下ポーチ」。メガネや補聴器が必要な方も、飛んで割れないように、ケースに入れて、枕の下に挟むことをオススメします。
枕の下だと違和感があって眠れない方は、ベッドの足にくくりつけたりと、飛んでいかないように工夫してください。これは家族一人ひとりに必要です。子どもの枕の下にも用意しましょう。
■炎の高さが目線より下なら初期消火できる
繰り返しになりますが、火の元の確認は、揺れている最中は危険なので揺れが収まってからです。地震で怖いのは火災です。大きな災害になればなるほど、消防車などを呼ぶことが難しくなります。
火を消すためには初期消火が大変重要になってきます。
たとえば首都直下地震で、東京都中野区では、火災で1328棟が焼失する想定ですが、その出火元となる家屋は11棟(中野区民防災ハンドブック)。つまり、延焼する前に、その11棟の火災を鎮火できれば被害は拡大しないとも言えます。
初期消火できる目安は、炎の高さが自分の目線より下の時。火が出た時に複数の人がいる場合は、消火に当たる人・火事が発生したことを近所に伝える人・消防に連絡する人と分担します。炎ではなく、燃えている物に消火剤をかけるのがポイント。炎が天井に達したら危険なので、その前に避難しましょう。
地域の防災訓練や防災体験施設で、子どもと一緒に消火器の使い方を練習することができます。子どもが一人でいる時も消火器が使えるように教えておきましょう。東京消防庁のYouTubeでも見ることができます。
■玄関に貼っておきたい「避難前行動リスト」
地震が起きると、気が動転し頭が真っ白になることもあります。家の外に避難する必要があった時にやることを、リストにして玄関のドアに貼っておくことをお勧めします。ただし、火災や家屋の倒壊、津波の恐れがある人は、これからあげることをするよりも、急いで逃げることを優先してください。

●通電火災・ガス漏れ対策
通電火災は、大地震で停電し、電気が復旧した時、電気器具などから出火する火災のことです。阪神・淡路大震災、そして、東日本大震災でも通電火災が確認されています。避難する前には必ず、電気のブレーカーを落としましょう。
揺れで自動的にブレーカーが落ちる感震ブレーカーを設置することもできます。また、ガスは揺れで自動的に止まる安全装置がついていますが、念のため、元栓を閉めることを忘れないようにしましょう。
●防犯対策
災害時多くなるのが犯罪です。空き巣に入られないように必ず施錠してから避難しましょう。
●安否確認
家族がバラバラで被災した場合、安否確認が欠かせません。通信機器を使っての連絡方法は後述しますが、確実にできることは手書きでメッセージを残すことです。たとえば、玄関の扉の内側に貼ったホワイトボードに「生きています。念のため○○に避難します」など一言メッセージを残しておくだけで、別の場所で被災した家族が自宅に戻って玄関を開けた時、安心します(防犯上、外に貼るのは危険です)。
近隣の人同士の安否確認をスムーズにするため、マンションや自治会では、玄関にマグネットを貼ったり、旗を掲げてから避難するという方法を訓練している場所もあります。

避難する時、余裕があったら、近所の方で困っている人がいないか、声をかけてください。阪神・淡路大震災では、地震によって倒壊した建物から救出され生き延びることができた人の約8割が、家族や近所の住民などによって救出されたということです(内閣府平成26年度防災白書)。
■大阪北部地震ではブロック塀が倒れて子どもが犠牲に
地震は、一度だけとは限りません。余震があります。避難の際に、エレベーターは使わない、上から落下するものに気をつけるなど、子どもにも伝える必要があります。
ぜひ、地震を想定した防災散歩をしてください。地震の時に危険な場所の一つが、ブロック塀です。1978年宮城県沖地震の際、その危険性が指摘され、撤去するように補助金を出すなど取り組みが行われているものの、まだまだブロック塀は散見されます。そして、2018年の大阪府北部地震の際、登校途中の女の子がブロック塀の下敷きになり亡くなりました。
2016年熊本地震の被災地でも多くのブロック塀が倒れ、道を塞いでいました。それを撤去するボランティア活動に携わったのですが、重機を使わないと移動させることができないくらい重いものがありました。
お子さんの通学路や普段歩く道にブロック塀がないかチェックし、そこを通らないように、もしくは、ブロック塀側を歩かないように伝えることが大事です。

■子どもと一緒に避難場所までのルートを歩いてみる
そのほか、自動販売機なども倒れやすいです。電柱や電線も影響を受けます。看板やガラスが落ちてくることもあります。また、狭い路地は、火災や建物の倒壊で通れなくなることも。橋は古いものは落下する危険があります。橋の強度などを公表している自治体もあります。
さらに、地震の際も、土砂災害の恐れがあります。土砂災害のハザードマップも参考に、警戒区域や特別警戒区域は通らないようにしたいものです。
避難場所まで、なるべく危険が少ないルートを選べるよう、あらかじめ歩いてみることが大事です。その際、危険なものだけでなく、災害時使えるものもピックアップして子どもと一緒に防災マップを作るのもオススメです。たとえば、災害時無償で使える自動販売機、公衆電話、公衆トイレ、消火器などを見つけてマップに印をつけておきましょう。
さらに、大規模災害に備えるならば、自分の家が原発から何キロの場所にあるのか? 化学工場、石油コンビナートなど、近くに危険なものはないか? あらかじめ把握しておくことで、避難時の判断に役立ちます。

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奥村 奈津美(おくむら・なつみ)

防災アナウンサー

1982年、東京生まれ。広島ホームテレビ、東日本放送(仙台)、NHK広島放送局でアナウンサーとして活動。その後、フリーに。東日本大震災を仙台のアナウンサーとして経験。以来14年間、全国の被災地を訪れ、被災地支援や防災に関する情報を発信している。著書に『大切な家族を守る「おうち防災」』(辰巳出版)。

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(防災アナウンサー 奥村 奈津美)
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